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14)終結

本日は、2話、投稿しました。2話、同時に投稿してあります。

こちらは1話目です。





 九日目。運命の日。

 今夜は野営だ。

 内通者は、二人がまだ残っている。特定できなかった二人だ。レオネの占術で頭文字はわかったが、同じ頭文字の者が複数いた。

 従者の内通者は、同じ頭文字の者が二人いた。

 護衛任務の内通者も、同じ頭文字がこちらも二人だ。

 髪や目の色も四人ともありきたりな茶色で役職も似ているとなると、あとはボロが出るのを待つしかない。

 内通者の疑いがある者は、アーシュが護衛の騎士らに見張るよう指示してある。二人のうち誰か一人は敵だと知っていれば、騎士らは動きを見てすぐに捕縛できるだろう。

 問題は従者に紛れ込んでいる一人ではないか。

 そちらもアーシュの部下は気を配っているはずだが、一緒に行動している衛兵の敵より手薄になるだろう。

 リュカはさりげなく様子を見続けて、従者の内通者は長めの髪を一つに縛った男だろうと目星をつけた。

 男は、食事の支度を手伝う中に入ろうと試みていた。

 疑いのあるものは、今夜の食事の支度には使わない。すでにそれだけは覆しようもなく決まっている。

 リュカは、判明した内通者をアーシュの部下に伝えられないかと考えたが、当初の打ち合わせではリュカから接触はしないことになっていた。

 内通者に警戒されると計画に支障が出る。

 迷いながらも諦めた。

 あともう一人の内通者、護衛任務に入り込んでいる方は、そろそろ騎士らが捕らえているかもしれない。

 この度の護衛には、騎士団の騎士十八名と、衛兵本部から派遣された者も六人入っている。

 内通者は、衛兵から加わったうちの誰かだが、最初からアーシュの手の者が見張っている。

 食事への薬の混入は阻止されたのではないかと思う。すでにアーシュの部下が敵を特定してなんとかしているころだ。敵は今夜、奇襲のはずなのだから。

 リュカは一応、今日の食事は口にしない。

 水も、自分で用意したものだけを飲んだ。

 野営のためのテントに分かれた。

 法務部からのメンバーは四人。

 同じテントに入った。

 リュカは、魔導具をまだ渡していなかった二人の部下を呼んだ。

「アレク、ブノワ。結界の魔導具を持ってきたんだ。これを今夜は使ってくれ」

「結界の魔導具ですか」

「ああ。騎士団の者に聞いたのだ。今夜の野営地はとても地形が悪い。盗賊などが襲いやすい場所だそうだ。今夜を過ぎれば、あとは比較的、護衛しやすい道に入るらしい。だが、今夜は危険だ。一応、朝までこの結界の魔導具を発動させて自衛をしておいた方がいい」

「なるほど。ありがとうございます」

「分かりました。使わせていただきます」

 二人は素直に身につけ、落ちたりしないようにポケット深くに入れた。

 それぞれ、寝袋に包まり横になった。

 しばらくして、寝息が聞こえてきた。

 三人のうち、少なくとも二人は寝たようだ。

 リュカはまんじりともせずに息を殺していた。

 すぐに動けるよう、寝袋のボタンは開けたままだ。

 もうすぐ時間だ。

 耳を澄ます。

 用意しておいたナイフ型の魔導具を手に取る。

 魔力を流すと炎を纏うナイフだ。掠っただけでも激しい痛みを敵に与えられる。

 腕に自信はないが、動きを止めるくらいは出来るだろう。

 どこかで「バンっ」という破壊音が聞こえた。

 リュカはすぐさま体を起こした。

 靴は履いたままだった。上着を脱いだだけの格好で体を休めていた。

「何か聞こえましたね」

 ファレルも寝袋から出て上体を起こしている。彼も起きていたようだ。

「何かあったのかもしれない、皆、起きろ」

 リュカが声をかけると、眠っていた二人も寝袋から這い出ようとし始めた。

「結界の魔導具は装備してるな」

 リュカは小声で確認を取る。

「はい」

 答えたのはファレルだけだ。

 アレクとブノワはまだ寝ぼけているようだ。

「ほら、起きろ」

 再度、声を掛けた時だった。

 かなり近くで「ギャァぁ」という悲鳴が聞こえた。

 ようやく、アレクとブノワも跳ね起きた。

「気をつけろ」と、さらに注意をしかけて足音に気づいた。

 いきなりテントの入り口が開け放たれたかと思えば、男が剣を掲げて入り込んできた。

 リュカが内通者だろうと目を付けていた男だった。

 剣には血がついていた。

 ファレルたちは目を見開いて固まった。

「ファレルっ! ブノワ! 逃げろ!」

 リュカは用意していたナイフに魔力を流しながら男に投げつけた。

 急所は逸れたが男の肩と胸の間くらいのところにナイフは食い込んだ。

 男は「おぉぉお」と雄叫びを上げながら剣を振り下ろす。

 剣の先にいたブノワをファレルが押しやって避けさせ、自分も身を捩るように逃げたが、男の剣はファレルを裂いた。

 血が迸る。

 結界を張っていたのではなかったか。

 リュカは男の腹を力任せに蹴り上げ、男が倒れたところをブノワとアレクが留めとばかりに殴り、腹を蹴り潰した。

「ファレルっ!」

 リュカは焦りで震える手で応急処置の魔導具を取り出した。

 ファレルの傍に結界の魔導具が落ちていた。争った時にポケットから落ちたのだろう。

 なんて運が悪い、リュカは叫びたくなった。

 切り裂かれた腹に魔導具を当てる。

 光魔法が瞬き、出血が止まっていく。

「ファレル、口は聞くな、じっとしているんだ」

 リュカが言い聞かせるとファレルは微かに頷いた。

 助かってくれ。

 外の騒ぎはますます大きくなっていく。

「一体、何が」

 アレクが不安そうに外を伺う。

「内通者が入り込んでいたのだろう。その男は従者の一人だな」

 リュカは、抑え込まれた男を見やりながら答えた。

「では、敵と通じて」

 呆然とブノワが呟く。

「そうだ」

「そういえば、よく見れば、やけに馴れ馴れしかった男じゃないか」

 アレクが、気絶している男を見た。

「ああ。飲み物をくれようとしたが、断った男だな」

「そんなことをしようとしたのか?」

 リュカは思わずブノワたちを振り返った。

「そうです。ですが、騎士団の方から、飲食物にはよく注意しろと言われていましたし、さほど欲しくはなかったので断りました」

「飲んでいた者はいたか?」

「いなかった、と思います。私が見た限りでは。呉れる理由も分かりませんでしたから。彼は少し浮いていました」

「そうか。良かった、いや、だが、飲まされた者がいたかもしれないな。あいつの剣は血で濡れていた」

 男は、細身で強いようには見えなかった。だから油断した。薬を入れるだけの要員だろうと思ったのだ。

 だが、剣を扱う腕は慣れていた。

 外の喧騒はさらにひどくなり、アレクは男の剣を手に取り、ブノワはリュカの指示で男を自分のベルトで縛り上げた。

 敵軍が乱入しているのは明らかだ。

 ここまで来ない理由は、護衛たちが阻止してくれているからだろう。

 アーシュの手配で、信頼する護衛たちには攻撃の魔導具が渡されていた。破裂音が盛んに鳴っているのはそのためだろう。

 ダラスの協力で手に入れた魔導具はありったけ持ってきているはずだ。ワドラフ商会は今頃、在庫切れだろう。

 アーシュは「残党の数はそう多くはない」と予想していた。

 紛争終結の目処がたったあとは、緩衝地帯の軍は確認されている。その確認にも、ルドア大陸連盟が関わっている。互いの領土への侵入、および使節団への攻撃は、停戦の話し合い中は国際法違反となる。

 連中は、壊滅させれば死人に口なしになるとでも思ったのか。だから、内通者に薬を使わせ、こちらの戦力を削いでおこうと計画したのだろう。あくまでこれは推測だが。

 最初の占術では、使節団の人数はそのまま、犠牲者の数だった。

 つまり、裏切り者は金で敵国に寝返ったのかもしれないが、口封じのために殺されるはずだった。

 連中の愚かな裏切りで全滅する運命だった。

 今現在、被害はどれほどだろうか。

 このテントでは四人のうち一人が重傷だ。

 どのくらいの時間が経ったか。

 ファレルの額に脂汗が滲む。目を固く瞑り、痛みに耐えている。

 応急処置が早かったのは良かったが、すぐに治癒師の手当を受けさせたい。

 魔導具の光魔法が切れた。

 ファレルが小さくうめき声をあげる。

 近づいてくる足音にリュカたちは体を強張らせた。

「リュカ、居るか! 無事か!」

 その声は旧友アーシュだった。


□□□


 襲撃の数日前。

 アーシュは、部下たちと王都を出た。国境の緩衝地帯に近づくにつれ、村で「アバデンの残党を見た」という噂を聞くようになる。

 アーシュについてきた部下たちは、

「これは、まずいんじゃないですか」

 と真剣にアーシュに進言するようになった。

 もはや、どの部下も、「先駆隊が無事に峠を通過するのを見届けよう」という当初の目的ではなく、救援が確実に必要そうだから駆けつける、という考えにすり替わっていた。

 王子の護衛など多少遅れても良いだろう、と誰もが思い始めていた。

 これだけの情報を得たのだ。遅れても理由になる。

 そう考えて、危険な峠のほど近くで待機した。

 おかげで、攻撃用魔導具が使われた音を聞きつけると、速やかに駆けつけることができた。

 野営地を襲撃する残党らを、護衛の騎士や衛兵らが迎え撃っているところへ突撃する。

 衛兵に混じっていた内通者の男は、動き出すと同時に捕縛してあった。

 アーシュからの指示を受けていた騎士は、野営地での食事の支度に手を出そうとうろついていたもう一人の内通者を、おおよそ特定できていた。

 ただ、相手が悪かった。王弟の推挙で選ばれた従者だった。万が一、間違っていたら責任問題だ。

 そのため、様子見をしていた。

 間の悪いことに、敵の急襲が始まった。

 目星を付けていた従者は、一緒のテントにいた従者仲間三名を殺害、高官らのテントに向かい、すぐ側にあった法務部のテントで一人を怪我させ、返り討ちにあって捕縛される。

 敵兵が襲撃してきた際に文官一人が亡くなり、衛兵と騎士に傷者が出た。

 死亡は四人、重軽傷者六人という被害だった。

 状況を考えると最低限の犠牲で済んだと言えるだろう。


□□□


 ひと月後。

 使節団は死傷者を出しながらもブーレ王国に到着し、ルドア大陸連盟のメンバーも交えての会合を繰り返す。

 アバデンの残党が使節団を襲ったことは、ルドア大陸連盟の調べでも確認された。

 当然ながら、この出来事はサレイユ王国にとって有利に働いた。話し合いは、常にサレイユ側主導で行われ、立会人のもと国から全権委任された使節団代表が署名し、ここでブーレ王国とサレイユ王国との紛争は完全に解決した。

 万が一、ブーレ王国、あるいはアバデンがこれを破ったなら、ルドア大陸連盟軍を敵に回すことになる。

 そうなってもサレイユ王国は構わないが、ブーレ王国としてはそうはいかない。

 重い腰を上げて、アバデンを徹底的に大人しく「調教」することだろう。



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