ハイケルの選択
何故ロシアナさんは俺にそこまでしようとしてくれるのか?ただのしがないオッサンの俺に、リーファがいるとはいえ一緒に暮らすなんて事は普通はありえない。
一緒に暮らすということは世間一般に言えば結婚と同義だ。ここでは式も挙げずに暮らしている男女は腐る程いる。だから、有り体に言えば夫婦になるようなものなのだ。
「何故、ロシアナさんはそこまで俺に協力してくれるのですか? 俺はただのオッサンで細々とクエストをこなして暮らす程度の人間です。 ロシアナさんがそこまでして下さる理由が俺には分かりません。 俺にはありがたい話ですが、ロシアナさんは違うでしょう? それほどの美貌と人望もあるなら他の男からも引く手あまたでしょう? 俺なんかと一緒に住むなんてそれこそ勿体ない話ですよ」
ロシアナさんの顔を見ると、気のせいかもしれないが心なしか怒っているかのようにも見える。だが嘘は言っていない。俺なんかには勿体ない話だからだ。
最近ではリーファがいるから行く事も時間的になくなったが、俺は一人だった時は金と時間に余裕がある時くらいはたまに花街に足を運んでいた。 だからロシアナさんと一緒に暮らしでもしたら絶対に欲望に負ける自信がある。そんな事ロシアナさんは全く考えてなんかいないだろうと思うけどさ。
俺が気を使ってしまうんだよ。
「私はハイケルさんの事をしがないおっさんだなんて思っていません。 昔から貴方は冒険者として優秀な方でした。 それは今も変わっていません。 ハイケルさんはこの王都でA級の実力者が何人いるか知っていますか?」
「いやぁ…………知らないですね。 私は第一線から引いた身なので……」
「そうですか。なら説明します。 たった16人です。 それも全て15歳から冒険者登録をして10年以上経った30歳前後のパーティーを組んだ方達です」
「へぇ〜そうなんですか。 なら俺は当時、ソロで17歳でA級になれたんですからやっぱり剣の才能はあったんですね。 ははは」
剣は幼少期から好きだった。 誰に教えられずとも木剣を握り、暇なら剣を振り回していた。不思議と飽きずに大人になってもそれは変わらなかった。気が付けば剣術を習い15歳から当たり前のように冒険者になり17歳でA級に上り詰めた。王都からの無茶な要請を蹴った際に俺はライセンスを剥奪されたが、そこから剣を見直した。他の仕事をしながら、傍らで1から基礎を徹底的に磨いた。
そのおかげもあって昔より剣の鋭さも増した。が、今の話の中ではどうでもいい事だが。
「私が貴方の事を当時からどれ程買っていたかなんて知りもしないでしょう。A級に上がって国からの要請を断り、ライセンスを剥奪され全て失った際も、どうにかしてギルドマスターが冒険者に戻そうと秘密裏にギルドが動いていた事も、それに私も志願していた事も」
「そ………そうだったんですね。 普通永久追放かとも思っていたのですが、ギルドマスターのガジェットさんが動いてくれてたんですか……それにロシアナさんも、ありがとうございます。 私が今も冒険者を続けていられるのもギルドの皆さんのお陰だったんですね」
「それもありますが、私は個人的にです。貴方に居て欲しかったからです」
「え?」
「昔から鈍感な方ですね。貴方の事がずっと好きだったからです。 だから他の男性とも付き合わず、今まできました。ずっとハイケルさんには声をかけていましたよね?」
「いや、あれは社交辞令かと………」
「私は社交辞令で男性に声をかけたりしません。 大変な事になるのは自分でも分かっていましたから。 それに貴方は自分の事をライセンスを剥奪されてから過少評価し過ぎです。 本当はもっと評価されるべき存在な筈なのに。 こんなところで腐らせていい存在ではないんです。 それに行き遅れた私をどうするおつもりなのですか。 責任取って貰えないんですか?」
「………本当に俺でいいんですか? 俺みたいな奴で?」
「はい。 貴方がいいんです。 だから一緒にいさせて下さい」
「わ……分かりました。 こんな俺ですがこれから宜しくお願いします」
「はい。こちらこそ宜しくお願いします。ハイケルさん」
俺には高嶺の花と思っていたのだが、どうやら結婚する事になりました。
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