呪印
店内の奥に座る女の子は、本をぱたんと閉じ、感心したようにリーファを褒めた。
「お主、中々の目を持っておるな。 よく我が魔女だと分かったの」
向こうに戦闘の意志がないのか、それとも戦闘になっても余裕ってことなのか。
殺気は感じられないが、どの道少しでも向こうが動くようなら手の内を見せられる前に狩る必要出てくる。魔王クラスの相手に勝てるとは思えないが、リーファだけでも逃がしてやる時間くらい作らなくては。
「何が目的だ? 適当なクエストで誰かが釣れるまで待ってたのか?」
どう見ても、二十歳前後の普通の可愛らしい女の子にしか見えない。
だが、本人も魔女だと認めている。それにマチルダ・アーロンってクエストの依頼主にも確かに書いてあった。
いや、誰もそれが魔女だとは思わないだろ。
魔女は狡猾だ。人の弱み、恐怖、負の感情を餌に強大な力を得た元人間の特異種族だ。
それに見た目に騙されたが、可愛らしい女の子に擬態している可能性だってある。俺は過去に一度騙されてるからな。もう簡単に騙されんぞ。
「そう構えるでない。 我は何もせん」
「そう言って油断させるつもりだろう。 お前達、魔女は過去に世界征服をしようと企んだろう。今も大人しく見せかけて虎視眈々と世界征服か復讐でも狙ってるんだろ」
「じゃから、それは過去で、今はひっそりと暮らしとるだけじゃ!」
「騙されるかよ。 王都に潜り込んで内側から今度は何をやらかす気だ? ガレリアでも落城させるつもりか。 リーファ、俺の後ろに隠れていろ。 絶対に俺が守ってやるから」
魔女はかつて儀式を行い、精霊とは違う悪魔と呼ばれるような魔物と契約を交わした。その内容までは詳しく知らないが、絶対にまともな契約を交わしたとは思えない。
子孫だが何だかよく分からんが、まだこの世界に潜んでいたとは、歴史上の話だけと思っていたが、マジで驚きだ。
魔女はハイケルの態度に覚悟を決めたのか、椅子から立ち上がり上着をめくり上げた。
「えーい、鬱陶しい奴じゃな!! これでどうじゃ!! ここまでさせたら文句は言うまいっ!!」
「なにっ!?」
魔女がハイケルに見せたかったのは、胸元にある魔核と上半身に広がる幾重にも重ねられた封印の呪印だった。
よく実った果実………いや、そんなことじゃない。この異常な数の呪印はなんだ?
人にこれほどの呪印を施せるのか?もはや生きてるのが不思議なくらいの量じゃないか。
「まだ、見たりんか? まだ見えない所にも呪いが掛けられとる。 見たいと言うなら見せてやる」
「ハイケル……もう許してあげて。 魔女さん可哀想だよ……」
それまで後ろで怯えていたリーファが口を開いた。
「この封印の呪い、全身を覆っている。 これじゃ魔法なんてとても発動出来ないよ」
「これで分かったじゃろ。 我には戦う意志も術もない。 今は過去に祖母が犯した大罪を、魔女の末裔の我らが背負って生きとるだけじゃ…………」
おいおい。まともに生きることすら許されてないってことなのか。それに、その悲しそうな顔はなんだ。これじゃ俺が悪い事したみたいじゃないか。いや、実際そう……なのか?
戦闘意志がない女の子に上半身めくらせて、見せたくない呪印まで見せさせて。
よく考えたら俺の方が悪いじゃねえか。
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