リーファの秘策
「こんな程度ですか」
「ぐ……っ…」
何回斬られた? さっきから右腕の感覚が全然ない。しかも左脚までやられてる。あの青龍の剣、相手を弱体化させるスピード低下の効果まで付いてやがる。これじゃ私の長所が全く活かせない。ほんと相性最悪だ。
しかも血を流しすぎて頭まで回らなくなってきた。長期戦は不利なのに、いよいよもって命が危ねえ。
「まだまだ、こんなものではないですよ。 ここからが本番です」
持てる技を全て出したアナスタアだったが、チカチロには通じなかった。それどころかチカチロに切り刻まれ、出血多量で酸素欠乏症に陥っていた。それでもチカチロ相手に立っていられたのは、チカチロがまだ本気ではなかったからだ。
暗雲が立ち込める中、半ばアナスタシアが自分の命さえ諦めかけたその時だった。アナスタシアの元にようやく二人が駆けつけたのだった。
「あっ、アナスタシアさんだっ!」
「よう。暴走娘、無事だったみたいだな」
「お前ら、なんでここに来たんだ……今直ぐ逃げろ………相手が悪すぎる。 こいつには勝てねえ…………」
ハイケルがチカチロを見るが、まるで気にしていない様子だった。
この双剣使い。構えもこの大陸じゃあまり見ない流派だ。アナスタアの傷の具合を見たところ、本気ではないにしろ手数で押し切るタイプだろう。逆を言えば一撃の威力がない事になる。A級のアナスタアがおされてるって事は相手の方が強いんだろうな。
「リーファ、悪いけどアナスタシアにハイヒールをかけてやってくれないか?」
「うん、わかった。 でもハイケルはどうするの? もしかしてあの人と戦うの?」
「う〜ん…………誘拐犯だから本当は全員捕縛したいけどな。 どうしようか迷ってる」
「なに悠長なこと言ってやがるんだ、お前にどうこう出来る相手じゃねえぞおっさん」
ハイケルとチカチロが対峙する。チカチロはハイケルを見て異質な雰囲気に眉をひそめた。熟練冒険者になるほど相手の力量が立ち振る舞い、呼吸、重心の移動などで分かるようになる。しかし、ハイケルにはどれも当てはまらなかったからだ。
「あなた………独特なオーラですね。 他の冒険者とは何かが違う、それに余裕すらある。ただのバカなのか本物なのかどちらでしょうか?」
「どちらでもないね。 お前たちを捕まえるついでに拐われた二人を助けに来ただけだ」
「助ける? 冗談でしょう。 あなた方もここで死ぬんですよ」
「死ぬとか子供の前で言うな。 リーファが怖がるだろう」
「リーファ? ああ………あそこで女冒険者を手当している子供ですか。 あの子は高く売れそうですねぇ」
「おい、お前リーファをどうするつもりだ! 返答しだいでは許さんぞ」
「ふふっ。 奴隷ですよ。 金持ちの貴族にでも売り払って一生おもちゃにされて暮らすんですよ」
「決定だ……………お前は許さんっ!!」
アナスタシアの傷を回復させたリーファが、ハイケルの隣に並んだ。手を広げ、いつでもやれると顔でハイケルに合図を送る。
あの気持ち悪い格好をした奴はマジで許さん。だが、なんとか間に合った。 あと少しでも遅かったらアナスタシアは死んでいたかもしれん。
回復したとはいえ、動くことが出来ないほど体力も消耗しているから、悪いがアナスタシアには大人しく後ろで待機しておいてもらおう。
「話はいいですか? では始めましょうか殺し合いを」
「いいよ。リーファがやる」
「おう。頑張れ。 失敗しても俺が補助するから。 その後は俺に任せてくれ」
普通だったらリーファが前衛で闘う事はまずない。特に自分と同等か格上なら尚更だ。
俺が相手した方がいいだろう。だが、今のリーファでもアイツに通用する事がある。
「ハッハッハ。 子供に何が出来ると言うのですか? しかも肝心なあなたは子供の陰に隠れて、みっともないったらありゃしない。 恥ずかしいとは思わないのですか?」
「ハイケルの悪口を言わないで、私はオジサンを倒すんだよ!」
「あなた………子供の冗談にしては笑えない事を言いますねぇ」
確かに小さい子に本気でそんな事言われたら笑えないだろうな。だが、リーファを侮っていると痛い目を見るのは、お前の方になるけどな。今から見せるのは初見で対応するのは難しいだろう。因みに俺は無理だった。
リーファの天才的な活躍をお前らに見せてやるよ。
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