白銀の剣 アナスタシア
「あの子はアナスタシアといって、この孤児院で育った冒険者なんです。 ちょっと感情的になっていただけで普段は明るくて、それに孤児院にもお金も入れてくれる優しい子なんです」
「へえ、それは大分俺の前での印象とは違うな」
あの言葉使いの悪い子が優しいと言われても正直ピンとこない。俺には終始キレていたからな。
でもカミラとミリスを本気で心配している辺りは本当は根は優しい子なのかもしれない。
「カミラとミリスがいなくなって焦って感情に出てしまっていたんだと思います。 相談しようとした時にはクエストに出ていていなかったんです。本来ならアナスタシアに相談したかったのですが、いなかったので仕方なく。あ、でも依頼はキャンセルしませんのでハイケルさんも協力をお願い出来ませんか?」
「勿論です。 俺も隣にいるリーファも協力させてもらいます」
「この可愛い子が?」
「リーファだよ。 私も捜索協力する!」
「リーファは気配察知が出来るんです。優秀な子ですよ」
「リーファちゃん。 時間があまりありませんけど、捜索よろしくお願いしますね」
「うん。リーファにまかせて!!」
こんな小さな子にまでちゃんと頭を下げてお願い出来るディアナさんは根っからのお人好しだろう。
さっきいたアナスタシアも見習えよ!どう育ったらあんな凶暴な正確になるんだよ、教えてほしいわ。
「あの、アナスタシアは一人で向かったみたいですけど大丈夫なんですか?」
「た、多分大丈夫かと。 普段は【白銀の剣】のメンバーで前衛をやっているんですけど、今回は私達個人の問題だからって一人で抱え込んでしまって。 でもあれでもA級ライセンスの持ち主なんで強いんですよ」
「へぇ、見かけによらないな」
Aランクまでいってるなら元俺と一緒のランクだ。あんな性格でも頑張ってきたんだろう。大したもんだ。
「いなくなった時の状況を詳しく聞かせてもらえないですか? 何か周りに怪しい人だったり、二人が行きそうな場所だったり」
「はい。 カミラとミリスが遊びに行って、夕方にはいつも帰ってくるのですが、いつになっても帰ってこなかったので私も焦って探したのですが、二人のよく行くような場所にはいませんでした。辺りにいた人に聞き込みをしたのですが、その二人がいなくなる前に怪しい顔を隠した男が何人かいたそうです。 もしかしたらその男達が二人を拐ったのかもしれません」
「なるほど、よく行く場所に遊びに行ったのならとっくに帰って来ているはずだ。 拐われた可能性の方が高いな。 その男たちがどこか向かった先とかは分かりますか?」
「西の方に行ったとしか。 チラッと顔を見た人もいたので聞いたのですが、この辺りに住んでる人ではなかったみたいです」
「西の方といえば、西検問所から出られるな。 ありがとうディアナさん。 そこら辺から当たってみるよ」
「よろしくお願いします」
俺と二人は検問所を目指す。あそこは夕方以降になると出られない。おそらく通ったのは最後の方だろう。門兵に聞くと夕方で入れ替わって分からないときたもんだ。かぁ、使えないな!ますます捜索が困難になる。
「リーファ! 気配察知で人が集まっている場所が何処にあるか分かるか? それに精霊に話しかけて教えてくれたりはしないか?」
「うん。 分かるよ! 聞いてみるね」
まじかよ……俺には見えないが、リーファには微精霊や精霊が見える。どうやって話をしているかは分からないが聞いたことに精霊は親切に教えてくれる。エルフって存在は存在だけでチートってのがよく分かる。
「教えてくれたよ。 昨日の夜に7キロ先の離れた廃虚に子供を連れて入った5人組がいるって」
いや、どこまで詳しく分かるんだよ。こりゃもう探偵で食っていけれるぞ。
「なるべく魔力全開で範囲を広くして調べてくれ! 俺の気配察知は大雑把で、範囲が狭くて人間か魔物かも区別がつかないんだ」
「リーファに任せて! こういうの得意だから」
そう言って手を広げ集中する。やがて大きな魔力の波動が波紋のように広がっていく。
前にやった時は5km以上離れた場所まで気配察知が出来た。今回はそれよりもはるかに大きい。これに賭けるしかない。分からなければ、あまり使いたくはないが情報屋に高い金を払ってでも探す必要がある。まぁ大赤字になるが。
「西の大きな廃虚に小さな反応が2つと大きな反応が8つ。 それにそこに向かう反応が1つ」
おそらく主犯格と犯行するグループで分けているだろう。それに向かっているのはアナスタシアだ。
「よし。 おそらくビンゴだ! 急いで向かうぞ」
「分かったよハイケル!」
俺達は龍舎から借りた地竜に乗って急いで廃虚に向かった。
◇
一方、先に着いていたアナスタシアとはいうと。8人相手ではなく、たった一人の相手に苦戦を強いられていた。
「ちっ…………なんで…………テメェがいるんだよ」
繰り出す連撃が一つも当たらなかった。ひらひらと躱され、まるで子供と大人の差ぐらいある実力差にアナスタシアは焦っていた。
余裕と距離を取り対峙する相手は、二刀流のショートソードを構え、ニヤリと不敵に笑う。
「元S級ランク………今はS級指名手配の………殺人鬼………チカチロ!」
良かったなと思った方はブックマークを付けて頂けると本当に嬉しいです。
出来るだけ毎日とはいきませんが頻繁に更新してますのでグッドボタンも宜しくお願い致します!




