忘れた気持ち
リーファから放たれた風魔法はハイケル程の剣士でも見たことがない魔法だった。
風が高密度で圧縮され、とてつもない一つの形となり、それはアースドラゴンに向けて放たれた。
刃は周りの空気を凄まじい勢いで切り裂きながら一直線に飛んで行く。
40メートルという距離を一瞬にして無にし、アースドラゴンの鋼よりも硬いとされる太い首をいとも簡単に切り落としたのだった。
「うおっ!!!」
あまりに凄まじい攻撃魔法に思わず抑えなければいけない筈の声が漏れ出る。それはハイケルの予想を遥かに超えた攻撃魔法だった。
熟練と言われるA級魔道士でさえ、アースドラゴンを一人で倒すのは難しい。だからこそパーティーや軍を率いて戦うのがA級難易度討伐対象のアースドラゴンという存在なのだ。
巨体な身体に鋼のような外皮に覆われた地竜は生半可な攻撃は一切通さない。それくらい硬いで有名な魔物な筈だった。
もしかしてとは思っていた。スライムを討伐した時に見た繊細な魔力コントロール。膨大な魔力量。それを正確に測る魔法。9歳という子供が身に付けれる筈のない魔法の数々。
俺なんかとは根本的に違う。神童と呼ばれて強いと勘違いしてたのが恥ずかしく思える程の天賦の才。
いずれこの子は誰も成し得たことのない大魔導師になるとハイケルはそう直感した。
「よし、偉いぞリーファ!!」
「えへへ…………でも魔力大分使っちゃった……」
「大丈夫だ。 リーファはそこで待っててくれっ!!」
岩陰から飛び出したハイケルは身体に魔力を込め肉体強化を施した。魔力は全身に行き渡り肉体の限界を更にもう一段超えた高みへと押し上げていく。
脂肪一つない鍛え込んだ身体は、恩恵を余すことなく発揮し、アースドラゴンの懐に入り込んだ。
「グゥ゙ォォッ!!」
「はあっ!!」
異変に気付いた時にはもう遅かった。
起き上がろうとしたアースドラゴンの首をハイケルは真上から斬り落としたのだ。
成す術なく切り落とされた2体のアースドラゴンはたった二人の冒険者によって一瞬で始末されたのだ。
「ハイケル!! 凄いっ!!」
倒したアースドラゴンを確認しようとハイケルは近くに寄って行くと、リーファは興奮しながら駆け寄って来て眼を輝かせながらハイケルに言った。
「俺が?! いやいやいや、リーファの方こそ凄かったよ。 あんな魔法見たことない。 前から思ってたけどコントロールも威力も申し分なかった。 もしこのまま冒険者になったら、きっともの凄い冒険者になれるよ」
「私もハイケルみたいにかっこいい冒険者みたいになる!! ハイケルみたいになりたい!!」
「俺が………かっこいい?」
今まで自分がやってきた事にかっこいいなんて思った事がなかった。いや、意識した事もなかった。金を稼ぐために当たり前の事を日々黙々と熟しているだけになっていた。
でも、それがリーファから見た俺は、格好よく映っていると。
「うんっ! ハイケルすっごいかっこよかったよ!!」
純粋無垢な笑顔は、過去に置き忘れた感情を呼び起こすには充分な破壊力だった。
格好よくなりたかった。子供の頃に何度も夢に見た冒険者。
見たこともない世界を旅をし、自由に生きて好きな剣の道で稼ぐ自分の姿。
あの頃の自分とリーファが重なって見えていた。
「そうか…………」
まさか俺がリーファに教えられるとは。
大切なリーファを優しく撫でて、少しずつ自分の心が変化していくのをハイケルは実感した。
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