本物か否かの真相
ウェンツ・クラネルドの回想になります。
彼の剣技は私の想像を遥かに超えるものだった。
当時から囁かれていた信憑性のない噂話。しかし、ロシアナさんからの話で実在した事を知り、私は確かめたくなった。
パーティーを組んで闘う事は今も昔も定石だ。それは誰もがそうしていたし、自分でさえそれが当たり前の事だとそう思っていた。
しかしそんな常識を覆し、単独でA級まで上り詰めた人物がロシアナさんの主人ハイケルさんだという事を公には出来ないが秘密裏にロシアナさんから知らされた。
単独で魔物に挑む事が、それがどれ程危険な行為か。 例えるなら毎回魔物大群生の中に一人で突っ込んでいくようなものなのだ。自殺行為であり自分では不可能だと思った。
当時、危険な魔物が王都付近にも多数出没し、応戦していた事を考えると正直何かのイカサマか、それに近い特別なスキルを使っていたのではないと考えるようになった。
真意を確かめてみたい。王都から消された天才剣士が本物か偽物か、ロシアナさんが嘘をつく女性ではないことは重々承知しているが剣士として試さずにはいられなかった。
しかし剣を構えた時に感じたあの岩のような圧倒的な圧力。始めから全力でいかなければこちらが殺られると錯覚した。
全力で放つ私の剣撃を、寸前のところで見切られた。いや、見られていた。
まるで私の太刀筋を一つ一つ確認するように、じっくりと纏わりつくように観察されていた。こんなこと初めての感覚だった。
私の剣撃を誰も初見で防いだ者などいなかった。それを一撃ならまだしも全て防がれた。しかもそうなるよう誘導された。
距離を取り、他のスキルを出そうとした瞬間に合わせられると、そう直感した。だから出さなかったのではなく、出せなかったのだ。
後はご覧の通り、最後は簡単に力でねじ伏せられた。
嘘のような噂話は本当だった。正にあれは神童そのもの。特別なスキルなんてものも一つもなく、剣を交えたからこそ分かる鍛錬を積み重ねてきた剣筋だった。
振れ一つない鋭い斬撃、一つ受ける度に身体が後ろにもっていかれそうなほど強烈な斬撃だった。
私が今まで見てきた剣士の中でも彼は飛び抜けて強い。それにまだ手の内を見せてなかった事を考えると本当に底がしれない。
そんな彼が今は家庭を持ち、子供の為に相応しくないDランクで生活している事が本当に勿体ない事だと思った。
王都が安定してきているといっても、まだ大型の魔物は多数存在が確認されている。
黙っていてもいずれ彼は上がってくると思うが、その時は彼が動きやすいように自分も力を付けておこうとそう思った。
そして余談だが、初めて自分が認めていいと思える剣士に出会えた。だから次に会った時は改めて剣を教えて貰おうとも思っている。
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