元A級天才剣士ハイケル
ふぅ………
剣を弾いてウェンツ・クラネルドから一歩だけ剣の間合を作る。読み辛い連撃だが、闘いの中で太刀筋は見えてきた。たかが一歩。でもこの間合があれば充分だ。身体に魔力を込め、体内にある魔力を肉体へと解放し俺は次の攻撃へと備える。
『フィジカルブースト!』
「っ!」
今度は激しく剣と剣がぶつかりあう。避ける動作から一転、俺は攻めの型に入ったからだ。
眼にも止まらぬ連撃が衝撃波となって大地を震わせる。一瞬でも油断すれば勝負が決まる程の激しい打ち合いだった。
「リーファ、ちゃんとハイネルを見ているのよ。 何故あの人が天才剣士や神童と呼ばれていたか」
「ハイネルが? 強いからじゃないの?」
「強いだけなら、当時も周りに沢山いたのよ。 でも彼はその中でも飛び抜けて強かった。 私も彼が討伐した魔物を見て最初は驚いたわ」
「ハイネルそんなに強いの? かっこいい!」
「そうね。かっこよかったわよ。 だって彼は全ての大型の魔物、ロックリザートも当時災害級と認定されたベヒモスも、全部一人で一撃で一刀両断して倒してたのよ。 そんなの過去の冒険者含めて一人もいなかったもの。 そんなの聞かされたら誰だって惚れちゃうでしょ?」
「ハイケル、色男だねっ」
「こら。 何処で覚えたの? ふふ…………そうよね。 今も昔もハイケルは色男よ……………だから、頑張ってあなた」
「頑張れ〜ハイケル!!」
連撃の中で勝ち筋を探った。そして分かった事もある。ウェンツ・クラネルドは肉体強化しか純粋に使っていない。おそらくだが純粋に剣技のみで俺に圧倒して勝つつもりなのだろう。それならば、俺もそれに応えるまでだが、ウェンツの剣速は今までの冒険者を見てきた中で間違いなく一番早いと言っても過言ではない。
だが、その剣速を維持するために重さが犠牲になっている。しかもフィジカルブーストによる身体強化も僅かだが、何処からでも飛んでくる剣技や、剣を受ける度にブレが発生している。しかし、それこそが勝ちへの道筋だろう。
「しっ!」
切り込みに呼吸を合わせ、ウェンツ・クラネルドのファルシオンを弾け飛ばす。このほんの僅かな一瞬。バランスを崩したをこの瞬間を逃す訳にはいかない。防御に回るウェンツ・クラネルドの剣を、そのまま力でねじ伏せるように上から剣を叩きつけるように振り下ろした。
………………………
首の皮一枚といったところだろうか? 膝を着いたウェンツ・クラネルドに僅かにだが俺の剣先が到達していた。
「参り………ました………」
「ありがとう。 ウェンツ・クラネルドくん。 もし君が他の剣技を掛け合わせて闘っていたら結果は違っていただろう」
「いえ…………それができませんでした。 あなたの剣の反応速度や、重さに技が出せませんでした。 だから私の完敗です。流石神童と言われただけあります」
また上手い事言って。おっさんを褒めても何も出ないって言うのに。
一流の剣士は褒めるのも一流なんだな。
「ごめん。 首に少し傷をつけてしまった」
「いえ、これくらい何ともないです。 それよりも先程の一撃、剣で防いでも全く防ぎきれませんでした。 あれが全力で振り下ろされていたらと思うとゾッとしましたよ」
「いやいやいや、ウェンツくんこそ、あの目にも止まらない剣撃には圧倒されたよ。 流石一流剣士だよ。 俺にはあんな真似できないからね。 研鑽の賜物だと思うよ」
「はいはい。 褒め合いはそれくらいにして今日は終わりにしましょう。 さっきの激しい打ち合いで騒ぎになってますよ」
ロシアナの声に反応すると門兵達が慌ててこちらに向かって走って来ていた。
確かにあれほど斬撃音が響いていたら何事かと思うのも仕方ないな。
「あ……あぁ。 ごめんごめん。 さっさと御開にしよう。 ありがとうウェンツくん。 これからも応援してるから!」
「ありがとうございます。 ハイケルさんも、いえ……………それだけじゃない。 ハイケルさんはもう一度上に上がってこないんですか?」
………そのことか。だが、その答えはもう決まっている。
それを俺はウェンツ・クラネルドに伝えた。
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