突然の来訪者
あの一件から一週間経ち、無事ロシアナの引っ越しも終わり俺達は晴れて夫婦となった。
実はあの後大変だったのだ。 ギルドマスターのガジェットさんに報告に行ったら騒ぎになるわ、冒険者の間で大騒ぎになるわでとても落ち着く暇なんてなかったからだ。
俺の方も借家だが王都から少し離れた地区に古くていい物件を見つけたので、そこに急いで引越をして3人で暮らすことになったのだが、本当にあっという間の一週間だった。
でも、こうして二人を見ているとじわじわと結婚した事を実感する。
なんかいいよな。こんな景色があるなんて。騒がしい日常が、今では心地よくさえ感じる。これが家族を持ったということなんだ。
「リーファまだ着替えが終わってないわ!」
「ハイケルと一緒に出かける〜」
「ダメよ。 そんな格好じゃ、待ちなさいっ」
「やだ〜」
ロシアナは元々冒険者達にも親身になって依頼を紹介したりしていた。ここでもその世話好きな性格が前面に出て、俺は非常に助かっている。
リーファの事はアイテムボックスから魔法、エルフのことまで包み隠さずリーファ同席の上で話した。リーファもハイケルが認めた人なら大丈夫と言ってくれた。
ほんと、なんていい子なんだ。俺はうれしいくてつい泣いてしまったよ。
そして今日はリーファと一緒に馬に乗って東のエルム平原のアースドラゴンを倒す予定だ。難易度はA級指定されてはいるが正直でかいだけで大したことない魔物だ。だが、外皮が高く売れる。今まで一部の剥ぎ取りしか出来なくて持ち帰るのを諦めていたがアイテムボックスがあることで、どこまで入るか分からないが大部分持ち帰る事が出来るだろう。
クエストでは受注出来ないが勝手に行って倒す分には普通に解体場で売れるから助かるのだ。
「リーファ行こうか?」
「うん。行く!!」
「もうっ。 二人とも気を付けてね」
「ああ。ロシアナ行ってくる」
「行ってくる〜」
ただ気になっていた事がある。玄関先から人の気配を感じていたのだ。何の用があるのだろうか。特別殺気は感じないから外っておいたのだが、まぁ暗殺の類ではないと思う。
ドアを開け、待人らしき人物を見ると実際に話したことはないが、誰もが冒険者なら知っている人物だった。
[ウェンツ・クラネルド]
王都で唯一S級に上り詰めた青い流星のリーダーと言われる人物だった。
青い瞳に洗練された無駄のない肉体。ぱっと見、いかにも好青年といった感じで、同じ年頃の異性であれば誰もが惚れてしまいそうな雰囲気を纏った人物だ。だが、実際は容姿だけではない。本物の実力も兼ね備えている。青い流星は5人パーティーでその中で最年少でウェンツ・クラネルドは22歳の時にA級に昇格し、26歳で最高ランクのS級に昇格した怪物だ。
でも何故この家へ?俺なんかに用なんてない筈だ。
「貴方がハイケルさんで間違いないですか?私はウェンツ・クラネルドと申します」
「ええ。 知っていますよ。 あなた程の方であれば冒険者をしていれば誰もが耳にしたことのある名前ですから。 でもそんな有名な方が何故こんな辺鄙なところへ?」
「それは、あなたと立ち会う為です。ハイケルさん、私と剣で勝負をして頂きたい」
「いやいやいや、何を朝から突然来たかと思えば、何の冗談ですか。 既に冒険者の頂点にいる君と俺とでは勝負にすらならないよ」
当然だ。S級というのは王都からの緊急要請に全て応え、ギルドからはどんな高難易度クエストも全てこなしてきたからこそなれる最高ランクだ。そんな彼と俺とでは伸し掛かる責任の重さも覚悟も全て違う。俺みたいに途中で投げ出した男とは何もかもが違うのだ。
しかしウェンツ・クラネルドは引くどころか再び頭を下げハイケルに懇願した。
「お願いします。ハイケルさん。 俺はあなたを超えてこそ、本物のS級となれるんだ」
いや、もう君はS級だけれども。しかし冗談などでは言ってないことは分かる。真剣な眼差しに誠意ある態度。多忙な人物が冗談を言うためにわざわざここまで来ないだろう。しかし何故そこまで俺みたいなおっさんにウェンツ・クラネルドは拘る。強い奴らなんて俺以外にもそこら中にいるだろう。こんなおっさんと手合わせしたところで得られるものなんて何もないだろうに。
「……………理由を聞いても?」
「あなたが当時17歳で最速ソロA級に昇格した天才剣士、または神童と呼ばれていた方だからですよ」
でた。俺の20年近く前の黒歴史。頼むからほじくり返さないでくれ。
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