第六話 ウシ家の特殊な事情
「お兄様、今日はどんなお話をいたしましょうか?」
マリアとの会話は、いまや食後の日課のようなものになっている。
そう、会話も立派なリハビリの一環だ。
この世界の言葉も、徐々に思い出せるようになってきたし、何より家族などの身近な人々の情報が分からないままでは、直ぐに支障をきたすことは目に見えている。
もっとも父王からは、多少記憶に障害が残ってるくらいには、説明がなされているらしい。
今までの会話から、少しづつこの国のことや家族構成などが分かってきた。
先ず俺なんだが、真っ先に知りたい内容なのに、どうにもストレートには聞きづらい。
そこで周辺の情報から、回りくどい思いをしながら大体のことは聞くことが出来た。
先ず、これが一番大事。
俺の名前は、『ヲシリ』で間違いないらしい。
(声に出すときは、《《うぉしり》》って感じなんだよなぁ)
俺はマリアに、なんで『ヲシリ』って名付けられたのか?訊いてみた。
マリアも軽く首を傾げて、何でなのか考え込んでしまった。
「お父様が名付けたんだから、直接お聞きになられては?」
ひとしきり考えた挙句に、そんな風に返されてしまった。
(それもそうだな、いずれ父王には色々と訊くことになるんだろう)
そんな風に素直に納得してしまった。
「因みにウシ國の『うし』って、モーモーって啼く、大きな動物の『牛』で合ってる?」
それを聞いたマリアは、ツボったのかコロコロと笑い出してしまった。
(うーむ、結構真剣に訊いたんだけどなぁ)
マリアにはそのギャップが、逆に新鮮で面白かったのだ。
「じゃあ、俺の名前の『ウシノヲシリ』って、牛の尻尾って意味なのかな?」
とうとうマリアは、おなかを抱えて大声で笑い転げ出してしまった。
(そんなに俺の名前で、笑い転げなくたっていいだろう)
そんな俺の表情を見て取ってか、笑いを奥歯で嚙み殺すように抑えて答えてくれた。
「わたしたちは王家の一族なのですから、国の名前を冠するのは当然ですわ。わたしも正式には『ウシノマリア』ですのよ」
「じゃあ、父王の『ウシノデヲシヒコ』ってどういう意味?」
マリアは得意気に解説し始めた。
「父王の名前は『デヲシ』でしょ? だから『ウシノデヲシ』なんですけど、国王になると尊称として『ヒコ』を名乗る習わしがあるから、合わせて『ウシノデヲシヒコ』になるのですわ」
(なるほど、そういう感じで名乗ってるんだな)
俺もようやく合点がいったので、深く頷いて見せた。
「そう言えば父王も、時々この部屋に顔を出してくれてたけど、最近はあんまり顔を見せてくれないね」
話が自然に父王に逸れてしまったので、ついでとばかりに訊いてみた。
するとマリアは、チョッと心配そうな表情を浮かべながら教えてくれた。
「最近は急にご公務がお忙しい様子で、なんでもどこかの国からの使者と面会しては、難しそうな顔をなさってますわ」
俺は悪寒を覚えると共に、ヤマトの國の宗女サグメの冷ややかな目を思い出していた。
俺は話題を変えて、家族の年齢などの話を訊いてみた。
そこで初めて判明したのだが、俺は今年で13歳になるらしい。
(これまで自分自身をしっかり見た訳ではないけど、てっきり10歳くらいだと思ってた)
改めてみても、妹のほうがしっかりして見えてしまう。
ちなみにマリアは、今年で10歳になるとのこと。
(ただ、妙に10歳をアピってくるんだよなぁ……)
そして家族は自分の他には、
母が三人、15歳の兄が一人そして、妹のマリア、そして年の離れた弟が二人いるらしい。
(むむむ、母親が三人?)
実はこの部屋に移ってから、家族とは一通り挨拶を交わしたはずだった。
(たしかに普通に母親らしく振舞っていた、女性が三人いたなぁ)
しかし俺が生きていることを、心から感情を露わにしてまで、喜んでくれた人がいたようには見えなかった。
(嫌われてたのかなぁ?)
「ところで俺を産んでくれた母さんって、三人の内の誰だったのかなぁ?」
結構聞きづらい質問だったが、意を決して訊いてみた。
「お兄様の母上は、産後の肥立ちが悪くって……。お兄様をお産みになって直ぐに、お亡くなりになったと聞いておりますわ」
マリアは気まずそうに答えてくれた。
「それでも父上は、お兄様の母上のことを心から愛していたのだと思いますわ。王家としての世継ぎが少ないのに、つい数年前まで側室すらお迎えになられませんでしたもの」
??????……
「あれ? マリアって俺の妹なんだよね?」
「もちろんですわ」
マリアはニッコリと微笑みながら、続けて言った。
「お兄様はお亡くなりになられた、正室がお産みになられた嫡子。わたしと長兄は、当時側室だった母上が産んでくれた庶子になりますわ。もっとも今でこそ、わたしの母上が正室となっていまけど……」
「ち、ちょっと待って」
俺も頭の中が混乱してきて、話を遮って疑問の核心に切り込んだ。
「ひょっとしてマリアって?」
マリアは飛びっきりの笑顔を見せて、こう言った。
「はいっ、お兄様の異母妹ですわ」




