表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヲシリが征く【少年期編】  作者: そうじ職人
第2章 和邇一族の陰謀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

29/30

第廿九話 ロイヤル・プライベートガーデン

 フッと、庭師って大工仕事もできるのだろうか?と思い、デヲシヒコに訊いてみた。

 どうやら庭師の息子さんが、宮大工みやだいくを本業としているらしい。


 過日の当地のやしろ攻略戦の折には、案内役ということで兵士として従軍じゅうぐんしていたらしい。

 要はやしろの建築にも携わっていたので、内部構造を熟知じゅくちしていることから従軍じゅうぐん打診だしんされたようである。

 庭師の息子さんは作戦行動中に、不自由な身体からだにもかかわらず果敢かかんに指揮を執る俺の姿に感銘かんめいを受けたとのことである。


(うん、そんな話を聞かされてしまうと背中のあたりが、むずがゆくなってしまう……)


 この滑らかな階段は、当時の記憶から色々な想定そうていを検討した上で、建設されたものだとのことであった。

 俺は強い感謝の思いに満たされていた。


(確かに建設物としては小規模かもしれないけど、こんなに利用者の気持ちをんだ設計は見たことがないな……)


 デヲシヒコに対して、なにかしらの方法で庭師と大工の功績こうせきねぎらえないものか?と相談してみた。


 すると間もなく“重陽ちょうよう節句せっく”の祭事が有るので、そこへ招待しても良いとのお許しを得た。

 なんでも王家の祭事には、一般の者は原則参加できない程に格式が高い行事ぎょうじらしい。

 本来なら準備を整える部屋詰めの庭師ですら、招かれるのはまれである程の栄誉えいよになるとのことである。


 俺は大賛成で、その提案で進めて頂くように願い出た。


「そう言えばミノタロからも、今年は一般の者を特別に呼びたいと申していたのう」

 デヲシヒコは自慢の八束髭やつかひげでつけながらつぶやいていた。


 俺は新しく立派な部屋を下賜かしされたのを思い出して、改めて感謝の意を伝えた。

 するとデヲシヒコは、この部屋はき祖父が使っていたものだと教えてくれた。

 元々は俺が元服げんぷくしたあかつきに、下賜かしする予定の私室であったとのことだ。


「ヲシリの好きなように使うがよい」

 一言だけ伝えると、縁側えんがわはたまで進み出ると庭を見詰めながら思い出にふけるように、目線を庭先にそそいでいた。


 視線の先には、庭にほこる大輪の菊が大量に植え込まれていた。

 するとデヲシヒコは目蓋まぶたを細めて、思い出をなつかしむようにつぶやいていた。


「お前の母さんは、菊が好きな女性だった……」

 それだけを言い残すと、俺を残して立ち去って行った。


(そうか……ここから母さんと一緒に菊をでたりしてたのかも知れないな)


 俺は早速、松葉杖まつばづえを使って裸足はだしで庭に降り立った。

 そのまま庭の一画いっかくに用意された、真新まあたらしい木製の器具きぐに向かって進んだ。


 建物の脇には俺の要望で作ってもらった、長さ10メートル程にもなる腰の高さ程の平行棒へいこうぼうしつらえてあった。

 理学療法りがくりょうほうなどで使われる器具だ。

 木製ではあるがシッカリとした作りのため、全身でつかまっても折れたり倒れたりする心配は一切ない。


 俺は手にしていた松葉杖まつばづえかたわらに立てかけ、裸足はだしのまま木製の棒をつかんで平行棒の内側に身体からだを移した。

 いよいよ本格的なリハビリメニューに移れることに喜びを感じていたが、同時にこれだけの器具を使いこなせるか?という一抹いちまつの不安を抱えていた。

 緊張しながら、平行棒をつかむ。

 右手は問題ないことを確認したが、それは想定内だ。

 次に左手の棒をつかんでみると、ちゃんと握ることが出来た。

 上から体重を軽く掛けてみたが、左手の方もある程度は耐えてくれているようだ。


(よっしゃ! これなら“りはーびり”も、順調に進めそうな気がするぞ)


 俺は慎重に、一歩一歩と練習を進めることにした。


 先ずは右足を前に踏み込んで、重心じゅうしんさぐりながら足の裏で地面を《《掴んだ》》。

 この歩法ほほう太極拳たいきょくけんなどの中国拳法独特の動きである。


(昔は大学卒業後の運動不足を心配して、熱心にフィットネスクラブにかよったっけ)


 こんな知識が意外な場面で生かされるとは、何でも体験してみるものである。


 踏み出した足場あしばを確認すると、ソロソロと左足を引きずるように前へ進める。

 こちらは未だに、上手くは動かすことが出来ないままである。

 地面に降ろした足からは、重心じゅうしんさだかに確認できない。


 ひたいからは、汗がうっすらとにじんでいた。

 どうしても次の右足を、左足より前に踏み出せないからであった。


(くっ……どうなってるんだ?)


 右足の裏はしっかりと地面を捕らえることが出来ているのだが、左足の踏み出しにはかなり道程みちのりが長そうだ。

 意を決して、左足の真ん中に重心じゅうしんを移すと、一気に右足を振り出した。


「ガハッ……痛っ!」


 慌てて右側の手摺てすり棒に、両手で捕まった。

 勢いで棒にあごをしたたかに打ち付けてしまい、そのはずみで口内こうないを切ってしまったようだ。

 じんわりとあごの痛みが伝わると共に、舌には血の鉄分の味が広がっていく。


 俺は現実を突きつけられた様な絶望感に襲われた。


(俺の性根しょうねはこんなものか……)


 そして、フッと手摺てすり棒の内側が目に入った。


 外側からは何も装飾らしきものは無かったのだが、内側にはおおよそ一歩(ごと)に雄々しい牛の彫刻がほどこされていた。

 これだけの装飾そうしょくが、一見しただけでは気が付けない。

 今のように手摺てすりにしがみ付いていなかったら、目にも入らない。


 俺はこの平行棒を作った人も、縁側えんがわからのスロープ状の階段を作った宮大工みやだいくさんじゃないだろうか? と思い始めていた。


 使い手の事をここまで考えて、物を作れるものだろうか?

 大量消費の規格品きかくひんしか使ったことが無かったことに、なんて貧しい豊かさだったのかと言うことに改めて気付かされた。


 俺は再び平行棒を両手に握って、改めて右足から地を踏み始めた。

 何度も棒につかまり、立ち上がり、また倒れて、また立ち上がった。


 いつの間にか空は、真っ赤な夕焼ゆうやけ空にまっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ