幕間 人生のエピローグ
それは前世の終わりにも、転生後にも記憶にない時間。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
…トンネルを抜けるとそこは…雪国…ではなく、河原だった…
本当にこのような空間を目にすると、思考停止状態になって、無意識の内に対岸へと歩みを進めてしまいそうになる。
俺は踏み出しかけた足元を見て、革靴どころか自分の足すら視界には映らないことに驚いた。
背後を振り返ろうかと思うが、選択肢に限りがあるように、振り返ることは出来なかった。
川の対岸は暖かな優しい風景が、遠目にも何故か分かる。
(きっと10人いたら10人が、まっすぐ歩みを進めるんだろうな…)
そんな説得力のある光景が、眼前に広がっていた。
しかし、つい先程までの炎天下を思い出すと、直ぐにあの暖かさに向かいたいという衝動も少しだけ薄れる。
選択肢は少ないようで、先程まで足元を見つめていたことを思い出した。
再度足元を見ると、割りと小さな石ころが河原一面に転がっていた。
それらの石の縁は、悠久の時を掛けて丸身を帯びている。
(…ということは、きっと河川の下流なんだろうな)
眼前の川の流れは緩やかで、いざとなれば泳ぎ切れそうな気もする。
(いや、この見た目に騙されてはいけない!自然は常に想像以上に危険を孕んでいるのだ)
川下はより川幅も広がり、水深も深くなっているに違いない。
俺は川上を見据えてみるが、ぼんやりとした薄暗がりが広がっている。
(ある程度進むことが出来れば、より渡りやすいポイントが見つかるかも知れない)
意を決して、川上に進むことにした。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
どれほど進んだのだろうか?
自分でもビックリするほど、時間感覚が欠落していることに気が付いた。
先程、歩き出した気もするし、一昼夜歩き続けていた気にもなる。
(そうだ!さっきと同じ要領で…)
改めて、足元に目をやるといつの間にか、河原に広がっている石は小さな丸石ではなくなっており、ゴツゴツとした岩が混じるようになっていることに気が付いた。
(結構、時間が経過してるはずなんだから、そろそろ良さげな場所に辿り着かないかな?)
暫く、足元と対岸とを交互に見遣りながら進んで行くと、ようやく対岸に渡りやすそうな、足場が確認できるポイントまで辿り着いた。
(足場と言っても、足があるかも不明なんだが…)
まぁ、どこかで決断して対岸に渡らなければならないのだろう。
幸い対岸はより間近に視認できるし、暖かで優しい印象に変化はないようだ。
意を決して、ここで対岸に渡ることに決めた。
足元に注意を払う無意味さを自覚しつつ、慎重に対岸に向かって進んでいく。
ただ、ただ、足元と目の前の対岸を見据えて。
やがて、死の直前に浴びた光とは全く違う…。
(それでも、やっぱり光としか表現しようがないんだよなぁ)
俺は再び、光に包まれる感覚を味わった。
そして、俺は転生したのだった。