表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ヲシリが征く【少年期編】  作者: そうじ職人
第一章 山門國の陰謀

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/21

第十四話 第一の策と第二の策

 翌日は予定どおりの刻限に、使者は巫女達一行を引き連れて現れた。


 国都の屋敷内にある“謁見の間”で、デヲシヒコに対して宗女サグメとろう宗女イヅノメが拝謁はいえつすることとなった。

 この“謁見の間”は、以前に俺が初めて意識を取り戻した折の、因縁いんねんの建物であった。


 俺は事前に聞かされていた、上座かみざから一段下がった直ぐ脇に控えて座った。

 介添かいぞえに妹のマリアと初老の侍従長カラスが付き従っている。


 下座しもざには山門やまと國の宗女サグメとウシ國のろう宗女イヅノメの二名だけが居住いずまいを正してしている。

 残りの侍女の巫女達は、屋敷の外に控えさせた。


 暫らくすると、銅鑼どらのような音色が響いたかと思うと、奥の扉からデヲシヒコが重々しい威厳を伴なって現れた。


(『銅鐸どうたく』って、こんな使い方もするんだな)


 俺は興味津々《きょうみしんしん》で大振りの銅鐸どうたくに目をそそいでいた。

 デヲシヒコは音色に合わせて、以前に俺が寝かされていた上座かみざまで進むと、静かに腰を下ろした。


「これより謁見えっけんを執り行う。山門やまと国の宗女サグメ並びに当地の宗女イヅノメよ。召集のよし大儀たいぎである」


 声を掛けられた下座しもざの二人の宗女は、かしこまった様子で深々と頭を下げた。


「しかし二人の宗女には、当ウシ國に対する逆賊ぎゃくぞくたる罪の嫌疑けんぎが掛けられておる。申し開くこと在らば遠慮なく申してみよ」

 デヲシヒコは威圧するかのように、やや前傾ぜんけい姿勢で重々しく問いただした。


 先ず、口火くちびを切ったのは、やはり山門やまと國の宗女サグメであった。

「ウシ國のきみよ。わらわ山門やまと國の宗女と知っての扱いであろうな」


 キッときつい目付きでにらむように、言いはなってきた。


 隣に控えていたろう宗女イヅノメも、語気ごきを荒くして続けて言う。

「此度のように火雷神ほのいかづちのかみなどが、神聖なやしろ近くに現れるは、この国の治世ちせいゆがみが生み出した所業しょぎょうまことなる“日の神”に仕える者として、看過かんかすることかないませんぞ」


 デヲシヒコは鷹揚おうように、そんな言葉を軽くあしらう様に言った。

「それではお待たせした。さぁ入られよ」


 正面の大扉とは別の、脇に備えられた小振りの扉から、新たに神御衣かむみその若々しい女性が入室してきた。


 入室してきた巫女を凝視した、山門やまと國の宗女サグメは思わず声を上げた。

「お前のようなわらわ侍女じじょ巫女風情(ふぜい)が、何故なにゆえこの場におるのじゃ!」


 シュルシュルと絹擦きぬずれの音を立てながら、俺たちが控える反対の席に腰を下ろすと、デヲシヒコに深々と頭を垂れて奏上そうじょうした。


「ウシ國のきみよ。初めてお目通り致します。山依やまゐ國の巫女の宗守そうもりを務めまする『ウズメ』と申します。以後、お見知り置き下さいませ」


 そして、下座しもざの二人の巫女に向かって、軽く一瞥いちべつして言った。

「そなたらは何時いつから、宗女そうじょを名乗れるようになったのかの?」


 先程まで鼻息はないき荒く息巻いきまいてた二人であったが、宗守そうもりのウズメが現れてからは、急に押し黙ってしまった。


 これが第一の策であった。


(悪事の現場に上司を同席させるのは鉄板てっぱんだな。それに宗女が何人も市井しせいに居る訳がないもんな)


山依やまゐ國の宗守そうもりウズメよ。は巫女の序列じょれつとやらは良く分からん。改めて説明してもらえまいか?」

 デヲシヒコは重々しい言葉で、脇に控える宗守そうもりのウズメに声を掛けた。


ああぁ。それでは畏み申し上げます。先ずは我ら巫女がお仕えするのはまことなる“日の神”にてございます。そしてまことなる“日の神”のお言葉をうけたまわることが出来るのは、巫女の頂点におわします『日巫女ひみこ』様のみでございます。そして『宗女そうじょ』様を名乗れるのは、後継者として拝命はいめいを受けたお一人だけでございます。高位の巫女は、宗守そうもりと称して“日巫女”様や“宗女”様に、おささえ致すのでございます」


 山依やまゐ國の宗守そうもりウズメは“日の神”のやしろについて、静かに奏上そうじょうした。


「各地のやしろには日巫女ひみこ様から命じられて、やしろをお守りするための巫女が選ばれるのでございますが、やしろあるじはあくまでまことなる“日の神”でございます」


 下座の二人を一瞬厳しく見遣りながら言葉を続けた。


「もちろんやしろを管理するのには、巫女を束ねる者が必要ですので、特に社主やしろぬしを名乗らせておりますが、巫女の序列には関係のない役職でございます。なにしろ“日の神”をたてまつやしろは、各国に多数ございますれば」


 ウシ國の宗女、否……いまや一介の社主やしろぬしに過ぎないイヅノメは、非難するとも弁明するとも取れる言い方で反論してきた。


「確かに巫女としては、社主やしろぬしでございます。しかしは見たのです! その脇に控える若王わかぎみ様に黄泉よみの悪神、火雷神ほのいかづちのかみが取りさまを!」


「このように申してるぞ、若王わかぎみヲシリよ」

 デヲシヒコは予定調和のごとく、俺に声を掛けてきた。


「はい。それではその悪神あくしんとやらを、ここに再現して見せましょう」


 隣のマリアに目配めくばせで合図をすると、奥から一枚の板を乗せた火鉢ひばちのような青銅器を運んで来て、皆に見えるように中心に据えた。


の男子は皆、慣習に従って刺青いれずみを入れます。身分の高いものはきそう様に、全身に極彩色ごくさいしき刺青いれずみを入れます」

 見事な刺青いれずみを全身にほどこした、父王ちちぎみを見遣りながら話を続ける。


「この板にはに施されていた、刺青いれずみ顔料がんりょうを並べて塗り込んでおります。それでは火鉢ひばちに火を入れてみましょう」

 言葉に合わせて、マリアが火鉢ひばちに火をべる。


 俺は侍従長に合図を送ると、それを受けて別の方向に指示を出した。

 頭上に見える天井の一画いっかくが、小さく開かれて行く。

 そしてその一画からはチラチラと小振りの光と黒点が差し込んでいた。


 すると火鉢からは高さ2メートルくらいまで炎が立ち昇り、その揺らめきの中に色とりどりの光が現れたかと思うと、まるで“雷神らいじんの顔”のように形を変えていくように見えた。


 それを見た下座しもざの二人は、座りながら腰を抜かしたようにひるんでいた。


(そうか……少なくとも悪神あくしんを見たと主張していた、ウシ國の社主やしろぬしイヅノメの罪は、多少減刑の余地よちが有るのかも知れないな)


 俺が見せた現象は、化学物質の種類によって、炎の燃焼色ねんしょうしょくが異なる現象である。

“あの日の出来事”の光景を実際の状況に基づき、忠実に再現してみた。


 それだけでは説得力に乏しい可能性を考慮して、屋根の一画から三つの黒点こくてんを塗った銅鏡を使って、三つの黒点を立ち上がる炎に向けて照らした。

 人間は先入観から三つの点や丸を見るだけで人の顔に見えてしまう、いわゆるシミュラクラ現象を組み合わせてみた。

 山林での落雷では、様々な木々の風景がその炎に映し出すに違いない。


 更には屋根の一画は、事前に十分に冷やしておいて、炎が上昇気流で高く立ち上るように細工した。

 当日に豪雨と落雷が起きたのなら、恐らくは気圧差で上昇気流が発生していただろう。


(特に先入観や信仰心が強ければ、雷神らいじんを見たと信じたい願望も強く作用するんだろうな)


「さて、皆さんにはこの火鉢ひばちの上に乗せた板に、悪神らいじんが取りいたと思いますか?」

 その言葉を合図に、マリアは火鉢ひばちの火を落としてくれた。


 こうして第二の策も見事に決まったのであった。


(これで俺の身の潔白は、証明できただろう)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ