逃亡
ここはどこだろう。宛もなく逃げていたら、気がついたらここにいた。こんな惨めな私を見てくれる人はどこにいるのだろう。そんな事を考えながら私は私はまた逃げる。
私、神薙栞は美術一家の末っ子として生まれた。他には5つ上の兄と4つ上の姉がいる。両親は才能のある二人を溺愛している。さらに私の高校で首席を取っていた二人の影響でクラスの人や先生に過度に期待されている。私はこの期待が大嫌いだ。この期待に私は毎日押し潰されている。こんな状況から抜け出したい私は密かに作戦を立てている。その作戦というのは、1週間後にある校外学習で逃げ出すというものだ。家や学校に居場所のない私は早く独りになりたい。
ついに校外学習の日がやってきた。校外学習は自然豊かな森の中なので逃げ出すにはもってこい場所だった。午前はクラスで森の中を探索し、お昼は自分で作ったお弁当を淡々と一人で食べた。そして午後からは森を描写するという課題があり個人行動になるので、逃げ出すことができる。やっと午後になり人が来ないような場所に行こうと足早にこの場を去った。歩き続けていると森の奥地だというに人影があった。気に隠れながら恐る恐る近づいてみると、そこにはクラスメイトの三本空がいた。彼は木の間からを空を見ていた。
「ねぇ、何してるの?」
と声をかけた。
「特に何も」
彼がそっけない態度だったので私は気にせず彼が見えないところまで行こうとした
「君はどうしてここにいるの?」
「私は逃げてきたの」
「どういうこと?」
その問いに答えることなく私は彼の視界からも逃げた。
彼から逃げるのに夢中で相当遠いところに来てしまって迷子になってしまった。だが不安感はなく逆に開放的だった。
「君は何してるの?」
突然の声に若干びっくりした。振り返るとさっき会った彼がいた。
「え…なに‥」
そんな声が出ていた。彼を見るとまた空を見ていた。彼に気づかれないように逃げよとした。
「ちょっとまってよ」
「何、なにか用」
「君はなんでこんな森の奥にいるの?」
「私には居場所がないの。家や学校はいるだけで辛いの。だから誰も知らない場所で居なくなりたいの」
彼はしばらく沈黙していた。そして
「僕は君のことが好きなんだ」
その突拍子もない言葉に唖然としていた。
「どうして…なんで」
生まれて初めての気持ちに困惑していた。
「僕は神薙さんのことを知っているんだ。実は高校入学当時に環境の変化が影響でスランプに陥っていたんだ」
彼は少し間を取って話し続けた。
「その時に君の何気ない一言に救われたんだ」
彼の言葉から思い出してみるとたしかにそんな事を言った記憶があった。まだあのときは高校生活に希望を見出していた。そこから期待が重荷になっていった。だから今までその出来事を忘れていた。
「あなたは私の居場所になってくれるの?」
彼の話を聞いてこんな言葉を口走っていた。
「うん…なるよ。君…神薙さんの居場所になるから、一緒に生きてほしい」
私はびっくりした。それと同時に即答してくれてちょっと嬉しかった。生きてきてこんなに心弾むことがなかった。
「じゃあ、私の居場所になってください。三木くん」
そして二人で少しほほえみ、課題をすることにした。その時見た空は彼の心のように澄んでいた。私のこれまでの人生は色褪せたものだった。だけどこれからは彼が私を鮮やかにしてくれる。