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高校生活は異世界人に囲まれて  作者: 出水 彰
第3章 真景落語舞台
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【3章 3話】 高座に上がらされた

 榊さんに送られて、学校に戻るとフューレがそこにはいた。


 どうやら俺が戻ってくるのではないかと待ってくれていたらしい。


 だけど俺はこれから取り調べがある。フューレには1人で帰って貰い、俺はパトカーで警察署まで連れて行かれた。


 榊さんの取り調べは30分ほどで終わり、世間話をするように近況を話し合った。


 榊さんの組織は実在が確認されてしまった幽霊や妖怪、都市伝説の調査で忙しいそうだ。それらの存在を未だに一般公表していないのが、更に難しいものにしている。

 自分達が都市伝説のメンインブラックになった気分だと自嘲気味に話してくれた。


 その中で俺は大食い大会のセコンドをしていたと話したら苦笑いを返された。

 榊さんは異世界関係の有益な情報を欲していたようだったけど、俺のはぐらかしに根負けしたようで、諦めて解放してくれた。


 これは意地悪をしたわけではない。濃くなった隈や表情を見ると、これ以上に負担を掛けたら倒れるのではないかと思ったからだ。


 そんなこんながあり、俺と米俵は共に家に帰った。

 

 リビングのテレビを見ながら、今日の出来事を思い返してみる。品川に福引券を押し付けられて、まさかの米俵が当選する。

 そして米俵を運搬中、人間の頭蓋骨と遭遇して榊さんと再会する。


 大変な1日だった。そのせいで今頃になって夕食を取っていないことに気が付いた。時間は夜の9時である。


 今から外に食べに行くのは面倒だ。どうしたものか、グダグダと考えているとインターホンの音が鳴り響いた。


 こんな時間に誰だ?


 この家はカメラ付きのインターホンが取り付けられている。だからどのような人がインターホンを鳴らしたかのか、玄関を出ずともわかる。


 首だけを動かして、インターホンが撮った玄関先の映像を見ると、そこには髪が長いかなり美人の女性が映っていた。


 見覚えの無い女性だ。こんな夜遅くにどうしたんだ?


 立ち上がって映像をよく見ると、その女性の服装は着物だ。普段着として変ではないけど、この町で着物の姿の通行人を見た記憶は殆ど無い。


 居留守を使うという選択肢もあるけど、異世界関係者なら後が面倒になるかもしれない。


 そもそも知らない異世界関係者が訪ねてきた事自体が、面倒なんだけど来てしまったものは仕方がない。


 インターホンの通話ボタンを押して「どうしましたか?」と聞くと、女性は顔を上げてか細い声を出す。


『夜分遅くに申し訳ありません。私は『むこうじま』から来たものですが、先程のお礼で足を運ばせていただきました』


 言っている意味がわからない。お礼も何も会ったことが無い。


「人違いじゃないですか?」


『その筈はありません。あなたは相山さんですよね』


「はい。そうですが」


『それでしたら間違いなく、礼を返すべき人です』


 どうしたものか。


 嫌な予感がするんだけど、このままインターホン越しに会話するのも悪いような気がするし……。


 仕方がないか。


「ちょっと待ってください。そちらに行きます」


『はい。お待ちしております』


 通話ボタンをオフにして玄関に行き、ドアを開けると香り袋特有の抑え目で上品な香りがした。女性は俺を見るなり深々と頭を下げる。


「先程はありがとうござました」


 その礼の意味が分からないんだけど。


 どうしたものかと廊下に1歩出て右側を見ると、隣の家に住む学生と目が合った。丁度帰宅したようだ。


 その学生は頭を下げる女性を凝視しながら、ゆっくりと鍵を開けて中に入った。ずっと目線を女性から離さなかったその学生は、最後に恨めしそうに俺を見て鍵を閉めた。

 お願いだから変な誤解をしないでくれよ。


 和服の女性は顔を上げた。


「何かお礼をさせてください」


「その前に状況を把握していません。何かしましたか?」


「そうですよね。この姿では分かりませんよね。

 今日の夕方ごろです。私は薄暗い湖の中、ずっと孤独でいました。しかし幸運にも私は再び太陽の光を直接浴びることが出来ました。


 そんな私の骸にお茶を供えてくれて、更に供養の言葉までも手向けていただきました。その感謝をさせていただきたい」


 骸って言ったか? 骸って言ったよな!


「もしかして、ため池の骸骨の方ですか?」


「はい。その通りでございます」


 なるほど。やってしまった。完全に異世界案件だ。


「言葉だけで十分です」


「そうはいきません。私のこの気持ちを抑えられないのです。ですから何かをさせてください。礼をさせてください」


 早く帰ってほしい。


 だけど、このままでは押し問答になると目に見えている。それならば俺が折れるしかない。

 一般人の誰かに聞かれているかもしれない。


「分かりました。それでは中で話しましょう」


「ありがとうございます。それではお邪魔します」


 リビングまでの廊下を歩いていると既視感が湧いてくる。その正体を考える間もなく、女性はリビングに到着するなり、早速俺の両肩に手を置いた。

 その柔らかく温かい手は、とても蠱惑的で心を持っていかれそうになる。


「肩は凝っていませんか? 足は凝っていませんか? マッサージをしましょう。たとえどのようなマッサージでも」


 耳元で囁かれる声は誘惑されているように感じる。もし昔の俺ならば誘惑に勝てなかったかもしれないけど、今の俺には経験がある。


 この女性に触れられて囁かれて感じるこの気持ちは、生への渇望がもたらす執着である。過去に死者と戦った時、今と似た感情であったと感じる。


「大丈夫です。まだ若いですから、マッサージをされると逆に凝ってしまいます」


「残念です。得意なのですが。それなら料理をしましょう。夕食は取られましたか?」


「まだですけど」


「では少しお待ちください」


「冷蔵庫はありますけど、食材は入っていませんよ」


 大型の冷蔵庫はあるけど、これは備え付けられていた物だ。本来は家族の胃袋を満たすのに十分な量が入る冷蔵庫だが、あまり料理を作らない俺が主となってしまってから、その力を発揮できないでいる。

 

 そんな寂しく佇む冷蔵庫に憐みの目を向けてしまう。


「問題はありません。何故ならここにこんなにもあるのですから」


 再び女性の方を見ると、リビング中央のちゃぶ台の方へ指をさしている。ちゃぶ台の上には肉に野菜に海鮮と、山盛りの食材の数々が出現していた。


「では料理を作らせていただきますね。座って待っていてください」


 女性は食材を抱えるとキッチンの方へ向かっていった。


 料理を作るのは構わないけど、食べて大丈夫なのだろうか。


 あの世の物を食べると戻ってこられなくなる聞く。先程の食材が仮にあの世から取り寄せた物なのだとしたら、食べたらまずいのではないか。

 そもそもあの女性が何者かもわからないのに、料理に手を付けても良いものなのか。


 悩むよりも行動が先だ。あの世の専門家に聞けばいい。

 

 少し前から何度も榊さんからの着信があるけれど、それを無視して阿字ヶ峰に電話を掛ける。


『委員長か。どうしたんじゃ?』


「数時間前に池の底から釣り上げた頭蓋骨が人間になって俺の家に来て、料理を作っているんだけど食べても良い物なのだろうか。料理の食材はその頭蓋骨が用意した物なんだ」


『何じゃ突然。委員長は休む暇が無いのう。楽しそうじゃな』


「まったく楽しくないんだけど」


『ふひひ、幽霊が恩返しをする話など腐るほどある。

 幽霊には良い者も悪い者もあるんじゃが、こうして電話越しに感じる委員長からは悪い者が憑いているのは感じん。その幽霊は善意を持っているのは確かじゃな』


 阿字ヶ峰は電話越しに霊視占い的なことが出来るのか。


『ところでその幽霊はどこの奴じゃ』


「えっと学校近くの商店街から、多田篠公園に行く道の途中にあるため池の中にいたんだ。と言っても出身はむこうじまらしいけどな」


『むこうじまは東京じゃな。遠路はるばる大変じゃな。旅行で来ていたのかのう』


「どうだろうな。むこうじまって東京なのか。死んでからずっと、あのため池にいたのだろうか。それなら寂しかっただろうな。無下に扱うのは悪い気がするな」


『委員長が気に病むことじゃない。

 幽霊はその在り方にもよるが、生きていた頃と時間の流れが違うのじゃ。案外其奴は楽しんでいたかもしれんぞ。


 野晒ならば発見が早かったのじゃろうが、風化も速い。遺体が風化してしまえば、幽霊としての質は落ちるから、こうして話をすることも難しかったはずじゃ』


「そうか野晒だったら……、野晒?」


 野晒という言葉を口にした瞬間、頭の中で絡まっていった糸が瞬時にほどけ、視界にかかっていた霧と、1日の疲れが吹き飛んだ。


 何故目の前の女性を見て既視感を覚えたのか。その理由が分かった。


「すまない阿字ヶ峰」


『どうしたんじゃ?』


「俺に料理を作ってくれている女性は幽霊じゃない」


『そうか。では後のことは委員長に任せれば大丈夫そうじゃな? じゃけど、一応聞いておいてもいいか? その女性の正体を』


「ああ、目の前の女性は『野晒』だったんだ」


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