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高校生活は異世界人に囲まれて  作者: 出水 彰
第2章 スターテトラコルド
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【2章 11話】 準備

 山の中腹、その森と草原の境目。

 遮蔽物の無いそこから見下ろす町の輝きは、ずっと眺めていたいほどに美しい。


 町の向こう側には海が見える。その海とこの山の中間あたりには高層ビルが何棟も建っている。そこから右に視線を送るとぽっかりと穴が開いたように暗くなっているのが多田篠公園である。

 そして町を横断するように北から南へ鉄道が走っている。


 こうしてこの町を上から見るのは初めてだ。海も山も近い、大きな公園もあるし町もそれなりに発展している。住むには十分すぎる町だ。


 背後見ると、ジアッゾがリアナのロボットのパーツに、自身の体から伸ばした線を繋げてプログラムの書き換えを行っている。

 この作業には時間が掛るらしいので、俺は見張りも兼ねて町を見ている。

 

 隣に座るフューレは暗視ゴーグルで山のふもとを見ている。


「ジアッゾとリアナの仲の悪さは戦争由来みたいだけど、そんなに強烈だったのか?60年も前だろ」


「僕は記録でしか知らないから、正しく両国の思いはわからない。だけど事実で考えるのなら、あった、と言えるね」


「何があったんだ?」


「戦争の末期、両国の関係を分かつ決定的な2つの出来事が起きているんだ。

 1つ目は、ジアッゾ君の国であるバリサスが、リアナさんの国であるテェンツァルス王国の首都に攻め込み、人にも文化にも甚大な被害を与えた。


 2つ目はテェンツァルス王国がバリサスにある最大の記録保存施設を爆破した。バリサスの人たちは記憶も人格もデータとして保存しているだろ。

 だからその時に莫大な人格や記憶が失われたらしい。


 そしてお互いにいがみ合ったのだけど、黒幕の登場で矛を収めなくちゃならなくなった。納得のいく結末を迎えずに戦争が終結したから、未だに関係は良くないらしい。

 両国の当事者はまだ存命だしね」


 60年続く恨み。それはとんでもなく根が深い問題で、簡単に解消できるものでは無い。もしこれが片方の恨みなのだとしたら、解決する術はあるかもしれないけど、両方になると歩み寄りは難しい。


 草を踏む音が近づいてくるのでそちらを見ると、リアナがこちらに歩いて来た。そして俺の横に座った。


「その両者の恨みを逆に利用して、こちらの正しさを証明する。

 わたくしが、そしてジアッゾが思いついたとしても、実行はしなかったと思いますわ。外部の委員長だからこその作戦ですわね」


「そのせいでフューレの存在が公になる可能性がある。それには謝るよ」


「僕は構わないよ。隠れていた訳ではないしね」


「そう言ってもらえると気が楽だ。俺たちは敵に勝つだけではだめだ。

 正義が俺達にあると知らしめる必要がある。だから恨みを持つテェンツァルス王国の代表であるリアナと、バリサスの代表であるジアッゾ、そして戦争終結の英雄であるフューレが共闘している映像を取る。


 恨みも全て超えて肩を並べている姿は、より良い未来を思わせるには十分だ。これを生中継出来たら良かったのだけどな」


「申し訳ありません。わたくしの国の最新鋭の通信技術をもちいても、最速で数十日を要しますわ」


 フューレは何かを思い出したようで手を叩くと、空中からノートパソコンのような装置を取り出した。


 ノートパソコンのように入力キーと映像が映し出される画面がある。リアナはその画面を覗き込んで眉をひそめている。フューレは何やら入力を始めた。だが数秒後にため息交じりに言う。


「ごめん。僕も無理だった。これは博士が僕と通信するために作った装置なのだけど、第3太陽系内であるなら、ほぼリアルタイム通信ができる。でも、さすがに地球は遠すぎるね」


「凄い装置ですわね。わたくしの国の通信技術の数倍は速度が出ておりますわ」


 どうやらリアナがいう最新鋭の技術を超えているらしい。俺が話しに付いて行けずにいると、今度はキャレットが俺たちに近づいてくる。


「くっくっく。刹那の隔てぬ相対を望むか! 叶えよう!」


「出来るのか」


「うむ。重力波によりこの世界は蛇腹状になっている。

我が暗黒の力で重力波を折り畳み、信号を直進させることで通信距離を飛躍的に縮める」


言っている意味はわからないけど、俺たちを瞬間移動させた力の応用なのだろう。


「キャレットの力はそんなに遠くまで届くのか?」


「データは人に比べて容量は微小。送ることは容易いが、力を使っている時に我は動けない」


「取りあえず試してみるか。ミリアナさん、撮影をお願いできますか」


 ジアッゾの作業を見ていたミリアナさんは一礼すると俺たちの下へ来た。


「構いませんよ。撮影機器はいかがいたしましょう」


「フューレ、これを使えるか」


 フューレに携帯電話を渡す。


「少し待ってね。試してみるよ」


 フューレは携帯電話と、ノートパソコンのような通信装置を同時に操作する。


「繋がったよ。地球の機器は単純だから簡単だった。後は出力先だけど、どこがいい?」


「そうだな。相手がリアナの弟なのだから、リアナの家族に飛ばせないか」


 リアナは一度頷いてから、「おじいさまなら……、少しお借りしますわね。ここにコードを打ちこむのよね」と言って、フューレの頷きを確認した後、通信装置の前に座りキーボードを操作する。


 最後のボタンを押すと、画面に四角い枠が現れる。

 初めは砂嵐のような映像が映し出されていたが、キャレットが装置に触れて目を閉じると、薄っすらと人型が見えた。

 

 少しずつ映像が鮮明になっていき、そこに現れたのは白髪の老人であった。目元がリアナとそっくりである。


『リアナか。何があった? こちらに返って来たのか』


 低く威圧感のある声だ。聞いているだけど畏まってしまう。


「突然の連絡、申し訳ありません。おじいさま、わたくしは地球にいます。特殊な方法では通信を取らせていただきました」


『ほう。地球の文明はそれほど進んでいるのか』


「そうではありませんが、様々な力を持つ方が集まっております。例えば、この方も」


 リアナがフューレの方に手を差し出すと、ミリアナさんは携帯電話をフューレに向けた。その瞬間、リアナの祖父は目を見開いて前のめりになった。


『あなたは……、もしかして』


 フューレは小さく手を上げた。


「やあ。君にとっては久しぶりかな。僕にとっては数カ月前の出来事だけど。立派に成長したようで、僕は嬉しいよ」


『リアナ! この方はもしかして』


「はい。英雄アエラ・フューレ・ファタル様本人です」


「彼女の生体証明書と血液検査をさせていただきましたが、99%の精度で本人です。

もし疑うのでしたら、資料をお送りします。申し訳ありません。挨拶が遅れました。お初にお目にかかります。バリサス出身のジアッゾと申します」


 プログラムの書き換えを終わらせたジアッゾが付け加えた。


『いや資料は結構だ。そうか、フューレ様……』


 リアナの祖父の頬に涙が伝う。


『私はあなたを人として愛し、尊敬していた。だから共に戦って、あなたと共に、死にたかった。それでも生きて、あなたにこうして再会できた。生きてきた、意味があった』


 60年間の思いを吐き出すように、喉を詰まらせながら途切れ途切れに言葉が紡がれる。俺には到底わからない苦悩があったのだろう。


 リアナの祖父はフューレが処刑された後のレジスタンスをまとめた人だ。きっとフューレに最も近い位置で、レジスタンスとして戦っていたのだ。


「君が死ななかったから、僕はこうしてリアナさんともジアッゾ君ともクラスメイトになれた。

 僕では到底救えなかった数多の命を、君が救ったんだ。立派になったね、ハーソン」


『はい。ありがとうございます』


「なんて、元王様に言うのはおこがましいね。思い出話をしたいところだけど、今はまずい状況なんだ。僕たちのリーダーである委員長の話を聞いてくれないかい?」


 ミリアナは俺に携帯電話を向ける。


 たぶん言葉が通じないと思うのだけど。

 フューレの目を見ると、「大丈夫だよ。翻訳機能付きだから」と返された。本当に便利な道具である。もし言葉が異なる他の世界に行くことがあれば、フューレに協力してもらおう。


 それにしても、まさか元国王様と話すことになるとは。高校に入った頃は思いもしなかった。


「初めまして。クラス委員長をさせていただいています、相山隆利と申します」

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