【2章 9話】 戦闘
暗闇の倉庫内にポツンと立つ投光器は、どこからどう見ても怪しい。ここまで来いと言っているようなものだ。
だがこちらには心強いクラスメイトがいる。
ジアッゾは外から倉庫内を覗き込むと、小声で言う。
「10人。あの光の奥に4人と、左右に3人ずつといったところだ。どうする?
ここから全員を気絶させることも出来るが、アクシデントが起こる可能性は否定できない」
解決だけを目指すなら、数分で終わるだろう。敵の居場所がわかっているから、一斉攻撃をすればいい。
だけど大切なのはそこでは無い。野蛮な決着方法では、解決しないこともある。
まさに目の前の件がそれなのだ。
この戦いはリアナの家族による、王位を掛けた喧嘩であるかもしれない。そこが問題だ。
王は国民にとっての正義でなければならない。そうでなければ国民は納得しない。国民に王としての正しさを示さなければならない。
もし、ここでリアナが弟を殺した場合、国民が納得するのだろうか。
そもそもリアナが納得するのだろうか。
「相手が弟であるのなら対話を試みる。まずはこれでいいだろ。リアナ」
「はい。わたくしの気持ちを汲んでいただき感謝します。
でもそれだけで終わらせるつもりもありませんわ。音声はしっかりと取らせていただきますわ。だから不利になる発言は控えて下さいませ。ではわたくしが先陣を切ります。皆様よろしくて?」
「あ、ちょっと待ってくれるかな」
止めたのはフューレだ。フューレは空中から新たな装置を取り出した。それは携帯電話程の大きさで花柄模様の四角い箱と、ワイヤレスイヤホンジャックが両耳分だ。
「これは【ミートパイ】という道具だよ。委員長は第3太陽系の言語を1つだってわからないだろ。何を言っているのかわからなかったら困るのではないかい?
この装置はなんと、宇宙600言語がほぼ時間差無しで翻訳してくれる優れモノだよ。しかも、音声変換をしてくれるんだ」
とんでもなく便利である。
フューレは非戦闘員だけど、数ある便利な秘密道具を持っている。いてくれると大変に助かる。
俺はフューレからその装置を受け取ると、イヤホンジャックを耳に入れた。するとリアナが俺の顔を覗き込んで来る。
「どうかしら? わたくしが何を言っているのかわかる? 君には僕がついている。さあ、何て言ったでしょうか」
「わかるぞ。君には僕がついている、だろ」
「フフフ。機能しているみたいですわね。これで安心ですわ。さあ、今度こそ行きますわよ」
リアナはそう言うと、ロボットを出すのと同じ方法で槍を取り出して右手に握ると、倉庫の中に足を踏み入れた。
攻撃は無い。更にもう1歩前に進み、体が完全に倉庫内に入った。
リアナは大きく息を吸うと、倉庫の奥にいる誰かに話しかけながら歩き出したので、俺たちも後に続いた。
「わたくしを狙った者たちが、この倉庫にいることは知っております。
10人といったところでしょうか。自分達の正しさを信じるなら、顔を見せてその証明を行いなさい」
リアナの啖呵は倉庫の壁に反響した。それが可能ということは、倉庫内には置かれた物が少ないのだろう。
しばらくの沈黙の後、倉庫の奥から男の低い笑い声が聞こえて来た。
「ハッハハ。姉上は威勢がいいなあ。不愉快だ。不愉快だぞ! リアナ」
投光器の前にシルエットが浮かび上がった。そのシルエットが腕を上げると、倉庫内の電灯が一斉に点灯した。
突然の強烈な光に目の前が真っ白になる。徐々にその光に慣れてきて、倉庫内の状況が見て取れた。
倉庫内にはやはり物があまり置かれていない。所々にコンテナが積まれているのみだ。そして人の数はジアッゾが言っていた通りである。
前方に4人と、左右の2階通路部分に3人ずつが俺たちを見下ろしている。10人全員が流線型の武器を俺たちに向けている。
「ダリア……。現実とは辛いものですね。あなたの目的は?」
「利口な姉上なら俺が言わずとも理解していると思うが」
「王位でしょ」
「わかっているのなら聞くんじゃないよ。時間を無駄にして。さっさと俺に殺されればいいのだ。姉上が死ねば俺が王になれる」
「姉殺しは概念としての王から遠のきますわよ」
「それは持つ者の言葉なんだよ。持たない者の気持ちなど、常に利口な姉上にはわかるまい」
「あなたは人の輝かしい面しか見れていないのよ。そもそもメリアお姉さまは生きているでしょうに」
「俺は未来の話をしているのだ。今の話をしているのではないのだよ」
「あなたって人は!」
リアナの拳は震えている。先程までの不安によるものではなく、怒りによるものだ。聞いているだけの俺も、このダリアという男を殴りたくなってくる。だが今は我慢だ。
「答えなさい。わたくしを殺して王になり、あなたは何を成したいのです」
「富国強兵こそが国を守る心理なのだ。武力を持つ敵には更に強い武器で威嚇する。だから俺は世界一の軍事国家に育て上げる。
俺は国を宇宙一の国家にする」
「過去の戦争を知っているでしょうに。泥沼化の原因を学ばなかったのですか」
「それは中途半端だったからだ。俺は過去を反省して更に強い軍事力を手に入れる。軍部を優遇していた姉上ならそれがわかるだろ」
「軍部だけに口利きをしたわけではありません。1か0では無いのです」
「意見が合わないのなら戦うしかないなあ」
「仕方が無い。あなたを止めます。止めて見せる」
「攻撃しろ! 奴らは敵だ」
ダリアの号令に呼応して、左右の6人が一斉に引き金を引き、光線が放たれたその時、見えている世界が平面に変わったかと思うと、背中を押された。
すると視界が突然異常なほど前方に移動した。
背後では光線が地面を焼く音が聞こえる。
「我が暗黒の力で重力波を縮めて跳躍した。これぞ我が能力の一端だ。フハハハ」
どうやらキャレットのおかげで敵の攻撃を回避できたようだ。原理はわからないけど助かった。
すぐさまジアッゾが2階にいる1人に向けて手から光線を放ち、後ろに吹っ飛ばした。血は見えないので、たぶん気絶している。そういうことにしておく。
これで残りは9人だ。
ダリアたちは突然の出来事に戸惑いを見せている。
「は、はやく次だ」
ダリア達よりも早く動いたジアッゾは、更に違う相手に光線を撃つが、見えない何かに弾かれる。良く見ると四角い物体を前に突き出している。
ジアッゾが再度光線を打つがやはり弾かれる。
敵からの光線はキャレットの跳躍のおかげで躱しているが、車酔いに似た気分の悪さがこみあげて来る。
「あれは光線曲障壁ですわ。バリアみたいなもの。あの四角の装置を差し出した方向からの光線を歪曲させます。弱点は背後からの攻撃には無力で、使用者は動けない」
リアナの言葉にジアッゾは唇を噛む。
「このままでは決定打にかける。だから俺の本来の力を出させてもらう。いいだろ」
「仕方が無いですわね」
「2階は任せろ」
リアナの許可が下りるとすぐに、ジアッゾは体を変化させて全身がメタリックなスーツの姿になり、飛び上がった。
「だったら私は前に行きますわ。キャレットさんお願い」
リアナの背中をキャレットが押すと、リアナは瞬時に10メートルほど先に移動して、その勢いのままダリアに向かって駆けだした。
2階のダリアの仲間の5人は、空中を飛び回るジアッゾに手一杯だ。地上のリアナへは、ダリアとその背後の3人が銃を向ける。
そしてその4人が引き金を引こうとした直前に、リアナは胸元から四角の装置を投げた。それは敵が使っていたバリアを張る装置だ。
「こういう使い方もあるのよ」
その装置はリアナとダリアの間で展開して光線を防いだ。リアナはバリアを通り抜け、捻じれた光線と光線の隙間からダリアに向かって槍を突き刺した。
ダリアが銃で槍を弾くと、リアナは背後からロボットの腕を出してダリアの喉元に突き付ける。同時にダリアの背後にいる3人は、ジアッゾの光線により倒れた。
「これで終わりよ。ダリア」
ダリアは口角を上げた。
「終わりだと? これを待っていたんだ。姉上が妖精外套を出すのをだ」




