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高校生活は異世界人に囲まれて  作者: 出水 彰
第3章 真景落語舞台
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【3章 エピローグ】

 浦島は電灯の明かりがほのかに照らす公園傍の歩道で、一軒家を囲むブロック塀に背中を預けて委員長を見送っていた。

 

 委員長の背中が遠くなり、ついには曲がり角の奥へと消えていくと、浦島は視線を別の方向に移した。


「帰ったのではなかったのかな?」


 浦島の視線の先には安長の姿があった。


「少し、あなたとお話をさせて頂きたくて」


「何かな?」


「あなたは委員長さんに手を貸さないと言っていましたけど、気が変わりましたか?」


「俺は人間の騒動には介入しないと言ったんだ。いや、委員長に手を貸さないとも言ったのかもしれない。

 忘れっぽくていけないな。そうだな、言っているな。これは済まないな。謝罪をさせてもらうよ」


「いえいえ、滅相もありません」


 浦島は星が見えない夜空を見上げると、安長もそれにつられて空を見た。


「心変わりはしていないさ。ただ単純に言葉の範囲内で行動しているだけさ。

 君も見ていただろ。俺はあの騒動に手を出していない。多少は手を出したかもしれないけど、それは一般的な人間が出来る範囲におさめたつもりだ」


「はい。あの騒動であなたは殆ど何もしていません。ですが、あなたはあの針を渡した。良かったのですか? あれをお渡しになって。

 あなたの言う、一般的な範囲の人間が持つべき物では無いように思いますが」


「神社でお守りは簡単に買える。言っただろ、あれはただのお守りさ。人間の騒動である限り、あの針は神社で売られている量産品のお守りと同じさ。

 効力がある訳でも無いけど、なんとなく安心感を得られるアイテムに過ぎないよ」


「ですがあなたは渡した。つまりはこの先に人間の範疇を超えた騒動に、委員長が巻き込まれるとお思いですか?」


 冷たい夜風が吹く。浦島は自分の肌をさすると体を縮めた。


「委員長と共に行動して思ったことがある。委員長は自分から騒動に巻き込まれていくタイプだってね。

 自分では騒動が面倒だと考えているようだけど、委員長は目鼻が利く。本人は意識していないだろうけど、体が勝手に騒動の方へ向いてしまう。


 更に厄介なのは、委員長は何も考えずに騒動に向かって歩いて行ってしまう。そして解決に向けて一生懸命になる」


「そんな委員長に好意を抱いた」


 浦島は目を細めて道の先を見る。そこには会社帰りの疲れた顔のサラリーマンがいて、その少し後ろには、中の物が溢れんほどに詰められたエコバックを片手で持つ女性が歩いている。


 そして歩道に並ぶ家々には明かりがともり、住人の影がカーテンに落ちている。

 周囲を見渡すだけでも幾つもの人生を、人の命を感じ取れる。


 だが浦島の目にはそんな人々の息吹が単位としか映っていない。


「人間に興味を抱く感情なんか、遥か過去に忘れてしまった。もしあそこを歩く男性が、隣の女性に包丁で刺されたとしても、感情の一切が動かないだろう。

 だけど俺と委員長はこうして同じクラスになって、頑張りを見てしまうと感情が揺さぶられる。手を差し伸べてあげたくなる。


 俺は積極的に人間の騒動に介入は出来ないけど、お守りを渡すぐらいは許されるだろってね」


「それであなたの正体が分かってしまってもですか?」


「その時はその時さ。俺達は人間達と一切の交流を断っている訳では無い。歴史の境目には幾度も交流があり、幾度も物語として記されている。

 俺の場合は浦島太郎という物語になった」


「そうですね。物語世界の浦島太郎が、あなたがここにいると知ったら、さぞ驚かれるでしょうね。伝えておきましょうか?」


 安長が笑みを浮かべながら問いかけると、浦島は腕を組んで少し黙まった後、首を振った。


「言わないでくれ」


「承知いたしました。でしたら遊びに行くのは控えた方が良いのでは? この町に浦島太郎が来ないとも限りませんから」


「せっかく来たんだから、それでは面白くない。

 霞かかった雲の向こうで、引き籠っているのは良くない。この星で浴びる太陽光はこれ程までに暖かく、人が見せる可能性との交流は楽しい。


 あのクラスはそれを思い出させてくれた。家と学校の往復だけでは無く、寄り道をするのも学生生活というものさ」


「その寄り道があなたを慕っている一般人3人との、交流も含まれていると」


「それもあるけど、別の理由もある。毎日、異世界の人達に囲まれている委員長が、いつか自分の世界に戻りたいと思った時、あの学校に逃げ込む場所は無い。


 だから俺が一般人と仲が良ければ、委員長は俺経由で自分の世界に戻れる。これは一般人が出来る範囲で、委員長に手を貸しているから問題ないと俺は思っている」


 浦島は一般人の範囲である事に自信満々であるが、その言い訳じみた理屈を聞いた安長はおかしくなって笑ってしまう。


「笑われてしまったね。そうだよ。俺は委員長に好意を抱いているのは確かだ。だから助けてやりたいのさ。君はどうなんだい?」


「私は初めから言っている通り、委員長に対しては好意的です。

 だからあまり接点の無い物語の世界に出向くのです。委員長を陰で守っている人達の一員にはなりませんが、私も陰から見守ろうと思いまして」


「そうか。そちらは任せたよ」


「あなたは何をするのです?」


「そうだな。俺は3年間の高校生活を楽しむよ。俺が力を使う必要のない3年間を願いながらね」


「そうなると思いますか?」


「無理だろうね。まだ物語は終わっていないのだから」

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