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高校生活は異世界人に囲まれて  作者: 出水 彰
第3章 真景落語舞台
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【3章 14話】 天狗裁き

 夜の学校の屋上で俺はフューレと安長、浦島に囲まれている。

 

 今の時間は居酒屋へ向かうよりも前になる。

 つまりは犠牲が出る前まで時間を遡った。


 3人とも文字通り犠牲になった。その成果として今起こっている騒動の主導者と、目的を知れた。


 俺は3人に敵が落語から生まれた存在であることと、目的について簡単に説明した。


「えっと、成功したと思っていいんだよね?」


 フューレが首を傾げているので、俺は頷いてから答える。


「ああ、『天狗裁き』は無事に成功した」


「あまり深くは聞いていなかったけど、その『天狗裁き』はどういう噺なの?」


「昼寝から覚めた喜八は、女房にどんな夢を見ていたのかを聞かれる。

 喜八は夢なんか見ていないと言うけど、それに納得しなかった女房は激怒した。そこに仲裁が入るが、その仲裁人も夢の話を聞く。


 答えない喜八に仲裁人も激怒した。そうして夢と激怒が連鎖していき、最後は天狗に激怒され殺された瞬間に夢から覚める。

 サゲは女房に再び何の夢を見ていたのかと聞かれて終わる」


「鞍馬君がいる限り、何度でもやり直しが出来るんだね」


「その通りだ。敵も迂闊だったな。俺達のクラスメイトに鞍馬という天狗がいるとも知らないで、物語が再現される場を用意するとは」


 『饅頭こわい』が再現できたのなら、俺でも落語の状況を作れるということだ。それが分かった段階で鞍馬に連絡を取った。そして『天狗裁き』をいつでも進められるように、後をついてきてもらっていた。


「そうだね。それにしても品川君が敵側なんてショックだね」


「敵側に片足を入れたというのが正しい。

 鞍馬は天狗であると隠していないのに、敵は対策をしなかった。品川は知っていた筈なのに伝わっていなかった。

 品川はまだ迷っているのだろう。俺達につくか、それとも現状を維持するのか」


 安長が朗らかな表情を浮かべながら、俺の横に腰を下ろした。


「それで委員長さんは、品川さんを仲間に引き入れるつもりなのですよね」


「勿論だ。クラスメイトを誰1人として欠かさずに卒業をするのが、委員長の役目だからな」


 俺がそう言うと、黙って聞いていた浦島が小さく笑った。


「すまない。馬鹿にしたわけじゃないんだ。委員長は頑張るなと思って感心したんだ。誰1人として欠けさせないか。

 それは一般的な委員長のする仕事では無いと思う。委員長は頑張り屋さんだな」


 俺もそう思う。


 考えてみれば、賞与を貰うべき仕事だ。人脈だけは無駄に広がっていくけど、学校からは何もない。授業料もガッツリ取られているし。


 これが終わったら校長に直談判してやろう。無下には断らないだろう。


「委員長はこれからどうするつもりだい?」


「それについて今から相談がある。それにはまず品川に会う必要がある。その為にも同じルートを辿る」


 3人には前回のルートで多田篠公園に行くまでの経緯。その道中の居酒屋で仕掛けられた『蛇含草』、続いての『粗忽長屋』、昔話の『おどるがいこつ』の末に小さな公園に辿り着き、品川に出会ったことを説明した。

 

 何がどこでどのように襲い掛かって来るのか、それが分かれば回避方法など幾らでもある。フューレも安長も浦島も、それが簡単に出来てしまうほどに器用な人達だ。

 


 

 そうして同じ道を辿った。フューレが犠牲にならずに、誰も傷1つ無い状態で講演に到着した。思っていた通りに品川と出会った。


「奇遇だねえ。こりゃあ珍しい並びだ。偶然の井戸端会議とは思えねえ。こんな場所で雁首揃えて何をしているんだい? 問題ごとかい?」


「そうなんだ。大変なことになっている。だから品川にはこちら側についてもらいたい」


「あたしがどちらにつくって言うんだい。そもそも同じクラスメイト、あちら側がどちらなのか、皆目見当が付かないよ」


「品川になら『天狗裁き』と言えば通じるよな」


「なるほどね。何があったかは知らないけど、あたしが普通の人間でないと、既に知らされているってえ訳だね」


「そもそもの話をさせてもらうと、俺は初めからこの町で起こっている現象に品川が関わっていると思っていた。

 だからこそ、わざわざ多田篠公園に来た。人が多い場所に来れば、品川も接触する機会が増えるだろ」


 品川はヒップポケットから取り出した扇子を、1度の動作だけで開くと口元を覆った。


「罠にかけていたつもりが、まんまと罠にかかった間抜けはあたし達だった。どこからあたしを疑っていたんだい?」


「品川から貰った福引券の抽選会、その帰り道だ。

 あれは落語の『高津の富』だろ。物語が現実化する現象に、俺が最初に巻き込まれたのはこの抽選会だ。

 だとすればその切っ掛けを作った品川を疑うのは自然だ」


「そうかい。あたし達の敗因は委員長に落語の知識があると知らなかったことだね」


「知識を得たのは最近だし、落語を調べるべきだとヒントをくれたのは品川だ」


「あたしが何かを言ったかい?」


「名前だよ。俺は委員長になってから、クラスメイト全員の名前を検索した。その時に品川を舞台にした『居残り佐平治』の落語に辿り着いた。

 もしかすると関係があるかもしれない。だから落語の噺を勉強した」


「委員長の勤勉さには驚かされる。参りました。それであたしに種明かしをした真意を聞かせてはくれないかい? 委員長ならば簡単にあたしを切り捨てて、あたし達を乗り越えられる」


「全員で卒業する為だよ。

 品川はクラスメイトだ。こんな場所で退場してもらっては困る。だから品川に付くべきは俺達の側であると示した。


 そろそろ今ある宿から金を巻き上げて、新しい宿に移る時じゃないのか? 居残り佐平治として」


 品川が閉じた扇子の向こう側には、笑みを浮かべた表情が見えた。


「委員長は全く面白い人だ。あたしの性分を理解しているようだね。でもいいのかい? あたしは機を見て委員長達から巻き上げるかもしれないよ」


「出来る物ならやってみろ。そんな簡単なクラスじゃないと、俺は良く知っている」


「そうだろうね。委員長は本当に厄介なお人だ。

 では委員長の口車に乗ってやろうじゃあねえか。そもそも楽天家のあいつらに、これ程の計画が実行できるとは思えない。


 どうもきな臭い気がする。1年6組には胡散臭さはあるけど、きな臭いよりも未来があるってもんだ。委員長の度胸も気に入った。それで何をするつもりなんだい?」


「その前に聞きたい。落語の登場人物が現れて、物語に巻き込まれている。どうやってこんな大規模な現象を起こしているんだ? 止める方法はあるのか?」


「町全体、そのビルや道路の配置から寄席や劇場を見立てたのさ。だからこの町では物語が現実となる。

 止める方法は時間と共に解決される。なにせ町は日々変わっていくのだからね。新しい建物、新しい道が作られれば次第に寄席としての条件が満たせなくなる」


 安長の話は正しかったようだ。


「時間が解決するのなら、逃げ回れば済むのか」


「委員長は逃走がお望みかな?」


「この現象からは逃げるよ。だけど品川が所属していた組織には分からせないといけない。相手が悪かったってな。その隙に巻き上げてやれ。それが佐平次だろ」


「いいねえ。楽しくなってきたじゃねえか」


「だから落語で挑まれたのなら、落語で返すのが筋だ。ここからが本題だ。もし落語や物語の影響で体の一部が外れたり変位したりした場合、その噺が終わったらどうなる」


「死んでいなければ元に戻る」


「そうか。ではこんなのはどうだ。俺は今、金を持っている」


 品川はニヤリと笑った。

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