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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第092話

午後の狩で早速成果を出して、フランドールの率いる部隊は意気揚々としていた

周囲には他の魔物は居なくて、警戒する兵士達も安堵する

このまま後始末は他の部隊に任せて、彼等は更に奥へ進もうという事になった

まだ時間はあるので、もう1回は戦えそうだったからだ


その頃、将軍は集団で逃げて来たコボルトを狩りつくしていた

数は50匹を超えていたが、何かに怯える様にコボルトは兵士達に向かって来た

その為ほとんど逃げ出す事も無く、次々と倒されていった

それが一段落着く頃、後方からワイルド・ボアが集団で向かって来た


最初こそ驚いた様子だったが、ワイルド・ボアは集団で向かって来る。

その数は18匹で、何かから逃げて来た様だった。

将軍は知らなかったが、これはフランドールが取り逃がした獲物であった。

将軍達は、向かって来るワイルド・ボアの群れに苦戦する事になる。


「くそっ

 これなら盾を用意しておけば良かったな」

「ええ

 しかしどこから逃げて来たんですかね?」

「さあ?

 おおかた、どっかの部隊が取り逃がしたんじゃねえのか?

 ムキになって突進して来やがる」


ブモオオ

ブヒイイ


次々と突っ込んで来るワイルド・ボアを躱しながら、兵士は着実に足を削っていく。

フランドール達の部隊と違い、彼等は確実に動きを封じて行った。

四肢を切られたワイルド・ボアは、そのうち動きが鈍って首を狩られる。

突進が出来なくなった猪は格好のスキルの的だった。


兵士達はスラッシュや、スラントの訓練に魔物を利用する。

足を斬られたワイルド・ボアは、動きが鈍って簡単に狩られて行った。

首をスラントで切り裂かれ、胴をスラッシュで切り裂かれる。

魔物は首や胴を切り裂かれて、その場に血を撒き散らせて倒れる。


「粗方片付いたな」

「はい」

「しかし、残念ながらコボルトの死体は、ほとんどが踏みつけられました」

「あ…

 ううむ

 しょうがない、魔石だけ探しておけ」

「はい」


見るとほとんどのコボルトの遺骸が、駆けまわるワイルド・ボアに踏み潰されてしまっていた。

遺骸は踏み潰されて、ぐちゃぐちゃになってしまっていた。

皮は素材として使えたのに、踏み荒らされて無残な姿になっている。

仕方が無いので、まだ胴が原型を留めている遺骸から魔石が無いか調べてみる。


といっても、ほとんどのコボルトが魔石も持てない下級の魔物だ。

胸を裂いて心臓の辺りを探るが、なかなか魔石を見付ける事は出来なかった。

しかもほとんどが、胸も含めて踏み荒らされていた。

だから潰された遺骸からは、魔石も擂り潰されたのか見付からなかった。


「なかなかありませんね」

「うむ

 あれば儲けもんと思って調べるしかないな

 所詮はコボルトだから」


以前はゴブリンどころか、コボルトでも恐ろしい魔物であった。

しかし、いつの間にか私兵達も、コボルトを雑魚として楽に倒せる様になっていた。

これは(ひとえ)に無理してでも森に出て、狩を訓練として行っていたからだろう。

今ではオークでも、ビビらない兵士がほとんどになっていた。


「しかし、コボルトは何に怯えていたんだ?」

「そうですね

 ワイルド・ボアは向こうから来たし、オークも今は見当たりませんね」

「他にも魔物が居ないか、周囲を探って…」

グボオオオ


突然咆哮が響き渡り、ドスドスと鈍い足音が聞こえ始めた。

兵士達は大物の襲来に警戒し、将軍を中心に陣形を組み始めた。

その吠え声は遠かったが、それでも危機感を抱く様な恐ろしい声だった。

将軍は顔を顰めて、思わずぼやいていた。


「何だって、オレの方にばっかり来るかなあ…」


将軍は今日の不運を嘆いていた。

オーガにしても、今回の魔物にしても、何故か厄介な魔物ばかりが向かって来る。

今日は厄日だなと、将軍は向かって来る魔物の方を睨み付ける。

果たしてこの吠え声の主は、どの様な魔物なのだろうか?

コボルトが逃げ出すぐらいなのだから、相当に危険な魔物には違いが無かった。


その頃、ギルバート達も魔物と遭遇していた。

こちらは下級の魔物に遭遇せず、奥へと踏み入っていた。

そして凶暴な咆哮を聞いて、兵士の内の数人が恐慌をきたしたり、恐怖に蹲っていた。

それは聞いただけで、原初的な恐怖心を引き起こす、危険な魔物の咆哮であった。


グガアアア

ゴバアアア


「ひいい」

「うわああ」

「しっかりしろ!

 ここで怯んでいれば、魔物の恰好の標的にされるぞ!」


ギルバートも少し怯んだが、気を持ち直して兵士を叱咤する。

魔物の咆哮には原初的な恐怖を抱かせる効果がある様で、ほとんどの兵士が恐れを抱いていた。

兵士達のほとんどが、その咆哮を聞いて戦意を失っていた。

そして小さな木をへし折り、その咆哮の主が姿を現した。


グガアアア


「で、でかい…」

「ひいい、熊だ」

「熊の化け物…」

「くっ

 熊の魔物か?」


その姿は大きな熊で、2mを大きく超える巨体が姿を現す。

ざっと見た限りでも、2m50㎝の熊と、3m近くの熊が2匹現れた。

3mクラスの方は成体と思われ、赤茶色と黒の毛皮に覆われた巨体が印象的だった。

小さい方はまだ未熟なのか、黒い毛に覆われていた。


「熊…

 ワイルド・ベアか?」

グガアアア


その質問に応える様に大きい方の熊が1頭、後ろ脚に立ち上がって咆哮を上げる。

ビリビリと大気を震わし、その声に物理攻撃力があるのかと思わせる威力だった。

大気を震わす咆哮が、兵士の意識を奪って行く。

数人の兵士が、その場で昏倒して倒れた。


「坊っちゃん、お気を付けて」


守備隊を率いていたハウエルが前に出て、剣を抜き放った。

それに合わせて、守備隊でも戦意を挫かれていない者達が剣を抜く。

そうしてギルバートを守る様に、前に展開して魔物の攻撃に備える。

ギルバートも背中からスカル・クラッシャーを引き抜き、正面に構えた。


グバアアア


ワイルド・ベアが咆哮を上げて、巨体を揺らして襲い掛かって来る。


「正面に立つな!

 躱しながら隙を見付けろ!」

「間違っても無闇に攻撃をするな

 先ずはこいつの攻撃パターンを探るんだ」

「相手は熊の魔物だ

 牙と爪に気を付けろ」

「図体がデカいが、動きは機敏だ

 振るわれる腕に気を付けろ」


ハウエルとギルバートの声を聞き、兵士達は必死に正面から離れる。

ワイルド・ベアの内の1匹が、逃げ遅れた兵士達に向かって行く。

他の兵士が助け起こし、慌てて熊の前から避難させる。

数人がまだ戦意を失っており、腰が抜けた者も居た。


グバアアア

ブン!、ブン!

バキバキ!

グシャリ!


ワイルド・ボアは巨体を素早く動かし、大きな爪を振り回して襲って来る。

その度に大木がへし折れ、地面には窪みが出来上がる。

地面を叩き付けても、その腕の威力は収まる事を知らない。

地面には窪みだけでは無く、爪で抉られた跡も残されていた。


「なんて攻撃力だ

 正面から受けたら一溜りも無いぞ」

「牙にも気を付けろ

 こいつが熊なら、噛み付きや腕で押さえつけられると危険だ」


普通の熊でも、抱き着かれたら背骨をへし折られる。

それに口には大きな牙があり、噛み付かれたらお終いだろう。

そんな危険な熊が魔物になっているので、その威力も格段に上がっている筈だ。

しかもこれだけの巨体だ、攻撃する範囲もかなり広かった。


ハウエルが腕の振るわれる隙を突いて反撃するも、頑丈な毛に阻まれて大した傷を与えれない。

魔物になった事で、防御力も格段に上がっている様だった。

ギルバートも思い切って腕を狙ってみたが、切り飛ばすまでには至らなかった。

毛皮が丈夫な為に、小さな切り傷を与える事しか出来なかった。


グゴオオオ

ブン!

「せい」

ザシュ!

「くうっ

 なんて固いんだ」


ガルルル

「せりゃああ」

ズバッ!

「くそっ

 これでもダメなのか」


2度目の攻撃では腕は傷つき、骨が見えるほどであった。

それでもその腕を振り回し、さらに凶暴に襲い掛かって来る。

ギルバートは咄嗟に剣を盾にして、熊の強力な一撃を防ぐ。

しかし強烈な一撃に、受けたギルバートは飛ばされる。


ゴバアアア

ゴガン!

「くっ」


強烈な爪の一撃は防げたものの、1mほど吹き飛び態勢を整える。

防いだ衝撃で腕が痺れたものの、剣は何とか無事な様子だった。

しかし魔物から離れてしまい、代わりに魔物は兵士に向かって行く。

このままでは、兵士達の身が危険だった。


グガルルル

「うわあ」

「ひいい」


その背後では兵士達が、必死に熊の爪から身を躱して他の兵士が切り込んでいた。

しかしそれでも良い一撃が入らず、なかなか苦戦していた。

ギルバートの大剣に比べれば、兵士の長剣では威力が不十分だった。

決定打を与えられず、兵士は次第に追い込まれて行く。


「くそっ

 兵士だけではまだ無理か

 何とかこいつを倒さなければ」


ハウエルは焦っていた。

兵士も心配だが、ギルバートがまだ戦っている。

そうなれば、このワイルド・ベアという魔物は相当強いという事になる。

慣れていないとはいえ、ギルバートの攻撃でも簡単には倒せれていないからだ。


「くっ

 せりゃああ」

ザシュ!

グガアアア


ギルバートは詰め寄る魔物の攻撃を躱して、右から腕に一撃を振るった。

やっと右腕に深手を与え、ワイルド・ベアが一瞬だが怯んだ。

ここが好機と捉え、さらに踏み込んで隙を見せる。

ワイルド・ベアは不用意に踏み込んだギルバートを見て、後ろ脚に立ち上がった。

強力な両腕を広げて、一気に掴み掛かろうとしたのだ。


グガオオオオ


しかし、それこそギルバートが狙っていた機会だった。

後ろ足で立てば、強力な突進が出来ないので攻撃範囲が狭まる。

そうとは知らず、ワイルド・ベアは大きく振りかぶって両腕を広げた。

その手が迫る瞬間を見逃さず、ギルバートは後ろへ大きくステップで下がった。

そこで大きく沈み込み、勢いを付ける。


グガアア

「ふっ」

ズシャッ!


鋭く息を飲むと、呼気をを吐き出しながら跳躍する。


「すりゃあああ

 バスター」


一見無防備な跳躍だが、ワイルド・ベアは大きく踏み出して腕を振るっていた。

その為にワイルド・ベアには、大きな隙が生じていた。

空振りした腕を上げる間もなく、後方に下がろうにも体勢が悪かった。

その頭上に向けて、ギルバートは大きく剣を振り被る。

そのままスキルが発動して、大剣が魔物の頭に叩き付けられる。


ズガン!

ガ、グガア…


ギルバートとしては、ここで頭から切り裂いて着地するつもりだった。

しかし大剣は頭蓋に切れ込みを入れたところで、そのまま止まってしまった。

思ったよりもワイルド・ベアの身体が頑丈で、強力な一撃でも頭蓋を砕き切れなかったのだ。

それでも頭の一撃で意識が飛んだのか、ワイルド・ベアはそのまま崩れ落ちる。


ズズン!

「くっ…

 はあ、はあ…」


大きな音を立てて、魔物は巨体を地に伏せた。

しかしギルバートも、思わず膝を着いていた。

これまで戦った魔物よりも強く、その戦闘には大きく緊張を伴っていた。

その緊張が一瞬だが解けて、それで膝を着いていた。


「はあ、はあ

 何とか、倒せた…」


しかし、これで戦闘の均衡は崩れた。

1体が倒れたのを見て、他の魔物にも隙が生じた。

どうやら先の魔物が、残りの魔物の親だったのだろう。

魔物は動揺したのか、明らかに戦意を失っていた。


「む!

 せりゃああ」


ハウエルは、魔物が振り返る隙を見逃さなかった。

素早く跳躍して、ギルバートを真似て頭を狙ってみる。

その剣はスカル・クラッシャーほどでは無いが、希少なオーガの魔石で加工した長剣であった。

切れ味や耐久性では劣るものの、魔物の腕を切り落とすには十分だった。


「バスター」

ズドガン!

ガアアア…


咄嗟に魔物は両手を上げて、頭を庇う様に交差させた。

そこへ長剣が振り落とされ、骨で抵抗されたもののなんとか両腕は切り落とされた。

腕を失った事で、ワイルド・ベアは攻撃のアドバンテージを失った。

怯んだのか、腰を落として逃げようと後ろを向いた。

そこを見逃さず、ハウエルはさらに踏み込んだ。


頭を狙いたい

しかし殿下でも割れなかった

それを考えれば…

脚を狙って機動力を奪うべきか?


「すえりゃああ

 スラッシュ」

ザシュッ!

グボアアア


大きく踏み込んで放った一撃は、ワイルド・ベアの右の腰を切り裂く

腰を切り裂いた事で、魔物の右足に麻痺を起こさせた。

そしてざっくり開いた傷口から臓物が出て、魔物は一気に戦意を失っていた。

骨に邪魔をされなかった事が幸いして、魔物の腹を大きく切り裂けたのだ。


魔物は腹が裂けた事もあり、脚を動かせなくなって腰砕けになる。

怯えた様子で、魔物はハウエルの方を見詰める

こうなれば、後は止めを刺すだけだ。

ただ、気を付けなければ、手負いの獣は危険だ。

ハウエルは慎重にワイルド・ベアに近付いて行った。


その向こう側では、兵士達も懸命に戦っていた。


「うわっ」

「くひい」

「くそっ

 固すぎだろ」


兵士達は未だに大きな傷を与えられずに、逃げながら囲んでいた。

この個体は一番小さなワイルド・ベアだったが、それでも十分に強かった。

ギルバートは少し休息して呼吸を整えると、大剣を頭から引き抜こうとする。

剣は深々と突き刺さり、なかなか引き抜けなかった。

まだ大きな負傷者が出てないとはいえ、急がないと兵士の身が危険だった。


「んぬぎぎぎぎ

 ふんぬ」

ザシュ!


力任せに引っ張り、ようやく剣は引き抜けた。

それだけ、ワイルド・ベアの骨は固かったのだ。

そんな頑丈な頭に深々と剣を叩き付ける、ギルバートの力も相当な物である。

そうして引き抜くと、こびり付いた脳漿と血を振り払う。


「はあ、はあ

 くそっ」


ギルバートは振り返ると、素早く兵士達の元へ向かった。

気が付けば魔物の攻撃で木々が倒され、周囲は小さな広場になっていた。

しかも足元には木が転がっており、気を付けなければ足を取られるだろう。

そのせいで魔物も苦戦しており、却って負傷者は少なかった。


「つえりゃあああ」

「坊っちゃん」

「おお」


ギルバートが声を上げながら背後へ迫り、魔物の注意を引き付ける。

それに合わせて、兵士達も負傷者を運び出した。

そうして魔物から離れて、兵士達は安全な場所んみ避難する。

それを見計らって、ギルバートは魔物と対峙した。


「ここは任せろ」

グガルルル

「はい」

「お気を付けて」


見れば腕や脚に裂傷を負った者が数人いて、担いで運ばれて行く。

ワイルド・ベアはそれを一瞬見て、悔しそうにしていた。

しかし目の前の危険を把握しているのか、すぐにギルバートに視線を戻す。

魔物としては、親を殺したギルバートの方が危険なのだ。


油断なく近づき、後ろ足で立っては前足を振るってくる。

ギルバートはそれを、最小限の動きで躱す。

あまり動き回れば、足元の木で転倒してしまうだろう。

それに最小限の動きで躱せば、それだけ魔物に攻撃をし易かった。


ゴガアアア

ブン!ブン!


魔物は腕を振るうが、先ほどの大きいのに比べれば大人と子供だ。

隙も大きく、攻撃範囲も小さかった。

魔物の背後に立つ兵士に、隙があれば攻撃しろと目配せをする。

しかし、兵士達はさすがに無理だと頭を振った。

それを見て、ギルバートは頷く。

それならば自分が止めを刺すだけだ。

ギルバートは剣を掲げて、大きく構えてみせる。


「ふっ」

グルルル

ブン!


ギルバートのフェイントに掛かり、魔物は立ち上がって右手を振り上げる。

ギルバートが下がったのを見て、魔物は一旦前足を下ろそうとする。

ギルバートは、その隙を見逃さずに前に突っ込む。

そのまま剣を横向きに構えて、素早くスキルを発動させる。


「せりゃっ

 スラッシュ」

ズバッ!

グガアアア


見事に決まり、ワイルド・ベアの右腕が切り落とされる。

成体に比べれば、骨もそこまで固くない様だ。

腕は一撃で飛ばされて、魔物は苦悶の声を上げる。

ワイルド・ベアは痛みで判断を誤り、後ろ足で立ち上がりながら前へ出た。

何とか組み付いて、引き摺り倒そうと考えたのだろう。

しかしギルバートは、その隙を見逃さなかった。


左手を上げて、鋭い爪でギルバートを引き倒そうと向かって来る。

あわよくば爪で、切り裂かんと向かって来た。

しかしギルバートは、素早くスキルを利用して移動する。

再び剣を正面から、横倒しにしながら突き進む。


「スラッシュ」

ザシュッ!

グオオオオ


再びスラッシュが決まり、魔物の左の脇腹を切り裂きながら駆け抜ける。

魔物は左腕を上げたまま、脇腹を深々と切り裂かれる。

そして魔物は痛みから、立ち上がるのを止めて四つん這いになった。

そこを逃さず、ギルバートは再度追撃をした。


「バスター」

ズドン!

グガアア…


今度は小さな跳躍で、素早く剣を振り下ろす。

先程の成体と比べると、こちらは小柄な方だった。

だから小さな跳躍で、素早く頭に叩き込んだのだ。

剣は見事に首元へ叩き込まれ、ワイルド・ベアの頭は地に落ちた。


魔物の首元から、激しい鮮血が噴水の様に上がる。

そうして魔物は、そのまま空を掻いて動きを止めた。

魔物は地面に倒れ伏し、これで戦闘が終了した。

短い時間だが、危険な戦いに何とか勝利出来た。


「はあ、はあ…」

「う、うわあああ」

「うおおお」

「すごい

 さすがは坊っちゃんだ」

「やった、助かったぞ」


兵士達が歓声を上げ、生き残れた事を喜んでいた。

最初に見た時は、この世の終わりだと思っていたからだ。

中には咆哮で死を予感して、震え続けていた者もいた。

しかし、全員がなんとか生き残れたのだ。


負傷者は8名になり、いずれも腕や脚に爪で切り裂かれた裂傷を負っていた。

傷は深かったが、腕や脚を失った者は居なかった。

彼等はポーションで手当てを受けて、薬草を使って包帯を巻かれていた。

一番重傷の者でも、なんとか3日ほどで治りそうな傷だった。


「良かった

 大した傷じゃなくって」

「はい

 坊っちゃんのおかげです」

「オレ…

 もう死んだと思いましたよ」


ギルバートは負傷者の様子を見て、今日はこれで撤退する事にした。

負傷者を運ばないといけないし、ワイルド・ベアの遺骸も重要だった。

これだけ頑丈な骨と皮なら、さぞや良い武具の素材になるだろう。

それに初めての魔物なので、どの様な武器が出来るのか楽しみでもある。

城門に向けて伝令を向かわせて、ギルバートは大きく安堵の息を吐いた。


こんな魔物と戦うなど、考えてもいなかった。

しかし何とか、戦いに勝利出来た。

この戦いで、また兵士達は自身を着けれるだろう。

そして魔物の素材から、新たな武器も出来そうだ。

そう考えれば、この戦いは良い結果と言えるだろう。


「しかし…

 ワイルド・ベアか

 危険な魔物だった

 こんな魔物まで居るのか…」


咆哮だけで、耐えられない者は昏倒していた。

それに加えて、耐えられても恐怖で震える者も少なく無かった。

これが慣れていない兵士であれば、間違い無く昏倒するだろう。

そういう意味では、ここに居た兵士が熟練した者達で良かったと思う。


「まだまだ危険な魔物が居るものだ

 油断は出来ないな」


ギルバートはそう思い、兵士達に周囲を警戒させるのであった。

魔物が流した血に、他の魔物が接近する恐れもある。

周囲に他のワイルド・ベアが、居ないとも限らない。

だからこそ周辺を、念入りに警戒させていた。

まだまだ続きます。

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