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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第091話

ギルバート達が追い着いた時には、丁度戦闘は終了していた

オーガは倒されていて、兵士達は私兵も守備部隊も関係なく抱き合って喜んでいた

そこには兵士の出自の違いは無く、みな一様に生き残った事を喜び合っていたのだ

ギルバートはそれを見て、上手く行ったと思っていた


兵士達はフランドールに感謝の歓声を上げており、将軍も離れた場所からそれを見ていた

その様子からフランドールが救援に来て、活躍した事が窺えた

ギルバートは安心するとともに、却って遅れた事が良い結果になって良かったと思っていた

元々フランドールに、活躍の場を与える予定であった

それが期せずして、この様な形で行われたのだ


「フランドール様万歳」

「さすがは我らの新しい領主様だ」


それは若干大袈裟であったし、領主は早過ぎだと突っ込みたくなる。

しかしこれは守備部隊の兵士もわざとやっており、私兵達と上手くやる為に敢えて歓声を上げていた。

実は一部の兵士は、既にアーネストから頼まれていたのだ。

フランドールが活躍した時に、敢えてフランドールを褒める様にお願いしていたのだ。

その理由は、私兵達のガス抜きと融和を計る為である。

その辺も伝えてあったので、兵士達は素直に行動に移していた。


「些か大袈裟ではあるが、無事で良かったな」

「ええ

 これで私兵達の不満が解消されれば良いんですが」

「え?」

「アーネストからの提案です

 フランドール様を持ち上げて、燻っている不満を解消させろと」

「ふーん

 何か考えがあっての事なんだな?」

「はい」

「なら、オレからは何も無い

 ただこれで逆に、こっちが不満を持たない様に気を付けてくれよ」

「はい

 それは重々承知しています」


ギルバートはそれだけ確認すると、喜ぶフランドール達に合流する為に広場に出た。


「どうやら私達は必要無かった様ですね」

「え?

 ああ、ギルバート殿」

「オーガはフランドール殿が倒した様ですね」

「ええ

 こいつの練習の為に、譲ってもらいました」

「そうですか

 さすがはフランドール殿

 これで安心してオーガの討伐に出れますね」

「はい」


ギルバートはフランドールの言葉に満足し、フランドールも力強く頷いた。

それも先ほどの、兵士の案に乗った形で褒める事にしていた。

そうした方が、私兵やフランドールのモチベーションが上がるからだ。

それを見ながら、将軍が豪快に笑いながら入って来た。


「おお

 坊っちゃんも来られましたか」

「ああ

 将軍もお疲れ様」

「いやあ

 最初は2匹だったんですが、後から増援が来まして焦りましたよ」

「なるほど

 それで救援を…」

「ええ

 さすがに6匹は…

 オレでも無理ですからね

 兵に被害は出せませんし」

「そうだな

 賢明な判断だったと思うよ」

「はい」


一通り喜びを確かめ合うと、兵士達はオーガの遺骸を運び始めた。

オーガから取れる素材は、現在一番高価な素材であった。

最初は加工が難しくて難儀していたが、最近では加工職人も技術が上がっていた。

爪や角、牙も加工出来る様になって、その分鎧や鏃などの加工にも使われる様になっていた。


それに魔石も秘められた魔力が高く、骨を加工した剣も作られる様になっている。

まだギルバートの持っている試作だけだが、今も新たな剣を製作中である。

それを横目に、ギルバートは続けた。


「このスカル・クラッシャーが量産出来たら、楽になるのかな?」

「坊っちゃん…

 本気でその名前にするんです?」

「え?」

「正直、物騒な名前ですよ」

「そうですね

 もう少し…

 どうにかなりませんか?」

「ぷっ」

「くくくく…」

「え?

 あれ?」


兵士達にも聞こえたのか、クスクス笑っている。


「そんなに変か?」

「ええ」

「変というか…

 あまりにも物騒ですよ」

「そうそう

 領主が持つには些か…」

「まあ、坊っちゃんですから良いでしょうが」

「はあ…」


ギルバートはガックリと崩れ落ちる。

まさか兵士達にまで、駄目出しを食らうとは思わなかったのだ。


「そ、そんな…」

「アーネストも言っていたでしょ?

 あまり趣味が良くないって」

「アーネストが言うぐらいですからな…」

「も、もう良いよ…」


周りの兵士も苦笑かクククと笑いを堪えている。

それだけ剣の名前は、変だと思われているのだろう。


「剣自体は悪く無いんですがね

 その名前はどうかと…

 売れなくなりますよ」

「そんなにか?」

「はい」


そこへフランドールも近付いて来て、真面目な顔をして肩を叩く。

一瞬、彼は慰めてくれると思って顔を輝かせて上げるが、フランドールは無言で頭を振った。

ここで完全に、ギルバートは膝から崩れ落ちた。


「うおおおお…」

「もう少しセンスのある名前にしましょう

 例えばグレートソードとか」

「え?」

「は?」

「あちゃあ…」

「…」


フランドールが微笑みながらそう告げたが、周りはシンと静まる。

兵士も将軍も微妙な顔をして、ギルバートも変な顔をしていた。


「ん?」

「いや…

 それならスカル・クラッシャーの方が良くね?」

「いや、どっちもどっちだろ」


みんなから突っ込まれて、今度は二人が落ち込んだ。


「まあ、職人からはボーン・ソードって名前が出てますから

 それで良しにしましょうよ」


将軍はそう言って、兵士達に撤退の準備をさせる。

今日の収穫としては十分だし、運ぶ魔物の遺骸の数も多かった。

ここらで一旦街に戻って休憩し、午後からは出たい者が再び出る事になった。

ギルバートは午後からは、別の用件が待ち構えていた。

だから午後からは、将軍と部隊長達がフランドール達に同行する予定になっている。


オークの遺骸は大きく重かったが、身体強化の出来る者が背負って運んで行く。

オークぐらいなら馬車で運べるが、オーガでは普通の馬車では運べないのだ。

大木を切った時に使う大型の荷台を使って、やっと運んでいるぐらいだ。

だからここまでは荷台では入れないし、魔物を森の外まで運ぶ必要があった。


「街の近くなら、運ぶ手間が減ったろうに」

「馬鹿

 そしたら街が襲われるだろう?」

「そうそう

 前に街に攻め込まれた時に、城壁が崩されて大変だったんだから」

「でも、城壁は直したんだろ?

 それに強化の魔法も掛けたって聞いたぞ」

「それでも、城壁が崩されたら大きな被害が出る

 前領主様がどうして亡くなったのか聞かなかったのか?」

「え?」

「前領主様、アルベルト様は住民を護る為に、危険を冒してまで城壁に残られた」

「それで魔物に襲われた時に城壁ごと…」

「あの時はまだ、オーガと戦える者は将軍とギルバート様以外はほとんど居なかったんだ

 結果として、多くの犠牲者が出たんだという話だ」

「そうか…」


本当は少しだけ違うのだが、この話が広まったお蔭で前領主(アルベルト)のイメージは大分良くなった。

元々国王と共に戦った、英雄の様な扱いであった。

その後も騎士団長として活躍していたが、その後に降爵して引退している。

それも降爵した理由が、王子が亡くなった時に警備のミスがあったとされていた

それで責任を取って、彼は降爵して隠居した事になっていた。


王都の貴族の間では、歳を負って田舎に引っ込んだ負け犬の様なイメージが広まっている。

これは王都の貴族が広めた醜聞で、降爵も国王が決めた事では無かった。

それでも自責の念に駆られて、彼は自ら降爵を申し出たのだ。

そうして病弱だったギルバートを育てる為に、自然の多い辺境に移転する事となった。

それが辺境である、ダーナに移った理由であった。


しかし王都の貴族は、これ幸いにと彼の事を貶める事にした。

それであれこれ噂を広めて、彼の名を貶めたのだ。

一部の貴族を除いて、多くの貴族が彼の事を負け犬だと揶揄する事になる。

そうする事で、彼等は国王の片腕を奪う事に成功したのだ。

それが王都にとって、どれほどの損失になるかも考えずに…。


しかしここにきて、彼は住民思いの優しい領主として慕われる事となる。

街の為にその身を投げ出したと、勘違いして祭り上げられていた。

その話は王都にも伝わり、アルベルトの株は上がっていた。

その事に関しては、国王は喜んでいた。

親友であるアルベルトが、名誉を回復出来たからだ。


しかし同時に、その親友は命を失ったのである。

それは国王にとっては、大きな痛手であった。

国王ハルバートは、その事で苦悩するのであった。

叶う事ならば、彼が落命せずに名誉を回復して欲しかった。

そういう思いが、国王の胸中には渦巻いていた。


だからこそ国王は、ダーナでの宣伝をアーネストに頼んでいた。

せめて彼の名を持って、ダーナを一つに纏めて欲しい。

そう思って、彼は使い魔にその事を記して送っていた。

それでアーネストは、兵士達にその様に伝聞させていた。


アーネストが行った融和政策で、選民思想者達の誤った話を打ち消される事になる。

これはアーネストにとっても、是非とも成功させたい事であった。

尊敬するアルベルトが、貶められる事は許せなかった。

また私兵達が、ダーナを田舎と蔑み、領主を臆病者の弱者と罵る事は問題である。

そんな事をしていれば、ダーナの者とは上手くやっていけないからだ。


こうした話を少しづつ広める事によって、両者の溝は少しずつだが埋められようとしていた。

有能な領主が居たからこそ、この街は守られた。

だからこそこの街を、我等の手で守り続けるべきだ。

そういう思いが、やがて私兵と守備隊の兵士とを結びつける。

私兵だ守備隊だという垣根を越えて、彼等は共に戦う気持ちになっていた。

これは魔物が侵攻している事もあったのだが、足並みを揃える為にも色々と(はかりごと)をした結果だった。


「そうなると、こいつ等が出ないのが一番なのかねえ」

「そうでもないだろ」

「こいつらの素材が一番良いからな」

「それに魔石も手に入る」

「坊っちゃんの剣を見てみろよ

 あれはこいつの骨から作っているんだと」

「へえ

 あの剣って、すんげえ切れ味なんだろ」

「ああ

 こいつ等をぶった切っていたからな

 オレもあんな剣が欲しいぜ」

「その前に、お前はこの前の借金を返せよ

 剣を新調するのはそれからだ」

「え?

 お前、また負けたのか?」

「うるせえ

 こいつがいかさましただけだ

 オレは負けてねえ」

「へいへい

 次の給金貰ったら、また勝たせてもらうからな」


兵士達はそんな無駄口を叩きつつ、魔物を背負って移動していた。

それを換金すれば、また臨時収入が手に入る。

だからこそ魔物の遺骸は、彼等にとっては大事な収入源であった。

なので汗を流してでも、それを大事に運んでいた。


時刻は正午を回る前に、何とか魔物を運んでから一同は城壁の中に戻った。

城門の近くの酒場に入り、早速昼食を求める。

勿論みんな午後からも出るつもりだったので、酒は当然飲まなかった。

ワイルド・ボアのステーキと、ボウルに盛ったサラダを前に歓声を上げる。


「今日は私からの奢りだ

 だが昼からも出るのなら、くれぐれも食べ過ぎで動けなくならない様に」

「はい」


フランドールからの注意を聞いた後、一同は我先にステーキに食らいつく。

脇には野菜のスープと固い黒パンもあったが、そちらには目もくれない。

まだまだ珍しい事もあって、ワイルド・ボアの肉は希少であった。

それを香辛料を利かせた、熱々のステーキにしてあるのだ。

兵士達は我先に、そのステーキを頬張って食べていた。


「ああ、うめえ」

「やっぱり、こいつのステーキが一番だ」

「貴重な香辛料も利いているしな」

「大蒜の香りがまた…

 食欲をそそる」

「でもよう

 なかなか捕れないんだろう?」

「そうだなあ

 だから、まだまだ高くて滅多に食べられないな」

「毎日でも食いたいよな」

「午後にまた出るんだ、何とか狩れないかなあ」

「そうだなあ

 南ではそんなに出ないし、あんまり大きくないんだよな」

「身のしっかりした旨いのは、やっぱり北に出る大物かな」

「脂も乗っているみたいだしな」

「そうなると、是非とも狩りたいな」


兵士達はすっかり、ワイルド・ボアのステーキを気に入っていた。

しかしまだまだ、供給が追い付いていなかった。

北からの移動で目撃件数も増えているが、それでも捕れる量に限界がある。

それに隊商が持ち込んだ肉では、まだまだ高額なのだ。


「ワイルド・ボアを狙うのは良いが、オーガも狩ってくれよ」

「そうだぞ

 素材はオーガの方が良いんだから、頼むぞ」

「はい」


兵士達は良い返事をしたが、心の中ではワイルド・ボアがまだ占めていた。

肉自体は赤味が多くて、脂肪はそんなには含まれていない。

しかし魔力を持った魔物の肉は、通常の獣の肉よりも旨くなるらしい。

だから猪の魔物であるワイルド・ボアも、猪や豚の肉よりも旨くなるのだ。


そんな昼食を済ませると、彼等は装備の確認をしてから再び北の城門に集合した。

午前の戦闘で、一部の兵士の武器は傷んでいた。

砥石で研磨したり、鎧の留め具を止め直したりする。

中には肉の食べ過ぎで、留め具がきつくなっている者もいた。

そうした兵士は揶揄われて、顔を赤くしながら鎧を着け直していた。


「くっ…

 キツイ…」

「食い過ぎだよ」

「こいつ3枚食ったんだぜ」

「欲張り過ぎだろ」

「うるせえ

 腹が減っていたんだ」

「だからって…」

「それで腹が出てたら、魔物に食い付かれるぞ」

「ぷっ」

「くくく…」

「う、うるさい」

「真面目にしろよ

 準備不足で戦っては、勝てるものも勝てなくなるぞ」

「は、はい」

「くくくく…」

「これから、もう一度森に入るが

 夜には帰って来なければならない」

「はい」

「夜は暗くて危険だし、城門も閉まる

 くれぐれも無茶はしない様に」

「はい」


将軍の注意を聞いてから、再び城門が開かれる。

兵士達は午前とは違う班分けを行い、粛々と森へと入って行った。

再びオーガを探して、森の中を進んで行く為だ。

今度は部隊長も加わり、より多くのオーガを狩る予定となっていた。


「魔物の到着日時を考えると、もう少しオーガを狩っておきたいな」

「そうですね

 このペースでは、騎兵までしか武器が配れません

 せめてオークだけでも狩って、魔石を集めたいですね」

「そうだな

 魔石の確保も重要だ」

「コボルトでは使い物になりませんからね」


長剣はぼちぼち出来てきたが、強力な剣の製造には魔石がまだまだ必要だった。

それにオーガ素材の武器は、まだそんなに出回っていない。

よりよい戦果を上げるには、まだまだ多量のオーガを狩る必要がある。

それには部隊長が協力して、少しでも多くのオーガを探す必要があった。


また同時に、オーガを狩る訓練が出来れば、それだけ侵攻する魔物への対処も楽になるだろう。

オーガと戦えるだけの兵士は、少しでも多い方が良いのだ。

侵攻して来る魔物の中には、オーガの群れも含まれているのだ。

将軍はオーガを求め、再び森の奥を目指した。


その頃、フランドールはワイルド・ボアの群れに出会っていた。

酒場で兵士が望んだからか、30匹以上のワイルド・ボアが走って来ていたのだ。

兵士達は身の危険を感じ、慌てて木の陰に隠れた。

大きな木でなければ簡単にへし折ってしまう、ワイルド・ボアの突進が続く。


彼等は隙をみて脚や首筋にスキルを叩き込むが、なかなか数は減らなかった。

減らないどころか、声を聞いて来たのかオークまで13匹も来てしまった。

フランドールは声を上げて、兵士達に指示を出した。

このままでは、ワイルド・ボアとオークに囲まれてしまう。


「オークの事は良い

 先ずは少しでもワイルド・ボアを倒すんだ

 オークを倒すのはそれからだ」


フランドールの指示に従い、兵士は必死にワイルド・ボアを倒していく。

突っ込んで来るワイルド・ボアに、兵士は懸命に剣を叩き付ける。

殺すには首筋に一撃を加えないといけないが、そのスピードに翻弄されてなかなか狙えない。

フランドールは上手い位置取りをして、1体1体を確実に倒してゆく。

しかし兵士の中には、突進で吹き飛ばされる者も数人いた。


20匹以上狩ったところでワイルド・ボアは去って行ったが、今度はオークが前へ出て来る。

先程まではワイルド・ボアの突進に、巻き込まれない様に下がっていた。

しかしワイルド・ボアが居なくなった事で、オークは前に出て来たのだ。

オークなら簡単だった様で、兵士達は果敢に立ち向かって次々と切り殺していく。

オーク如きではスキルも不要だったのだ。


「うりゃあああ」

「せりゃあああ」

ズシャッ!

ブギイイイ


オークは首や肩を切り裂かれ、血飛沫を上げて倒れる。

中にはスキルを使って、胴を切り裂く者もいた。

しかし大概のオークは、そのまま正面から切り殺される。

スキルを使わずとも、新しい長剣の切れ味は十分だった。

それで兵士達も、果敢に正面から魔物に切り掛かったのだ。


「ふう

 これで全滅か」

「はい

 しかし、ワイルド・ボアを逃がしたのは惜しかったですね」

「あれだけ狩れていたら、暫くはワイルド・ボアに困らなかったのに」

「そう言うなって

 少しでも狩れたんだ

 次回に期待しよう」

「ええ」

「残さず遺骸を運ぶぞ」

「はい」

「オークはどうします?」

「馬鹿

 オークも必要だろう?

 魔石以外にも使い道はあるからな」

「はい」

「はははは

 肉に目が眩んだな」

「うるせえ」


そう言って兵士達は、ワイルド・ボアの遺骸を集めていく。

オークやワイルド・ボアなら、普通の馬車でも十分に載せれる。

こうしてフランドールは、オークとワイルド・ボアを狩る事が出来た。

彼等は追加の馬車も呼んで、大量のワイルド・ボアを運んで帰った。


その頃王都では、国王ハルバートが唸り声を上げていた。

アーネストが寄越した使い魔の、報告書を読んでいたのだ。

そこには新たに、魔物の群れが侵攻していると書かれていた。

これはちょうど、先日の使い魔と入れ違いになっていた。


「うーむ…」

「どうされました?」

「また魔物が…」

「それはここ王都にも…」

「違う

 またもやダーナに、魔物の群れが迫っておる」

「なんですと?」


宰相サルザートは、驚いて素っ頓狂な声を上げる。

つい先日、城壁が破壊されたばかりである。

それなのに再び、今度は大規模な群れが侵攻しているのだ。

これではまるで、ダーナが狙われている様である。

いや、正確にはダーナでは無く、ギルバートが狙われているのだ。


「何故じゃ

 何故女神様は、ダーナにこんなにも魔物を…」

「まさか…

 アルフリート様の事が?」

「しっ!

 それは無い筈じゃ」

「そ、そうですよね

 ですが…」

「うーむ

 まさかとは思うが…」

「あり得ない事ではありますまい

 相手は女神様ですぞ?」

「しかし…

 それなら、何で今さらなのじゃ?」

「それは…」


確かに、今さらながらではある。

しかし運命の糸(フェイト・スピナー)は、確かに執拗にダーナを狙っていた。

そしてその原因は、ダーナに居るギルバート、いやアルフリートが原因であった。

それはまだ、国王達には確証が無かったのだ。

アーネストも報告が外部に漏れる事を懸念して、その事を記していなかった。

それで国王達も、原因を知る事が出来なかった。


「いずれにせよ、増援の兵士を…」

「それは出来ませんぞ」

「何故じゃ?

 それではアルフリートが…」

「陛下

 お忘れですか?」

「むう?」

「ダーナにはザウツブルク卿が向かっております」

「それがどうした?」

「彼の者には私兵が同行しております

 それでは他の貴族共が…」

「ぬう

 しかしあの程度の兵士では…」

「あの程度でも、魔物を討伐したザウツブルク卿が連れているのですぞ?

 それも魔物を討伐した、実績を買われてですぞ」

「ぐぬう…」


フランドールは、王都近郊の魔物を討伐した事になっている。

それは実際には、バルトフェルド卿がほとんどを討伐している。

しかし義理の息子である、フランドールの手柄にしていた。

そのフランドールが、魔物を討伐した私兵を連れているのだ。

であればその私兵が居る事で、迂闊な増援は他の貴族の不満を生む事になる。


「それにですが…

 魔物の侵攻は伏せねばなりません」

「何故じゃ?」

「あれには貴族の子息が含まれております

 それも反国王派や、選民思想者の貴族の子息が…」

「それが何だと言うのじゃ?」

「そいつ等の居る場所に、魔物の群れが侵攻する…

 そんな報告が入れば、どうなると思います?」

「どうなるのじゃ?」

「反国王派の貴族や、選民思想者の貴族が救援に向かうと言いますぞ

 そんな奴等がダーナに向かえば…」

「ぬう

 まさか?」

「ダーナも危険です

 それにアルフリート様も…」

「ぐぬう…」


ここに来て、反国王派や選民思想者の子息を送り込んだ事が、裏目に出てしまったのだ。

彼等にダーナに向かう名目を与えれば、そのままダーナを攻め取ろうとする恐れがある。

ダーナには穀倉地帯と、貿易の盛んな港があるのだ。

そこを彼等に取られれば、王都が干上がる危険があるのだ。


「奴等に攻め込む口実を与えてはなりませぬ」

「しかしそれでは…」

「お気持ちは分かりますが…

 どの道今からでは…」

「間に合わぬ…か」

「ええ」


この時点で、魔物の侵攻まで1週間しか残っていない。

今さら騎士団を送っても、間に合いはしないだろう。

それを理解しているので、アーネストは西部騎士団の使用の許可が求められていた。

結局はそれ以外に、対処しようが無かったのだ。


「ここは殿下を…

 アルフリート様を信じましょう」

「しかし大丈夫なのか?

 聞けばザウツブルク卿の私兵は…」

「ですが騎士団も居ます

 ヘンディーはあれで使える男です

 彼の手腕を信じましょう」

「ぬう…

 それしか無いのか」

「ええ」


国王は苦悩しながら、許可の採決をするしか無かった。

それも貴族達には内密に、西部騎士団を動かす。

それは反国王派を、また付け上らせる事になるだろう。

しかしそれしか、ここからの支援は出来なかった。

そうしてギルバート達が、無事に魔物を討伐する事を信じるしか無かったのだ。

まだまだ続きます。

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