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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第090話

救援の要請を伝える為、兵士は南に向けて走った

一人はフランドールの元へ向かって

今一人はギルバートの元へ向かって走った

ギルバートの元へ向かった兵士は、途中でオークに出くわして戦闘になってしまう

オークは3匹だったが一人で相手にするには厳しく、少しづつ後退する事になってしまう

こいつを倒さなければ救援を呼べないと、彼は懸命にオークに攻撃する

彼は必死に攻撃を避けながら、立ち塞がるオークに手傷を与えていた


兵士がようやく1匹のオークを倒した頃には、彼は左肩と右足に傷を負っていた

既に10分以上時間が掛かっていると思われた

このままでは将軍達の身も危険だった

しかしオークの猛攻を凌いだとはいえ、足を負傷してしまったのでここから逃げ出すのは困難だった

兵士が必死に攻撃を躱していると、向こうから声がした


「大丈夫か?」

「おわっ

 オークに単身で挑むとか、何を考えているんだ」

「今助けるぞ」

「食らえ!

 スラッシュ」

ザシュッ!

ブギイイ



慌てて向こうの兵士が飛び出し、片方のオークに向けてスラッシュを叩き付ける。

それでオークは腹を切り裂かれて、その場で腹を押さえた。

もう一方のオークにも兵士が向かい、オークは伝令の兵士から離れる。

さすがに兵士の数が増えたので、魔物も焦り始めていた。

それで伝令の兵士は気が抜けたのか、その場にへたり込んでしまう。


「た、助か、った」

「大丈夫か」

「無茶しやがって」

「すぐにこいつを片付ける」

「しっかりしろ」


他の兵士達も戦闘の音を聞きつけて、そのばに向かって集まって来る。

その内の二人がが駆け寄り、伝令の兵士を助け起こした。

助け起こしながら革袋を差し出し、伝令の兵士は革袋から水を呷る。

それで一息着いたのか、彼は伝令の使命を全うしようと言葉を発した。


「オレの事は良い

 頼む、将軍が危ない」

「なに?」

「どういう事だ?」

「向こうでオーガが出た」

「オーガぐらいなら将軍なら大丈夫だろ?」


兵士達はダーナの守備隊で、将軍の強さは知っている。

しかし問題は、オーガのその数だった。

少ない数なら問題無く、私兵を預かってでも戦えただろう。

しかし増援が増えた今、さすがに将軍でも危険だった。


「いや、1匹ではないんだ

 6匹は居た」

「な…」

「ううむ」

「それはさすがに…」

「すぐに救援に向かおう」

「坊ちゃん」


後方からギルバートが合流して、兵士に状況を確認させる。

既にオークは倒されて、伝令の兵士にはポーションが用意される。

兵士は彼の足にポーションを掛けて、その傷に包帯を巻いてやった。

その間にも伝令の兵士は、向こうでの戦闘の状況を伝える。


「周辺はどうだ?」

「はい

 オークは3匹だけです

 周りには居ません」

「伝令の怪我は思ったより軽いです

 ポーションで治療しておきます」

「ああ

 薬草を使って巻いてやれ」

「はい」

「私の事は良い

 早く将軍を…」

「大丈夫だ

 ヘンディー将軍はそこまで弱くは無い」

「しかしオーガが…

 人食い鬼が6匹も…」

「それは多いが…

 しかし君の傷も深い」

「だけどこうしている間にも…」

「その君が負傷しているのだ

 誰が案内するんだ?」

「あ…」


兵士はテキパキと対処し、周囲の安全も確保する。

その間にも手当は終わり、伝令は包帯を巻いたが立てる様にはなっていた。

伝令の兵士は頭を下げて、彼等に礼を言った。


「すいません」

「良いんだ

 君を置いて救助には行けないからね」


ギルバートは伝令の兵士の肩に手を置き、優しく声を掛けた。

他の兵士達が肩を貸して、彼を動ける様に支える。


「それでは、すぐに将軍の元へ行こう

 なあに、将軍なら簡単にはやられんさ」

「ええ

 あの人なら笑って殴り合っていそうです」

「オーガとですか?」

「え…」

「うーん…

 やりそうだが…」

「さすがに…」

「少々危険かも?」

「急いだ方が良さそうだな」


確かに将軍なら簡単にやられはしないだろうが、相手がオーガで数も多い。

時間を掛ければそれだけ被害が大きくなるだろう。

何よりも向こうには、私兵を連れているから危険だった。

ギルバート達は伝令の兵士を先頭にして、森の中を急いで移動した。

伝令の兵士は、不安な気持ちを隠して急いでいた。


一方その頃、フランドールは将軍のすぐ近くまで来ていた。

こちらの伝令の兵士は、魔物にも遭遇せずに辿り着き、すぐさまに救援に向かえた。

それでギルバートよりも、先んじて救援に向かえていた。

しかし彼等の眼前には、オーガの頭が森の上に出ているのが見えた。

その姿を見て、フランドールは危険だと感じていた。


「あちらです」

「ああ

 魔物の姿が見えて来た

 みんな気を付けて向かえ」

「はい」


既に木々の向こうにオーガの頭が見えており、その数は4匹を確認出来た。

どうやら向かっている間に、将軍が2体倒したのだろう。

しかしそれでも、向こうには4体のオーガが健在である。

急がなければ、如何な将軍でも危険であろう。


兵士達はそれぞれ左右に分かれて向かい、森の中に開けた場所に出た。

そこは元々は30ⅿほどの開けた場所だったが、今はオーガが暴れた為に木々が倒されている。

何も無い空き地が、100ⅿ近い広場になっていた。

その開けた場所でオーガが、引っこ抜いた木を振り回していた。


ブン!

ドサッ!


フランドールが広場に出た時、大きな木が唸りを上げて飛んで来る。

オーガの内の1体が、引っこ抜いた木をぶん投げたのだ。

フランドールは慌てて、その飛んで来た大きな物を躱す。

そしてその物体が、木だという事に驚いていた。


「うおっ」


フランドールはそのまま、広場に向けて駆け出す。

そうして細剣を引き抜くと、素早く周囲を見回した。

そこにはオーガが1体倒れており、その向こう側で将軍がもう1体と対峙していた。

オーガは大きな腕を振り回し、将軍目掛けて殴り掛かる。

どうやら先ほどの木は、このオーガが放った物の様だった。

そいつは将軍を狙って投げたのだが、将軍が躱した木が飛んで来たのだ。


さらに周囲を見渡すと兵士が2人倒れていたが、彼等はまだ生きてはいる様子だった。

残りの兵士達もオーガを挑発したり攻撃して、何とか将軍に近寄らせない様にしていた。

フランドールは手近なオーガを探し、先ずは左のオーガに狙いを定めた。

そうして狙いを定めると、先ずはオーガの気を引く事にする。

抜刀したまま駆け出すと、気勢を上げてオーガの注意を引く。


「ふおおおお」

グガッ?


フランドールの声に反応し、オーガが顔をこちらに向ける。

足元で牽制していた3名の兵士が、フランドールの声に反応して場所を空けた。

彼はそのまま駆け込み、踏み込みながら剣を掲げる。

剣は光を放ち、赤く燃え上がり始める。


「つぇりゃあああ」

ボオウウ!


剣はフランドールの魔力を吸って、その力を発揮する。

炎が赤く刀身を包み込み、頭上に高く振り翳される。

フランドールはそれを、思いっ切り魔物に向けて振り下ろす。

魔力の籠った斬撃が放たれ、炎が刀身から放たれた。


「おお!」

「すげえ」

ザシュ!

グガアアア


炎は鞭の様に(しな)り、魔物の左腕に叩き付けられる。

そのまま腕を炎が包み込み、燃え上がりながら叩き切った。

魔物はまさか、炎が飛んで来るとは思ってはいなかった。

しかもそれが剣の様に攻撃力があるとは、思ってもいなかっただろう。

炎は魔物の腕を焼き切り、地面にも炎と傷跡を残す。

その炎は左脚も焼き、兵士達は慌ててその場から離れる。


「危ない!」

「ここは危険だ

 離れよう」

「何て一撃だ…」

「しかも炎を操るなんて…」

「流石はフランドール様…」


兵士達は邪魔になると判断し、オーガの脚元から離れる。

まさかフランドールが、炎を操るとは思ってもいなかったのだ。

訓練場に居た兵士は、この場には同行していなかった。

だから訓練場での顛末を、知る者は居なかったのだ。


「はああっ」

ゴウッ!


フランドールは駆け出しながら横目で見て、兵士が剣筋の先に居ない事を確認する。

そのまま跳躍すると、魔物の頭の高さまで跳び上がる。

身体強化の効果か、フランドールの身体は軽々と3ⅿ近くまで跳び上がれた。

今までの跳躍では、精々が2mも行かない程度であった。

それが鎧を身に付けた状態で、こうも高々と跳躍できる。

今さらながら、フランドールは身体強化の効果に驚いていた。


グガアア

ブン!


オーガはそれを見て、右手を握り込んで拳を振り抜く。

拳は空を打ち抜く様に、フランドールの身体に向かって行く。

このまま跳躍した状態では、その拳は避けようが無いだろう。

それを身体を捻りながら、フランドールはスキルを発動させた。

左に剣を傾けて、拳に向かってスキルを放つ。

その軌道上に魔物の頭が入る様に計算に入れて、タイミングを合わせて放つ。

咄嗟とはいえ、その様な判断をしたのは天性の剣の才であろう。

フランドールの身体は、スキルの力で前へと引っ張られた。


「スラーッシュ」

ブォン!

ザシュッ!

グオオオ、ガア


フランドールの身体は跳躍した体勢から、急に引っ張られる様に宙を前方に向けて移動する。

そのままの状態では、魔物の拳に打ち抜かれていただろう。

しかしスキルを発動させる事で、フランドールはその窮地を好機に変えていた。

そのまま剣で拳を断ち切り、魔物の頭部に向かって飛来する。

まさかその様にスキルを使い、攻撃を潰すなど誰も考えなかっただろう。


ズドン!

グ…


フランドールは剣先から炎を発しながら、魔物の拳を断ち切った。

そのまま燃え盛る炎の軌跡を残し、彼は魔物の頭目掛けて飛来する。

炎を纏いながら、剣は魔物の頭に叩き付けられた。

オーガの顔が顎の辺りから切り飛ばされて、頭は声も無く宙を舞う。

頭を切り飛ばしたフランドールは、そのまま宙を飛んだ後に地上に着地した。


ズシャッ!

「ふう…」


魔物は頭を失い、崩れる様に倒れる。

宙を舞う頭も燃え上がり、その首にも炎が燃え上がる。

そうして傷口から、血が吹き出す事は無かった。

フランドールは剣を振るって、吹き出す炎を消し去った。

そのまま剣を構えると、周囲の状況を確認する。


周囲を見ると将軍が戦っていたオーガも倒されており、残りは3匹となっていた。

将軍は次のオーガに向かっており、フランドールも次の標的を探す。

しかし残りは兵士が戦っていて、このまま何とか倒せそうだった。

それに怪我人は増えていない様子だったので、無理に加勢する必要も無さそうだ。

先に負傷していた兵士も、駆け付けた兵士達が救護して手当てを受けていた。


このまま次の魔物を倒しても良いが、それでは兵士の訓練にならない。

多少酷だがここは見守って、危険が無い限りは介入しない方が良いのだろう。

それに先ほどの事を考えれば、下手に炎の力を開放しては却って危険だった。

単独で立ち向かうなら有効だが、乱戦には向かない能力だと確認が出来た。

それだけでも収穫と考え、ここは静観しようと剣は仕舞う事にした。


気が付けば、既に戦いの趨勢は決していた。

そんな中でフランドールは、昨夜の会話をふと思い出していた。

それはアーネストと話したスキルの新たな情報で、非常に興味深い物だった。

それはこんな会話から始まった。


「フランドール殿

 スキルについて興味深い事が分かりましたよ」

「興味深い事?」

「ええ

 以前から気になっていたんですが…」


そう言ってアーネストは、付与のされた短剣を引き抜いた。


「このダガーには身体強化の魔法が込められています」

「へえ」

「私は魔力が沢山ありますから

 普通に効果がある筈です」

「うん、そうだね」

「ところが…」


そこでアーネストが魔力を込めるが、依然として重そうにしていた。


「?」

「だめですね…

 やはり発動しない」

「え?」

「どうやら魔術師は身体強化が使えないみたいなんですよ」

「なんと

 それでは不便ではないですか?」

「ええ

 その代わり、身体能力を上げれる魔法はあります

 この剣に使ったのと同じ魔法を掛ければ…

 ほら

 そこまで強化は出来ませんが、少しは軽くなりました」

「なるほど」


アーネストはそう言いながら、自身に身体強化の魔法を掛ける。

それで短剣を、軽々と持ち上げる。

身体強化が無ければ、アーネストにとっては重い鉄の塊に過ぎない。

しかし身体強化を使えば、何とか振るう事は出来るのだ。


フランドールはアーネストの話はその事だと思っていたから、素直に感心していた。

誰にも教わる事無く、彼は独自にその秘密に気が付いた。

それは努力する事もだが、それだけの才もあるのだろう。

でなければ、こんな事は気が付かない筈だ。


「ところで

 今日は教会でお祈りして、やっと鑑定の魔法を覚えました」

「ほおう」

「それでですね、早速色々と使ってみたんです」

「なるほど」

「それでですね、ここからが興味深い事なんです」

「ん?」


アーネストは何か思うところがあるのか、ニヤリと笑ってから鑑定を使った。

フランドールは、てっきり先ほどの事が話だと思っていた。

しかしアーネストは、さらに色々と調べていたのだ。

それは鑑定の使い過ぎで、魔力不足を起こすほどにだ。


「鑑定

 ふむ…

 やはり」

「やはり?」


フランドールの方をしげしげと眺めて、何事か納得して頷く。


「どうされましたか?」

「いやなに、あなたも身体強化が出来るんだなって」

「え?」

「鑑定で見ましたが、あなたのスキルに身体強化がありますよ」

「それは…

 剣があるからですか?」

「いえ

 今は剣を持ってませんし、恐らくは自身のスキルかと」


フランドールはそう聞いて、改めて自分のスキルを使おうとしてみた。

しかし肝心の、そのスキルの使い方が分からなかった。

スキルを使う時の様に、先ずはスキル名を言ってみる。

次に頭に思い浮かべたり、力を込めてみたりする。

しかしどうやら、そのスキルは発揮されなかった。


「ふぬぬぬ…」

「どうです?」

「し、身体強化」

「使えそうですか?」

「…」

「フランドール殿?」

「どうすれば…

 そのスキルを使えるんです?」

「え?

 武器と同じです

 ただし武器にではなく、全身に魔力を送る感覚で…」

「え?」

「まさか…

 さっきのは分らなくて?」

「…」


フランドールは誤魔化す様に、苦笑いを浮かべる。

それから早速、言われた様に全身に魔力を流してみる。

これはフランドールにも、その様な資質がある証拠なのだろう。

彼はいとも簡単に、全身に魔力を流して見せる。

普通は言われても、そう簡単には全身に魔力を流せない。

彼は細剣に魔力を流した要領で、自身の身体に魔力を流してみせたのだ。


「お?

 おお…」

「出来たみたいですね」


フランドールが軽く身体を動かすが、鋭い突きや体捌きで風切り音が鳴る。

今まででも、拳で空を切る音は出せていた。

しかし今の状態では、さらに身体が軽くなった様に感じられる。

空を切る音も、少しだが良くなった気がした。


「身体が軽いです」

「ええ

 それが慣れてくると、効果も上がってきます

 今、ギルは身体強化のレベル3になっています」

「レベル?」

「ええ

 段階だと思ってください

 フランドール殿がレベル1で、ギルは3ですから2段階上の効果まで使えます

 スラッシュみたいな技はレベルがありませんが、こういう強化等はレベルがあるみたいですね」

「なるほど」


良くなった気はしたが、実際にはそこまででも無いみたいである。

しかし使わないと使ったでは、やはり違いがあるのだろう。

ギルバートとの間には、やはり差はあるみたいだし。

ここは地道に訓練するしか無いのだろう。


「少しは良くなるのかな?」

「でしょうね

 しかし楽観は出来ませんよ?」

「ああ

 これでもまだまだ、ギルバート殿とは差があるのだろう?」

「ですね」

「どうすれば…」

「そうですね…

 ベヘモットも言っていましたが、熟練度?

 あれが鍵みたいですね」

「使徒殿が言っていたやつか」

「ええ」


ベヘモットは以前に、スキルも魔法も訓練次第だと言っていた。

そうして何度も使う事で、真に身に付ける事が出来る。

そして訓練次第で、効果が上がるとも言っていた。

その事が恐らく、レベルとやらの事なのだろう。

ギルバートとの差は、その事が関係するのだろう。


「そして、ここからもう一つ

 このスキルが使えるのは称号がある者か、ジョブで戦士や騎士になった者です

 鍛冶師や魔術師は持ってませんでした」

「へえ

 戦闘に使うスキルは、戦闘の専門家しか使えないんですかね」

「そう!

 まさにそれ

 私が面白いと思ったのはそこなんです」

「え?」


ここでアーネストは、何かに食い付いた様に急に生き生きとし始める。

饒舌になり、勢い良く喋り始めた。

魔術師という者達には、こういった悪癖があるのだ。

興味のある事には、妙に熱心になり過ぎるのだ。


「まだ調べている途中ですが、恐らくあなたも思った事が、そのまま答えだと思います

 戦闘に必要だから、身体強化が得られる

 それも武器に付与された効果を使った者の方が覚えは早いみたいです」

「なるほど

 そうなると、ギルバート殿がレベル3ですか?

 そこまで上げたのは剣の効果を使っていたからですね」

「いえ、それだけでは無いかと

 恐らくですが…

 ギルは無意識で身体強化を使っています」

「無意識で?」

「ええ

 普段の生活では…

 使っていないみたいですが」

「そんな事をしたら危険でしょう?」

「ええ

 ですが訓練の時や、戦闘の時には…

 恐らく自身の身体強化も使っています」

 武器と自分のスキルの両方を同時に使っているんです」

「え?

 それってすごく強くなりませんか?」

「そうです

 だからギルはあれだけ強いんです」


フランドールは模擬戦で、ギルバートに圧倒されていた。

少年であるギルバートが、大人であるフランドールを圧倒していた。

それは異常な事であり、フランドールはその事でギルバートに恐怖を感じた事もあった。

それが彼本来の力と思っていたが、実はスキルの恩恵もあった様なのだ。


「それなら…

 私も訓練してスキルを伸ばせば…」

「ええ

 ギルの強さに追い付けますよ」

「おお

 それは…」


昨夜の話は、おおよそこんなものであった。

その後に剣だけ魔力を流したり、スキルだけ使ってみたりしてみた。

両方を使う事も試してみたが、それは危険なので慣れるまでは使えそうになかった。

自身の身体強化では、そこまでの向上は得られない。

しかし武器の身体強化では、それなりの強化を得られるのだ。

それだけでも、オーク程度では十分であった。


それを踏まえて考えてみても、単独ならオーガの討伐も怖くなくなっていた。

実際に戦ってみて、その思いは一層強くなっていた。

これまでと違って、剣でも十分に倒す事が出来そうであった。

それに加えて、今では剣から炎も出せる様になっていた。

ここまで強くなれば、オーガも怖くなくなっていた。


勿論、油断してまともに殴られたら、さすがに無事では済まないだろう。

しかし正面からなら十分に対処できるし、反撃も可能だった。

それになにより、フランドールの戦闘スタイルは回避からの反撃だ。

今までは攻撃力が足りなくて、魔物の反撃を恐れていた。

それが倒せるとなると、安心して攻撃出来る様になる。

それだけでも、十分な強化と言えるだろう。


ここまで強くなれたのは、武器の強化もあったが周りの協力もあったからだ。

称号を得た事で、彼はスキルを身に着ける事が出来た。

また、魔物の狩りに参加させてもらったり、スキルの事を教えてもらえた。

そして街の者達からは、武器や食料など多大な援助も受けている。

その恩義に報いる為にも、魔物の侵攻は食い止めなければならない。


そして今では、それ以上に大きな目的も出来た。

ギルバートを超える事で、改めて領主として認めてもらう事。

その為には自分の事もだが、私兵だった者達を率いて鍛えて強くなる。

この街の兵士に負けない強い兵士を目指して鍛え上げる、それが目標になっていた。


今日ももう少し狩りは続けるが、今の戦闘でまた強くなっているだろう。

なんせ気が付けば、2匹のオーガを兵士達が倒していたからだ。

将軍が1匹相手にしてくれていたが、その間に何とか倒せた様だ。

これだけでも、彼等が強くなった事は確実だろう。


「フランドール様

 やりましたよ」

「オレ達だけで倒しました」

「こいつは戦士になりましたよ」

「オレも新しいスキルが使える様になりました」


私兵達が歓声を上げている。

どうやら数人、戦士のジョブを得られた様だ。

それに加えて、スキルが使える様になった者も増えている。

やはり強敵であるオーガを倒した事が、彼等に力を与えてくれているのだろう。


「よくやった」

「はい」


どんな能力を得たのかは、今はまだ不明だった。

それを調べるには、アーネストの持つ鑑定というスキルが必要だった。

フランドールは自分も、そのスキルを身に付けるべきだと考え始めていた。

そうすれば、彼自身が私兵達の能力を把握できるようになるだろう。


調べる為にも、街に帰ったら教会に立ち寄ろう

今日の勝利の報告と、彼等が生き残れた事に感謝しなければ

そして女神様に祈って、鑑定のスキルを授かる様に願おう

そうすれば私も、彼等の成長の手助けが出来る


フランドールはそう思って、少しだけ頼もしくなった兵士達を見詰めていた。

まだまだ続きます。

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