第089話
フランドールは邸宅に戻ると、寝室のベットに倒れ込んで悶絶していた
確かに剣は素晴らしく、炎が出るのは恰好良かった
しかし訓練場でみんなに注目され、そこでの称賛の注目は恥ずかしかった
後から考えて、もう少し人が居ない時にすれば良かったと思っていた
夕食の準備が進められていて、旨そうな匂いが漂って来る
時刻はそろそろ、夕刻を回っていた
そんな中で、誰かがドアをノックする音がした
従者が応対に出ると、そこにはアーネストが部屋に尋ねて来た
それはギルド長から剣を渡した事を聞き、その成果を聞きに来たのだ
コンコン!
「はい
何でしょうか?」
「フランドール殿、よろしいですか?」
「フランドール様」
「ああ
アーネストか
入ってもらってくれ」
「はい」
フランドールは気が付き、慌てて起き上がって返事をした。
従者が中に通して、隣の執務室に案内する。
フランドールも起き上がると、そのまま執務室に向かった。
「ああ
どうぞ」
アーネストは中に入ると、フランドールの前の椅子に座った。
「どうやら剣を受け取った様ですが、どうでしたか?」
「ああ…」
フランドールは質問に答えつつ、少し不満も溢した。
「立派な剣に仕上げてくださり、ありがとう
しかし…
あれはどうにかならなかったのか?」
「え?
あれとは?」
「剣から炎が出る事だよ」
そこでアーネストは気が付くが、何が問題か気になった。
「何か問題がありましたか?」
「うーん
問題は無いんだが、ちょっと…」
「ちょっと?」
「武器としては強力なんだが、少し恥ずかしかった」
「え?
恥ずかしい?」
「訓練場で試してみたんだがね、みんなが注目してね…」
「ああ、なるほど」
そこで思わず、アーネストはクスリと笑った。
「笑うなよ
すごく恥ずかしかったんだぞ」
「それは…
また、くくく…
でも性能は良かったでしょう?」
「まあ、それは…」
アーネストはまだ、クスクスと笑いを漏らしている。
その様子を、フランドールは顔を顰めて睨んでいた。
それからフランドールは、剣の性能と炎の効果を話した。
まだ素振りだけだが、それでも得られた情報はあった。
「先ずは重さはほとんど感じなかった
さすがは身体強化の付与がしっかりと効いていたね」
「そうですね
魔石はオークの魔石を使っていますから、効果は高いですよ
ですから刀身に使った魔石に細工が出来ました」
「なるほどね
確かに炎が出るのは助かるよ
もし剣が効かない魔物が現れても、炎で焼けば何とかなりそうだ」
「そうでしょう
他にも魔法を仕込めそうなんですが、今回は試しという事で炎にしてみました」
「炎以外にも組み込めるのかい?」
「そうですね…
試していませんが、マジックボルトやライトニングボルトが試せそうですね
ただ、雷は金属を通しますから…」
「あ…
自分が食らう可能性が高いのか?」
「ええ
炎もあまり多用していると、刀身が焼ける可能性があります
一度使ったら、少し冷却する様にしてください」
ギルド長もその事は、注意する様に言っていた。
しかし刀身が焼けるとなれば、ただ熱くなるだけでは無さそうだ。
フランドールはその事に関して、アーネストに確認する。
「刀身が焼けたらどうなるんだい?
持ち手が熱くなるのか?」」
「そうですねえ
それもありますが…」
「それも?」
「ええ
熱くなれば持てないでしょうし
何よりも耐久力が落ちたり、熱で曲がったり…
そこが心配ですね」
「熱による影響か?」
「ええ
そもそも、剣を打ち出す時にも熱するでしょう?
ですから熱くなると…」
「どうしても影響が出るか?」
「ええ
最悪は付与した魔法の効果が無くなったりするかも知れません
そこはまだ試してませんが、危険ですから注意してください」
「そうか…
分かったよ、気を付けるよ」
それからアーネストは、炎に対する注意も警告する。
それ自体はありふれた、炎が自身に向かない様に振るう様な事だった。
その点は、フランドールも危険だと考えていた。
フランドールはそれから再度礼を言い、アーネストは部屋を出て行った。
フランドールは再び細剣を見て、その使い方を考えていた。
炎が伸びるので、多少離れた相手でも攻撃できる。
それこそ使い様では跳躍しなくても、オーガの頭や胸に攻撃を当てれそうだ。
そう考えると、オーガに対しても有効な武器だと思える。
その点だけでも、今まで以上に戦い易くなるだろう。
もし問題があるとするなら、打撃も炎も効かない魔物が現れたらだろう。
そうなってしまえば、折角の炎も無意味になってしまう。
それに打撃が効かなければ、どこまで細剣が効果あるのか保証が無い。
そんな魔物が存在するか、それは疑問ではあったが…。
そうして考え事をしていると、夕食が出来たとメイドが呼びに来た。
フランドールは武具を脱いでガウンに着替え、風呂に入ってから夕食に向かう事にした。
従者を呼んで、彼は着ていた鎧を脱ぎ捨てる。
帰ってから今まで、鎧を着たままなのを失念していた。
それ程までに、あの場での事が恥ずかしかったのだ。
フランドールが夕食の席に向かうと、そこではすでにギルバートがアーネストと談笑していた。
話題はどうやらあの細剣の事のようで、些か気恥ずかしくなる。
それを見越してか、アーネストが話題を変えようとした。
「フランドール殿
明日も森に出るんですか?」
「ん?
ああ」
「現在森には、オークのみ出ていますよね?」
「そうだねえ」
「他の魔物は見ませんでしたか?」
「うーん
私は見ていないね
ギルバート殿はどうなんだい?」
「私ですか?
そうですね、今日もオークしか見てません
もう少し奥に行かないと魔物も減ってますしね」
「そうなんだよな」
最初の2、3日はオークも沢山居たが、段々と数が減って来ていた。
これは森に出る人数が増えて、狩る魔物の数が多くなった為だろう。
北から逃げて来ているにしても、その数より多く狩ればいずれは魔物が居なくなってしまう。
思ったよりも逃げ出した魔物は、その数が多くない様子だった。
「どうだろう?
思い切って北の森に向かってみないかい?」
「北ですか?」
「ああ
魔物は北から来るんだろう?
それなら北の方が多く逃げて来るんじゃないかい?」
「そうですね…
このまま東に出ても、肝心の魔物が見当たらないのでは訓練になりませんものね
それでは、明日からは北の城門から出ましょう」
「ああ
後で私兵達にも伝えておくよ」
フランドールの意見を採用し、オーガを狙って北の森へ向かう事になった。
問題は、肝心の魔物が出てくれるかだろう。
本当は魔物が出ない方が良いのだが、魔石や訓練の為にも魔物に出てもらわなければならない。
こればっかりは魔物次第だから、内心は魔物に出て欲しいという複雑な悩みになる。
「そういえば私兵は現在、どれくらいスキルを会得してますか?」
「そうだねえ
今日も8名増えたって話だから、今は90名は居ると思うよ」
「オレの聞いた話では、明日には100名になるんじゃないかって言ってたよ
何とか魔物が来る前に、半数は行けるんじゃないかな」
「そうだな
後はスキルが無い者は、城壁の中から弓や投石で攻撃してもらうか」
「そうですね
スキルが使えない以上、足を引っ張る事に成り兼ねない
それなら最初から下げてた方が良いでしょう」
「せめて全員がブレイザーまで使えていれば…
城壁の前でも何とか頑張れるんだけど
スキルが使えないんじゃ、下手に前線に出す訳にはいかないな」
「コボルトまでは戦えても、オークやワイルド・ボアが来たら危険です
それにワイルド・ベアがどのくらい来るのかが分からない
下手したらスキルがある者でも、前線には出せないかも知れないでしょう」
「そうなると、どうするんです?」
「称号かジョブがある者だけで戦うしかないでしょうね
称号やジョブがある者なら、ある程度は称号の効果があるでしょう
オーガでも数人で倒せましたし」
「そんなに違うんですか?」
「ええ
やはり称号やジョブは違いますよ
何も付与されていない剣と、付与された剣を考えれば早いかと」
「称号やジョブがあれば、付与されているのと同じという事ですか?」
「ええ」
フランドールも称号を得て、自身の力が増したのは実感していた。
だが他の兵士がどれほど強くなったのかは、いまいち分かっていなかった。
それは彼等の称号の格が違うのと、装備や地力の差があった為だ。
同じ兵士が称号を得る前と得た後では、やはり大きな差は出ていたのだ。
「そうなると、その人数次第で作戦も変わってきますね」
「ええ
ですから、フランドール殿にも作戦と戦術はよく考えてもらいたいです」
「それはあの本を参考にするって事ですか?」
フランドールには先日、アーネストに貰った本があった。
それはアーネストが翻訳した昔の本で、そこには色々と面白い戦術や陣形が書いてあった。
それを利用すれば、確かにより大きな戦果を期待出来そうだ。
問題は陣形に関しては、事前の訓練が必要だという事だ。
「戦術は何とかなりますが、陣形は…
ギルバート殿、将軍は陣形の訓練はされていますか?」
「あ…
多分していないだろうな」
「おじさんはそんなに頭が良くないから」
「え?」
「アーネスト
それは酷いだろ…」
アーネストの思わぬ酷評に、フランドールは驚いた表情をする。
将軍に選ばれたほどの人だ、それぐらいは出来ると思っていたのだ。
しかしヘンディーは、細々とした作戦を立てる様なタイプでは無かった。
これはそもそも、その師匠であるガレオン将軍にも問題があった。
「将軍は確かに、考えて戦うよりは自分が前に出て引っ張って行くタイプだから
下手に陣形だ戦術だとか言っても、逆に失敗しそうだな」
「そうなんだよな
そもそもガレオン将軍が、自ら先陣を切るタイプだったからな」
「あの師匠にあって、その弟子だもんな」
「それは…」
「将軍も先陣を切って突撃します
それか細々とした、指揮をその場で指示するんです」
「それで勝てちゃうからな…
だから陣形なんて考えないんだ」
「そうですか
それなら、戦術だけこちらで事前に話し合いましょう
森でも使えそうな物が幾つかありましたから」
「なるほど、それは良さそうですね
いよいよ魔物が来そうになった時に、出来得るだけの準備をしましょう」
三人は夕食を食べながら、そんな話を延々としていた。
その向かい側では母や妹が、不機嫌そうに食事をしていたが三人は気が付いていなかった。
そしてフィオーナが何か話したそうにしているのも、三人は気が付いていなかった。
三人はそのまま食事が終わると、執務室に向かった。
そこからは夜遅くまで、過去の戦術や陣形の話を談義していた。
その後に翌日の連絡を済ますと、時刻は12時を回ろうとしていた。
翌日も魔物の討伐に向かうので少しでも寝ておこうと話し、そのままアーネストも泊まる事になった。
アーネストはいつもの、自分用の客間に泊まる事にする。
そのまま三人は、遅くまで話し込んでから就寝した。
その後にアーネストは、こっそりとバルコニーに出ていた。
夜の内に王都から、使い魔が届いていたのだ。
そこには国王からの、至急の連絡が記されていた。
それを読んで、アーネストは困った様な顔をする。
「参ったな…」
国王からは、増援の兵士は送れないと記されていた。
この事自体は、アーネストも予想をしていた。
今さら増援を送ったとしても、魔物の侵攻には間に合わないだろう。
しかし問題は、その先に記された注意事項であった。
「これはギルには話せないな…」
そこに記された内容は、とても親友であるギルバートには話せない内容であった。
だからアーネストは、その手紙をこっそりと仕舞う事にした。
いずれ明るみにはなるだろうが、今は伏せておくべき事である。
そう考えて、彼はポーチの奥底にそれを仕舞い込んだ。
先ずは魔物をどうにかしなければ、この問題は片付けれ無いだろう。
そう思いながら、彼はこの手紙の事は秘密にする事にした。
そうして伸びをすると、彼は就寝する為に部屋に戻るのであった。
夜が明けると、外は霧雨が降っていた。
いよいよ、魔物が来る予定まであと1週間となっていた。
今日から北の城門を出て、オーガに狙いを絞って討伐する事となる。
勿論自信が無い者は、オークでも良かった。
しかしオークも東では少なくなっていたので、やはり出るのは同じ北の城門からとなった。
北の城門では、今日も兵士達が集合していた。
「今日から北に向けて出る事になるが、注意する事は同じだ
魔物にバレない様に接近する為に、大声や物音は厳禁だ」
「はい」
「それからオーガは大型の魔物だから、接近すればすぐに分かる
森の上に頭が出るからな」
「はい」
「見つけたら自信が無い者はすぐに下がる様に
下手に残って居ると、他の者の戦闘に巻き込まれるからな」
「はい」
将軍の注意にみなが返事をし、徐々に士気が高まって行く。
時刻はそろそろ、朝の7時になろうとしていた。
季節は夏を過ぎて、秋を迎えようとしている。
魔物もこの時刻には、朝の狩りの為に起きだしている筈だった。
その魔物を狩る為に、兵士達は十分に支度を整える。
そしていよいよ城門を潜ると、12名ずつに分かれて彼等は移動を開始した。
「フランドール殿はどうします?」
「私は私兵達と移動するよ
もしオーガを見付けたら、私が戦わないといけないからね」
「そうですか
ただ、無理はしません様に
1匹、2匹なら良いですが、多い様なら撤退してください」
「それは十分承知しているよ
私もこんな所で死にたくないからね
そちらも気を付けてください」
「ええ」
そう言ってお互いに挨拶を交わすと、それぞれ別の方向へ向かって行った。
フランドールはすぐにオークの群れを見つけ、私兵達に戦わせる。
自分も出たいがオークは14匹しか居ないので、ここで出れば兵士の訓練にならない。
フランドールは周囲の警戒をしつつ、部下達の戦闘を見守っていた。
ギルバートもすぐにオークの群れを見付けた。
こちらはオークが8匹とワイルド・ボアが5匹連れられていた。
彼等はワイルド・ボアに、野草を食べさせる為に連れているのだろう。
ここでワイルド・ボアを捕らえれれば、そのまま飼育の実験が出来そうだ。
なるべく殺さない様に、捕獲する必要があった。
「よし、あれは貴重な食料になる
先に君達がオークを狙い、こっちでワイルド・ボアを逃がさない様に抑える」
「はい」
「出来れば、ワイルド・ボアは捕獲したい
傷付けない様に注意してくれ」
「はい」
ギルバートは私兵達に、オークと戦わせる事にした。
その間にワイルド・ボアを捕獲しても良かったが、出来ればこれも私兵達に任せたかった。
その方が訓練になるし、何か称号やスキルが得られるかも知れない。
何よりもダーナの兵士では、そのままスキルで倒してしまう可能性がある。
捕獲する為には、攻撃力の低い私兵の方が向いているだろう。
私兵達が慎重に後方に回り、その間にギルバート達も配置に着く。
合図を送ると、私兵達が声を上げてオークを急襲する。
それに合わせてワイルド・ボアが逃げようとするが、ギルバート達がそれを阻止する。
ダーナの兵士に散開させて、ワイルド・ボアが逃げ出さない様に囲む。
「よし、こっちは抑えてるからオークを頼む」
「はい」
「うりゃああ」
「うおおお」
私兵達は先ずは、普通に剣を振るって切り掛かる。
これでワイルド・ボアと、オークの群れを分断させる為だ。
この間にダーナの兵士達が、ワイルド・ボアを囲みながら移動する。
こうして分断する事で、私兵達はオークに集中出来る。
私兵達が頑張っている間、ギルバート達もワイルド・ボアに攻撃して気を逸らさせる。
上手く囲めたので、ワイルド・ボアは右に左に逃げ惑って囲みから出れなかった。
そうして傷付けない様に、慎重に魔物の体力を消耗させる。
上手く走らせれば、疲れて動きも鈍くなるだろう。
ギルバートはそう判断して、兵士に魔物を追い掛けさせた。
その間に私兵達が、1匹、2匹とオークを倒して行く。
私兵達はスキルを使い、何とかオークに打撃を与える。
一撃はまだ軽いが、通常の攻撃よりは強力だった。
それでオークの群れも、着実にその数を減らしていた。
「こいつで最後だ
スラッシュ!」
ズバッ!
ブギイイイイ
止めのスラッシュがオークの胴を薙ぎ、腹の辺りから上下に別れて崩れ落ちる。
切り裂かれたあばら骨から、温かい血が噴き上がる。
肺や内臓をぶちまけて、魔物はその場に崩れ落ちた。
動かなくなったのを見定めて、私兵は魔物の胸元を切り裂く。
オークになれば、魔石を持っている可能性が高いからだ。
「よし、後はこのワイルド・ボアだけだ」
プギイイイ
ドドドド!
「うおおおお
ブレイザー」
ザシュッ!
プギャッ!
私兵の一人がワイルド・ボアの突進を躱しながら、上手くスキルで首を刎ねる。
その間にも、もう一人の私兵がスラッシュで足を切り落とし、動けなくする。
「良いぞ
残りは3匹だ」
「こいつ等は気絶させて、連れ帰る事にしよう」
「はい」
「剣で切るなよ
柄で頭を殴り付けろ」
「はい」
残りも上手く連携して、苦も無く倒す。
何とか2頭のワイルド・ボアを、気絶させて捕らえる事が出来た。
3頭目のワイルド・ボアは、残念ながら打ち所が悪かった様だ。
そのまま倒れて、動かなくなってしまった。
「あ…」
「あれ?」
「おい
死んじまったんじゃあ」
「ああ…」
「仕方が無い
しかし2頭は気絶させた
縛り上げるぞ」
「はい」
私兵達も最初の頃と比べたら、技量も格段に上がっていた。
それは毎日の様な魔物との戦いもだが、自身の未熟さを知って頑張ったからだ。
彼等は選民思想者と違って、自分の技量や未熟さを受け入れる度量があった。
その事が素直に努力する事に繋がり、結果として腕を上げて行く事となった。
そして、強い魔物を倒せた事が自信に繋がり、臆する事無く戦う勇気にもなった。
実際に、オークを倒す前だと、ワイルド・ボア等見ただけで逃げ出していただろう。
しかしオークに比べたら、突進するだけの魔物だった。
その突進さえ気を付ければ、後は難なく倒せる魔物だ。
「オレ、こんなに強かったんだ」
「馬鹿
それはみんなが手伝ってくれたからだろう」
「勿論そうだが
それでもこんな魔物まで倒せる様になっていたんだ…」
「そういえば…
そうだな」
私兵達は魔物を倒せた事で、みな興奮していた。
ギルバートは、最初は注意しようかと思ったが止めていた。
その方が自信が付くだろうし、どうせ少しは休んだ方が良い。
それならこの場で休ませようと思ったからだ。
兵士達が興奮して話しているから、その声で魔物も近付かないだろう。
ギルバートは守備部隊の兵士達に合図して、周囲を警戒させた。
その間にも手の空いた兵士が、魔物の遺骸を集めさせる。
そして捕獲したワイルド・ボアを、運び易い様に縛り上げていた。
その頃、少し離れた場所で、将軍は奮闘していた。
今日は待望のオーガに出会ったのだが、いきなり3匹に当たり自分で1匹を受け持っていた。
そのまま倒しても良いが、折角だから倒した事が無い兵士達に戦わせる事にしたからだ。
残りの2匹を、兵士達が必死になって倒そうとする。
既に1匹は両足をズダズダに切られて転倒している。
もう1匹も右足を切られ、今まさに転倒した。
グガアアア
グギャアアア
倒れた2匹に向かって兵士が群がり、腕や胸を狙って攻撃をする。
倒れた事によって、魔物の攻撃手段も少なくなっている。
油断をしなければ、重傷は負っても殺される事は無いだろう。
将軍はそう思いながら、眼前の魔物に意識を戻した。
魔物は仲間の危機を見て、将軍に向けて棍棒の様な大木を振るう。
将軍はそれをひらりと躱して、魔物の脛に強烈な一撃をお見舞いする。
このまま倒しても良いのだが、出来れば私兵達にも手伝わせたかった。
それで将軍は、なるべく鎌の刃を当てない様にしていた。
今の一撃も、鎌の峰を振るって当てていた。
それが裏目に出るとは、思ってもいなかったのだ。
グガアアア
ブン!
「甘い」
ドスン!
1匹は虫の息
もう1匹もすぐに済みそうだ
後はこいつを…
将軍がそう思って攻撃を躱していた時、向こうの森からヒョッコリと頭が出た。
「げっ」
グガア?
グゴオオオ
続け様にヒョコヒョコと、森の上に頭が出て来る。
その数は全部で5つ。
さすがに将軍はマズいと思った。
「そいつをやったら、急いで助けを呼べ!
さすがにこの数は危険だ!」
その声でオーガに気付かれたが、この際止むを得ない事だった。
将軍は今まで戦っていたオーガの腕を切り飛ばしながら、後方に下がった。
そして将軍の声で数人の兵士が走り出し、応援を呼びに向かった。
それは丁度、ギルバートとフランドールが居る方角だった。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。