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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第087話

将軍は残された私兵を集めると、訓練場に集めた

騎士は96名で騎兵が48名、歩兵は282名残っていた

そこから騎士は別として、騎兵と歩兵が集められる

反乱分子は騎兵に多く、歩兵は平民がほとんどで選民思想はそれほど浸透していなかった

また騎士は厳しい戒律があり、貴族から寄越された者以外は比較的まともな者が多かった


歩兵は後方で見学となり、騎兵が前に呼ばれる

何が起こるのかは事前に話されていなかったが、先の反乱が絡んでいる事は容易に想像出来た

だからだろうか騎兵はみな緊張しており、ここで逆らえば自分達も牢に入れられると怯えていた

最初の頃は田舎の兵士と侮って、選民思想に先導されていた者達も、今ではすっかり大人しくなっていた

兵士の練度の差も見ていたし、何よりも魔物の恐ろしさを実感した事が大きかった

これから魔物と戦うには、彼等ダーナの守備部隊に協力してもらわなければ生きていけないだろう


「ん、おほん

 集まってくれて、先ずはありがとう」


将軍が前に出て、演説を始める。

その隣にはハウエル部隊長が立ち、その後方にはフランドールも来ていた。

一度は邸宅に戻って休んでいたが、残った私兵達が心配で見に来たのだ。

彼等は何も知らされず、訓練所で訓練を受けていた。

だからこそフランドールは、そんな彼等を守りたいと考えていた。


「君達のほとんどが、会議に出ていなかったから状況が分からないと思う」

「一体何が起こったんです?」

「街には兵士が出ていたと聞きました」

「それに一部の兵士が居ませんが?」

「そういえばダニエルが居ないな」

「ジャックやニコルソンも居ないぞ?」

「あいつ等はどうしたんだ?」

「また酒場に逃げ出していたのか?」


その言葉に騎兵達はコクコクと頷き、兵士はざわついていた。


「静かに!」


ハウエル部隊長が声を上げて、私兵達を静まらせる。


「えー…

 実は、こちらに大規模な魔物の群れが向かっているという情報が入った」

「え?」

「何だって!」

「そんな」

「聞いて無いぞ?

 そんな報告」

「静かにしろ!」


再びざわつきだし、ハウエル部隊長が諌める。


「これは確かな情報で、ここから北に向かった半島よりこちらに向かっているらしい

 期間は2週間ほどで到着する見込みだ」

「そんな!」

「たったの2週間?」

「それでは街を放棄するのか?」

「これからって時に…」

「その影響か、ここ数日魔物が活発に動いている

 ゴブリンやコボルトは南に避難し、オークが北から南下している」

「君達も聞いているとは思うが、最近では魔物が増えつつある

 その原因が魔物の侵攻である」

「それで増えている」

「だとしてもこれでは…」

「ああ

 街を放棄するしか…」

「静かにしろ

 まだ途中だ」


ハウエルの言葉が効いているのか、今度はそれほど騒がない。

しかし明らかに動揺していて、兵士の中には絶望してその場にへたり込む者もいた。


「それから、北からオーガも南下している様だ」


「オーガってあの大型の魔物だろ?」

「ああ…

 もうお終いだ」

「逃げ切れるのか?」

「ここまで来て…

 オレの冒険も終わりか…」


いよいよ絶望したのか、さらに蹲る兵士が増える。

さすがに大型の魔物も居るとなれば、逃げ切れるとは思えない。

それで多くの私兵が、絶望して蹲っていた。


「しかしだ、オレはこれを好機と思っている」

「え?」

「はあ?」

「何が好機なんだ?」

「そうだよ

 もう絶望じゃないか」


この発言には、兵士も騎兵も困惑していた。

何故なら自分達が敵わない危険な魔物が多数、こちらに向かっている。

普通に考えるのなら、今すぐにでも逃げ出すべきだろう。

それすらも、増えて来ている魔物のせいで困難である。

それを好機と言うには、かなり問題があるだろう。


それなのにそれを、将軍は好機だなんて言っているのだ。

この男は何を言っているんだ?と、私兵達は困惑した表情をしていた。

逃げ出すにしても、魔物を倒しながら王都に向かう事になる。

それは好機と言うより、絶望と表現すべきだろう。


「君達がそう思うのは尤もだ」


将軍はそう言って、頷く様に首を縦に振る。

再び騎兵や兵士達が、コクコクと頷いた。


「しかしな

 危険な魔物が増えるという事は、それだけ良い素材が手に入るって事だ」

「な!」

「それはそうでしょうが…」

「そもそも勝てないでしょう?」

「そうですよ

 魔物の群れが向かて来るんですよ?」


しかし将軍は、そんな兵士達にニヤリと笑って答える。


「それに…

 君達が鍛えられ、より強い戦士になれるチャンスでもある」

「いや…」

「そうかも知れないけど…」

「普通は死ぬでしょう?」

「いや

 我々は勝つつもりだ」

「勝つって…」

「勝算があるんですか?」


これにはみんな、ポカーンとした顔をして将軍を見ていた。

ただでさえ彼等は、コボルトにすら苦戦している。

それを群れを成す魔物を、倒すつもりだと言うのだ。

それは彼等私兵達には、およそ理解出来る言葉では無かった。


「論より証拠だ

 おい!」


将軍の合図で、ギルバートの剣と似た大剣が持ってこられる。

それを軽々と持つと、将軍は思いっきり振り回す。

オーガの骨を削ったそれは、長さ150㎝もある大きな剣で、厚みも5㎝ほどあった。

それを難なく振り回す様を見て、改めて兵士達は震え上がった。


ブン!

ブオン!

ズシン!

「重そうだろう?」


将軍は騎兵の方を向いて尋ね、騎兵はコクコクと頷いた。

そこでその騎兵に来いと、将軍は手招きをする。

騎兵は最初、名指しされても理解出来なかった。

彼は騎兵の中でも、そんなに強くは無い方である。

それなのに将軍は、そんな自分を指名したのだ。


「ちょっと、そこの君

 そうそう君だ」

「え?

 は、はい?」

「この剣を持って

 そうそう」

「え?

 これをですか?」


騎兵は言われるままに、その大剣を持つ。

ずっしりと重たい剣は、構えるのがやっとだった。


「うーん

 まだ固いな」

「えっと…」

「君は魔力は使えるかい?

 魔石を使ったランタンとか」

「は、はい…」


騎兵は質問された事に、素直に頷く。

魔石を使ったランタンを、灯す程度の魔力なら持っている。

その程度の魔力なら、平均してみな持っているだろう。

それが何になると、彼は訝し気に将軍を見る。


「では、ランタンを灯す要領で…

 そうだ!

 うんうん」

「え?

 あ、ああ!」


将軍に促された騎兵が、不意に素っ頓狂な声を上げる。

魔力を流し始めると、重かった剣が嘘の様に軽くなったのだ。

さっきまでは持つのがやっとだったのに、今では掲げられる程に軽く感じられた。

頑張ってみれば、何とか振るう事も出来そうだった。


「え…」

「嘘だろ?」

「何でだ?」

「あいつ…

 あんなに力があったか?」

「そう

 こいつには魔法が込められている

 身体強化の魔法だ」

「身体強化?」

「何なんだ?

 それって」


次の騎兵を手招きし、その騎兵も同じ様に剣を持たせる。

その騎兵も、最初は持ち上げる事が出来なかった。

しかし言われた様に魔力を込めると、不思議と剣を持ち上げられた。

しかも剣だけでは無く、身体も軽くなった様に感じる。


「これが…」

「そう

 身体強化だ」

「この剣には魔法陣が刻み込まれている

 それに魔力を流すと、魔道具と同じ様な効果を得られる」

「まあ、無いよりはマシ程度だが、こいつを持てる様にはなる」


それは兵士にとっては、夢の様な話である。

今までは重くて使えなかった、強力な武器も身に付けれるのだ。

それだけでも、魔物との戦いに有利になるだろう。


「今のダーナの兵士の武器は、これほどでは無いが魔法が施されている

 そして君達にもこの装備に慣れて、使いこなしてもらうつもりだ」

「す、すごい」

「これなら…」

「魔物と戦えるかも?」

「ん!

 ただし」

「え?」


再び静まり返り、全員が将軍を見る。


「こいつを作るには素材が足りていない

 言っている意味は…

 分かるな?」

「はい!」


今度は騎兵だけでなく、兵士達も強く頷く。

将軍が言っている事は、魔物を狩れという事である。

それが分かれば、先ほどの言葉の意味も違って来る。

確かに魔物が増えるのは、危険な事ではある。

しかしその分、こうした強力な武器の素材も増えるのだ。


「今配れるのは、こっちだ

 これでもなかなかの剣だぞ」


そう言ってハウエル部隊長は長剣を差し出し、先ほどの兵士達に持たせてみる。


「すげえ

 長剣なのにこんなに振り易い」

「ショートソードと比べたら、格段に使い易い」

「ちょっと貸してくれよ」

「おお…

 こんなに軽いのか?」

「しかし実際には重いんだろう?

 しんた…何だっけ?」

「身体…」

「身体強化だ」

「そうそう

 その身体強化とやらで、軽く感じるんだな」

「重さが変わらないのなら、威力も変わらないんだろう?」

「長剣に変わる分、攻撃の範囲も広くなる」

「その分間合いも変わるからな

 訓練も必要だな」

「しかしこれが振れるなら…」

「ああ

 格段に戦い易くなるだろう」


兵士達が喜び、オレにも振らせてくれと順番に持ってみる。

確かに小剣に比べると、攻撃の間合いは広くなる。

その分有利になるし、魔物を近付けさせないで戦える。


しかし間合いが広くなるという事は、その分周りを気にする必要が出て来る。

今までの感じで振れば、周りの仲間を傷付ける事になる。

その辺も踏まえて、訓練をする必要があるだろう。

そして長くなった分、振った時の感覚も変わって来る。

その点も考慮して、数日は実戦形式の訓練が必要である。


「おほん!」


将軍が再び咳払いをし、みなが注目をする。


「喜ぶのは…

 ってかそんな物見たら誰でもはしゃぐか」

「ははは…」

「ですよね」

「でもな、もう一つ重要な事がある」

「え?」

「何だろう?」


ここでハウエル部隊長が前に出て、剣を構えてみせる。


「諸君らもここの兵士のスキルは見たと思う

 だがな…

 君達は大きな勘違いをしていた」

「え?」

「勘違い?」


「ブレイザー」

シュバ、バッ!


「君達はスキルを覚えたが、まだ使えていない」

「え?」

「オレは振れていますよ?」

「そうですよ!」

「オレだって出来ますよ」

「いや、違うんだ

 フランドール様」


促されて、フランドールが前に出てスキルを出す。


「ブレイザー」

ズバ、ザシュッ!


それは先日とは打って変わった、力で出したスキルではなく、綺麗な線を描いた鋭い技だった。

私兵達はフランドールと、王都で魔物を狩る戦いをしていた。

その時にもフランドールは、スキルを使っている筈だった。

しかし今みせたスキルは、その時のものとは明らかに違っていた。

もっと洗練された、美しく力強い剣術であった。


「この様に

 本当に会得すれば、力ではなく自然に出せる様になる」

「私も先日まで、本当のスキルの会得は出来ていなかった

 スキルを会得した者は、声が聞こえている筈なんだ」

「声?」

「何だそれ?」

「お前分かるか?」

「いや…」

「スキルを会得するには、魔物と何度もスキルを使って戦うか

 称号やジョブという職を授かる必要がある

 これは結局、魔物と戦う事でしか身に着かない」


これは一部嘘であったが、分かり易いのはこの方法であった。

兵士達は驚き、暫くざわざわと相談していた。

それはそうであろう。

今まで会得していた思っていた物が、違うと言われたのだ。

なかなか納得は出来ないだろう。


「あのう…」

「すいません」

「なんだ?」


二人の兵士が代表として、将軍に尋ねる。


「つまるところ…

 武器を得るにしても、スキルを身に着けて強くなるにしても

 魔物と戦わないといけないって事ですか?」

「うむ」

「でも、オレ達じゃオークなんて…」

「そうです

 コボルトだってやっとですよ?」

「まあ、いきなりオークは大変だろう

 先ずはコボルトに勝てる様になろう

 そうすればスラッシュやブレザー辺りは身に着くだろう」

「そうなんですか?」

「ああ」

「それなら…」

「オークは十分に強くなった者が向かえば良い

 先ずはコボルトに勝てる様にならんとな」

「は、はい」


ハウエル部隊長がそう言い、ニカっと笑ってみせた。

それを見て兵士は安心したのか、仲間と頑張ろうと声を掛け合い始めた。

その声を聞いて、他の兵士達もやる気を見せ始める。

それはやがて、私兵全体に広がって行った。


「うんうん

 上手く纏まって良かった」

「ええ

 一時はどうなる事かと思いました」


将軍が頷いていると、フランドールが安心したのか溜息を吐いた。


「そうですな

 いくら出自が不明瞭な者が混じっていたとはいえ、あれだけの逮捕者が出ると大変ですな

 まあ、まともな兵士も沢山いて良かったですな」

「はい」

「彼等はフランドール殿を慕って集まった兵士

 彼等を生かすも殺すも、あなたの手に掛かっています

 ゆめゆめ、その事を忘れないでください」

「はい…」


将軍は大きく息を吸うと、大きな声で宣言した。


「それでは

 明朝より魔物討伐の訓練を行う

 守備部隊からも同行の兵が出るので、明朝の8時に南の門前で集合する様に

 なお、武器はそこで支給するので、傷薬や携帯食のみ持参で集合する事」

「はい」

「諸君らにはこれから準備と休息の時間を与える

 くれぐれも遅刻しない様に

 それでは解散」

「はい」


将軍の通達事項が伝えられ、私兵達は各自で行動に移った。

それを満足そうに見ながら、将軍は振り返った。


「そう言えば、坊ちゃんの姿が見えませんね」

「え?

 そうですね

 私と入れ違いになったのかな?」

「さっきまで捕縛の様子や、収容者の尋問を見学していたんですが…」


将軍はキョロキョロと辺りを見回す。

フランドールは躊躇いながら、そんな将軍に質問する。


「将軍」

「ん?」

「つかぬ事を伺いますが…

 将軍は彼の出自の事を…」

「あ、ああ…

 知りましたか」

「ええ」


将軍はフランドールの事を信用したのか、それ以上は問わなかった。

普通は王家の信用問題も絡む、複雑な情報である。

しかし将軍は、口止めをする様な事は言わなかった。

将軍がわざわざ言わずとも、フランドールは黙っているだろうと信頼したのだ。


「そうですね

 掻い摘んで程度ですが」

「そうですか…」


フランドールは遠くを見る様に、ぼんやりと呟く。


「彼は凄いな

 その出自もだけど、それでもあんなに剣の腕も立ち

 そのうえ性格まで…」

「そうですか?

 剣ならフランドール様も…」

「いや

 私では足元にも及ばないよ」

「そうでしょうか?」

「ええ」


力や経験から来る技術では、確かにフランドールの方が上ではある。

しかしギルバートは、持ち前の力でそれを捻じ伏せてしまう。

多少のフェイント程度では、力任せに叩き伏せられるだろう。

それが分かるからこそ、フランドールは勝てないと確信していた。


「私は殿下の事を…

 幼少より見ていますがね

 あれは努力家ですよ」

「え?」


しかし将軍は、予想外の言葉を発した。

彼は力を持っていたのでは無く、自身の努力で身に付けたと言うのだ。

それは信じられない事だった。

確かにギルバートは、類まれない力を持っているのだろう。

しかし努力したからこそ、それを活かす術も身に付けているのだ。


「フランドール様は…

 坊ちゃんが…

 殿下が天性の才能を持っていると思われていますがね

 殿下は必死で努力されたんですよ

 それこそ幼少時は身体が弱く、何度か死にそうになっていましたからね」

「そう…なんですか?」

「はい」


それは信じられない事だろう。

今のギルバートを見れば、とてもその様には見えない。

しかし幼少期のギルバートは、本当に消え入りそうな弱い身体の子供であった。

それがすくすくと育つにつれて、力を身に付けて来たのだ。

それこそ血を流す事を厭わず、無茶な訓練をしてまでもだ。


「そうか…」

「身体が弱く、非力な自分を責めて

 それで頑張って来たんです」

「身体が弱くて…

 でも今は?」

「それは苦しんでおられましたからね

 危ないって訓練を、小さな子供がしてたんですよ?

 何度も危ないって注意したんですが…」

「はは…

 それで力を?」

「ええ」


それは口では言うほど、危険な事では無いのかも知れない。

それでも小さな子供には、危険な訓練であったのだろう。

それこそ元は、身体が弱い子供だったのだ。

周りはさぞ、肝を冷やす様な事をしていたのだろう。


「それでも…

 私は自分が嫌になる」


しかしフランドールは、悲しそうに頭を振る。

彼はそんな彼に、嫉妬心を抱いていたからだ。


「私は彼の素質と、人に好かれる性格

 それが羨ましい

 まさに上に立つ人間とはああいうものなんだろう」

「そうですね」

「だけど

 それを見ていると、彼を恐れ、妬んでしまう」

「そうですか?

 あなたも十分に…」

「いえ

 部下を…

 奴等を信じていたつもりでしたが、騙されていました」

「それは彼等が…」

「いいえ

 掌握できる器で無かったんですよ

 だからあんな…」

「そうでしょうか?」

「ギルバート殿なら…

 彼なら違ったでしょう…」

「そうでしょうか?」

「ええ

 羨ましいんでしょうね

 私は平民で、精一杯努力してきたつもりだったのに

 あんな少年に負けるなんて…って」

「坊っちゃんがねえ…」

「ええ

 今でも悔しくて、負けていると感じて…

 惨めな自分が…」

「そうですね…

 オレがもう少し若ければ、嫉妬したかも知れません

 ですが…」


将軍はそう相槌を打ったが、そこから続けた。

ギルバートはギルバートで、フランドールでは無いのだ。

それに比べてみたって、それが何になるだろう?

彼は言葉を選びながら、自分なりの言葉でフランドールに語り掛ける。


「でもね、あなたはあなたでしょう?

 比べてどうするんです?」

「へ?」

「あなたが敵対するんなら、確かに脅威ですし羨ましいでしょう

 でも、あなたは坊ちゃんに…

 殿下に友誼を示したんでしょう?

 違いますか?」

「そりゃあ…

 確かに友達になろうって…」

「あれは嘘ですか?」

「いや!

 違う!」

「なら、何も問題無いのでは?」

「え?」


敵対するのなら、確かに恐ろしい敵になるだろう。

しかしフランドールは、ギルバートに友になろうと言ったのだ。

それが本心であるのなら、彼もギルバートの魅力に惹かれたのだろう。

そして友となり、共にこのダーナを守ろうと誓ったのだ。

それならば、何の問題があろう?


「剣の腕が立つ

 良いじゃないですか

 安心して味方になれる」

「あ…」

「性格が良い?

 まあ、多少問題もありますが…」

「はは…

 そうですか?」

「ですが助かるでしょう?

 多少世間知らずなところがありますが、あなたを兄の様に慕っている」

「こんな…

 私を?」

「ええ」

「こんな私でも…

 彼は…

 くっ、うぐ…」


そこでフランドールは、堪らず涙を溢した。

自身は嫉妬しているのに、彼はそう思ってくれているのだ。

それを聞かされると、恥ずかしさと後悔の念に押される。

しかしそれが本当なら、その気持ちに応えるべきなのだろう。

惨めな気持ちを棄てて、恥ずかしくても彼を認めるべきなのだ。

そしてその上で、彼の為に何か出来る事をするべきなのだろう。


「私はこんなに醜くて、嫉妬しているのに」

「良いじゃないですか

 それを自分で認めて、改めようとしてるんでしょう?」

「私なんかが…

 友だと言って良いんでしょうか?」

「良いんじゃないですか?

 心配なら本人に聞いてみれば…

 まあ、即答で頷きそうですが」

「はは…

 そうだろうね」


それから暫く、フランドールは涙を流し続けた。

周りでは気を利かせた兵士がそれとなく隠し、見られない様に気を配っていた。

それでもフランドールは、周囲の目を気にする事無く涙を流し続けた。

嫉妬した醜さに比べれば、こんな物は恥ずかしく無いと思えた。

そうして流し切ると、気持ちが軽くなった気がした。


「すいません

 取り乱してしまって」

「はははは

 良いんじゃないですか

 スッキリしたでしょう」

「はい」

「フランドール様はまだ若い

 若いうちは色々迷って、間違って…

 でも、それだから楽しいんでしょ?」

「へ?

 あ…はい」

「オレも…

 若い頃は馬鹿やって、色々失敗しました

 そん時助けてくれたのが、ここの領主様です」

「将軍も?」

「ええ

 失敗するのなら、(しがらみ)の少ない今の内ですよ?」

「将軍…」

「将軍が失敗するのは、今も変わらんですよ」

「そうそう

 先日も奥方に…」

「あ!

 こら!

 その話はするな」

「ははは」


将軍は先日も、エレンを怒らせて困った顔をしていた。

しかし懲りていないのか、あれは失敗の内に入れていないらしい。


「まあ、若い内に失敗した方が…」

「説得力が無いですよ」

「うるせえ」

「しかし…

 若い内ですか」

「そうそう

 恥ずかしい失敗でも、若い内なら仕方が無いと許されます

 それに大きな失敗でも…」

「あ…

 誤魔化した」

「まあ、それ以来ここの領主様には、頭が上がんないんです」

「はあ…」

「それは奥方も…」

「うるさい

 お前達は黙ってろよ

 大事な話なんだから」

「説得力が無いですよ…」

「仕方が無いだろ

 オレの頭ではこれが限界だ」


将軍は咳払いをすると、再び真面目な顔をする。


「こほん

 だからフランドール様が気に病むんなら、その分親愛と友誼を持って接すれば…

 それで良いんじゃないですか?」

「そんなもんなんでしょうか?」

「オレはそう思いますね」

「はは

 何だろう

 私は何を悩んでいたんだろうね?」

「世の中は、自分で思っているよりも単純なんです

 あ、これは師匠の受け売りです」

「将軍の師匠も将軍でしたね」

「その方もいい加減で…」

「それは余計だ」

「ふっ」

「はははは」

「ふはは…

 はははは」


それを聞いてフランドールは笑い出し、将軍も豪快に笑った。


「フランドール様

 坊ちゃんを友と思うなら、彼を護ってやってください」

「はい」

「彼は…

 あの子は思ったより重い運命を背負っている

 そんな気がするんです」

「ええ

 私の力が及ぶ限り、護ってみせます」

「その意気です

 頼みましたぞ」


二人は改めて手を出し、固く握手を交わした。


「そうだ

 どうせなら、ここで訓練をやってきますか?」

「え?

 ええ…っと」

「なあに

 明日の予行演習程度の軽い打ち合いです」

「はは

 噂通りの暑い脳筋なんですね…」

「ん?

 何か言いました」

「いえ、何も」

「では…」

「行きますよ

 はああっ」

「来い!

 うおおおお」

ガキン!


そこで二人は構え、大きく息を吐きながら突進した。

それから2時間ほど、訓練場では剣戟の音が響き渡っていた。

まだまだ続きます。

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