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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第085話

ギルバートはこれから行われるであろう戦いに、どの様な助言が必要か悩んでいた

フランドールは初めて会う人物の真意を掴めず、相手に不信感を抱き始めていた

しかし、アーネストは質問したい事を纏めて、それをぶつけようとしていた

彼には彼なりの考えがあったのだ


アーネストは小さく息を吐き、緊張感を取り除こうとする

これから聞く事次第で、魔物との戦いに大きな成果が上げられるのだ

質問を間違えない様に落ち着こうとする


「先ず…

 聞きたい事はジョブについてだな」

「え?」

「おい、アーネスト?」


フランドールとギルバートは驚くが、ベヘモットはニコリと微笑む。


「正解よ

 先ずは疑問を解き明かして、有利にしないとね」


そう言いながら、空中から書物を取り出す。

書物は宙を漂い、アーネストの手に渡る。


「詳細はそこに記されているわ

 簡単に言うと、その職を身に着けたと認められた者が授かるわ

 それに伴い、職に固有のスキルも授かるわよ」

「うーん

 大体想定していた内容だな」

「それから、スキルは修練で授かるし、職に固有の上位のスキルも有るわよ

 例えばスラッシュの上位のスキルや、盾が無いと使えないスキルとか…

 戦士だけでも数種類あるわよ」

「そうか

 無理に無いスキルを練習するより、身に着くであろうスキルを…

 あ、でもそれが分からないと…」


ギルバートが利点に気が付いたが、肝心のスキルが分からなかった。

その為にもアーネストは、先ずはジョブについて質問したのだ。


「そうね

 それも多少はその本に載っているわ

 参考にしなさい」

「ありがとうございます」


ベヘモットの言葉に、フランドールが素直に感謝する。


「それと…

 幾つかのジョブの習得条件と、称号についても記されているわ」

「そもそも、称号ってなんなんです?」

「あら?

 そこから?」


ギルバートの言葉に、ベヘモットは少し不機嫌そうに答える。

彼女としては、その程度は自力で解明して欲しかったのだろう。

しかし質問に関しては、彼女は真摯に答えてくれた。

それが運命の糸(フェイト・スピナー)の役目だと、彼自身が思っているからだ。


「称号はね、女神様が何らかの功績に応じて授ける物よ

 例えば、王子が得たのは勇者に選ばれる候補者が得る称号

 一方そちらの勇者さんには、その行動に対する褒賞みたいな物ね

 だからスキルの開放も加味されているわ」

「なるほど

 それで私はスキルが使える様に…

 しかし、私にはジョブとやらはありませんが?」

「それはそのうち…

 あなたに合った物が授けられるでしょう

 その時には、あなたに世界の声が届くわよ」

「世界の声…」

「そう

 世界の声(ワールド・アナウンス)

 女神様からの報酬の言葉よ」

「女神様の…

 それで頭に声が響いて…」


フランドールは納得したのか、うんうんと頷く。

それを横目に、アーネストは次の質問をする。


「それでは、その称号やジョブ、スキルを確認する方法はありますでしょうか?

 世界の声(ワールド・アナウンス)ですか?

 あれ以外に確認する方法がありますか?

「ええ

 有るには有るわよ

 ステータス・オープン」


ベヘモットはそう呟くと、人差し指と中指を揃えて、縦に振った。


「こうすると自分の称号とか見れるわよ」

「ステータス・オープン」

「ステータス・オープン?」

「ええっと、ステータス・オープン」


それぞれに試し、何度かやって目の前に半透明な板が現れた。

そこには名前や称号、ジョブ等が記されていた。

ギルバートには本当の名前と、幾つかの称号とスキルが???と表示されていた。


「あれ?

 なんだろう、この???って」

「ああ

 それはまだ解放されていない物ね

 いずれ条件を達成すれば、そこに表示されるわ」

「なんだか色々書いてある

 体力とか知力とか…」

「これは他の人からも見えるのかい?」

「それは無いわよ

 わたくしのも見えないでしょう?」

「確かに…」


自分で見る事は出来るが、これでは自己申告でしか無い。

隠している事があれば、それを知る事は出来ないだろう。


「そうなると、他の人から見る方法は無いのかい?」


フランドールが確認の為に聞いてみる。


「それは…

 そうね、教えておくわ

 鑑定というスキルを身に着けると、見る事が出来るわ」

「それは、どの様にして身に着けるんです?」

「そうねえ

 本にも載っているけど…

 或る程度の知力と信仰心を持って、女神様に祈りを捧げると授かるわよ

 そういった条件が必要なスキルもあるから、後で調べておきなさい」

「あれ?

 スキルが身に着かない…」

「信仰心が足りないんじゃないか?

 それとも雑念があるとか…」

「きっと教会で祈らないからじゃないか?」

「ふふふ

 他には無いかしら?」

「そうですね…」


アーネストは試しに祈ったが、新たなスキルは得られなかった。

それは後で調べるとして、今は他の質問が必要だった。

この機会に、聞く必要のある事を聞いておきたかった。

ベヘモットの言葉に、アーネストは質問を思案する。

そこでギルバートが代わりに質問する。


「あのお…

 そのアモンさんはあなたの様に素直に引いてくれないんでしょうか?」

「アモン?

 そうねえ…

 彼はわたくしと違って、戦う事が好きだから…」

「戦う事が好きって…」

「はは

 まるでギルだな」

「おい

 人を変な人みたいに言うなよ」

「十分変だろう?

 率先して戦場に向かって…」

「おい、二人共

 今は質問の方が重要なんだろう?」

「あ…」

「すいません」

「ふふ

 戦って納得すれば退くかも知れないけど…

 彼は納得するまではしつこいかも」

「しつこい…」


それからベヘモットは、あいつは粘着質だとか空気が読めないとか愚痴を続ける。

どうやら相当に仲が悪い様だ。


「全くあいつときたら

 喧嘩腰だし、口は悪いし

 頭も悪いわよね

 それに獣臭くて…」

「あの…」

「ベヘモットさん?」

「あら?

 ほほほほ

 わたくしとしたことが」

「…」

「…」


それからベヘモットは、アモンに関する注意点を述べた。


「アモンは直情径行だから、その点を攻めれば良いわ」

「搦手に弱いとか?」

「ええ

 部下の頭が回らなければ…

 有効でしょうね」

「なるほど…」

「それとアモンは頭があまり…

 面倒な作戦や策略は苦手だから、案外そのまま突進してくるかも」

「そういえば、ベヘモットさんは色々やってくれましたね」

「ベヘモットで良いわよ

 それと、あれは仕方が無かったのよ」

「仕方が無かった?」

「ええ」


ベヘモットはうんざりと言った表情で、事情を説明する。


「本当はもっと攻めても良かったのよ?

 わたくしの役目は、人間の側の結束を促すのと、出来ればスキルや称号を得る者を出したかったの

 それはエルリックから、安易に人間を殺さないでくれと頼まれていたからよ」

「スキルや称号ですか?」

「ええ

 一人でも現れれば、そこから自然と増えるだろうって

 だから無理して、なけなしのアンデットまで出したのよ

 あれはまだ調整中だったのに、王子が簡単に倒しちゃうから」


そこでフランドールが手を挙げ、一番肝心な質問を投げ掛けた。


「あの…

 そのう…

 さっきから気になっていたんですが、その王子って?」

「え?」

「あら?」

「しまった!」

「あら…

 まだ話していなかったの?」

「ええ…」


三人は気まずそうに向き合い、どうしたものかと悩んでいた。

ここで公開しても良いのだろうか?

本来であれば、王都に着くまでは秘密にすべき事である。

しかしどうせ王都に着いたらバレる事だ、ギルバートは思い切って告白した。


「えーっと…

 実はオレ、私はこのクリサリスの王子なんです」

「はあ?」

「死んだ事になっていますが、アルフリートが私の本当の名前です」

「え!」


フランドールは慌ててしゃがみ込むと、深々と臣下の礼を始めた。

アルフリート王子が亡くなった事は、フランドールでも知っている事だった。

王都の民は嘆いていたが、それで災厄が収まったとも喜んでいた。

その亡くなった筈の王子が、こうしてすぐ側に居たのだ。

王子と知った以上は、無礼な態度を取る事は出来なかった。

それは王都の貴族には、身に刻み込まれた事である。


「これは失礼いたしました

 殿下とは知らぬとはいえ、返す返す非礼な真似をし…」

「いやいや

 そんな事は無いですから

 それに王都に着いて公表するまでは、私はここダーナの前領主の息子、ギルバートですから」

「そんな

 それでは失礼に…」

「大丈夫ですよ

 今まで通りにしてください

 その方がこちらも気を使いませんし

 それに…」


ギルバートはニヤリとアーネストの方を向き、意地悪そうに笑う。


「そんな事言ってたら、アーネストはどんだけ無礼だか」

「おい!

 そりゃないだろ」


アーネストは自分に飛び火して、慌てて不満そうに言う。

それを見てギルバートは笑った。

フランドールはその様子を見て、恐る恐る立ち上がる。


「い、良いんですか?」

「ええ

 むしろ王子とか言われる方が困ります

 くれぐれもこの事は内密に」

「は、はい」

「やれやれ

 人間の世界は、色々面倒そうね

 わたくしも気を付けますね」


ベヘモットはそう言うと、小さく溜息を吐いた。


「さて

 そうなると、問題はアモンさんとやらが、いつここに到着するかだな」

「どうでも良いけど、本気で戦う気なの?」

「ええ

 敵わないにしても、住民を見捨てて逃げるワケには行きません

 出来得る限りの事をして、可能なら向こうには撤退してもらいます」

「そうですね

 戦う前から死ぬ事を考えるのは、負けを決める様なものです

 少なくとも、今から準備を始めれば、一矢報いる事が出来るかも知れません」

「そう

 なら、わたくしが言える事はもう、後は頑張ってって言葉だけだわ

 死なないでね…」

「はい」


ベヘモットは満足そうに頷くと、呪文を唱えて姿を消した。


「来た時も突然だったけど、女神様の使徒ってみんなああなのかい?」

「ええ

 転移の呪文が使えるみたいで、それでああして突然来るんです」

「それはまた…」

「いきなり現れるから、毎度驚くんだよな」

「それなら…

 その転移でみんなで移動は出来なかったのだろうか?」

「あ…」

「出来るのか?

 うーん」


フランドールの素朴な疑問に、アーネストは悩みだした。

だが、転移の呪文が高位の魔法である以上、そんな大勢を転移出来るとは考えれない。

それに頼んでも、恐らく断られていただろう。

フランドールは初見で気付いていなかったが、女神の使徒はみな変わり者である。

そしてそんなに、人間に優しくはないのだった。

頼まれても体の良い断り文句を並べて、あっさり断られていた可能性が高い。


「ここでまごまごしていても、時間の無駄だ。

 急いで将軍に相談しよう」

「ああ」

「急ごう」


ギルバートはそう言って、先に立って宿舎に向かった。

昨日の今日で、将軍は宿舎で会議をしていた。

今はフランドールの連れた私兵の、訓練について会議を行っていた。

いきなりオークは危険だが、先ずはコボルトの討伐で訓練しようという意見が上がっていた。

しかし彼等は、コボルトに関してもまだまだ勝てる保証が無かった。


「ううむ…

 しかしだな、勝てる見込みがあるのか?」

「ふざけるな

 コボルトぐらい…」

「勝てるのか?」

「勝てるとも」

「群れを成して来るんですぞ?」

「それでもだ」


私兵達は、コボルトに勝てると言ってはいる。

しかし現実の問題として、多くの私兵がコボルトすら恐れていた。

代表でここに座っている、この兵士は勝てるかも知れない。

しかし私兵によっては、殺される者も少なく無いだろう。


「コボルト以外となると…」

「オークは厳しいですよ」

「だろうな」

「ですがそれよりも弱いとなると…」

「後はゴブリンぐらいですよ?」

「それではまた馬鹿にしていると…」

「当たり前だ

 ゴブリンなどと…」

「ああ

 さすがにそれはな…」

「ええ」

「ううむ…」


将軍が唸っていると、慌てた様子で兵士が駆け込んで来た。

彼等には会議中なので、入室を禁じると言う指示を出していた。

しかし事が事なので、やむを得ず報せに来たのだ。


「どうした?

 今は会議中だが、急ぐ事柄か?」

「はい

 坊ちゃんが至急にお目に掛かりたいと」

「分かった

 みんな、ここで休憩にする

 各自で対策を考えておいてくれ」


将軍がそう言うと、兵士達は意見を交わしながら出て行く。

中には若干不真面目な者も居て、やれやれだとか面倒臭いとか呟いていた。

しかしここで休憩を入れられた事は、むしろ良かったのかも知れない。

兵士達は意見が出せずに、どう対処すべきか困っていたのだ。

将軍は目配せをして、不満を言う者達の所属や名前を記録させた。

処罰まではしないまでも、彼等の行動には注意すべきだと思ったからだ。


「さて

 坊ちゃんは何の用だろう?」


将軍はそう呟きながら、自分の執務室へ向かった。

会議を中断させるぐらいだから、余程の事だろう。

将軍が執務室に入ると、そこには三人が既に座って待っており、将軍は笑顔で挨拶をした。


「これはこれは

 坊ちゃんにフランドール殿も、お元気そうで」

「オレは?」

「ん?

 アーネスト、居たのか」

「ひでえな」


いつもの将軍の言葉に、アーネストが拗ねて(ふく)れたフリをする。

いつもならここで、ギルバートが笑いながら仲裁に入るのだが、今日はいつになく真剣な顔をしている。

その様子に、将軍も真剣な表情になった。


「悪いが、冗談を言ってられる状況じゃなくなった

 魔物が侵攻している」

「何?」

「まだ詳細は分からないが、恐らく2週間ほどで着くらしい」

「それは本当ですか?

 一体どこからその情報を?」


将軍の質問も尤もだった。

近付いて来ていれば、将軍も相応の報せを受けていたし、既に対策におおわらわだったろう。

しかし相手は、2週間は掛かるほど離れている。

どうやってその情報を手に入れたのか。

また、その情報の真偽を考えると、提供者が誰かも気になった。


運命の糸(フェイト・スピナー)

 女神の使徒が現れた」

「使徒…

 どっちですか?

 前に来ていた赤い奴ですか?

 それとも紫の方ですか?」

「紫の方だ

 ベヘモットが報せてくれた」

「それが…

 当てになるんですか?

 奴は以前に、ここに攻め込んだ張本人でしょう?」

「それは大丈夫だ」

「情報も信用しても良さそうだったよ」

「うーむ…」


将軍は腕を組んで、考え込んでしまった。

ギルバートだけならいざ知らず、フランドールまで信用出来ると言うのだ。

そうなって来れば、その魔物の侵攻も真実なのだろう。

しかしそうなれば、早急に対策に取り掛からなければならない。


そこで問題になるのが、ダーナの守備隊の人数不足である。

魔物が増えた事で、死傷者も増えて欠員が多くなっている。

その為に、フランドールの私兵を当てにしていた訳なのだが…。

肝心のフランドールの私兵が、思った以上に役に立たないのだ。

それを鍛える為に、時間と手段を会議で話し合っていたのだ。

それなのに2週間後に、魔物が侵攻して来るというのだ。

そうなれば兵士の補充が間に合わず、戦わずして負けてしまうだろう。


「心配は分かる

 けど問題は、厄介な奴が厄介な魔物を引き連れて来る事だ」

「と、言いますと?」

「今回はベヘモットではないんだ

 アモンという好戦的な使徒らしいよ」

「好戦的ねえ…

 どの道攻められるんでしょう?」

「そうだけど、ベヘモットみたいにすぐに引かないだろうって…

 よほど好戦的なのか、あのベヘモットがしつこいって嫌そうな顔をしていた」

「そりゃまた…」


将軍が嫌そうに、口をへの字に曲げてみせる。

ベヘモットですら、去り際にとんでもない置き土産を置いて行ったのだ。

それで将軍は負傷して、ギルバートも危険な目に遭っていた。

そのベヘモットが、しつこいと嫌がるほどだと言うのだ。

よほどしつこく戦いを挑んで来るのだろう。


「満足するまで退かないんじゃないかって」

「うへえ…

 面倒そうな奴ですね」


何とか魔物を蹴散らして、そのまま引き取ってもらいたい。

しかし満足するまでとなれば、直接使徒とやらまで向かって来そうだ。

そうなれば騎士や将軍では、勝てそうも無かった。

ギルバートやアーネストも加わって、総出で何とかするしかない。


「どうにか…

 なりませんかね?」

「無理だろうね」

「すでに出発してるみたいだし」

「出発?」

「ええ

 こちらに向かって来てるみたいです」

「何とか来ないで欲しいものですな」

「それは同感だけど…」

「悪いけど、もう一つ悪い報せがある」

「さらにですか?」

「ええ」


将軍が嫌がっているが、更に追加で魔物の情報が告げられる。


「どうやら主要な魔物はオークとワイルド・ボア

 それとワイルド・ベアというのもいるらしい」

「ワイルド・ベアですか?

 熊の魔物ですよね?

 どんな魔物なんだか…」

「うん

 普通の熊でも危険なのにその魔物だから、相当危険な魔物だと思った方が良いかも」

「うーむ…」

「それにオーガや他の魔物が居るかも知れないって」

「ああ…

 詰んでいるじゃ無いですか」


フランドールが情報の補足をする。

それに対する将軍の返答は、既にどうしようも無い状況であるという判断だ。

確かにそう聞かされれば、既に勝てる見込みが無いだろう。


「どうするんですか?

 そんなの勝てませんよ?」

「しかし勝つしか無いんだ」

「ああ

 今さら逃げるにしても、何処にどうやって?」

「ああ…

 逃げ場も無いでしょう?

 竜の背骨山脈に向かうにしても、今からでは間に合いませんよ?」

「だろうな」

「だからこそ、ここで何とか死守するしか無いんだ」

「はあ…

 オレの人生は短かったな…」

「おい!」

「まだ負けると決まった訳じゃあ…」

「無理でしょう?

 そもそも、何処に兵士が居るんです?

 フランドール殿には悪いんですが、あの私兵達じゃあ…」

「ああ

 鍛え直すしか無いな」

「その時間が無いでしょう?

 最早逃げるしか…」


将軍の嘆きも、尤もである。

これから鍛えるにしても、2週間程度では大した結果にはならないだろう。


「本当に来るんですか?」

「ああ

 今は北の半島から進軍しているらしい

 あそこは人がほとんど住んでいないから良いけど…」

「北の半島…

 巨人が住んでいるというあの危険な地ですか?」

「そうらしいな」

「あんな不毛な地を抜けて…

 その分弱ったりしてませんかね?」

「あり得ないだろうな」

「うん

 さすがに女神の使徒だからな」

「変に期待は持てませんよ」

「だろうな…」


北には半島が北から北西に向けて伸びており、そこには昔から巨人が住んでいると言われていた。

その為入植や拠点作りは諦められており、長らく放置されていた。

その地は真夏でも涼しいぐらいで、冬には極寒の凍土に変わってしまう。

それで春になっても、不毛な土地が多く残されているのだ。


一部街に住めない者が北に向かっていたが、その後の消息は不明だった。

厳しい冬を越える必要もあるが、何よりも食料の自給が難しいだろう。

そんな場所に逃げ込んで、自らの力で自給自足を行おうとするのだ。

よほどの強運や生きる強さがあったとしても、長く生き続ける事は困難であろう。


そんな土地に向かった者達は、二度と戻って来る事は無かった。

生きているのか?

死んでいるのか?

そのまま暮らしているのか?

それとも何処か他の場所に逃げ出したのか?

彼等がその後にどうなったのか、それを確認する術は無かった。


だから魔物でも、そこを抜けるのは困難なのでは無いか?

将軍はそう言いたいのだろう。

しかし女神の使徒が率いて来るのだ。

そのまま弱り切って、行軍すら困難なんて事は無いだろう。


「それで魔物が…」

「?」


将軍は何か言い掛けて、そこで言葉を切った。

将軍は何か思い付いたのか、真剣な表情で話し始める。


「坊ちゃん

 最近魔物が活発になっています」

「ああ」

「それが北からの進軍が原因なら…」

「だろうね」

「ええ

 十分に考えられますね」


フランドールも頷く。

ここ最近の魔物の移動が、その侵攻の影響であると言うのだ。

将軍のその予想は、恐らく間違っていないだろう。

それで珍しいワイルド・ボアを連れた、コボルトの群れまで移動していたのだ。


「北からの進軍に、オーガが南に向かい…

 それに恐れをなした他の魔物が南下をしたとなれば

 以前にも増して魔物が増えるでしょう」


将軍はそう言うと、地図上に駒を置いて示す。

駒は魔物の群れを現わし、将軍はそれを順番に南に移動させる。

それを見ながらギルバートは答える。


「それが本当なら、今はチャンスなのかも?」

「チャンス?」

「ああ

 今なら魔物から進んで接近して来るから、狩に出るのが容易になる

 そうなれば訓練にうってつけだ」

「な…

 それはそうですが、兵士に危険が!」

「それでも、兵士がこれから戦うのにはうってつけな相手だ

 せいぜいこっちの訓練に付き合ってもらうさ」

「はあ…

 知りませんぞ」

「何とかするさ」


ギルバートはニヤリと、獰猛な笑みを浮かべた。

将軍はやれやれといった感じで、手を上げて頭を振った。


「しかしそうなると、私の私兵も早急な訓練が必要ですね」

「その様ですな

 先の話し合いでも、まだまだ腑抜けた者が多く見られました

 失礼ですが、フランドール殿はまだまだ彼等を掌握出来ていない様子ですね」

「はい

 不甲斐ない限りです」

「こうなると、早急に立て直しをしなければなりません

 でないと、魔物共が訓練をした精鋭だと危険です」

「そうだな」

「訓練?

 精鋭?」


フランドールはその言葉に驚いていた。

彼等が戦っていた魔物は野生で、およそ訓練をするなど程遠いものだった。


「そうです

 フランドール殿は訓練された魔物は…

 見た事は無さそうですね」

「ええ

 聞いた事もありません」

「2年前、この街を襲った魔物は十分な訓練を受けていました」

「それもしっかりと鍛え上げられていてね

 ただのゴブリンがオーク並みの戦いをしていたんだ」

「ゴブリンがオーク?」

「そう

 筋骨隆々としたゴブリンが指揮して、統制の取れた攻め方だったよ」

「それは…恐ろしいですね」

「ああ

 ゴブリンでああだったんだ

 それがオークだとどうなるのか…

 考えたく無いよ」


ギルバートは溜息を吐き、将軍も頷く。

それでフランドールにも本当の事だと伝わり、それの恐ろしさに嫌な汗が流れた。

そもそも女神の使徒が率いるのだ。

それが普通の魔物などという事は無いだろう。


「このままではいけませんね」

「ええ

 早急に軍隊の質を上げなくては」

「明朝から本格的な訓練を始めましょう

 オレはこれから兵士に伝えて来ます

 そのせいでごたごたが起きるかも知れませんが、こちらで対処してもよろしいですか?」


ギルバートはそれを聞き、将軍の考えに頷いた。

ここで反乱が起きれば、早い内に膿を出し切れるだろう。

叛意を示すなら、その場で拘束して処罰すべきだ。

逆にそれで、選民思想者が叛乱してくれた方が却って好都合かも知れない。


「将軍に任せます

 必要なら手伝いますから、呼んでください」

「その時は頼みます」


そう言って将軍は会議場へ戻って行った。

それを見送りながら、ギルバートは再びソファーに着いて話し始めていた。

フランドールに名簿を作ってもらい、それを見ながら班分けを行う。

翌日からの訓練の、兵士達の振り分けを話していたのだ。

しかしそれも、何も問題が起きなかった場合の振り分けであった。

ここで事が起こるのなら、不要な兵士は消える事になるだろう。

そして将軍が向かった会議場で、大きな物音がするまでそれは続いていた。

まだまだ続きます。

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