第084話
フランドールはギルバートの話を聞いて、彼の家族を守ろうと思っていた
それは今の事ではなく、彼がここを発ってからもだ
自分が守る事になるこの街で、一生を賭けてでも守ろうと思っていた
そしてギルバートが帰って来たら、快く領地を返還しようとも思っていた
それはギルバートへの友誼だけではなく、その父親に対する尊敬の念も込められていた
大切な家族と街を守る為に、彼はその身命を賭したのだ
そんな彼の遺志を継いで、この地を守ろうと思ったのだ
そうした想いが、彼の中でギルバート達の事を過大評価していた
それと同時に彼自身を過小評価して、コンプレックスを抱かせていた
それがやがて、深い闇を抱える事になるとは思ってもいなかった
フランドールは剣帯から長剣を外し、それをギルバートの前に置いた。
昨日の戦闘の後に、そのまま返し忘れていたのだ。
フランドールはその剣を、ギルバートに返そうと思って差し出した。
「フランドール殿?」
「昨日はそのまま持って行ってしまいました
これは貴方の剣です
お返しします」
「いえ、そういう訳には…
これはあなたの剣が返ってくるまで持っていてください
それまでの代わりと言ってはなんですが、使ってください」
「しかし、それでは貴方が剣が無いのでは?」
「いえ、これがあります
それに普段はこっちもありますから」
ギルバートは脇に置いた大剣と小剣を示し、小剣を引き抜いて渡して見せた。
「こっちは父上から頂いた剣です
特殊な付与はありませんが、耐久性は高めてあります
そこらの兵士相手では折る事も出来ませんよ」
「ほう
なかなかよく鍛えた剣ですね」
フランドールは小剣を見て、素直な称賛を持った。
簡素で飾り気は無いが、しっかりと鍛え上げられた逸品だった。
普通の剣と違って、小剣ながら肉厚で丈夫に作られている。
その分重くなるし、切れ味も多少落ちる事にはなる。
それでも壊れ難いという事は、安心して振るう事が出来た。
「しかし、その大きな剣では扱いが難しいのでは?」
「え?
ああ
こいつは身体強化の付与が強力なんで、振り回すのは容易なんです」
フランドールから返された小剣を仕舞い、今度は大剣を手渡す。
フランドールは注意しながら大剣を引き抜いたが、それは思ったよりも軽く感じた。
昨日の戦いでも、ギルバートはこれを軽々と振り回していた。
しかしその秘密が、身体強化にあるとは思ってもみなかった。
「え?」
「軽く感じるでしょう?
魔力が有る者が持てば、その魔力で軽く感じてしまううんですよ
まあ、大抵の者は多かれ少なかれ魔力は持っている筈ですから
持って驚くんですけど」
アースシーの人間は、ほぼすべての者が魔力を持っている。
それは少なくても生活に問題が無いのだが、多い者は逆に体力が少ないという特徴がある。
恐らく体力が少ない者が苦労しない様に、女神様が授けているというのが通説だった。
「これは…
しかし、大きいから取り回しが難しいですね」
「ええ
そこは慣れるしかありませんが…」
「それでも、これであの巨人を倒すとは…」
フランドールは慎重に剣を構えてみせる。
持つのは簡単だが、地面に触れずに扱うには注意が必要だ。
それにフランドールは気が付いていなかったが、彼も称号の恩恵で力が上がっていた。
だから並みの兵士がこれを持つと、抱える事も難しかった。
「その鬼殺しの大剣はスカル・クラッシャーと名付けました
なかなかの名剣でしょう?」
「スカル…
クラッシャー?」
「うわっ
それはないわ…」
フランドールもアーネストも、剣の名前を聞いて微妙な顔をする。
「へ?」
「もっと他に名前がありませんでしたか?」
「さすがに物騒だな」
二人共苦笑をしている。
どうやら本人は、それを格好良いと思っている様だった。
しかしアーネストは格好悪いと感じていた。
そしてフランドールも、微妙な表情を浮かべる。
「へ、変かなあ?」
「う、うん」
「ええ…」
「…」
二人に駄目出しを受けて、ギルバートは落ち込んでしまう。
「兎に角
切れ味もよくしてあるし、耐久性もオーガの骨とは思えないほど上がっている
スキルが使えるフランドール殿なら、オーガでも楽に倒せますよ」
「え?」
「あ…そうか
スキルについて、まだ話していませんでしたね
アーネスト」
ギルバートがアーネストに振り向くが、アーネストは頭を振る。
「ここでは危険だろう
外でやろうぜ」
「そうだな」
「使えると言われても…」
フランドールはそう呟いて、これを使うのかと悩んでいた。
それは武骨で大きくて、フランドールには振り難い剣に感じられた。
そして何よりも抵抗があったのは、この剣の銘であった。
「これを…」
「外に出ましょう」
「あ、ああ…」
ギルバートはフランドールから剣を受け取り、外へ向かおうと促す。
三人は連れ立って邸宅を出て、守備部隊の訓練場へ向かった。
歩き出しながら、フランドールは苦言を呈する。
「そのう…
スカル・クラッシャーでしたっけ?」
「え?」
「どうせならボーン・クラッシャーではダメですか?
些か物騒過ぎる様な」
「そうだよな
骨砕きの方がしっくりするな」
「うーん…」
「まあ、ギルバート殿がそれで良いなら、変える必要がありませんが…」
「ただ、銘を紹介する度に引かれるだろうな」
「そ、そうかなあ…」
「はは…」
「ええっと…」
二人が苦笑をする姿を見て、ギルバートは本気で改名を考え始めていた。
訓練場入るとギルバートは木剣を手にして、一本をフランドールに手渡した。
最初にギルバートが開けた場所に立ち、スキルを出して見せる。
「いくつか使える様ですが…
スラッシュ
ブレイザー
スラント
それから…バスター」
ズドン!
最後のバスターは、まだ将軍とギルバートしか使えていない。
「え?
ええ?」
フランドールは各スキルの様子を見て、困惑する。
「やはり、まだ使いこなせていないみたいですね」
「そもそも、スキルを知っているだけでしょう
まだスキルを習得した者が居ないのでは?」
「うーん
そこからか…」
「そもそも、スキルの習得とは?
どういった事なんですか?」
ギルバートはスラッシュの構えを取り、そのまま振るう。
「これは…
スキルのスラッシュを真似た技です
完全なスキルではありません」
「それでも威力があるから、普通は十分に使えると思ってしまうんだよね」
アーネストが補足する。
「本当にスキルを使える様になったら
頭の中に声が響きます」
「スキルが使える様になりました
または称号を獲得した時に使える様になるみたいです」
「称号…」
フランドールはあの声を思い出し、剣を構えてみせる。
「そう、構えてから意識をスキルに向けて…
慣れるまでは声に出して使ってみたら良いですよ」
「スラッシュ!」
シュバッ!
鋭い風切り音がして、フランドールは数歩前に移動していた。
「…え?」
「それが本物のスラッシュです」
「剣を振り抜きながら、数歩分移動するんですよ」
「ですから、移動を考えながら使う必要があります」
「これが…
スキル?」
今までフランドールは、スラッシュとは胴薙ぎの一閃だと思っていた。
しかし実際のスラッシュは、そのまま切り裂きながら前へ踏み出す。
それも数歩分も前へ移動して、切り裂きながら突き抜けるのだ。
この技が成功すれば、魔物の胴を切り裂くのも容易なのだろう。
いや、もしかしたらオーガの様な大型の魔物の、足を切り裂く技として有用である。
実際にギルバートは、その様な使い方をしていた。
「威力も格段に上がります
ですから不用意に使わない様に注意してください」
「あ、ああ…」
「使う時にだけ、構えを意識して」
「スラッシュ!」
シュバッ!
「スラッシュ」
シュバッ!
フランドールは繰り返して使ってみせる。
繰り返して試すうちに、段々と安定して移動する様になる。
そして使った後もふらついたりしないで、隙も少なくなってくる。
そうして安定して出せる様になれば、確かに魔物との戦いにも使えるだろう。
「乱戦で囲まれた時や、少し離れた相手に致命傷を狙う時に有効です」
「ただし出した後には隙が出来ます
それに多用しては疲労が出ますから
ギルもそれで危険な目に遭っていますから、多用は禁物です」
「そうですね
やはりスキルは、ここぞという時に使うのが良いでしょう」
「ふう…
確かに…
少しふらつき、ますね」
フランドールは肩で息をして、木剣で身体を支える。
気が付けば、身体が疲労で重く感じている。
身体強化も切れたのか、身体が別の物の様に感じられた。
「恐らく、フランドール殿はブレイザーまでは使えるかと
スラントとバスターはまだ練習してませんよね?」
「ええ
どちらも初めて見ました」
「やはり、王都ではまだ公開されていないみたいだな…
何か事情があるのか?」
「安易に知らせるのは良く無いのかも?」
「どうしてだ?」
「そりゃあ危険な相手に知られては…」
「あ…
選民思想者か?」
「それもあるが…
反国王派というのもあるらしい」
「反国王派?」
「ああ
国王の失脚を狙い、王国を我が物にしようという者達だ」
「え?
そんな事が出来るのか?」
「出来るんじゃない
出来ると思い込んでいるんだ
選民思想者もそうだろう?」
「あ…
そういう事か」
選民思想者の空想も、とんでもな内容である。
しかし彼等も、それが正しいと思い込んでいるから行っているのだ。
自分達が正しいから、これは当たり前の事だと思っているのだ。
反国王派の者達も、同じ様な感じなのだろう。
ギルバートとアーネストは真剣な顔をして話し込む。
その間に、フランドールは見よう見真似で、スラントを試してみる。
最初は不格好だったが、そのうち綺麗な線を描いて回してみせる様になった。
ブレイザーに一角増やした様な、綺麗な三角形が宙に描かれる。
「す、スラント!」
シュバババ!
「こ、こうかな?」
「ええ
そこから思い切って切り上げます
振り始めだけ意識して、後はタイミングを合わせて切り替えるだけです」
「ふー…
スラント」
シュッシュ、ズバーッ!
最後の一撃を、相手の首か胴を切り裂く様に振り抜く。
そうする事で、相手の攻撃を弾きながら止めを刺せる。
そういう意味では、ブレイザーよりも使い勝手の良い技ではある。
しかし防がれてしまうと、その場で硬直する危険性はあった。
無理に技を中断すれば、一瞬ではあるが身体が硬直してしまうのだ。
そういう意味では、連続攻撃のスキルは危険な技でもあった。
それでも使いこなせれば、大きな武器になるだろう。
フランドールは繰り返して、その使い方を身に付けようとする。
小気味の良い音を立て、彼は見事な三角を描いてみせた。
「こうか!」
「ええ
見事です」
「どうやらスキル自体は使えるみたいだな
実際にどんなスキルが使えるか…
調べる術があればなあ」
喜ぶ二人を見ながら、アーネストは相手のスキルを見れる方法が無い事を悔やんでいた。
相手の素性やスキルが調べれれば、色々と対策が出来るのに。
そんな事を考えている内に、フランドールは次のスキルを試していた。
「ば、バスター」
しかし、スキルが使える者の様に、身体が自然と跳躍する事は出来なかった。
スキルで出せれば、使用者は2mぐらいの跳躍が容易に出来るのだ。
しかし今のフランドールは、せいぜい1mも飛んではいなかった。
「こちらはまだまだ、修練が必要そうですね
使える様になれば、自然と引っ張られる様に跳び上がれる様になります
慣れれば2mぐらいは跳べますよ」
「はあ、はあ…
うーむ、難しいな」
「もしかしたら…
フランドール殿が得た称号には、バスターのスキルは無いのかも知れませんね
称号やジョブ…
与えられた職によって違うのかも?」
「ジョブ?」
「ええ」
アーネストはまた新しい単語を説明しだした。
これもどうやら、王都では広まっていない様だった。
「詳細はまだ分からないけど、どうやらその人に見合った職業が得られるみたいです
例えば戦士とか騎士みたいな…
中には鍛冶師もあるみたいですが」
「商工ギルドで数人、鍛冶師と細工師というジョブを得られたという報告があります
それらのスキルはまだ不明ですが…」
「そうか…」
フランドールは頷き、自身の称号について考える。
「私は勇者という称号を得た
それはどういったものなんだろう?」
「恐らくは、勇気ある行動が認められたのかと
果敢にオーガに向かって行きましたからね」
「果敢だなんて…
ただ、ギルバート殿が一人で向かって行くのが危険だと思って
実際は足が震えていましたけどね」
「それでも
自身からあの危険な魔物に向かって行ったんです
女神様もきっと、その勇気に評して称号を与えたんだと思います」
「そうかなあ…」
フランドールは照れながら、それでも満更でも無さそうにしていた。
それを見て、ギルバートは女神の存在に疑問を感じていた。
人間の営みを守り、困難に打克とうとする者に手助けをする優しく聡明な神様。
そうかと思えば無慈悲に魔物を呼び寄せて、街や城を襲わせてもいる。
それに、なによりも自身の過去を考えると、どうしても納得がいかない。
詳細はまだ不明だが、どうして自分を殺そうとしていたのか?
それにその後に、生かす為の方法を教えてくれていた。
そうかと思えば、その方法を行った事を罪として、魔物を送り込む。
その様に行動が、ころころと変わっているのだ。
「本当に、それだけと思っていますか?」
ギルバートがそう考えていると、不意に訓練場に艶やかな声が響いた。
それは数年前に聞いたあの声だ。
あの時に二度と現れないと言っていた、あの男の声がした。
「何?」
「誰だ!」
「まさか?」
三人が振り返ると、そこに一人の男が立っていた。
紫の派手なローブに身を包み、顔には怪しげなマスクを着けていた。
あの時に別れを告げた、ベヘモットがそこに立っていた。
「お久しぶりね
王子とその親友の小さな魔導士さん
それと…そちらは新しい英雄の卵」
男の言葉に、フランドールは訝し気な顔をしてギルバート達を見る。
「どういう事です?」
「彼は女神様の僕、運命の糸です
名をベヘモットと言います」
「あら、覚えていてくれたの?」
「ああ、覚えているさ
あの時以来だな」
「ふふふ…」
ベヘモットは艶然と微笑み、優雅に礼をする。
「フランドールさん、でしたね
初めまして」
「どうして…
どうして女神様の僕が?」
「そうですね
今度は何の用ですか?」
「うふふふ
本当は再会を祝してって言いたいけど…
そうもいかないのよね」
ベヘモットはマスクから覗く口元を歪め、残念そうに溜息を吐く。
「ふう…
今…
こちらに向かって魔物が近付いて来ているわ」
「な!」
「またか!
あんたが来る時は、毎度そうなのか?」
「魔物だって?」
運命の糸が来る時に、何故か魔物の群れが向かって来る。
しかし今回は、彼が原因では無かった。
「そうね
あの時はわたくしが命じられて来ていたわ
でも、今度は違うの
わたくしよりも厄介よ」
「はあ?」
「今度は運命の糸でも一番の武闘派の者が来ているわ
その名はアモン
彼はオークとワイルド・ボアの部隊、それとワイルド・ベアも連れています」
「そんな…」
オークも厄介そうだったが、それにワイルド・ボアも一緒に来るという。
もしかしたら、コボルトの様に騎乗するのかも知れない。
それに加えて、ワイルド・ベアまで現れると言うのだ。
その魔物はまだ、ギルバートも戦った事が無かった。
「それと、オーガも幾つか出していた様ね
他にも居るかも知れない
悪い事は言わない、すぐにここを引き払いなさい」
「ぐ…」
思ったより強力な魔物の布陣に、ギルバートは苦悶に声を漏らす。
訓練されてオークなら、苦戦を強いられる事になるだろう。
それにまだ見た事も無い、ワイルド・ベアはどの様な魔物か不明である。
それに加えて、オーガも引き連れていると言うのだ。
オーガだけでも、苦戦は必至である。
これでは多くの犠牲が強いられるだろう。
他にも魔物が居るという話が、一刻も早く避難をする必要性を伝える。
これでは彼が言う様に、街を放棄する必要があった。
「だが分からん
なんであなたがそれを伝えに?」
アーネストが素朴な疑問を呈する。
それは当然の質問であった。
本来なら彼は、女神から人間を罰する様に命じられている筈なのだ。
それに対して、ベヘモットは微笑みながら答える。
「今のわたくしはね、あなた達の見張りから外されているの
2年前の負けからね、その責を解かれたのよ」
「それでも、こんな事を伝える理由が分からない」
「あら、簡単よ
わたくし達は元々、人間の営みを守る為に生まれているの
わたくしの子供達が魔物でも、わたくし達には人間を守りたい気持ちがあるの
いえ、人間達を愛していると言っても良いのかしらね」
「え?」
「信じろと?」
「ええ」
そう言ってベヘモットは微笑む。
尤も、碌でも無い人間も居るから、そんな人間は嫌っている。
彼等からすれば、そいつ等は狼の餌にでもすべきだと付け加える。
「まあ、あなた達は違うみたいだけれど…
選民思想者?
あれは違うわ」
「え?」
「そんな事まで知っているのか?」
「ええ
いつの時代にも、あの様な愚か者は居るのね
あんな奴等は、犬の餌にでもすれば良いわ」
「はは…
たしかにな」
「しかし…
選民思想者は運命の糸も嫌っているのか?」
「ええ
だって勘違いしているもの
女神様は、等しく生きとし生ける者を愛しておられるわ
それに差は着けていらっしゃらないの」
「それは…」
「確かに奴等は、自身が女神様に愛されていると勘違いしているからな」
「そう
だから嫌いなのよ
ミッドガルドの頃からそうなのよ」
「ミッドガルド?」
「フランドール殿
その事は後程説明します
それよりも…」
今の疑問は、他の所にあった。
そもそもが何故、罰として魔物が差し向けられるかだ。
女神が力を持つのなら、そのまま人間を滅ぼせば良いのだ。
それなのに何故、わざわざ魔物を使役するのだろうか?
「しかし、それなら何故
あの時は魔物を率いていたんだ?」
「魔物を?」
「それはね、魔物に人間を襲わせるのは、女神様からの人間への試練よ
人間に試練を与え、結束と団結、生きて行くのに共通の敵と認識させる為」
「なるほど
そういう事なら納得は出来る
しかし、何で再び魔物が攻めて来る?」
アーネストが尤もな疑問を突き付ける。
人間を滅ぼすつもりが無いなら、今責めさせる要因は何だろう。
人間は今、魔物の脅威に対して団結しようとしている。
今魔物が攻めて来るのは、それを阻害している様にしか見えない。
「そこなのよね
だからわたくしは、今回の女神様の行動に疑問を感じているの
それであなた達に報せに来たのよ
このままわたくしのお気に入りの坊やが死ぬのは、我慢が出来ませんから」
そう言うと、アーネストの方を見てウインクをしてみせる。
それにアーネストは困った顔をして、ギルバートやフランドールの方を見た。
ギルバートはお手上げと手を上げてみせ、フランドールも顔を顰めていた。
「さあ、時間は無いわよ
奴等は北の半島から向かって来ているわ
遅くとも2週間ぐらいで近くに来るわよ」
「2週間か…」
「何を戸惑っているの?
逃げるならすぐに準備をしなさい」
「しかし、2週間では住民全てが逃げ出すには時間が足りない」
「あら?
なんで?
あなた達だけでも逃げなさいよ
聞かない奴等は捨て置けば良いわよ」
「な!
そんな事は出来ない」
「そうです
領民を見捨てるなんて」
「だったらどうするの?
領民を守る為なんて言って、ここに残るつもり?」
「ええ
オレは…
この街が好きです
叶うなら、街を守って戦います」
「オレも同感だね」
「私もだ
そもそも、私はこの街を守る為に来たんだから」
「はあ
やっぱり説得は出来そうもないのね…
そう思っていたわ」
ベヘモットは悲しそうに呟くと、小さく溜息を吐いた。
彼自身も、そんな説得に応じるとは思っていなかったのだろう。
それでも警告に来たのは、アーネストに生き残って欲しいと言うのが本音らしい。
「残念だけど、わたくしは誓約の為に協力出来ないの
ごめんなさいね」
「いえ
わざわざ報せていただいただけでも助かりました」
「そうですね
今回は助かりました」
フランドールとギルバートが礼を言っていると、アーネストがボソリと呟いた。
「協力は出来なくても、助言とかは出来ますか?」
「え?」
「おい!
アーネスト」
「ふふふ
さすがに頭は良いのね」
「ええ
エルリックがそうした様に、あなたも不審に思ったからこそここに来たんでしょうから」
「そうね
わたくしに出来得る限りですが、助言をいたしましょう
それが本来のフェイト・スピナーの使命ですから」
ベヘモットはそう呟くと、真っ直ぐにアーネストを見詰めた。
二人は見詰め合う様に、視線を交わしていた。
これから何を問うて、どういう情報を引き出すべきなのか。
アーネストは頭をフル回転して考えていた。
まだまだ続きます。
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