第082話
冒険者ギルドから飛び出し、ギルバートは邸宅の中へ走り込む
その間にも、アーネスト達との距離は開く
彼は階段を駆け上がると、自室へと飛び込んで支度を始める
愛用の皮鎧を身に付けると、自身の愛用の剣を手にする
それからフランドールの事を考えて、もう一方の剣も手にした
自室から飛び出したギルバートは、その手に2本の剣を握っていた
片方は少し前に愛用していた長剣で、もう一方は訓練場で披露していた武骨な大剣であった
ギルバートは追い付いたフランドールに長剣を渡し、自らは大剣を背負った
それは大剣では、フランドールには振り回せないと判断したからだ
「これはオークをも倒せた剣です
あなたを守ってくれるでしょう」
「君は?
君はどうするんだい」
フランドールの言葉に、ギルバートは無言で背中の大剣を叩いた。
「な!
ギル、それはまだ試作なんだぞ!」
「構わんさ
こいつの実力を知る良い機会だ」
ギルバートはそう呟くと、止めようとするアーネストの手を躱して再び走り出した。
大剣は試し振りはしていたが、実戦では使われていない。
強度は耐久性を上げる魔法で問題無い筈だが、まだ実戦では確認されていない。
それでも普通の剣を振るうよりは、耐久性には安心感があったのだろう。
見ると既に階段を駆け下り、邸宅の出口へと向かっていた。
「は、早い!!」
「くそっ
身体強化も上がっているのか」
二人は慌てて走り出すが、その差はどんどん開いていく。
彼は剣に魔力を流し、その身体強化の力で素早さも上がっていたのだ。
その速さはフランドールを超えて、一陣の風の様に駆け抜ける。
後ろからは廊下を走るなと、執事のハリスの声が聞こえた。
「あの剣は何です?」
「え?
試作のオーガの骨で作った剣ですよ」
「オーガ?」
フランドールはまだ、オーガとい魔物を見た事が無かった。
話では身の丈3ⅿほどの巨人と聞いていたが、それがどれほどの化け物かは知らなかったのだ。
ただギルバートの身長に近い大きな剣を見て、それがどれほど扱い難いかは想像が出来た。
そして刃に使われているのが骨に見えるので、その骨も大きな物だという事は理解出来た。
「あんな大きな剣を抱えて、上手く戦えるんでしょうか?」
「さあ?
でも身体強化は付与されているから、大丈夫では?」
「それは…」
「実際に、あんなに早く走っているし」
「確かに
私より速いのでは」
「ははは…」
アーネストは走りながら答えていたが、その胸の内は実は不安であった。
身体強化が掛かっているので、今までの剣の様に振り回せるだろう。
しかし実際は身長160㎝ぐらいのギルバートが、長さが130㎝もある大剣を振るうのだ。
膂力が足りて振り回せるにしても、地面に当たったりして不便だろう。
慣れていなければ思わぬ失敗もしそうだ。
今まで使っていた剣も、それなりに大きな長剣ではある。
フランドールの腰に下がった長剣がそれで、長さも1ⅿ近くの長い物であった。
それも将軍の愛用の剣に匹敵する、大きな長剣であった。
それをギルバートは、2年近くも愛用していた。
しかし今度の大剣はそれよりも大きいし、幅も倍ぐらいに広い分厚い剣なのだ。
あいつ…
上手く振り回せるのだろうか?
戦場で剣が引っ掛かっては、致命傷になるぞ
二人の心配を他所に、広場を抜けて城門に着く頃には、ギルバートは城門の外へ駆け出していた。
その姿を見て、兵士も慌てて止めようとする。
しかしギルバートは、開かれた城門をそのまま駆け抜ける。
外には魔物が迫っていて、騎兵部隊が出撃した直後だった。
「うりゃあああ」
ブオン!
ギルバートは気勢を上げながら突っ込むと、大剣を横薙ぎに振るっていた。
その一撃に突進していたワイルド・ボアが2匹、頭から両断される。
1頭は首から斜めに切り裂かれて、もう1頭も鼻面から頭を打ち砕かれていた。
その勢いで突進も止められ、魔物の遺骸はその場に倒れる。
ズドン!
ゴキン!
ブギイイ
ブゴッ
ギルバートはそのまま、周囲を見回して状況を確認する。
幸いにも周辺には、その魔物以外には居なかった。
しかし城門の前は既に戦場となっており、30匹ほどのワイルド・ボアが駆けていた。
その背にはコボルトが乗っていたが、弓兵の的確な射撃に半数は落ちていた。
城門からフランドールが見た時には、既に大勢が決しようとしていた。
「くっ
せりゃああ」
ザヒュッ!
ブギイイ
突っ込んで来たワイルド・ボアに対し、フランドールは抜刀しながら横へステップをして躱す。
そこから切り上げて、魔物の頭を切り飛ばした。
フランドール自身は、横に摺り抜け様に後ろ足を切り裂くつもりだった。
しかし剣は素早く動き、そのまま魔物の首を刎ね飛ばしていた。
「え?」
ステップの軽さも驚きだったが、切り上げた感触が思った以上に軽かった。
それに躱しながらなので、腹か後ろ足に当てるつもりだったのだ。
それがもっと素早く振り上げて、そのまま首を切り飛ばす。
身体強化の効果が、フランドールの予想を上回っていたのだ。
実は模擬戦とオークとの戦いでフランドールの地力は上がっていた。
それに身体強化が加わった為に、その力は大きく上がっていたのだ。
「フランドール様、危ないですよ」
守備部隊の兵士が駆け寄り、更なる追撃の魔物を倒して行く。
気が付けば彼を心配して、数名の兵士が集まっていた。
そこに向けてコボルトが、乗っている魔物を操って向かって来る。
彼は兵士達と協力して、そのまま魔物達の群れと対峙する。
「ぬう
せりゃあああ」
ザシュッ!
ブギイイ
フランドールも体制を整えると、突進する魔物の胴を切り裂く。
見回せば魔物は数匹まで減っており、コボルトも全滅していた。
前に出ていたギルバートの方を見ると、森へ向けて身構えていた。
魔物が粗方片付いたのに何を警戒しているのだろうと、フランドールはそちらへ向けて歩き始める。
ズシンズシン!
数歩歩いたところで、地面が揺れている事に気付く。
そして地面を揺らしながら、大きな足音が聞こえてきた。
フランドールは驚き、その振動の主を探して周囲を見回す。
ズシンズシン!
グガアアア
森の上から大きな顔が現れ、恐ろしい吠え声を上げた。
その吠え声を聞いて、数人の兵士は恐怖に身体を硬直させる。
恐ろしい形相には牙が生えており、頭には1本の角が生えていた。
巨人の食人鬼オーガが、森からその姿を現したのだ。
グガアアア
ズシンズシン!
ゴガアアア
ズン!
横から更に2匹の顔が現れる。
「くそっ
将軍が向かった側以外にも居たのか」
「退がれ!
退がれー!」
兵士達では、さすがに大型の魔物は荷が重い。
兵士達は城門へ向けて撤退しつつ、残党のワイルド・ボアを狩っていった。
そして代わりにギルバートが残り、オーガと正面から睨み合った。
「危ない!」
堪らずフランドールも駆け出し、ギルバートの側へ向かった。
彼ではどうにもならないが、せめて支援だけでもしようと向かう。
アーネストも援護をするべく、呪文を唱え始める。
この距離から先制攻撃として、魔物の顔を狙うつもりなのだ。
「大気に漂いし魔力よ
その力を顕現し、我が指先へと宿れ
食らえ!マジックボルト!」
アーネストの指先から魔力の塊が打ち出され、魔法の矢となって右奥のオーガの顔に当たる。
魔法の矢は魔物の顔に突き刺さり、そこで弾けてダメージを与える。
ただ突き刺さっただけでも、相応のダメージを与えれる。
しかしアーネストは魔力を多めに込めて、爆発させる事で大きなダメージを与えていた。
ズドドド!
グガアア
オーガが顔を押さえて、苦悶の声を上げる。
そのままの魔力の矢では、ここまでの効果は無かった。
しかし爆散する魔力の効果で、オーガの顔の表皮は切り裂かれていた。
その隙を突いて、ギルバートは剣を肩に担いで駆け出した。
「うりゃあああ」
ダダダダ!
「そんな、無謀な」
フランドールは、正面から突っ込んで行くギルバートを見て驚愕する。
一見すれば、それは無謀な突進にも見える。
見れば左のオーガも、ギルバートを狙って身構えている。
このままでは、ギルバートはオーガと2対1になる。
「くそっ!
はああああ」
フランドールもオーガの気を引く為に、気勢を上げて突っ込んで行った。
そのまま気勢を上げて、左側のオーガの気を引くつもりなのだ。
正面のオーガはギルバートに向けて拳を握り、正面から殴りつける。
そして左のオーガはフランドールの声に気付き、迎え撃とうと前へ出た。
グガアアア
ズドーン!
ギルバートはギリギリまで引き付けて、ステップで拳を躱す。
ギルバートはこの素早さを活かして、魔物の攻撃を避けれる自信があったのだ。
摺り抜けた拳は炸裂音を立てて地面に叩き付けられ、周囲の木を砕いて地面を陥没させた。
しかしその間に、ギルバートは魔物の拳の内側に滑り込む。
「ふん
はーっ」
ザヒュッ!
グガア
ギルバートは避けた右腕に飛び掛かり、身体を捻りながら大剣を振るった。
身体を大きく捻る事で、大剣はそのまま頭上の腕を切り裂く。
大剣は右腕の肘から先を切り落とし、腕はそのまま地面に落ちる。
ギルバートはそのままの勢いで跳躍して、切り裂いた二の腕を駆け上がった。
オーガは痛みに悲鳴を上げながらも、左手でギルバートを叩き落とそうとする。
ガアアア
ブン!
しかしギルバートはそれを躱し、空中で左手を足場にして飛び上がる。
それは一見すると、無謀な跳躍に見える。
無防備に宙に浮いた彼は、しかし大剣の重さを利用して身を捻る。
そのまま空中でスキルの態勢に入り、力が彼の身体を突き動かす。
「ふううう…
ブレイザー」
ザクッ!
ズシャーッ!
グオオオオ
大剣は肩から切り裂き、オーガの胸を深く切り裂く。
そのまま肋骨を断ち切り、胸の辺りまで深く切り込む。
そこで力任せに剣を捻ると、胸の辺りから逆袈裟懸けに切り上げた。
オーガは断末魔の叫びを上げて、胸を左手で押さえながら崩れ落ちる。
グガガ…
ズズーン!
大きな音を立てながら、1匹目のオーガは死んだ。
胸を深く切り裂かれて、そのまま絶命したのだ。
その音に気付き、右のオーガが顔を押さえながら拳を振るう。
しかし目が見えていないのか、その振るう拳は空を切っていた。
ギルバートがオーガと戦っている間に、フランドールもオーガと向かい合っていた。
彼の本音としては、これほどの巨大な魔物は初めてで、内心は気圧されていた。
しかしギルバートを守りたい一心で、彼は自然と飛び出していた。
恐ろしいが倒すしかないと、彼は覚悟決めていた。
ウガアアア
ドゴン!
ズガアン!
身体強化が効いているのか、振るわれる拳をなんとか躱す。
そのまま彼は、駆け出してオーガの脚元まで近付く。
堪らずオーガも、フランドールを足で踏み潰そうとする。
しかし身体強化で素早くなったフランドールは、その踏み付けを巧みに躱した。
ガアアア
ドーン!
ズンズンドゴン!
フランドールは踏み付けを躱しつつ、そのまま魔物の足元に潜り込む。
そうして剣を腰溜めに構え、スキルを発動させる。
「ふん
スラッシュ」
ズバーッ!
振り下ろされた右足を躱し、左足にスキルのスラッシュを叩き込む。
剣の切れ味にも助けられ、その一撃は左脚を脛から切り落とす。
切り裂かれた断面から、魔物の血が噴き上がる。
片足を失った為、オーガはバランスを崩して腰を着いた。
グガアアア
ドスン!
「もういっちょ!
スラッシュ」
ズガッ!
すかさず左腕にもスラッシュを決めて、腕を失ったオーガはよろけて仰向けに倒れた。
こうなればオーガも、すぐには行動が出来なかった。
グガアアア
オーガが倒れた隙を逃さず、フランドールは止めを狙った。
剣を上段に構え、跳躍しながら倒れた首元へ叩き付ける。
体重を乗せた剣が、魔物の太い首に食い込む。
「ぬりゃあああ」
ズドーン!
グ…ガア…
剣はその切れ味を活かして、魔物の首をいとも容易く切り裂いていた。
斬られた首から、多量の血が噴水の様に噴き上がった。
オーガは苦悶の声を発して、そのまま息を引き取った。
首から迸った多量の血が、フランドールの周りにも夥しい血の雨となって降り注いだ。
その中で気が抜けたのか、フランドールは膝を着いた。
それと共に、恐怖が甦ったのか身体が震えだす。
「う…
はあ、はあ…
な…なんとか、倒せた」
飛び散る鮮血を浴びながら、彼は肩で息をする。
ポーン!
勇者の称号を得ました!
頭の中で不思議な声が響く。
なんとか倒せた
あんな大きな化け物を、私が倒したんだ
一歩間違えば、自分の方が挽肉になっていただろう
それほど恐ろしい相手だった
これがオーガか
ギルバートは…こんな
こんな化け物を相手に戦っていたのか
今さらながら、ダーナの兵士の強さが分かった様な気がした。
先のワイルド・ボアも十分に手強かったが、オーガの様な化け物と戦うのは正気とは思えない。
あんな化け物を前にしては、人間など人形の様な存在でしかない。
それでも街を守る為、この街の兵士は戦っているのだ。
ここで戦っていれば、自分達はもっと強くなれるだろうか?
いや、もっと強くならないといけない
そうしなければ、この街すら守れない
フランドールは、改めてダーナを守るという意味を理解した。
それは王都を守る事に比べると、遥かに困難な事である様に思えた。
そして前領主アルベルトが、あの魔物の前に倒れた事にも納得が出来た。
あんな化け物の前では、如何に元騎士団長であっても無力であっただろう。
それなのに、アルベルトは果敢に前線に立って指揮をしていたのだ。
何と勇敢な事なのだろう
先ほど不思議な声が、聞こえた様な気がした
しかし私なぞ、勇敢な勇者などとは言えない
真に勇者と呼べるのは…
周囲を見回すと、ギルバートが最後の一撃を加えてオーガが崩れ落ちた。
どうやらアーネストの一撃が効いており、視界を奪われた魔物は難なく倒された様だ。
胸にはあの大剣が、深々と突き刺さっている。
周囲のワイルド・ボアも片付けられており、魔物の遺骸は街に運ばれていた。
「お疲れ様です」
振り向くと、オーガの返り血を浴びたギルバートが立っていた。
その返り血で真っ赤な姿は、とても無事な様子には見えない。
しかしその血の全てが、魔物の返り血であるのだ。
「すごい恰好ですね」
「フランドール殿も」
「あ…」
気が付くと、自分も血塗れで大変な事になっていた。
彼自身も傷を負ってはいないが、とても無事には見えなかった。
そして鉄臭い血の臭いに、今さらながら気分が悪くなっていた。
「早く帰って、風呂に入りたい…」
「同感です…」
「ぷっ」
「く、はははは」
二人は声を出して笑い、それで気が晴れたのかフランドールは体の震えが治まっていた。
「これで、フランドール殿もオーガを倒せましたね」
「あ…
そうか…
倒せたんだよな」
「ええ
オークには手間取りましたが、オーガは見事な手際でした」
「いや…
無我夢中で、今でも実感が湧かない」
「それでも、十分ですよ
あなたは勇気ある戦士です」
ギルバートのその言葉に、フランドールは聞こえて来た言葉を思い出す。
あれは確かに、勇者と言っていた様な気がする。
「そう言えば…
何やら聞こえた様な…」
「え?」
「勇者の称号を得ました…って」
「え?」
「頭の中で声が聞こえたんだ」
「それって…」
それは聞き覚えがある称号の事だが、勇者は初めてであった。
正確にはギルバートのブレイブ・マンも勇者の称号なのだが、勇者という称号自体は初めてだ。
それはギルバートが与えられた称号とは、若干重みが違っていたのだ。
「オレが知る称号とは違うのかも知れません」
「君は…
この現象を知っているのかい?」
「ええ」
ギルバートはフランドールに、称号に関して知り得る事を説明する。
それはあくまでも、アーネストの解説をそのまま話している。
ギルバート自身は、その意味を理解出来ていなかった。
「スキルを獲得した時に、同じ様な現象はありませんでしたか?」
「いや
こんな事は初めてだ」
「え?」
ギルバートは困惑していた。
そうなると、王都の兵士がスキルを獲得したというのは、使える様になっただけなのか?
声を聞いて無いとなると、称号やスキルの獲得を得てない事になる。
そうなると、なるほど王都の兵士が弱いワケが分かった様な気がした。
本格的にスキルを、身に付けている訳では無かったのだ。
「フランドール殿
スキルを真に使いこなせる様になると、声が聞こえるんです
スキルを獲得したと」
「え?」
「そしてその声が聞こえていないとなると、スキルは形だけ使える様になっていたと思われます
実際に称号を得た今、スキルの威力は上がっていると思いますよ」
「それは…
本当の話なのか?」
「ええ」
ギルバートの話しに、フランドールは困惑していた。
これまでにも、彼はスキルの力に大いに助けられていた。
先程のオーガとの戦いでも、彼はスキルの力で勝利していた。
それが真の力では無く、不完全な力だと言うのだ。
「そうなると、今まで私達が使えると思っていたスキルは…」
「形だけの物です
真に会得したら、強力な一撃になります」
「な…」
そう言われて、改めて先の戦いを思い出す。
確かにギルバートの攻撃は段違いだった。
同じスキルなのに、自分は武器の切れ味に頼った強引な攻撃だったのだろう。
そうなれば今後は、もっと強力なスキルを放てる事になるのだ。
「あなたが授かった称号が、どのような効果を発揮するかは分かりません
しかし、称号を授かったのなら…
何らかの恩恵とスキルが使える様になっている筈です」
「恩恵?」
「ええ
力が増すとか…
魔物の恐怖に打ち克てるとか」
「力が?」
「他にも…
狂気に打ち克てると言った様な効果が見られています」
「狂気というと、先の私の私兵の…」
「ええ
あれに掛からなくなるみたいです」
「ううむ…」
フランドールは拳を握ったりしてみたが、どの様な効果が有るのかは分からなかった。
何かあると言われても実感が湧かないし、目に見える効果は無かった。
しかしそれでも、魔物から狂気の影響を受けないのは大きいだろう。
それでフランドールは、自身が強くなったと感じていた。
「スキルに関しては、明日にでも試してみましょう」
「そうですね
さすがに疲れました」
フランドールはギルバートの手を借り、フラフラと立ち上がった。
少し休んだのが効いたか、フラつくがなんとか歩けそうだった。
「とと…」
「はは…
まだふらつきますね」
「ははは
まあ、歩けるだけマシか」
歩きながら、ぼんやりとオーガの死体を見る。
それは話に聞いた通り、大きな巨人である。
そして頭部には、角が生えて禍々しい顔をしていた。
こんな化け物が、この世界に存在していたのだ。
「しかし、未だに信じられません
こんな化け物が居たなんて」
「そうですね
でも…」
「でも?」
「こいつ等はランクF
魔物としては低ランクなんですよね」
「え?」
「今は、まだ現れていませんが
そのうちもっと強い魔物が現れるかも知れません」
「な…」
「その時に備えて…
今は信じて力を蓄えています」
「そう…
ですか…」
フランドールは頭が混乱するのを感じた。
あんなに恐ろしいと感じた魔物が、実は下の方の魔物だとは。
アルファベットの意味から推測して、上から6番目に当たるのだろうか?
しかもその上に、もっと恐ろしい魔物が現れるかも知れないと言うのだ。
こいつが6番目となれば、少なくとも5つ以上の魔物の存在が示唆される。
ギルバートはもっと鍛えて、そいつ等と戦うつもりでいる。
自分はそこまで辿り着けるのだろうか?
そしてそんな魔物が現れた時に、この街を守る事が出来るのだろうか?
そんな思いを抱えて、フランドールは城門を潜った。
今回の事で、ギルバートに一歩近づけた気がしていた。
しかしそんなギルバートでも、その上の魔物には勝てるか分からない。
そうなれば、もっともっと…力を身に付ける必要がある。
力が…
力が必要だ
魔物に負けない
みなを守る為の力が…
今日の戦闘では死者は出ておらず、将軍の側でも負傷者しか出ていなかった。
しかし、住民と旅の商人に被害が出ており、無残に変わり果てた遺体が収容された。
中には遺品しか見つからない者も居て、遺族は悲しみに暮れていた。
その遺体は恐らく、魔物の腹の中にあるのだろう。
しかし食い千切られていて、それが誰なのかを判別する事は出来なかった。
墓は用意されたが収める物がほとんど残されておらず、魔物の残虐さを改めて現していた。
城門で泣き崩れる遺族たちを見て、フランドールは冥福を祈る事しか出来なかった。
己の無力さを感じ、この時初めて、フランドールは魔物を根絶やしにしたいと思い始めた。
固い決意を胸に、フランドールは強くなる事を女神様に誓った。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
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