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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第四章 新たなる脅威
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第081話

翌日フランドールは、朝早くから起きていたが暫く客間に居た

約束の時間までまだあるし、部屋で資料を読む事にしたのだ

そこには魔石の活用方法と、効果が記載されていた

昨晩にアーネストから、剣の強化の参考にと渡されたのだ

自分の剣を強化するなら、どの様な効果があるのか調べていたのだ

期待出来る効果を書き出し、これから頼みたい内容を吟味してみた

そうしている間に時間になったのだろう、ドアがノックされた


フランドールがドアを開けると、そこにはアーネストが立っていた

ギルバートは先にギルドへ向かっていて、アーネストはフランドールが来ていないので迎えに来たのだ

フランドールはアーネストに礼を言い、すぐ近くにある商工ギルドへと向かった

しかし向かうと言っても、歩いて数分程度の距離である。


「フランドール殿は武器の強化は決まりましたか?」

「ええ

 やはり身体強化は必須ですね」

「そうなりますと、残るは耐久性と切れ味の強化ですか?」

「そうですね

 可能ならそれでお願いしたいです」

「さいわいになかなか良い魔石だった様です

 恐らくは上手く行きますよ」


二人はそんな話をしながら、邸宅を出てすぐ側の建物を目指す。


「こんなに近くにあったんですか?」

「え?

 ああ、そうか

 まだ案内はしていなかったんですね」


アーネストはてっきり、ギルバートが案内しているのだと思っていた。

それで無くても、ここに来てから4日目である。

誰もフランドールに、この街の主要な建物を案内していなかったのだ。


「こっちが冒険者ギルド

 向こうが魔術師ギルドで、その先が私の家になります」

「へえ…

 こんなに近くにあったのか」

「全く

 ギルもだけど、誰も案内していないのか」

「ははは

 そうみたいだね」

「そうみたいって…

 はあ…」


アーネストは溜息を吐いてから、これから向かう建物を指差した。


「今回向かうのはこっちです

 ここが商工ギルドになります」

「え?

 強化は魔石と魔法を使うんですよね?」

「そうですが?

 それでも加工の必要がありますし、剣の修復も必要でしょうから

 昨日の戦闘で痛んでませんか?」

「あ…

 確かに傷が…」


思い返せば、確かに剣に傷や欠けが生じている。

このまま使っていては、戦闘中に折れていただろう。

ギルドに持ち込んで、専門の職人に見てもらう必要があった。

恐らくは打ち直すか、新たに作る必要があるだろう。


商工ギルドは、外観こそ他のギルドに似た2階建ての建物であった。

入ってすぐに商品が並べられたカウンターがあり、その他にも武具や鎧が飾ってある。

奥のカウンターが来客との打ち合わせ場所となり、その他にも工房や倉庫に続くドアが付いていた。

工房や倉庫は棟続きの建物になっており、工房に続くドアからは槌を振う音が聞こえてきた。

倉庫は3つも併設されており、その内1つは魔物を解体して素材を保管する倉庫になっていた。


「これは…大きいね」

「ええ

 特にここ数年は魔物から取れる素材が増えまして…」

「魔物の素材が多くてね

 毎日の様に倉庫が一杯になるんでさあ」


二人が話していると、続きを補足する様に小柄な男が話し掛けてきた。

小柄で筋骨隆々とした中年の男は、いかつい顔に白い髭を蓄えていた。

フランドールが誰?と見るので、アーネストが男を紹介する。


「こちらがギルド長の…」

「ガンドフと申します

 よろしくお願いします」

「どうも

 先にも一度顔を合わせたと思いますが

 私はフランドール・ザウツブルクと申します

 よろしくお願いします」

「おう

 覚えていなすったか

 ガハハハ」


ギルド長は豪快に笑い、肩には手が届かなかったので腰をバシバシと叩いた。


「あんたは良い貴族の様だから、これからも街を盛り立てて行く為にしっかり頼むぜ」

「こちらこそ

 ともに街の為に頑張りましょう」


二人はしっかりと握手をして、ニッコリと笑い合う。

アーネスト些か暑苦しい展開に顔を引き攣らせたが、二人が意気投合したのを見て安心した。

これから彼を領主として推薦して行くには、必ずギルドの協力が必要になる。

残るギルドでも上手く行けば良いのだがと、つい期待してしまう。


「それで…

 ギルバート殿は?」

「うん?

 坊ちゃんならそこに」


ギルド長が指差す先に、長椅子に座ってぼんやりしている姿が見えた。

思わずフランドールは声を掛けようとするが、アーネストが慌ててその手を掴んで止める。

見ると悲痛な表情で首を振っていた。


「え?」

「すみません

 今はそってしておいてやってください」


フランドールは訳が分からなかったが、深刻そうな表情を見て黙って従った。


「取り敢えず、話はきいておる

 問題の武器を見たいんじゃが?」

「あ…

 これなんですが」


フランドールはギルド長に促され、剣を剣帯から外して差し出す。

ギルド長は受け取ると、小柄な体に似合わず軽々と剣を引き抜いた。

細剣は長くはなかったが、ギルド長が持つと大きめの剣に見える。

それを軽々と持つと、彼は真剣な表情で構える。


剣を正面に掲げると、その剣の表面を見詰める。

やがて表面を指でなぞり始めると、眉間に皺を寄せていた。

一通り見ると、今度は斜めに構えて松明の明かりに当ててみる。

次に確かめる様に表面を叩いてみたり、刃がぐらつかないか刀身を掴んだりもする。

暫く熱心に調べてから、一人の職人を手招きする。


「おい!

 カンタック!

 ちょっと来い!」


職人を呼び付けると、表面の傷の加工と、欠けた刃を治す為の加工を依頼する。

それを聞いた職人は、すぐさま剣筋が曲がっている事も指摘する。

ギルド長はそれに頷き、すぐには加工出来ないと判断する。

それでフランドールに振り向き、2、3日掛かると告げた。


「どうやら相当な馬鹿力で殴られたな

 傷もだが根元にも来ておる

 一旦火に掛けて打ち直さんとならんな」

「そうですか」

「強化に関してはそれからじゃ」

「そうなると、どれくらい掛かりそうだい?」

「うーむ

 加工を修理の時に加えれば…

 4日、いや5日で完璧に仕上げよう」

「新しく打ち直す方が早いが…」

「手に馴染んだ武器の方が良かろう」

「そうですね」

「一応型も取っておこう」

「分かりました

 それでお願いします」


フランドールはギルド長に頭を下げて、強化の内容も伝えた。

その間もギルバートは長椅子に座っており、アーネストがチラチラと見て気に掛けていた。

話し合いが済み、フランドールはアーネストの方を向いた。


「ギルバート殿はどうしたんだい?」

「うーん

 奴には内緒ですよ

 気にしちゃいますから」


アーネストは小声で説明を始めた。

それはギルバートには、聞こえない様に用心して。


「あいつ…

 親父さんが死んでからまだ間もないから」

「あ…」

「時々ああやって…

 思い出しているんだろうな」

「そうか」

「だからああなっている時は、声を掛けずにそっとしてるんですよ」

「そうだな…」


二人は掛ける言葉も失い、ただ黙って見ている事しか出来なかった。

そうこうしていると、ギルバートの方が気付いた様で、苦笑いをしながら歩いて来た。

二人はそっとそっぽを向いて、気付いていないふりをした。


「どうしたんですか?

 二人共黙って」

「いや

 丁度用事も終わって帰ろうかと話していたんだよ」

「そうそう

 そろそろ次のギルドを案内しないと」

「ん?」

「そうだね

 個人的には冒険者ギルドも見てみたいかな?」

「ではご案内しますね」


二人共棒読みな発言をして、ギクシャクしながら歩き始めた。

ギルバートはそんな二人の様子に気が付けず、首を傾げながら後に着いて行った。


商工ギルドを出ると、隣の冒険者ギルドに向かって歩き始めた。

こちらは昼前でも賑わっており、中から声が響いていた。

1階に酒場と受付カウンターが並び、入り口の近くにはクエストを張り出す掲示板が立てられていた。

そこには薬草や鉱石の採取が貼られており、魔物の討伐は2、3枚しか残っていなかった。


「ここは採取がメインなのかい?」

「いえ

 この時間では護衛や討伐の依頼(クエスト)はほとんど無くなっていますよ

 朝早くなら猪や野犬、ゴブリンなんかの依頼(クエスト)がありますね」

「オーク等になると、さすがに兵士達に回りますから」

「そうか

 盗賊とかは無いのかい?」

「盗賊ですか?」

「ああ

 王都では時々あるみたいだが

 ここでは居ないのかい?」

「そりゃあ居ますでしょう

 だけど野菜や肉をちょろまかすぐらいですから」


王都の冒険者は、危険な野盗を狩る仕事も請け負っている。

それは金銭目的で、旅の商人を襲って殺す残虐な集団だ。

兵士達も追っているが、細かい集団までは追跡の手が回せない。

それで冒険者ギルドでも、その様な盗賊を探す依頼(クエスト)も貼り出されていた。

フランドールが言っているのは、その様な危険な以来の事である。


三人でクエストボードを見ていたら、後ろから声が掛かった。

そこには背の高い、如何にも冒険者という風体の男が立っている。

しかしその服装は普通の市民の様なチュニックを着て、スラックスを穿いていた。

武器も身に付けていないので、冒険者では無さそうだ。


「ようこそ、冒険者ギルドへ

 フランドール様でしたかね?」

「ああ

 あなたは?」

「ワシはここのギルド長、トーマスと申します」


日に焼けて褐色の肌をした、背の高い偉丈夫が片手を差し出す。

その全身は鍛え上げられた筋肉で覆われ、ガッシリした手が力強く握ってきた。

茶色い短く刈った髪に、頬に入った大きな傷が目立っている。

そのせいで子供達に怖がられて、落ち込む姿がよく見られていた。

その様に見た目は強面だが、実は優しいおじさんであった。


「今日は何か依頼ですか?」


男はニカリと笑い、酒場の方へ案内した。

酒場のテーブルにドカリと座り、トーマスは軽い食事を頼む。

それからギルバート達にも、座る様に促した。

そうしながら彼の片手には、いつの間にかジョッキが握られていた。

フランドールは思わず、昼間から酒を飲むのはどうかと思ってしまう。


「いえ

 単にここのギルドに来た事が無くて、案内をしてもらっていました」

「そうですか」

「しかし良いのですか?」

「あん?」

「いえ

 ギルド長が昼間から酒なんて…」

「ぷっ」

「くくく…」

「あ…」

「へ?」


フランドールの突っ込みに、トーマスは苦笑いを浮かべる。

そこで笑いながら、アーネストがそれの正体を説明する。


「フランドール殿

 そ、それは違う」

「くくく

 そいつは酒じゃ無いんだ」

「はあ?」

「ははは…

 まあ…

 いつもの事だからな」


ジョッキに入っていたのは、発酵させていない葡萄のジュースだった。

それを彼は、美味そうにジョッキに入れて飲んでいたのだ。

褐色の肌が赤味を隠しているので、てっきり酔っている様に見える。

しかし実は、彼は素面(しらふ)で酔っていないのだ。


「えっと…」

「がははは

 構わんさ

 いつもの事じゃ」


ギルド長は笑いながら頷くと、上機嫌でジョッキをテーブルに置いた。

その様子を見て、周りの冒険者達は笑いを堪えて見ていた。

しかしギルド長が睨むと、みんな素知らぬ顔でそっぽを向く。

それでも思い出して、数人の冒険者が吹き出していた。

その様を見て、ギルド長は顔を顰めて肩を竦める。


「すいません」

「あ、ああ

 構わんさ

 あいつ等も気付いている

 全く…」

「ええ

 くくく…」

「しかしその顔じゃあ…」

「酷いですぜ」


ギルド長はそう言いながら、傷付いた様な悲しい顔をする。

それを見て思わず、フランドールも吹き出しそうになった。

それからギルド長は、不意に真剣な表情になった。

その様子を見ると、周りの冒険者達も笑う事を止めていた。

さすがに慣れているのだろう、話を邪魔しない様に彼等は各々の席で大人しく会話を始める。


「それで…どうです?

 王都とは違いますか?」

「いや

 どこもギルドはこうだねえ

 この雰囲気も懐かしいよ」

「はははは

 違えねえ」


ギルド長は豪快に笑い、給仕に合図を送った。


「またですか?

 あまり昼間っから飲まないでくださいよ」


中年の女性がジョッキを4つ持って来て、ギルド長に注意していた。


「良いじゃねえか

 ここ数日は大きな騒ぎは起きていねえ」

「そうなんですけどね

 ほら

 受付でユミルさんが睨んでいますよ」


給仕の女性が視線で示すと、確かに受付の女性が睨んでいた。


「おお!

 怖え…」


ギルド長は震えるふりをしながらジョッキを呷った。

しかしその中身は、しっかり先ほどと同じ葡萄のジュースだった。

フランドールも口を着けるが、生温くなったエールは苦かった。

それを流し込みながら、王都でのギルドの光景を思い出す。

それは仕事を求めてでは無く、仕事の依頼をする為に訪れていた。


「それで?

 どういったお話が聞きたいんでしょう?」

「そうだねえ

 ここいらの冒険者の質とか、魔物に対して戦えるのか…とかかな?」

「魔物ねえ…」


トーマスはそう言うと、苦そうな顔をしてジョッキを呷る。

実際には葡萄のジュースなので、そこまでは苦くは無いのだ。

しかしその表情は、苦いエールを呷った様な渋い表情であった。


「こう言っちゃあなんですが

 魔物に関してじゃあ、軍も手を焼いていなする

 ですよね?」

「ああ

 まともに戦えるのは、まだまだ少ない」

「それに…

 元々ダーナの治安は良いんですよ

 ですから冒険者って言っても、ほとんどが薬草や鉱山労働者ですよ

 今は魔物に対抗する為の、腕利きを育てている真っ最中でさあ」

「そうか

 やはりどこも、急には魔物とは戦えないか」

「ええ

 いくらスキルを教わっても、一朝一夕では戦えませんって

 それに大型の魔物に関しては、坊ちゃんか将軍ぐらいですぜ」

「うむ

 そこは深刻だよな」


フランドールは予想通りの答えに、()もあらんと頷いた。


「これは…提案というか苦情なんですが」

「ん?」

「武器や防具がもう少し、もう少し手に入り易かったら

 それなら冒険者の質も上がるんですよ

 碌な装備が無くて、簡単におっ死んじまう奴が多いんです」

「そうか」


これはトーマス個人としての感想である。

冒険者ギルドのギルド長としては、そこは自己責任であると言うしかない。

しかし内心では、彼等に傷付いたり死んで欲しく無いのだ。

彼はここに居る冒険者達を、我が子の様に大事にしていた。

そんな子供達が、魔物に殺されるなど黙って見ていられなかった。


「ギルバート殿

 そこは何とかならないだろうか?」

「そうですね…

 現状は軍の拡充が優先です

 それが間に合っていないのに、余剰の武器や防具は有りませんよ

 先ずは軍の装備を整え、それから冒険者の装備になりますかね」

「だよな」


ギルバートの言葉に、今までも聞いていたのだろう、ギルド長はガックリと項垂れる。

それは当然の回答で、ギルバートでなくともそう言っただろう。


「しかし、フランドール様が兵士を連れて来てくださいました

 後は装備と訓練だけです」

「ああ」

「ですから、このまま訓練と並行して魔物を狩って行けば…

 遠からず市場に回せる様になります」

「そうなると、今はひたすら魔物を狩るしかないな」

「はい

 私達も強力しますので、魔物の討伐を頑張りましょう」


ギルバートとフランドールはやる気に満ちていたが、ギルド長は落ち込んでいた。

どの道当分は、冒険者は大変なままなのだ。

こればっかりは仕方が無いだろう。

アーネストが同情したのか、ギルド長の肩を叩いていた。


「ギルド長」

「慰めんでくれ

 余計に惨めになる」

「その葡萄のジュース

 もう少し我慢したら…」

「この程度じゃ変わらんさ」


その後も暫く4人で話し合い、昼にはワイルド・ボアのステーキも食べた。

それは今日入荷された、新しいワイルド・ボアの肉だった。

商工ギルドの方で、運良く入荷出来た肉だった。

それを商工ギルドのガンドフが、こちらに持って来させたのだ。

厚切りを塩と香草だけで焼いていたが、これはこれで旨かった。


「昨日のアーマード・ボアとは、また違った味わいだな」

「肉の食感はこっちの方が上ですからね」

「少し固いんだが、猪の肉に比べりゃだんぜんこっちのが旨いわな」


4人はステーキに齧りつき、肉の旨味を堪能した。


「これが安定して捕れるなら、魔物の出現も喜べるな」

「そうそう

 以前よりも捕り易くなりそうだからね」

「え?

 本当ですか?」


ギルバートの言葉に、ギルド長が思わず食いつく。


「南の草原に、ゴブリンやコボルトが移動している」

「このまま増えれば、当然ワイルド・ボアの発見数も増えるだろう」

「そいつはありがてえ」

「まだ正式な発表ではないが、このまま増えれば狩猟のクエストも頼む様になるだろう」

「それはそれで…

 奴等を危険に晒したくは無いな」

「そこは報酬と見合わせて、やれそうな冒険者を推薦するんですね」

「居たかなあ…」


アーネストのこの言葉に、ギルド長は複雑な表情を浮かべる。

依頼自体は、願ってもいない物ではある。

ワイルド・ボアは魔物だが、所詮は猪が魔物になった程度だ。

ゴブリンやコボルトの群れを狩るよりは、よっぽど安心な依頼であった。

しかしそうは言っても、それ程の技量の冒険者が少ないのが現状である。


先ずは冒険者自身で、魔物を狩る訓練を積むしか無いのだ。

そこでギルバートが提案し、アーネストが昨夜の魔物の勢力分布図を差し出した。


「これは差し上げれないが、良かったら書き写してみては?」

「これは?」

「周辺の現在の魔物の勢力図です」

「これを参考にして、南の平原のゴブリン狩りから始めては?」

「そうですな

 おい!

 記録係のアインを呼んで来い」


ギルド長が声を上げ、ほどなく記録係が連れて来られた。

記録係は資料を見ると、その内容に感嘆していた。

数日で変化はあるが、それでも情報が無いよりはマシだった。

これがあれば数日は、冒険者達は危険な魔物を避けられるだろう。


「これは素晴らしい

 すぐに写してきます」


記録係は意気込んで、資料を片手に駆け出した。

その先で、薬草の籠を抱えた冒険者にぶつかりそうになる。


「おい!

 危ないだろ!」

「すいません、急いでます!」


その姿を見送り、4人は談笑を続けていた。

話題の主なところは、装備と訓練の問題である。

そこはフランドールの私兵も、冒険者も悩みは同じである。

すぐには結果が出せないので、地道な訓練を積むしか無かった。

そしてその為には、技量に合わせた魔物の討伐が近道であろう。


時刻は2時を回った頃、不意にギルドの入り口が騒がしくなってきた。

一人の傷だらけの女性が駆け込み、カウンターへ向かう。


「お願いです

 助けて!

 助けてください!」

「どうした?」

「先ずは傷の手当だ」

「いいえ

 急いでいるんです

 早く!

 早く助けに向かわないと」


女性はそう言って、ギルドのカウンターの前で膝を着いていた。


「何事だ?」

「どうしたんだろう?」

「ちょっと行って来ます」


ギルド長はカウンターに向かい、傷付いた女性に話し掛ける。

ギルバートも気になり、その後に続く。

アーネストとフランドールも席を立ったが、騒ぎに集まった人が多くて近づけないでいた。


「…今も夫が…」

「しかし、城門で話したんじゃろう?

 今頃は警備兵が出ているじゃろう」


「どうしたんですか?」

「あ、ぼ、坊ちゃん」

「こちらの女性なんじゃが

 外で魔物に襲われたらしい」

「旦那と子供は行方不明で、他にも何人か居たみたいなんですが…」

「兎に角、警備兵には伝えているんでしょう?

 先ずは警備兵の詰め所に行って…」

「それでは間に合いません」

「そうですか…

 その魔物はどんな魔物でしたか?」

「え?」

「そうじゃな」

「どんな魔物だったんだい?」


女性は必死に思い出そうとするが、怖かったのだろう、ブルブルと震えていた。


「わ、分かりません

 大きな柱みたいな足しか見えなくて…」

「っ!」

「そいつは!

 そいつは何匹ぐらい居た?」

「分かりません

 分かりません…うう…」

「これは不味い!」


ギルバートは慌てて駆け出す。

柱の様な足と聞いて、大型の魔物が現れたと理解したのだ。

それを見て、事情も分からずアーネストとフランドールも追い掛けた。

二人は追い掛けながら、ギルバートに事情を聞こうとする。


「おい!

 ギル!」

「どうしたんだい?」

「大変だ!

 大型の魔物が出たんだ!」

「何だって!」

「すぐに支度をして…」

「おい!

 行く気か?」

「ああ

 当然だ!」

「馬鹿か!

 既に将軍が向かっている筈だ

 それにお前が軽々しく動いてどうする

 お前には重要な使命があるんだろう?」

「しかし…」


ギルバートは今すぐにでも、魔物を倒しに向かいたかった。

しかし大型の魔物となると、ギルバートが無事という保証が無いのだ。

だからアーネストは、王都に向かう事を引き合いに出してでも、彼を止めようとしていた。

それを聞いて、フランドールが自分が行くと言い出す。


「それなら私が!」

「いけません

 フランドール殿は今、武器を持っていないでしょう?」

「あ…」


しかし彼は今、武器を修理に出してしまっていた。

それに彼が向かっても、大型の魔物に勝てるか分からなかった。


「くそっ」


ギルバートは叫ぶなり、邸宅へ向かって駆け出した。

ここでまごまごしていても、何も解決はしないだろう。

彼は何も宛てがあって、邸宅に向かっているのでは無かった。

兎に角何か出来る事があるかも知れないので、武器や装備を取りに邸宅に向かう事にしたのだ。


「おい!」

「待つんだ!」


慌てて二人も駆け出す。

再び現れたという大型の魔物。

襲われたという女性は、柱の様な足を見たと言っていた

街に迫る危険を感じて、ギルバートは駆け出していた。

言い知れぬ不安を胸に秘めて、ただ真っ直ぐに走っていた。

まだまだ続きます。

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