第072話
ザウツブルク卿の旗下の騎兵が数騎、公道を駆けていた
先行して城門に着き、本隊の到着を告げる為だ
普通は2、3騎で駆けるのだが、貴族の到着という事もあり7名が選抜された
騎兵はダーナの東門に近付くと、声を上げて到着を告げた
その日の午後、ダーナの南門の外に数騎の騎兵が到着した
王都から来た兵士と言う事で、揃いの領主の家紋の入った外套を着こんでいる
ザウツブルク卿の擁する騎兵部隊から数騎、街に到着するという先触れであった
先行した騎兵に向かって門番が、何事かと詰問していた
「我々は王都より、ザウツブルク卿のダーナ領主代行に伴い随行した騎兵部隊だ
これより数刻の後、我が主ザウツブルク卿が到着される
然るに、到着の際の城門の開放と、我が主の休める場所の提供をお願いしたい」
代表する騎兵は丁寧に話し、城門の開放を求めた。
門番は直ちに領主邸宅に伝令を走らせ、騎兵の持つ通行証を検めた。
しかし代表する騎兵はしっかりしていたのだが、他の騎兵は違っていた。
門番に聞こえる様に、悪口を言っていたのだ。
「こんな田舎の門番如きが、我々を検閲とか何を抜かしてんだか…
すぐに門ぐらい開けろよ」
「我々がこれから守ってやるんだ
礼を言ってすぐに通せよな」
「そうだぜ
田舎の役立たずの案山子が」
「違いねえ
はははは」
そんな事を言いながら、数人の騎兵が馬鹿にした笑い声を上げる。
その態度に門番も顔を顰めていたが、最初の騎兵が代表して謝って来る。
彼も騎兵の態度には、かなり不満がある様子であった。
「すまない
礼儀知らずの部下が居て」
騎兵は頭を下げて、部下の方に頭を向けた。
「おい!お前等!
ふざけた態度をしてる奴は後でオレの所へ来い!
その性根を叩き直してやる」
「だって、隊長
こいつら間抜けな領主のせいで、大勢死んだんでしょう?」
「領主が間抜けなら、その部下も間抜けってな」
「違いねえ」
「ぎゃははは」
「貴様等…」
騎兵は隊長なのだろうが、その彼の言葉にも彼等は従おうとしなかった。
家柄の問題なのか、彼等は隊長すら馬鹿にしている様子である。
「それに責任取って、家が潰れるんでしょ?」
「そうそう
役立たずだから息子も廃嫡になったって
だから俺達の主が、わざわざこんな田舎に来てやったんですぜ」
「これからはオレ達有能な兵士が、魔物なんぞ倒してやりますよ
こんな田舎の農民なんかより、強いって見せてやりますよ」
「そうそう
田舎のくそ農民共は、黙って鍬でも持ってろっていうんもんだ」
「違いねえ
ぎゃははは」
また騎兵達は、兵士達を馬鹿にした笑い声を上げる。
それも今度は、聞き捨てならない言葉も吐いていた。
兵士達には、まだ廃嫡の話は知らされていない。
その事は一部の者が、然るべき時にまで秘密にする事になっていた。
「こいつ等…」
「おい!
それより、こいつ等妙な事を言っていないか?」
「坊ちゃんが廃嫡だと?」
「魔物を倒して街を護った…
功績のある坊ちゃんが?
廃嫡?
何かの間違いでは?」
門番はいよいよ我慢の限界に来ていて、数人が剣に手を掛けていた。
しかし相手が貴族の私兵なので、迂闊には剣を引き抜けなかった。
それに数人はその発言の、真意を掴めずに困惑していた。
「お前等、いい加減にしろ!
フランドール様に伝えておくからな!」
騎兵の隊長は部下を叱り、門番から離れようとした。
しかし門番の一人が、そんな彼を止めた。
「すいません
先ほどの発言なんですが…」
「ん?」
「領主様のせいで死者が出たとか、坊ちゃん…
嫡男であるギルバート様が廃嫡とか…
どう言った事でしょうか?」
「あ…
そうか、その事か」
騎兵隊長は気まずそうに向き直り、門番に話し始める。
「この事は決定した事では無い
ましてや噂が流れているだけだ
だからここだけの事で頼む」
「はあ…」
「勿論、他言無用でな」
「ええ、分かりました」
騎兵隊長は馬から降り、門番の代表と離れた天幕へ移動した。
その際に、余計な事は言うなと念入りに部下に命じ、主にも報告すると告げていた。
遺された騎兵は押し黙り、不満そうな顔をしていた。
門番のリーダーである兵士は天幕に入ると、騎兵隊長に椅子を勧める。
「どうぞ」
「ああ、すまない
それで…
先程の話だったな」
「ええ」
「これは主に辞令が下った際の話なんだが…
そもそも、そちらの嫡男が廃嫡の話は知っているのか?」
「いえ!
しりませんでした
そもそも今聞いて、みな驚いています」
「そうか…」
騎兵隊長は顎髭を扱き、暫し思案する。
「これは…
そもそも内密な話でな
オレも詳しくは知らない」
「はあ」
「嫡男のギルバート殿は、11歳の誕生日をもって廃嫡になると言われていた
それに伴い、我が主が後にこの地を引き継ぐ予定として代行に選出されていた」
「え?!」
兵士は本当に何も知らず、驚いていた。
アルベルトはその事を、家族にも黙って進めていた。
当のギルバートが聞いたのも、誕生日のパーティーの時であった。
門番の兵士が知らないのも、当然の事である。
「領主殿がどの様に考えていらっしゃったのかは…
オレらには窺い知らない
しかし廃嫡の話は、まだ告示されていなかったのだな」
「ええ」
「そうか…
それはマズいな」
「どうしてですか?」
「先のあいつらの様に、今回の事に色々誤解がありそうだ」
「誤解ですか?」
「ああ
そもそも我が主が代行となるのは、領主が倒れた為に臨時で入ったのだ
いずれは引き継ぐつもりではあるが、名目は負傷した領主の代行であった」
「ええ」
「それが、領主が亡くなってしまった為に、兵士の間に良からぬ噂が広まっている」
「それが先ほどの噂ですか?」
「そうだ」
騎兵隊長は真剣な顔をし、門番に向き直った。
代行の話自体は、以前から打診のあった話であった。
それが領主が倒れた為に、急遽前倒しになって進められていた。
そこには領主が、何らかの問題がある訳では無かった。
しかし貴族の子息である騎兵達は、親から偽りの情報を与えられていた。
それでこうして、良からぬ噂が広まっている。
主であるフランドールが、口止めしているにいも関わらずに…だ。
「元々領主代行の話が上がっていた
そこに来て今回の事だ
今まで有能とされていたアルベルト様の名声に、翳りが差してしまった
それでこの様だ」
「しかしそれは…」
「ああ
領主が負傷されたのは、魔物との戦闘と聞いている
しかしあいつ等と来たら…」
「魔物と言っても、オーガやトロールですよ?」
「オーガ?
何だ?
そいつは?」
「大型の魔物です
王都には…」
「見た事も無いな
我等が倒したのは、犬の頭をした魔物の群れだ」
「コボルトですね?」
「ああ」
「あの程度では…」
「む?」
フランドールが活躍した戦いは、コボルトの群れの討伐である。
コボルト程度であれば、この街の兵士でも倒せる。
人数が多いので、数を集めなければ危険ではある。
しかし兵数が十分であれば、決して危険では無い相手であった。
「あの程度?」
「え?
ええ
コボルトぐらいならば、我等でも十分に…」
「何と!
倒せると言うのか?」
「はい
昨日も数体の群れを倒したばかりです」
「何と…
数体とはいえ、一般の兵士でも倒せるのか?」
「はあ?
まあ…」
門番の兵士が、倒したと言うのだ。
騎兵は驚きで、言葉を失っていた。
「この皮鎧…
そのコボルトの毛皮です」
「信じられない!
我等でも負傷者が…」
「まあ、数が居れば危険ですからね
でも最初から討伐目的なら、それなりの人数も集まってますし」
「しかしアルベルト殿は…」
「ですから、それはオーガっていう…」
「そのオーガというのは、それ程に強い魔物なのか?」
「ええ
一撃でこの城壁を…」
「しかし城壁は何とも無いでは無いか?」
「それは修繕しましたから」
「しゅう…ぜん?
ドワーフの作だろう?
それを修繕だと?」
「ええ
アーネスト様が…
ギルバート坊ちゃんの親友ですが、有能な魔術師です
その彼が古い文献を読み解きまして、それで城壁の修復方法も解明されました」
「何と…
それでは王都の城壁も?」
「恐らくは、可能かと…」
「それは…
だがそうなると…」
アルベルトの死は、魔物との戦闘が原因とされていた。
しかし王都から来た兵士達は、その魔物の事を知らなかった。
いや、知る機会はあったのだが、貴族達がそれを隠していた。
見る事も無い辺境の魔物の噂など、失敗を恐れる為の嘘偽りだと思っているのだ。
だからアルベルトの死も、コボルト程度の魔物に殺された事になっていた。
そうして貴族達は、アルベルトの能力を過小評価していたのだ。
「王都に入った報告では、ただ魔物と戦って負傷したと…」
「そうですねえ…
正確には崩れた城壁に立って、果敢に指揮をされていました
それで魔物の崩した城壁に…」
「何と!
それでは魔物に倒されたのでは…」
「正確には違います
危険を冒して指揮をされて、城壁の崩壊に巻き込まれて…」
「ううむ…
聞いていた話と、随分と違うな」
彼も一般人の騎兵隊長であった。
貴族から聞いていたが、その裏の話は知らなかった。
ましてや先の騎兵達は、親や上司である貴族から偽りの情報を与えられていた。
それを信じ切って、自分達の都合の良い様に解釈していた。
「そうなるとマズいな」
「ええ」
「勘違いしている奴等が多い
だからこっちの兵士で、馬鹿な事を仕出かす馬鹿が居るかも知れない」
「そうですね」
「出来る事なら、後々に凝りが残らない様にしたいな
何かあった時には、早急に伝えて欲しい」
「ええ」
騎兵隊長の言葉に、門番も頷く。
「これから一緒のにここを守る仲間です、オレも問題は起こしたくありません」
「ああ」
「分かりました
将軍にも伝え、何某かの対策を致します
勿論、双方に遺恨が残らない形で…」
「そうだな
頼んだぞ
オレもフランドール様にお伝えしておく」
「お願いします」
騎兵隊長は頭を下げ、その丁重な態度に門番も好感を覚えて頭を下げた。
「ところで
殿下は何で廃嫡何でしょう?」
「ん?」
「ザウツブルク卿が来られるのは事前に決まっていたんですよね?」
「ああ…」
頭を上げた門番は、話題を変える事にする。
改めて気になっていた、廃嫡の件を尋ねたかったのだ。
「オレが知っているのは、オレ達の主に引継ぎの話が来ていた事と…
嫡男であるギルバート殿が廃嫡になると言う報せだけだ
それも主が代行で入る理由というだけで、詳しい事は知らない」
「そうですか
なら…
何で坊ちゃんが廃嫡になるんでしょうか?」
「オレ達下の者には、分からない様な理由が有るんだろうな」
「そうですね
少なくとも坊ちゃんは、廃嫡になる様な失敗はしてません
それに先の魔物の討伐の功績が御座います
褒賞を受ける事は有りましても、廃嫡になるとは…」
「そうだな
あんたを見ていても、その坊ちゃんはみなに気に入られている様だ
そんな人物が廃嫡になるんだ
余程の理由が有るんだろうな…」
「そうですね…」
門番は自分が敬愛する坊ちゃんを褒められて、嬉しそうに微笑んだ。
「何にせよ、主が到着すれば全てが分るだろう
それまでは無用な混乱は避けたい
協力をお願いしたい」
「そうですね
これから大変でしょうが、よろしくおねがいします」
門番と騎兵隊長は固く握手をし、天幕を後にした。
天幕を出ると騎兵と門番が、武器を手に向かい合って互いに牽制し合っていた。
「これは何事だ!」
「何をしているんだ」
折角これから仲良くやろうと話し合っていたのに、外へ出れば部下達がいがみ合っていた。
騎兵隊長は落胆し、溜息を吐く。
「だって!
こいつ等田舎者が、生意気にもオレ達に逆らうんですぜ!」
「な!
まだ言うか!」
「そうだ!
領主様や殿下を貶すのは止めろ!
これ以上は黙っていられるか!」
「何が領主だ!
田舎の似非貴族風情が」
「無能で死んだ者が、駄目領主と言われるのは当然だろ」
「そうだそうだ
無能な奴が居なくなるんだ、有能なオレ様達に感謝しろ!」
門番は我慢出来ずに反論し、それを嘲笑う騎兵部隊が鎌を構えて囲む。
装備や馬の差がある為、門番は剣を構えたまま押されていた。
「貴様ら!
これが誇り高い王国騎兵部隊のやる事か!!」
騎兵隊長が大声で叱責するが、騎兵達はヘラヘラと小馬鹿にした態度で返す。
「何が王国騎兵部隊だ!
お前も大した活躍もしなかったくせに、家の名前で隊長をしているだけだろ」
「オレ達みたいに、王都で元々住んでいた選ばれた民とは違う
所詮は田舎の貧乏人風情が偉そうにするな」
「貴様ら田舎者は、オレ達王都の人間に媚び諂ってれば良いんだよ」
「これは…」
「くそっ、選民思想者か!」
「選民?」
騎兵隊長と門番が話していると、騎兵の一人がニヤリと笑った。
「おい、こいつ等どうする?
オレ、良い事思いついたんだが?」
「良い事?」
「そうそう
この馬鹿共を殺して、こいつも殺すんだ
それで隊長がやられましたからってな」
「なるほど
田舎の馬鹿共を纏めて始末しようってか
良いな、それ」
騎兵達は下卑た笑いを浮かべ、隊長と門番を見る。
「な、なんだと?」
「くそっ、こんな奴等まだ残って居たとは…」
隊長は意を決して鎌を構え、騎兵達を睨む。
「逆らう気か?
その田舎者なのに、オレら王都の民に逆らうのが気に食わん
正義の鉄槌を食らうが良い!」
騎兵が鎌を持ち上げ、隊長の方へ向き直る。
一触即発の様子の中、不意に声が掛けられる。
「これは何の騒ぎだ?」
みなの視線が門の上に向き、気が付けば一人の少年が城壁の上から見下ろして居た。
「何だ?あの小僧は?」
「坊ちゃん!」
「坊ちゃん?」
「ほう…
あの小僧が無能の坊ちゃんとやらか」
騎兵達は小馬鹿にした薄ら笑いを浮かべ、ギルバートを見る。
「なるほど
無能の小僧らしく、生意気にもオレ達を見下した気になっているのか?」
「小僧!
ここへ降りてこい
オレ達が切り刻んでくれる」
「こいつ等正気か?
領主様の嫡男に何て不敬な態度を…」
「ふざけやがって…」
「王都の騎兵が何だ!
このまま黙ってやられるものか!」
騎兵達がギルバートを挑発するのを見て、いよいよ門番は覚悟を決める。
門番の一人が剣を構え、今にも切り掛かろうと身構える。
「止せ!
こちらから手を出してはならん
例え野盗の様な破落戸でもな」
ギルバートはそう叫び、城壁から飛び降りる。
「な!」
「あそこから飛び降りるだと?」
「こいつ…
馬鹿じゃねえか?」
王都の兵士はどうか分からないが、ダーナの兵士の多くが城壁から飛び降りて平気な技量はあった。
最初ギルバートが飛び降りた時には、兵士達は驚いていた。
しかし戦士のジョブを得た兵士達は、そのぐらいの事をしても平気になっていた。
ギルバートも何度も城壁から飛び降りており、今回も平然と着地していた。
「降りて来てやったが?」
ギルバートは軽装で帯剣もしておらず、警戒もせずに歩いて来る。
「領主は亡くなっているが、ここはまだオレが引き継いでいる
その領主の代わりに当たるオレに、随分な口を利くな」
「うるせえ!
田舎の小僧が!」
「オレ達王都の騎兵に逆らう気か!」
「生意気な!」
ギルバートの何気ない一言に、小馬鹿にされたと思った騎兵達は殺気立つ。
「生意気ねえ…
王国の騎兵だか知らんが、貴族に対して無礼なのはどっちだ?」
「うるせえ
生意気な小僧だ」
「そうだ!
何が貴族だ!
とっくに廃嫡して平民のくせに!」
「坊ちゃん!
危ない!」
騎兵達は鎌を振り上げ、ギルバートに切り掛かる。
しかしギルバートは危な気も無く躱すと、残りの騎兵達の方へ向く。
「廃嫡の話はまだ先の筈だが…
何で貴様らが知っている?」
「うるせえ
おい、この生意気な小僧をさっさと殺せ!」
「あ、ああ」
「だが、大丈夫か?」
「大丈夫だ
何せこいつは平民だ
オレ達王都の民の方が正しいんだ
構う事はねえ、さっさと殺してしまえ!」
「おう」
ヒュン!
ズドッ!
息巻く騎兵達の足元に、城壁から放たれた矢が突き刺さる。
当たらない様に足元を狙っていたが、それでも十分に脅威であった。
気が付けば城壁には、弓を構えた兵士達が立っていた。
彼等は弓を番えて、騎兵達の方を狙っている。
それで騎兵達も、怯んですぐに動けなくなった。
ギルバートは騎兵達の、謎の自信には驚いていた。
しかし油断なく身構えると、騎兵達が逃げ出さない様に見張っていた。
そして城壁が音を立てて開くと、中からダーナの騎兵達も出て来る。
騎兵隊長と門番はダーナの騎兵達に囲まれ、貴族の騎兵部隊とダーナの騎兵達が向かい合う。
「将軍
こいつ等は出来れば殺さずに拘束してください
どうにも不審な奴等ですが貴族の騎兵です
殺すのはマズいのでお願いします」
「はい」
将軍は頷き、ダーナの騎兵達もゆっくりと取り囲み始める。
貴族の騎兵達は囲まれ、明らかに狼狽えていた。
さっきまでは優勢であったが、今では人数的にも負けている。
威勢は何処へ行ったのか、恐怖に目を見開いて周囲をキョロキョロと見回す。
「き、貴様ら、こんな事をして許されると思っているのか!」
「そ、そうだぞ
オレ達は王都の騎兵だぞ
それに逆らう気か!」
「ふーん
王都のねえ…
本当なんですか?」
ギルバートは騎兵隊長に近付き、質問した。
騎兵隊長は肩を竦めると、忌々しそうに呟く。
「ええ
元は王都の兵士が多いんです
ただ現在はザウツブルク卿の配下になりますが…」
「ふむ
では偽称になりますかね?」
「あ…
そうです…ね」
「なにお!」
「この小僧が!」
元は王都の騎兵でも、今では貴族の私兵である。
そもそもが王都の騎兵でも、王国の騎兵である事に変わりが無い。
同じ王国の騎兵となれば、ダーナの騎兵と大差は無いのだ。
それを王都の騎兵だと言うのは、この場面では些か滑稽でもある。
「貴族に対する暴言に不敬、さらに偽称まで…
拘束に値すると見て問題ないですね」
「え…
はあ…」
ギルバートは騎兵隊長に尋ね、拘束する事を伝える。
隊長はその意図に気が付き頷いた。
「お、お願いします」
「では、この不敬いな者共を捕らえる
掛かれ!」
「き、貴様!」
「我等の上官だろうが!」
「貴様が責任を取れよ」
「な、何でオレが…」
ギルバートの声に従い、騎兵達は囲まれて拘束される。
さっきまで彼等は、隊長の事を序でに殺そうとしていた。
それなのに今は、自分達が助かる為に責任を隊長に押し付けようとしていた。
隊長は肩を竦めると、苦笑いを浮かべていた。
彼等の中には、抵抗しようとする者も居た。
しかし普段から魔物と戦っていたダーナの騎兵達にすれば、彼等を押さえるのは容易な事であった。
この騎兵達は名ばかりで、彼等からすれば弱くて未熟に感じられた。
あっという間に囲むと、武器を取り上げて拘束する。
「止めろ!貴様ら!」
「うぬ、この田舎者共が!」
「オレ達を誰だと思っている」
「そうだぞ
オレ達は貴族の私兵だぞ」
「そうだそうだ」
「それに王都の貴族の者も居るのだぞ」
彼等は何かにつけて、王都と名乗っていた。
しかしここは辺境で、王都と言っても意味が無いのだ。
それに貴族の子息であっても、継いでいなければ貴族では無い。
あくまでも貴族の、次男や三男でしか無かった。
「煩い!
黙れ!」
「何が田舎者だ!
舐めやがって!」
「くそお」
「こうなれば、ザウツブルク卿を呼べ!」
「そうだ、オレ達に逆らうって事は、ザウツブルク卿に逆らう事になるんだぞ」
「はあ…
そのフランドール様の命を受けた、オレに逆らっていたんだが?」
「やれやれ
やはり破落戸だな」
騎兵達は必死に抵抗し、仕舞いにはザウツブルク卿の名前まで出して来た。
先程までその名を受けている、騎兵隊長の指示を無視していたのに。
あまつさえその隊長の命を取ろうとしていたのが、凄い変わり身である。
ギルバートは呆れて騎兵達を眺める。
「申し訳ないんだが…
ザウツブルク卿の騎兵はああなのか?」
「いえ、奴等が特殊なんです
まさか選民思想者が潜んで居たとは…」
「選民思想者?
何だか複雑そうですね」
「ええ、まあ…」
選民思想者とは、近年王都で問題になっている者達であった。
自分達こそが、帝国に認められたこの王国の正当な支配者である。
国王は帝国貴族を僭称して、嘘偽りで国を興した。
今こそ自分達が、この王国を正当に継ぐべきだという思想を持っている。
その様な思想を掲げて、彼等は反国王派の筆頭として台頭している。
多くの者が反国王派として、過激な思想を持って行動していた。
それで逮捕者も出ていて、王都の兵士達を悩ませていた存在である。
それがまさか、身内にこんなに潜んで居るとは、騎兵達長も思ってもいなかったのだ。
二人は捕らえられて引き連れられる騎兵達を見て、複雑な表情をする。
代行の貴族が到着する前に、まさかこの様な騒ぎになるとは思ってもいなかった。
そのまま騎兵達は縛り上げられ、ザウツブルク卿が到着するまで待つ事となった。
彼等は縛られたまま、ザウツブルク卿が来るまで放置される事となる。
それからザウツブルク卿が到着するのを、ギルバートと将軍は門の前で待って居た。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
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