第066話
魔物が攻め込み、領主アルベルトが傷付き倒れた
それから三日が経とうとしていた
アーネストは城壁を修復しつつ、新たな試みを行う
それは魔法陣による、永続的な城壁の強化であった
過去のドワーフ達も、恐らく何らかの方法で、その様な加工を施していた筈なのだ
しかし時が経過した事で、その効果は薄まっていた
アーネストはそれを模倣して、城壁に施そうとしていた
城壁の修復の最中に、王都からの使い魔が到着する。
それでアーネストは、ギルバートを連れて伝言の手紙を確認しようとする。
しかしその前に、ギルバートは突如魔力を暴走させてしまう。
それはアーネストも焦るほどの、危険な魔力の暴走であった。
アーネストは原因を探る為に、ギルバートに質問をする。
「なあ
ギルの病気?
確か5歳まで続いてたよな」
「ああ
さっき言っただろう?」
「うん
確か原因不明の高熱と出血が…」
「出血?
高熱は覚えているけど、出血って何だ?」
「え?」
アーネストは当時を振り返り、ギルバートに質問していた。
しかしギルバートは、またもや覚えていない様子であった。
しかも今度は、自身の病の症状に関してである。
不通ならば、それぐらいは覚えている筈だった。
「ギルは…
覚えていないのか?」
「覚えていないって…
出血なんてした事も無いぞ?」
「え?
オレも見た事があるんだぞ
全身から出血して、呪いがどうとか…
じいじは服を血で汚していたんだ…
本当に覚えていないのか?」
「呪い?
オレは熱で朦朧とした事は覚えているけど、他は知らないぞ?
それに呪いって何だ?」
「ん?
何か変だぞ
じいじはその呪いを払う代償に死んだんだぞ?」
「死んだ?
老師は老衰で亡くなったんじゃあ…」
「いいや
病でも年でも無いぞ
無茶な魔法の行使のせいだ」
ギルバートは困惑していた。
確かに子供の頃に、しょっちゅう高熱を出しては寝込んでいた。
そして夢現の状態で、何度も魘された記憶はあった。
しかし身体からの出血とか覚えが無いし、呪いなど聞いた事が無かった。
「何かの間違いじゃ無いのか?
オレは血なんて…」
「いや
確かにお前の血の筈なんだ
だってお前の下に、診察に行った時に着いていたんだぜ?」
「だからって…
覚えが無いぞ?」
「ギルは意識が無かったんだろう?
それで覚えていないんじゃ無いのか?」
「そうかなあ…」
そう言われると、ギルバートは何も言い返せない。
確かにその頃の事は、ほとんど覚えていなかった。
思い返そうとしても、靄が掛かった様にハッキリと思い出せない。
それに深く思い返そうとして、さっきは魔力を暴走させたらしい。
下手に思い出そうとするのは、危険な感じがした。
「その…
ガストン老師?
アーネストの師匠がオレを救ってくれたのか」
「そうだ」
「しかしどうやって?」
「ギルが知らなかったのは、高熱で意識が無い時が多かったからかな?
そう考えると、師匠を知らないのも無理もないか…」
「すまない」
「良いんだよ
それより、ギルに黙ってたのが気になる
恐らく知っているのはオレと師匠、領主様、後は…国王様か?」
「国王様が?」
「ああ
オレが一人になるのを心配して、師匠に引き合わせてくれたんだ」
「へえ…」
「親父達は流行り病で、亡くなったらしいからな」
「ああ
そうらしいな」
「だからアルベルト様も気にされて、オレの面倒を看てくれていた
てっきり国王様と同じで、心配してくれていたんだと…」
「そうだったんだ…
オレはてっきり、魔法の才能が有るからだと思っていた」
「勿論それもあるぜ
師匠に拾われたのは、オレの持つ魔力が大きいからだ
将来を有望視されていたのは確かだな」
アーネストはドヤ顔を決める。
国王がガストン老師に引き合わせたのも、アーネストの魔力が生まれつき高かった事にある。
不通の子供は、精々が魔石に魔力を込めて、火を灯せる程度である。
しかしアーネストは、生まれつき高い魔力を備えていたという事だった。
それを聞いていた国王が、身寄りを失ったアーネストを引き取った。
そうして有能な魔術師に育てる様に、ガストン老師に引き合わせたのだ。
「じいじは…
ガストン老師はオレの才能を見抜いたって
それで魔力を制御される様に、育てるって言ってくれたんだ」
「そういう話だったよな
お前から何度も聞かされたよ」
「へへ」
アーネストもその事が嬉しかったのか、ギルバートに何度も話していた。
それほど老師に気に入られた事が、彼にとっては嬉しい事だったのだろう。
しかしその事が、老師とその家族の仲を険悪にさせていた。
老師の息子には、魔術師としての才能が無かったのだ。
彼の息子は自分には教えなかった魔法を、アーネストに教えている事が許せなかった。
老師は息子達の魔力が、少ない事に諦めが付いていた。
しかし息子の方は、それが許せなかったのだ。
彼は何度も、老師に魔法を教えてくれと懇願していた。
しかし老師は、危険だと言って教えなかったのだ。
少ない魔力で魔法を行使するのは、生命の危機に繋がる。
魔力不足を超えれば、魔力枯渇となる。
それは生命の力を使って、無理矢理魔力に変換する事になる。
老師はその事を知っていたので、息子には教えなかったのだ。
その代わりに老師は、魔道具作りを教える事にした。
魔道具作りに関しては、少ない魔力でも可能だった。
簡単な魔道具ならば、多くの魔力を必要とし無いからだ。
老師は魔道具作りを教えたが、魔法に関しては教えなかったのだ。
しかし息子は、その事を理解出来なかった。
それなのに老師は、何処かから拾って来た子供に、熱心に魔法を教え始めた。
その事がいつしか、彼等の家族に溝を作っていた。
息子は自分に向けられなかった、愛情をアーネストに感じていた。
自分では無く、アーネストを選んだと思い込んだのだ。
それで老師が亡くなってからは、彼等はアーネストを憎悪していた。
そして原因となった、領主にもその憎しみを向けていたのだ。
「ただ、ギルの治療で…
老師が亡くなったのは誤算だったらしい
それでオレは王宮まで連れて行かれたんだ」
「ああ
オレに会う前の話だな」
「うん
アルベルト様が後見人を買って出てくれて、師匠の家を継ぐ事になったんだ」
「あれ?
だけどあそこには…」
「ああ
老師の家族も住まわれている」
「だよな?
何で一緒に住まないんだ?」
「それは…」
アーネストは少し言葉に詰まり、それから説明した。
しかしそれは、ほんの一握りの出来事でしか無い。
全てを話せば、親友は彼等を許せなくなるだろう。
自分が原因だと思っているから、アーネストはそれだけはさせたく無かった。
だからギルバートには、表向きの事情だけ話す事にした。
「じいじは…
老師は息子さんには、魔法を教えていないんだ」
「何でだ?
老師の息子さんなら…」
「それがな、そこまでの魔力では無かったんだ
それで危険だからって、教えなかったみたいなんだ」
「そうなのか?」
「ああ
だからその事で、オレとも折り合いが悪くて…」
「ああ
アーネストに教えていたからか?
それでその人達と…」
「ああ
あまり仲が良く無いんだ
挨拶も返してくれないぐらいに…」
「そうか、そんな事になっているのか…」
「良いんだよ
オレにはギルが居るし
それに父親の様に慕える…」
「父上…か」
「ああ」
思い返せば、アーネストはアルベルトを慕っていた。
それは両親に続いて、老師も喪っていたからだろう。
それなのに隣に住む、老師の家族とは疎遠になっている。
いつしかアーネストは、優しく接してくれるアルベルトを慕っていた。
実の父親を喪っている為に、父の様に慕っていたのだ。
「父の様に…か」
「ああ
アルベルト様は、オレにとっては父の様なものだ」
「はは…
それを聞いたら、どんなに喜ばれるか…」
「聞かせたい
それなのに今は…」
「早く良くなって欲しいな」
「ああ」
今の状態を見れば、とてもそうには見えない。
アルベルトの容体は、見た目こそ安定はしている。
しかし頭部に受けたダメージは、見た目以上に深刻なのだ。
あるいはこのまま、意識を取り戻せぬまま亡くなる可能性すらあるのだ。
「それならば意識を取り戻す前に」
「ああ
心配事を片付けないとな」
「それなんだけどな…」
「ん?」
「さっきの魔力の暴走…
あれも呪いの影響なんじゃ無いかな?」
「呪いって…
そもそも本当なのか?」
「ああ
じいじが…
老師が言っていたんだ
まるで呪いじゃなって…」
「まるでって…
それじゃあ呪いじゃ無いんじゃないのか?」
「ああ、そうだな
オレもこの呪いという言葉には、裏がある気がしてきた」
「オレの出生の件か?」
「そうだ」
老師は呪いの様だと言っていたが、そもそもが呪いでは無いのだろう。
しかし呪いの様に思わせる、何かがあったのは確かだろう。
それはギルバートを診ていた際に、老師のローブが血に汚れていた事が証明している。
幼い幼児が、それだけの血を流す何かがあったのだ。
だからこそ老師は、寿命を削ってまで完治させようとしたのだ。
「まあ、呪いかどうかは置いといて…
お前が本当にアルフリート様だってんなら、王子は呪いの様な何かを受けていた事になる」
「そうだな
王子に呪いなんてあり得ないだろ」
「ああ
しかし同等な何か…
恐らく女神が何かをしたんだろう」
「女神様が?
しかし何を?」
「分からない
分からないが…
血を多く流させる様な、そんな何かだ」
「魔法かな?」
「あるいは…
そうかもな
運命の糸が使っていた魔法
あれはどれも強力だった」
「そうか
運命の糸の可能性もあるのか」
「そうだな
だが、それなら身分を偽って預けたのもにも納得がいく
王子は死んだ事にして、信頼する者に預けたんだ
在り得る話だ」
「信頼する者?
それが父上か?」
「ああ
従兄にして乳兄弟
それに一緒に戦場で戦った仲でもある」
「そうだな…」
ギルバートはまだ、自分が王子だなんて信じられ無かった。
しかしその事が、彼に何らかの呪いの様な物を与えた。
そしてその何かが、アーネストにも引き合わせてくれた。
そういう意味では、その何かがこの巡り合わせを与えてくれた事になる。
「そうか…
でも感謝しなきゃな」
「はあ?」
「それがあったから、老師に救われた」
「そりゃあそうだが…」
「それでお前に会えたんだ」
「ギル…」
「へへ」
「言ってて恥ずかしく無いか?」
「おい!
そこは感動する場面だろう」
「しないしない」
「お前な…」
「はははは」
アーネストは笑っていたが、内心は嬉しかった。
しかし照れてしまって、憎まれ口を叩いていたのだ。
「しかし、お前の身体が弱かったのも…
幸いしたのかもな」
「え?」
「病弱なら、母親にも会わせられない口実になる
いきなり生まれた子供が育ってたら、母親は不審に思うだろ」
「へ?」
「あれ?
知らないのか
アルフリート様なら今年で14歳になってるんだよ
聖歴22年の10月13日生まれだからな」
「ええ!」
「つまり
本当ならお前は2歳年上な訳だな」
「…」
アルフリートは生まれて、すぐに王宮の奥に隠された。
それから亡くなるまで、ずっと魔術師達に見守られていた。
ギルバートの事件が起こったのは、それから2年近くが経ってからになる。
それを換算すると、実年齢は2歳年上という事になる。
ギルバートは急に2歳上と言われても、実感が湧か無かった。
それはギルバート自身が、2年間の記憶を持っていないからだ。
というよりは、5歳までの記憶もほとんど無かった。
それに2年間を加えると、7年近くの記憶が無い事になる。
そもそもそれでは、自分は7年近くも病に苦しんだ事になる。
その間にずっと、意識が無い日々を過ごしていた事になるのか?
それは無為に、7年を無駄に過ごした事になるだろう。
改めてその呪いの様な物の、恐ろしさを思い知る事となった。
「敬語使おっか?」
「止めろ!」
「アルフリート様」
キリッ!
ビシッ!
アーネストは急に真面目な顔をして、ギルバートに貴族風の挨拶をした。
しかし、急にそんな事をされても、背中がむず痒くなる感じがするだけだ。
それこそ小さい頃から兄弟の様に育った二人だ、今さら敬語とか使われたくない。
それに敬語を使われても、ギルバート自身が敬語が苦手だった。
「似合わないから止めてくれ」
「はははは」
「ああ!
背中がむず痒い」
「だけど、お前が王太子になれば、話は別だぞ?
こうして二人の時は良くても、公式の場では我慢しないとな」
「はあ…
実感が湧かんよ」
「嫌でも慣れてもらわないとな
ほら」
アーネストは唐突に、書簡に入っていた書類を手渡す。
そこには国王の直筆のサインが有り、指令が書かれていた。
署名の後ろには、クリサリスの聖十字の紋が押されている。
これは王家の者が作成した書類と、周知させる為に押されていた。
「二人で王都へ来る事…か」
「ああ」
「父上はどうなるんだろう?」
「このまま意識が戻らないなら…
覚悟はしておいてくれ」
「ああ…」
それはこのまま、亡くなる事を意味していた。
それに意識が戻ったとしても、五体満足とはいかないだろう。
ここまで意識が戻らないという事は、頭に相当大きなダメージを負っている事になる。
意識が戻ったとしても、何らかの障害が残ると司祭も告げていた。
頭へのダメージは、それだけ危険な事なのだ。
アーネストはもう一枚の書類を読み、それをギルバートに渡す。
それは宰相が記した、領主代行に関する書類だった。
「どの道、代行は手配して頂いた様だ
補充の騎士も着いて来るらしい」
「例の騎士様か?」
「ああ
その様だな」
そこには宰相から、領主代行の騎士に関しての情報も記されている。
彼は今回の魔物の騒動で、王都で軍を率いる事になっている。
その後にダーナに向けて、旅立つ予定である。
「こっちでお前が活躍した様に
王都でも活躍する騎士が居るみたいだな
それが今回来る代行だって事だ」
「元騎士の貴族か…」
「子爵として来るから、実質お前の方が…
あれ?
どの道、王子様なら上か?」
「そうだな」
アーネストの言葉に、しかしギルバートは憮然とした表情を浮かべる。
何が気に入らないのか、不満そうな表情だった。
「気に食わないって喧嘩はするなよ」
「相手次第だな」
どの様な貴族か、まだ会っていないので分からない。
しかし尊敬する父の代わりに、領主になる男だ。
半端な相手では、譲りたく無いと思っていた。
「まあ、代行が来るまでは1月近く掛かる
それまではお前が代行だ」
「なら、補佐を頼むぜ」
「任せろ」
アーネストは胸を張るが、気になる事があって尋ねる。
それはアーネストにとっても、問題になる事であった。
「オレは構わないが、ジェニファー様が嫌がるかもな」
「母上が?」
「ああ
オレはまだ叙勲を受けていない
だから平民が嫡男と馴れ馴れしいのは…
本当は嫌らしい」
「母上がそんな事を?」
「ああ
今まではアルベルト様がいらしたから、あまり言われなかったが…
どうもその様だな」
「そうか…
オレから言っとこうか?」
「止めた方が良いよ
なるべくジェニファー様の前には出ない様にする
それで大丈夫だろう」
「分かった、オレも気を付けるよ」
ジェニファーは表立っては、アーネストには苦言を言わなかった。
しかし貴族である以上は、本来はその点も注意しなければならない。
今までは領主は、父であるアルベルトが行っていた。
しかし息子であるギルバートが前に出るなら、その辺に食い付く商人も現れるだろう。
アーネストが良くて、我々が駄目なのはおかしいと、そう言って来るだろう。
それを考えて、ジェニファーは警戒をしているのだ。
「兎に角
有力な商人どもには気を付けろ
オレも目を光らせておくが…」
「そういえば…
ヘンディー将軍も言っていたな
何をそんなに…」
「この機に乗じて、自分達の利権を主張して来るだろう」
「父上が大事な時期に?」
「ああ
だからこそだ!」
「馬鹿な!
そんな事が罷り通ると…」
「思っているから、厄介なんだ」
「分かった
気を付けるよ」
「ああ
しっかりしてくれよ
王太子様」
「止めろよ!」
「はははは」
二人はその後も書類の確認をして、当面の指針を立てる事にする。
城壁の強化と兵士の装備の強化。
先ずはここから手を付ける事にすべきだろう。
魔物がいつ来るか分からないからだ。
今のままでは、魔物に対しては十分とは言えない。
魔術師ギルドが協力して、魔法陣を刻み込んではいる。
しかしその城壁も、未だ見かけだけの修復でしか無い。
破損した箇所を修復するには、資材も時間も必要だった。
それに兵士に関しても、頭の痛い問題だった。
増援の兵士が来るのも、件の騎士と同行す時まで来ない。
書類にもその事で、何とか自分達で対処する様に書かれていた。
「追加の徴兵の許可は出たが…」
「ああ
問題は訓練期間だな」
辺境の領主と言っても、勝手な徴兵は許されない。
勝手に兵士を増やせば、王国に叛意ありと疑われるのだ。
その点を考慮して、宰相は徴兵の許可証も同封してくれていた。
しかし兵士を増やしても、使えるまでに時間が必要だった。
こればっかりは、訓練期間も必要なので難しい問題なのだ。
城壁の問題と合わせて、今は時間が必要だった。
「どうにか時間が欲しいな」
「ああ
今魔物に来られたら…」
「城壁は?」
「もたないだろうな…」
「兵士も半数近くに減っている」
「最悪
ダーナを放棄するしか無いな」
「ここを棄てて…
どうするんだ?」
「一旦、ノルドの森まで退くしか無いだろう
あそこの領主とは…」
「領主とは?」
ノルドの森の中にも、小規模ながら砦のある街が作られている。
森と竜の背骨山脈の境にあって、鉱山を抱える街である。
しかし本来の領主である、アルベルトに反抗的な貴族が治めている。
ダーナがいよいよ駄目となれば、そこに逃げ込むしか無いだろう。
「アルベルト様には、反抗的な領主だ
しかし他に行く所も無い」
「そこに逃げ込めと?」
「ああ」
「嫌だ!
オレはここに残って…」
「それでジェニファー様や、フィオーナにも死ねと?」
「な!」
「セリアも…
折角助かったのに、魔物に殺されるだろうな」
「くっ…」
「まあ、今から考えてもしょうがない
魔物が来ない様に、祈るしか無いな」
「その相手が…
魔物を寄越した女神様なのに?」
「だな…」
それまでは魔物が、攻めて来ない様に祈るしか無い。
その祈る相手が、敵である女神であったとしてもだ。
今は祈る事しか、許されていないのだ。
兵士を鍛えるにしても、城壁を再建するにしても、時間が必要だった。
二人はそのまま、これからの計画書を作成する。
具体的な期間は分からないが、なるべく早く徴兵をする必要があった。
それから集めた兵士を、鍛える時間も必要なのだ。
必要な書類を作ると、それをヘンディー将軍に渡す必要もある。
徴兵となれば、将軍以外に適任者は居ないからだ。
書類の整理をしている間に、気が付けば夕刻になっていた。
アーネストはジェニファーに会うのが気まずいので、夕食は辞退して帰って行った。
帰る序でに、将軍への指示書も持って行くと言っていた。
それでギルバートは、アーネストに書類を託した。
ギルバートは起きた妹達を連れると、入浴や食事の手伝いをしてあげる。
母が居ない間は、自分が面倒を看るんだ。
王都に向かうまでは、自分がこの二人の兄なのだから。
そう思って彼は、二人の面倒を看ていた。
そうして二人が眠った後に、ギルバートは私室で月を見上げていた。
月は何も言わずに、ただその淡い蒼い光を投げ掛ける。
当座の危険と言われた3日は過ぎたが、父の意識は未だに回復していない。
母が戻らない辺りは亡くなってもいないのだろうが、いつ容体が悪化するか分からない。
見上げた月に祈ってみる。
女神様が月に関係するとは思えないが、この際何でも良かった。
父上が意識を取り戻せます様に
少しでも事態が改善します様に
ギルバートは、心の底から祈ってみた。
そうする事で本当に父が治るワケは無いだろうが、今は縋ってみたかった。
月は何も応える事も無く、ただ宙に浮かんで輝き続ける。
まるでその光が、人々を見守っているかの様に。
その祈りが届いたのだろうか?
翌日の早朝から、兵士が邸宅へ駆けこんで来た。
領主アルベルトが、先ほど目を覚ましたと告げに。
ギルバートは支度をすると、すぐに飛び出して行った。
父が運び込まれた、あの救護所に向かって。
まだまだ続きます。
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