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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第三章 新たなる領主
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第065話

使い魔は飛ぶ

夜の闇の中を飛び、ダーナの街へと向けて

その翼をはためかせて、竜の背骨山脈超えて行く

国王からの親書を携えて、蒼き月明りの下を突き抜ける

その姿を見れる者が居るとすれば、闇夜に浮かぶ魔物の化身ぐらいであろう


ダーナの街が襲撃されてから、既に3日が経とうとしていた

崩れた城壁には石が積まれ、遠目には崩れた跡は見えなくなっていた

しかし近くで見ると、石の大きさがバラバラで漆喰も乾いていなかった

その近くに魔術師が集まり、地面に奇妙な図形を描いていた


「違う!違う!

 そうじゃない!」

「え?

 ここに呪文を…」

「だから違うって

 呪文はその下だよ」


アーネストが大声で、魔術師の一人を叱る。

叱られた魔術師は、困惑した表情でアーネストを見る。

彼はアーネストの指示で、この城壁の壁に魔法陣を描いていた。

しかしアーネストは、その下の地面を指差す。


「そっちは強度の魔法陣なんだ

 それは継続を伸ばす魔法陣だよ」

「どう違うんですか?」

「こっちが石の結び付きを強める魔法で…

 それだと魔法の効果の継続を伸ばす魔法なんだ」

「こうですか?」

「うーん

 もう少し綺麗に書けないかな?」

「えっと…

 ははは…」

「はあ…」


他の魔術師が図形を見せて、アーネストは返答に困る。

その魔法陣は確かに強化の魔法だが、あまりに字が汚かった。

あまりに文字が汚いと、効果が出なかったり、間違った効果を発動する。


「そんなんじゃ城壁に書けないよ

 魔法陣の触媒も多く無いんだから、失敗は許されないよ」

「はあ…」

「ですが、こうでこぼこしてますと…」

「じゃあ、こっちの地面の方を描くかい?

 こっちの方が難しいよ?」

「そうだぞ

 こっちは消えない様に、特殊な触媒を使うんだぞ

 失敗は許されないんだ」

「その割には、君も字が汚いよね」

「え?」

「はははは」

「ほら

 笑ってないで、真面目に書いてよ

 漆喰が渇く前に刻み込まないと」

「はい」


アーネストが城壁に魔法陣を、等間隔で描かせていた。

それはこれから城壁に描かれる物で、触媒の液が希少なので一発勝負になりそうだった。

地面に見本を描かせ、実際に城壁に登って壁に書くのだ。

それを勘違いして、他の魔法陣を壁に描こうとする者も居る。

このまま失敗が続けば、本当に触媒が枯渇しそうであった。


「頼むから真面目にやってよ」

「真面目にしてますよ」

「そうですよ」

「だったら何で、こっちの魔法陣を描くんだよ?

 最初に言ったでしょう?」

「すまん」

「すいません」


魔法陣の効果は、城壁をより崩れにくくさせる。

過去にドワーフが造った時にも、同様の効果が施されていたと推察される。

その効果に似た物を、魔法陣で発動させるのだ。

効果は魔力が無ければ長続きしないので、地面にも魔法陣を描いている。

こちらは魔力を込める事で、城壁の魔法陣の効果を上げる物である。

どちらも魔力が必要なので、定期的に魔石を用意する必要がある。


今までは素材が不明だったので、この試みは行われていなかった。

しかし今回のオーガの素材から、魔法陣を描く為の触媒が作られる事が判明した。

燃やした骨や灰を水で溶いて、染料の代わりに使用する。

これで魔力の籠った、魔法陣が描かれる事が判明したのだ。

しかしオーガの討伐数も少なく、検証しながらの実験となった。

それで触媒になる、染料の不足が悩みであった。


「はあ…

 これじゃあ、またオーガを狩らないと」

「オーガをですか?」

「それならまた魔石が…」

「魔石も素材も希少なんだよ?

 そもそも、オーガ自体が強い魔物なんだから」


オークも稀に魔石を落すが、オーガは魔石を持つ個体ばかりであった。

多少の大きさの差はあるが、倒せば安定して手に入るだろう。

容易に倒せるのなら、素材目当てに狩るという選択肢もある。

しかしオーガ1体を倒すのに、数名の騎士が犠牲になっていた。

それを考えれば、容易に手に入れれる物では無かった。


ギルバートは遠くからこの光景を見ており、子供の落書きの様だと思っていた。

実際に側ではセリアが、真似て地面に何かを描いている。

少し離れた場所で、フィオーナも木の枝と格闘していた。

それを見守りながら、ギルバートは城壁を見詰めていた。


本当ならば、今すぐにでも父親の下に向かいたかった。

しかし依然として、アルベルトの容体は予断を許さない状況だった。

意識不明のままで、時々苦痛に呻くだけである。

その度に魔術師達が、薬草を使った香や、塗り薬を塗って治療していた。

しかし頭部に負った怪我なので、容体は不明のままだった。

それでギルバートは、ギルド長に頼まれて視察をしていた。


城壁の落書きを見詰めるのに疲れて、ギルバートは欠伸をした。

涙目で空を見上げると、ふと小さな黒い点が見えた気がした。

それは徐々に大きくなって、こちらに向けて近付いて来る。

ギルバートは思わず、腰に提げた剣に手を掛けた。


図形の落書きに夢中になっていたアーネストも、ギルバートの様子を見て思わず上を向く。

それは小さな黒い点から徐々に大きくなり、やがて鳥が飛んで来ているのが見えた。

それは漆黒の様な黒い鳥で、真っ直ぐダーナに向けて飛んで来る。

しかしあの様な大きさの、黒い鳥は見た事が無かった。

それでアーネストは、その鳥が使い魔だと気が付いた。


「ギル

 大丈夫だ!

 あれは使い魔だ!」


アーネストの言葉に、ギルバートは剣から手を放す。

見ると確かに、その黒い鳥はアーネストが飛ばした物に似ていた。

アーネストの飛ばした使い魔より一回り大きく、羽ばたく姿は力強かった。

実はヘイゼル老師は、アーネストの使い魔に負けたく無くて頑張って魔力を奮発したのだ。

その甲斐あって、使い魔は見事な大鷲の姿をしていた。

それでヘイゼルは、暫く魔力の枯渇で頭痛に悩まされる事にはなっていたが…。


「オレは重要な要件が有るから

 みんなはここで練習してください」

「はい」

「はーい」


そう言ってアーネストは、使い魔を抱えてギルバートの所へ向かった。

それを見て、セリアが泥だらけの手でアーネストのローブを引っ張った。


「アーネストちゃん

 どう?」


セリアは不可思議な文様を指差して、ドヤ顔で胸を張る。

どうやらそれは、彼女なりの魔法陣らしい。

しかし円は歪んでいるし、文字は見た事も無い不可思議な模様になっていた。

この時アーネストは、これを模様だと判断していた。


「お、おお

 なかなか…独創的だね」

「えっへん」

「あたしは?あたしは?」

「どれどれ?」


フィオーナもアーネストの裾を引っ張り、見てくれと駄々を捏ねる。

こちらは何とも言えない、抽象画の様であった。

文字の代わりに棒の様な人間や、動物らしい物が描かれていた。


「うんうん

 …フィオーナは絵が上手だね…」

「わーい」


最早それは図形でもなく、ただの絵だった様だ。

しかし満足して、フィオーナは泥だらけの手で鼻を擦る。

それを見届けて、ギルバートは二人の手を引く。


「さあ、お家に帰ろう

 お兄ちゃんは重要なお話があるんだ」

「ええ

 やだやだ」

「まだ遊ぶの」


二人は可愛らしい駄々を捏ねる。

その姿は可愛いのだが、今はやる事があった。

その為には、ここに二人を残しては行けない。

まだまだ城壁は、修理出来ていない。

いつ魔物が再び、襲って来るのか分からないのだ。


「いい子にしてないと、おやつは抜きだよ」

「え!」

「ひどい!」


二人はおやつが無いと聞いて、瞬時に泣きそうな顔になる。

まだまだ幼い二人には、それは死活問題なのだろう。

泣きそうな顔をして、兄の手をぎゅっと握り締める。

それを見て、ギルバートは優しい笑顔を浮かべる。


「さあ

 帰ってクッキーでも貰おう」

「うん…」

「分かった」


二人はギルバートと手を繋いで、領主の邸宅に向かう。

アルベルトの容体は落ち着いた様に見えるが、未だに意識は戻っていない。

時々意識が戻りかけるが、その度に苦痛で再び意識を混濁させる。

ジェニファーは連日遅くまで通い詰め、その病室の外で待ち続けていた。

その間はギルバートが二人の面倒を看て、寂しく無い様に努めた。


「お兄ちゃん

 お母さんは居ないの?」

「ああ」

「母さんはどうしたの?

 クッキー、一緒に食べないの?」

「母上はね、父上のお手伝いをしてるんだよ

 父上が早く二人の所へ戻れるようにね」

「そうなの?」

「ああ

 だから二人は、母上や父上が早く戻れる様に

 良い子で待って居ようね」

「うん」

「はい」


二人は素直に返事はするが、やはり寂しそうだった。

今までは父やギルバートが忙しくて、母が構ってあげていた。

今度はその母にも会えなくなり、片手間でこうしてギルバートが面倒を見ている。

しかしそれでも、忙しい時はメイド達に任せていた。

ギルバートでは、子供の相手をするのにも限界があるのだ。


それにギルバートもアーネストも男の子だったので、分からない事も多くあった。

幼い子供の面倒をみるのに、どうすれば良いか分からない事もあった。

結局二人は、頭を撫でたり、絵本を読んであげるぐらいしか出来なかった。

他はメイド達を呼んで、聞きながら対処するしか無かったのだ。


二人はおやつを食べる間も、ぐずったり泣いたりする事があった。

それをメイド達を呼んで、何とか機嫌を取って宥める。

二人がお昼寝したのを見て、ギルバートはやっと胸を撫で下ろす。


「はあ…

 小さい子の相手って、大変だなあ」

「その面倒事を、母親に任せっきりだったからな」

「アーネストもだろ?」

「いんや

 オレは時々会いに来てたぜ」

「そうなのか?」

「ええ

 でも、もっぱらフィオーナ様の相手ばかりで…」

「あ!

 おい!

 余計な事を言うな」

「ふうん…

 アーネストはフィオーナの事が好きなのか?」

「へ?」


ギルバートは屈託の無い笑顔で、親友の方を向いた。

それはメイド達の言葉の意味を、理解していな証拠でもある。

アーネストは溜息を吐きながら、親友の質問に答える。


「ああ

 あの子は将来、美人になるぞ」

「そりゃあそうだろう?

 母上の娘だもの」

「あ…」

「ん?

 そうすると、セリアはどうなるのかな?」

「坊ちゃま…」

「そりゃあジェニファー様に似て…」

「え?

 でもセリアと母上は、血が繋がっていないだろう?」

「余計な事は言わないの」

「あ痛っ」

スコン!


メイドの一人が、つい横から答える。

それを他のメイドが、余計な事を言うなとお盆で叩いた。

彼女は血が繋がらないので、似る事はな事はあり得ない。

それを思っての行動だった。


「ははは…」

「おほほほ

 セリア様は愛らしい、素敵な女性になりますわよ」

「そうそう」

「うん

 だろうね」

「そう…

 だよな」


セリアの顔立ちは、確かに幼いながらにしっかりとしている。

このまま育てば、美人とはいかないまでにも、可愛らしい女性に育つだろう。

それはフィオーナやジェニファーとは違った、花の様な愛らしさだろう。


「可愛らしい…

 か…」

「ギル?」

「坊ちゃま?」

「お?

 坊ちゃまはセリア様の事を?」

「こら!

 また余計な事を…」

「言わない

 言わないから

 だからお盆を縦にしないで」

「はははは」

「うふふふふ」

「可愛らしい…」


アーネストは乾いた笑いを発して、メイド達も誤魔化そうと笑った。

しかしギルバートは、何事か考えて表情を顰める。


「ギル?」

「窓辺の…

 少女…」

「坊ちゃま?」

「窓辺の少女?」

「うん

 誰か思い出せない

 だけど確かに…」

「あれ?

 坊ちゃまはその少女の事を?」

「窓辺の少女?

 誰かしら?」


ギルバートは顔を顰めて、その子の事を思い出そうとする。

しかし記憶に霞が掛かる様に、鮮明には思い出せない。

その少女の事を、彼は確かに美しいと感じていた。

しかし今では、その姿も朧気ながらにしか思い出せない。

その愛らしい笑顔を思い出そうとしても、顔もハッキリと思い出せないのだ。


「ここの窓辺…

 いや、何処かの窓辺だったのか?」

「え?」

「誰かしら?」

「少女って…

 アニスじゃ無いわよね?」

「ええ

 アニスはまだ、ここで働いていないわ

 でも、他に少女なんて呼べる様な年の娘は…」

「…」


メイド達は、それが誰なのか話し合い始める。

しかし一番若いメイドでも、20代前半のお姉さんである。

おばさんと言われないまでも、とてもギルバートが少女と呼ぶ様な年では無い。

ギルバート達に近い年ごろといえば、来期に配属されるアニスぐらいなものだ。


そのアニスも、ようやく教会から許しが出たところである。

まだこの邸宅には、挨拶には来ていない筈だった。


「アニスって?」

「ほら

 セリア様と一緒に、集落から生き残った…」

「ああ

 坊ちゃまと同じぐらいの…」

「そう

 この辺りで、そのぐらいの年頃の女の子って…

 あの子以外には居ないわよ?」

「一体誰なんでしょうか?」

「そうねえ…

 坊ちゃまの心を奪うなんて…」

「うーん…」


ギルバートは何とか、思い出そうと頭を捻る。

しかしどう思い返しても、その様な記憶が無いのだ。

だとしたら、あの少女はギルバートの妄想か何かなのだろうか?

それにしては、しっかりと記憶に焼け付いていた。

顔は思い出せないが、確かにギルバートは心を奪われていたのだ。


パン!

「思い出せないのなら、仕方が無いだろう?」

「アーネスト?」

「そうね」

「どこのどんな女の子なんでしょうか?」

「興味がありますわよ

 なんせ坊ちゃまが夢中になる相手ですもの」

「む、夢中だなんて」

「さあ

 それよりも伝言の方が重要だ」

「ちょ!

 アーネスト」

「おや?

 アーネストちゃんたら…」

「嫉妬かしら?」


アーネストはぐいぐいと手を引いて、ギルバートを連れ出す。

二人は妹達をメイドに任せて、部屋を後にした。

アーネストはギルバートと執務室に入り、書簡と手紙を取り出す。

なお、使い魔はアーネストの元へ着いた所で、魔力が切れて消えていた。


「先ずは手紙からだな」

「あ、ああ…」


ギルバートはアーネストの勢いに負けて、取り出された手紙に目を移す。

アーネストはまるで、先の話題を忘れさせる様に、手紙の話題に移った。

手紙の封蝋には、鷲の印章が押されていた。

それは王宮魔術師である、ヘイゼルの印章であった。


「このお方が宮廷魔術師の…

 ヘイゼル様だよ

 オレの師匠の、弟弟子に当たる人だよ」

「どんな人なんだ?」

「うーん」


ギルバートは興味を持ったのか、その人物に関して聞いて来る。

興味が移った事を確信して、アーネストはその話を始める。

始めると言っても、アーネスト自身は彼の事をあまり知らない。

ほとんどが、師匠であるガストン老師から聞いた事だった。


「オレの師匠は知ってるかい?

 ガストン様って言って、アルベルト様に仕えていたんだ」

「名前はね

 聞いた事があるよ」

「そうか…

 覚えていないのか」

「え?」

「いや

 ギルも会っている筈なんだ

 しかし覚えていないんだな?」

「会っているって…

 まだ赤ん坊の頃とかだろう?」

「うーん…」

「アーネスト?」

「そうか…

 ギルの病気を…

 魔法で抑えていたと聞いたんだが…」

「へ?」


ギルバート自身は、幼い頃の記憶はほとんど無かった。

気が付けばダーナに居て、そこが全てだと思っていた。

しかし父の話では、それ以前には王都にも居た頃があるらしい。


「だって幼い頃に…」

「ここに来たって話だよな?」

「そうだぞ

 それが覚えているなんて…」

「普通ならな」

「ん?」


アーネストは何かを含ませる様な、そんな言い方をした。


「ギルがオレに…」

「ん?」

「オレに初めて会ったのは…

 5歳になってからだよな?」

「ああ

 病がようやく落ち着いたって…

 そう父上が仰られて…」

「それでここで出会った」

「そうだよな

 あれからもう、7年経つんだよな…」

「そうか…

 そうだよな」

「アーネスト?」


ギルバートはダーナに移転してからも、病に苦しみ続けていた。

それを嘗ての宮廷魔術師、ガストン老師が治してくれたのだ。

しかしギルバートは、その老師の事を覚えていなかった。

覚えているのは、小さい頃はいつもベットに寝ていた事だった。

いつも苦しくて、何かに(うな)されていた。


(うな)されて…」

「ギル?」


ギルバートはここで、ふと何かを思い出す。

アーネストに言われて、改めて小さい頃の事を思い返した。

するとベットの上で苦しんでいた時に、何かを見聞きしていた記憶がある。

しかしそれも、熱で見ていた幻だったのだろうか?

窓辺の少女の様に、記憶が朧気で思い出せない。


「どうした?」

「熱…

 苦しんで…

 いつも声が聞こえていた…」

「ギル?」

「子守歌?

 紫の髪…

 紫の瞳…

 オレを見詰めて…」

ヒュイーン!


ギルバートは何処か、遠くを見詰める様な視線をする。

そうして何事か呟き、その目の焦点が合わなくなり始める。

それと同時に、何か異様な音が聞こえ始める。

ギルバートを中心にして、魔力が集まり始めた。


「私の子?

 いずれ会う宿命…

 あなたは誰?」

「ギル!

 おい!」

ヒューン!

キュイーン!


魔力がさらに高まり、渦の様に収束する。

アーネストはギルバートの、魔力が暴走していると感じた。

それで意識を呼び覚まそうと、ギルバートの頬を叩く事にした。

このまま意識を飲まれれば、暴走した魔力が危険だと判断したのだ。


「運命は回る?

 何それ?」

「ギル!

 目を覚ませ!」

「私達の子供?

 再び巡り合う?」

「おい!

 マズいぞ!

 魔力が暴走している」

「心を飲まれる…な

 蝕まれ…

 憎しみに飲まれ」

「おい!

 ギル!」

「こ・ろ・せ…

 ころせころせころせ…」

「いい加減にしろ!」

パシン!


最後の方は、何か奇妙な呟きをしていた。

その目は赤く染まり、まるで血の涙を流している様だった。

声は奇妙な甲高い声が、重なって聞こえている様な気がした。

それはまるで、幼い子供が癇癪(かんしゃく)を起している様だった。


しかしアーネストが頬を引っ叩くと、それは霧散する様に消える。

集まっていた魔力も、掻き消される様に消えていた。

何事も無かった様に、ギルバートはキョトンとした表情でアーネストを見る。


「あれ?

 アーネスト?」

「はあ、はあ」

「どうした?」

「どうしたもこうしたも無い

 何があったんだ?」

「え?」

「急に魔力を暴走し掛けて…」

「オレが?」

「ああ、待て!

 また暴走されては適わん」

「オレが…

 魔力を暴走?」


ギルバートには、元々魔力はほとんど無かった。

病が原因なのか、同世代の子供に比べても、それは少ない方だった。

しかし今の魔力は、そんな物では無かった。

アーネストが全力を持ってしても、とても敵わない様な強大な魔力を感じていた。


「中身は…

 思い出そうとした内容は思い出すな」

「へ?」

「何を考えていた?」

「ええっと…」

「いや!

 駄目だ」

「え?」

「また暴走する可能性があるな…」

「おい…

 思い出せとか駄目とか…」

「何とか内容を思い出さずに

 何を思い出そうとしたか…言えないか?」

「無茶を言うなよ」

「しかしなあ…

 また暴走したら危険だぞ?」

「暴走って…

 オレは魔力を…」

「いいや

 持っているんだ

 何が理由か知らないが、確かにお前は魔力を持っている

 それが使えないだけだ」

「へ?」


ギルバート自身は、己の魔力の無さを嘆いていた。

アーネストには言わなかったが、実は魔法に憧れてもいた。

しかし魔力が無い事に引け目を感じて、黙っていたのだ。

しかしアーネストは、そんなギルバートに魔力があると言うのだ。


「ははは…

 何の冗談だよ」

「冗談じゃ無いぞ

 危険だったんだ」

「危険って…

 ただオレは…

 あれ?」

「ん?」

「何か思い出し掛けていたんだ

 何だったのかな?」

「だから止めろって

 それで再び暴走したら…」

「思い出せないんだ」

「その方が…

 良いのかもな」

「ええ?

 折角魔力があるのに?」

「あっても暴走されたら、溜まった物じゃあ無い

 危険だろ」

「うう…」

「兎も角

 何を思い出そうとしていた?」

「そりゃあ小さい頃の事を…」

「止せ!

 分かったから」


アーネストは慌てて、ギルバートが考え込むのを止める。

どうやら小さい頃の事に、何か秘密がありそうだった。

しかしそれを聞こうにも、本人は魔力を暴走しそうになる。

ジェニファーに聞いたとしても、恐らくは分からないだろう。

知っているのなら、その様な事にならない様に注意していた筈だ。

しかしジェニファーはおろか、アルベルトからも聞いた事が無かった。


「知っていそうなのは…

 じいじぐらいか…」

「へ?」

「いや

 ギルは覚えていないんだよな?」

「何を?」

「じいじ…

 ガストン老師様の事だ」

「だからさっきも言っただろう?

 覚えているのは(うな)されていた事と…」

「ああ、分かった

 分かったから、その先は考えるな

 また暴走する可能性がある」

「何だよ…」

「ふう…」


アーネストは溜息を吐いて、何とか考えを纏めようとする。

理由は分からないが、ギルバートの過去には確かに何かがある。

そしてそれを封じる様に、強大な魔法が掛けられているのだ。

そしてそれは恐らく、師匠であるガストン老師の仕業であろう。

アーネストが思い付く限り、その様な事が可能なのは彼しか居なかった。


「いや…

 他にも居るか…」

「アーネスト?」


他に思い当たるのは、事に関わった運命の糸(フェイト・スピナー)達である。

彼等ならば、その様な強力な魔法も可能なのだろう。

そしてその原因を知るのも、彼等に聞くのが手っ取り早かった。

しかしこの様な時に限って、彼等は現れようとはしない。


「まったく

 今なら問いただすのに…」

「アーネスト?

 どうしたんだ?」

「何でも無い

 それよりも…」


アーネストは話題を変えて、他の角度から原因を調べる事にした。

運命の糸(フェイト・スピナー)が居ない以上、それ以外の方法を取るしか無いのだ。

ギルバートの過去を調べて、原因を探るしか無かった。

それは用心をしなければ、再び暴走を引き起こす可能性を秘めている。

アーネストは言葉を選びつつ、その原因を探る事にした。

再び暴走をさせない為にも、原因を探る必要があるのだ。

まだまだ続きます。

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