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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
プロローグ
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第005話

斯くして野に、再び魔物が解き放たれた

女神の祝福の時代は終わりを告げる

魔物が世界を覆い、人々は恐怖する

世界の安寧は終わりを迎え、戦乱の世が始まろうとしていた

襲撃から4日目

前日の夜から降った雨は、早朝まで降り続けていた

そのせいで周囲は、すっかり薄暗くなっていた

降りしきる小雨は、兵士達の気持ちと足取りを重たくしていた


小雨が降りしきる中で、速やかに点呼が取らる。

馬も引かれて来て、兵士達の出立の準備が整えられた。


「今日は西の集落へ向かう

 雨で足元が泥濘んでいるので、各自気を付けるように」


小雨に凍えるなか、部隊長の注意が続けられる。


「昨日も伝えたが、第1砦の者が先行して警備に就いている

 我々は到着次第、合流して共同での避難の誘導に当たる」


部隊長の言葉に、兵士達は無言で頷いていた。

魔物の出現が現実味を帯びた今、彼等には緊張感が走っていた。


「各自、準備はいいか?」


部隊長は全体を眺めると、部下達に迷いが無いのを確認する。

兵士達は恐れてはいるものの、住民達を助けようと勇気を振り絞っている。

この様子ならば、今回の救出は成功するだろう。

部隊長は号令を掛けると、彼等を率いて砦を出発した。


「では、出撃する!

 全体!

 進め!」

「全体、進め!」


号令一下、兵士達はゆっくりと進み始める。

雨で泥濘んでいる分、進行速度は前日に比べると緩やかだった。

集落までも前日に比べたら、半分ぐらいの距離である。

そんなに時間は掛からないはずだろう。

急襲と待ち伏せに用心しつつ、兵士達は並足で公道を西へと進んだ。


やがて2時間も掛からず、森の入り口へと到着する。

今日は森にも異常は見られず、黒煙も上がっていなかった。


「どうやら問題は無さそうだな」


一応警戒はしながら、ゆっくりと集落へと向かう。

集落の入り口では、第1砦の兵士達が監視に立って居た。


「ご苦労

 第2砦の部隊長、ガッシュだ」

「ご苦労さまです

 集落には今のところ、異常はありません」

「ご苦労さまです

 出立の準備は、ほぼ完了しております」


部隊長と見張りの兵士が挨拶を交わし、現状を確認する。

兵士の一人が集落の中に走って行き、出発の準備を確認をする。

やがて集落の住民と、警備兵達が入り口へと集まり始めた。

荷物は前日から用意しており、生活に最低限の荷物を各々が背中や荷馬へ乗せてある。

全員が準備が出来たのを確認すると、すぐさま砦へ向けて出発する事になる。


「えー、静粛に!

 静粛に!」


不安で落ち着かない住民達へ、兵士達は声を掛ける。


「それでは、これより

 みなさんは安全な第2砦へと、避難していただきます」

「なんで避難せんといかんのかいのう」

「そうだ、そうだ」

「何があったか、キチンと説明してもらえんかいのう」


住民からは、非難の声が上がり始める。

説明…してないのかよ、と部隊長は内心辟易として第1砦の兵士達を見る。

すかさず兵士達はそっぽを向いて誤魔化していた。

彼等からすれば、それは第2砦の管轄の仕事である。

下手な説明をして、この場を混乱させたくは無かったのだ。


「あー…

 えーっと…

 現在未確認の危険な野生生物が現れ、他の集落でも被害が確認されています」

「ええ!」

「未確認ってなんだよ?」

「どうせ猪か野生の犬だろ?」


嘘は言っていない、嘘は…。

あくまでも未確認な…

野生の…生物?なのか?

住民の反応は微妙だった。


「ふざけるな!」

「これから種蒔きもあるんだぞ」

「そうだそうだ!」

「猪ぐらい、すぐに退治出来るだろうが」


確かに猪なら、そんなに苦労はしないだろう。

そうは言っても、巣穴を探す必要もあるし、油断をすれば怪我をする可能性もあるのだが…。

下手をすれば兵士でも、落命する恐れは十分にあるのだ。

それが狂暴な熊や、狼の集団ではもっと危険になる。

そうなればこの人数では、守りながらの戦いなど出来ない。


その様な事態になれば、彼等はすぐに助けろと騒ぐだろう。

しかしいざ協力を求めると、すぐにこうしてごね始める。

よくある話だが、こういう時の住民という物は面倒臭い。

助けられる事が、当たり前だと考えているからだ。

当然助ける側の兵士達も、命懸けだというのに…。

部隊長は長々と演説をすると、深々と頭を下げた。


「えー…

 みなさんのおっしゃる事ももっともですが、私達としましてはみなさんの安全が第一です

 みなさんには一旦、安全な砦へと避難していただきます

 事態が収まり安全を確認しましたら、早急に戻れるように手配させていただきます

 どうか…どうか今は、安全の為に従ってください」

「ええ!」

「何でだよ」

「ここに居ちゃ駄目なのか?」

「子供は…

 子供はまだ小さいんですよ?」

「何卒…

 何卒お願いします」


再び部隊長は、頭を深々と下げる。

部隊長にこう深々と頭を下げられては、住民達も文句は言えなくなっていた。


「はあ…」

「種蒔きが遅れるんだがな」

「しょうがねえさ

 撒いても食われるだろ?」

「うちはまだ、開墾が終わってねえんだぜ?」

「それは応援を呼んでもらうさ」

「そうだな」


彼等とすれば、今は開墾と種蒔きを進めたかった。

しかし野生の獣に見付かれば、襲われる危険も十分に承知していた。

また、折角撒いた種も、相手が猪では食い荒らされてしまうだろう。

しかたねえと不満を漏らすが、荷物を持って従い始めた。


ふう…

やれやれ

何とか納得してくれたか

まあ、応援の件は冒険者ギルドの管轄だ

後で領主様に相談するか…


部隊長は増えた悩みを、一旦棚上げする事にした。

下手に返答をすれば、後々厄介な事になるだろう。

先ずは警備隊長に相談して、それから領主様に相談する事になる。

冒険者ギルドから人手が出るかは、先ずはこの事態を乗り越えてからだろう。


「では、出発します

 全体、進めー!」

「全体、進め―!」


部隊長の号令に従い、先ずは先頭の兵士達が馬を進める。

先頭を進むのは、臨時で呼び出された第1砦の兵士だ。

続いて住民と、それを守る様に兵士が周りを囲みながら進む。

最後に部隊長と殿の兵士が、後方の安全を確認しつつ進んだ。

殿にはアランが、挙手をして進み出ていた。


「今のところ、順調ですね」

「ああ

 だが、気を抜くなよ

 相手は、いつ、どこから現れるかも分からない奴らだ」


部隊長とアレンは慎重に馬を進め、周囲の状況を片時も見逃すまいと警戒を続けた。

やがて森を抜けて、公道へと出ると、第2砦へと順調に進行する。

部隊は順調に進み、やがて砦が見える手前辺りまで進んでいた。


道中に敵の襲撃も無く、兵士の方でも気の緩みがあったのだろう。

部隊長から見て右手の方、部隊右手後方の兵士の一人が、馬上で欠伸を嚙み殺していた。

部隊長は顔を顰めて、その兵士を叱ろうと声を掛けようとした。

しかしその兵士が、不意に顔を押さえて馬から落馬する。


「ふわあ…

 ぐがっ!」

「な!」

「敵襲です!」

「警戒しろ!」


右斜め前方、森の中からの狙撃であった。

部隊長は声を上げて、兵士達に注意を促した。

突如落馬した兵士を、他の兵士が助け起こそうと近寄る。

しかしその右目には、深々と短い矢が刺さっていた。


「死ん…」

「死んでるぞ!」

「うわわああ!」

「何だ?」

「敵襲だ!

 隊列を乱すな!」

「は、はい!」


兵士は一撃で絶命していた。

仲間の兵士達は、素早く鞍から弓を引き出す。

そして矢を番えると、右手の森の端の茂みへと撃ち込んだ。

数名が一気に打ち込むと、繁みから短い悲鳴が上がる。


ギャヒイイ!


鋭く短い悲鳴を上げて、不気味な人影が飛び出して来た。

それは緑色の矮躯をした、小さな人の様な生き物だった。

矢は右肩に突き刺さり、それは悲鳴を上げながら飛び出して来た。

兵士の一人がその生き物の、頭を狙って弓を引き絞る。

その矢が頭を射抜くと、その人影は呻き声を上げて倒れた。

グッ…ガ…

ギャッギャッ

グギャオウ


生き物は短い悲鳴を上げると、そのままピクリとも動かなくなる。

しかし繁みの中からは、続いて同じ様な生き物が躍り出る。

小さな人影は3匹現れると、弓を構えて兵士達を狙おうとする。

これこそが集落を襲った、魔物のゴブリンであった。


「きゃああ!」

「おい!

 何だ?

 あれは?」

「に、逃げろ!

 逃げろー!」


不気味な人影を見て、住民達はパニックになる。

兵士達は必死になって、住民達を庇いながら砦へと向かわせる。

周りを囲んでいた兵士達も、住民を避けながら弓を構える。

しかし逃げ惑う住民が邪魔で、なかなか魔物を狙えないでいた。


幸いな事に魔物は斥候だったのだろう。

そいつ等は4人?

4匹しか居なくて、すぐさま部隊長や兵士達が馬で取り囲む。

魔物は弓を放ったが、粗雑な弓では不安定で当たらなかった。

兵士達が剣を振り翳して、その小さな魔物を切り捨てる。


「やああああ!」

「うりゃああ」

グギャア

ギャフッ

ドチャッ!


「ふう…」

「何とか倒せましたね」

「ああ

 数が少なくて良かった…」

「しかし…」

「うむ

 長居は無用

 死体は馬に載せて回収しろ」

「はい!」

「我々も急ぎ砦に入り、門を閉めるぞ」

「はい」


この場に長く留まれば、増援の魔物が来る恐れがある。

部隊長は死体を拾わせると、急ぎ砦に向かう事にした。

そして馬で駆けこむと、すぐさま入り口を閉め切らせる。

木戸とはいえ、それは人の身長よりも高い大きな扉だ。

これなら魔物達も、中には入って来られ無いだろう。


「はあ、はあ

 ふう、ふう

 よおし、門を閉めろ―!!」

「はい

 閉門!」

「急げ!

 まだその辺に居るかも知れん」

「はい」

「周囲を警戒しろ」


住民達の様子を見て、入り口を守る兵士達が集まる。

門が閉められる間も、櫓から弓を構える者も居た。

しかし幸いな事に、森から現れる者は居なかった。

仮に居たとしても、警戒して出て来なかったのだろう。


「部隊長、いかがされました?」

「魔物だ

 ゴブリンが、ゴブリンが出た」

「え?」

「魔物?」

「本当に?」

「魔物が現れたんですか?」


部隊長は興奮して、見張りの番兵達に事情を伝える。

住民達は砦に入ると、既に疲れ果てて座り込んでいた。

あの場では走れたが、安堵して緊張の糸が切れたのだろう。

すぐさま兵士達が案内を申し出るが、住民達は興奮して騒ぎ出す。

そうして口々に彼等を、責める様に詰め寄っていた。


「すぐに宿舎に…」

「何だ、あれは!」

「あんな物は見た事がないぞ!」

「事情を説明しろ!」

「え?」

「あ…

 いえ…」


部隊長はすぐさまにも、警備隊長へ報告へ上がりたかった。

しかし住民達はまだ、先ほどの混乱から収まっていなかった。

この場を兵士に任せたとしても、恐らくは収まらないだろう。

自分が説明するしかないと、部隊長は溜息を吐いていた。


「みなさん

 落ち着いて

 落ち着いてください」

「これが落ち着けられるか!」

「いいから説明しろ!」

「どういう事なんだ!」

「えー…」


さすがに興奮しているのか、今度は部隊長の言葉でもなかなか落ち着かなかった。

部隊長は再び溜息を吐くと、止む無く説明をする。


「今のが…

 先ほどの奇妙な生き物が、みなさんに避難していただいた理由です」

「な!」

「おい!

 どういう事だ?」

「あれが未確認の?」

「野生の生き物って…」

「話が違うんじゃ…」


住民達は再びざわざわとする。


「他の集落の奴らは?

 他の奴らも見たのか?」

「おい!」

「どうなんだ?」

「ワシらだけなのか?」


部隊長は逡巡したが、意を決して告げる。


「はい

 見ております」

「な…」

「おい…」

「ここだけじゃない?」

「どういう事なんだ?」


混乱する住民達に、部隊長は続けて状況を説明する。


「それに…

 実際に他の集落が、既に襲われております」

「なあ?」

「襲われって…」

「おい!

 何処なんだ!」

「いやっ!

 夫が…」

「まさかハウル爺さん集落か?」


住民のざわめきは、更に大きくなっていた。

不安に耐え切れず、住民の一人が声を上げる。


「お終いじゃあ

 わしらは女神様に見放されたのじゃあ」

「おい

 滅多な事を言うな」

「そうだ、そうだ!」

「女神様が…

 我々を見放すわけがないだろう?」

「じゃが…

 あれはなんじゃ?」

パンパン!


部隊長が手を叩き、皆の視線を集める。


「不安な気持ちは分かりますが…

 アレが何であれ、退治しなければ安心できません

 ですから辺境伯へは増援を申し出ております

 今は襲撃に備えて、安全な砦で過ごしてください」

「じゃが…」

「そうじゃ

 大丈夫なんか?」

「夫は?

 私の夫は?」

「あれは何だったんじゃ?」

「お終いじゃあ…」


部隊長の言葉に、まだ不満を言う者も少し居た。

しかし彼等には、この事態をどうにかする力は無かった。

騒ぐ事は出来ても、あの不気味な生き物と戦う力は無かったのだ。

彼等は兵士に頼んで、守ってもらう事しか出来なかった。

彼等は兵士の指示に従って、仮の宿舎へと移動して行くのであった。


「ふう…」

「お疲れ様です」


部隊長の溜息に、第1砦の兵士が声を掛けた。

彼としては、自分達の砦も心配であった。

しかし今は、ここから出る事は自殺行為に等しい。

だから今は、ここの隊長の指示に従うしか無かった。


「これから…

 如何されますか?」

「ああ

 先ずは警備隊長へ報告だ

 お前達もソレを…

 持って着いて来てくれ」

「はい」


部隊長は馬の背に載せられた、その死骸を指差す。

彼は指示に従って、鞍に乗せた死体を担ぐ。

それは子供ぐらいの大きさの、不気味な緑色の体色をしている。

あまりの異様な姿に、兵士は視線を逸らす事しか出来なかった。


「残りの者は、住民達の世話をしてくれ

 くれぐれも不安にさせない様にな」

「はい」


部隊長は部下達に、簡単に指示を出してから警備隊長の執務室へと向かった。

その後ろには第1砦の兵士達が、ゴブリンの死体を持って従っている。

先ほどはよく見ていなかったが、緑色の肌に紫がかった血が流れている。

大きさは子供ぐらいだが、身体付きはガッシリとしている。

恐らくは大人と、大差ない力を持っているのだろう。


小さな矮躯に、不気味で醜悪な顔が載っている。

耳は尖っていて、濁った眼球に黄色い瞳孔をしていた。

見れば見るほど、不気味な化け物である。

こんなのが一個師団ぐらいの人数で、集落を襲っていたのだろう。


恐ろしい…

こんな生き物が…

本当に存在しているとは


部隊長は身震いをしていた。

老人から聞く昔話に、その様な存在が居たとは聞いていた。

しかし実際に、この目にしようとは思ってもいなかったのだ。

ましてはそれが、自分達に襲い掛かって来るとは、想像だにしていなかった。


コンコン!

「入れ」

「はい」


執務室の扉をノックして、促されてから彼等は入る。

警備隊長は開口一番、避難の状況を確認する。


「それで

 どうなったのだ?」

「はい

 先ずはこちらを…」

「うん?」

「何じゃ?」


部隊長に促されて、第1砦の兵士が前に出た。

避難の状況よりも、こちらの方が重要だったからだ。

その手に抱えられた物を見て、副隊長は思わず視線を逸らす。

警備隊長は顔を引き攣らせて、その物体を凝視する。


「こちらになります」

「むう…

 これは?」

「なんという…禍々しい」


兵士は手にしたゴブリンの死体を、執務机の前に布を敷いて置いた。

それは弓に射られた死体で、比較的状態が良い死体だった。

他の死体は兵士達が、剣で切り刻んでしまっていた。

魔物がどれほどの物か分からず、恐怖に任せて切り掛かってしまったからだ。

警備隊長も副隊長も、顔を顰めながらそれを見る。


「触っても…大丈夫か?」

「ええ

 既に絶命しております

 しかし気を付けてください

 死体とはいえ、何か病気を持ってる可能性もありますから」

「うむ」


二人共注意深く、死体の検分を始める。

その特徴にもだが、警備隊長の視線は特に、その身に付けた装備に向けられていた。

粗末な衣服と思しき腰布やベルト、そこには歪な錆びた短剣が提げられていた。

警備隊長は注意深く短剣を手に取ると、それを蠟燭の火に翳してみる。

それから薪に用意した木片を持って来ると、切れ味を確かめたりもしていた。


「素材は…銅か?

 劣化した鉄も交じっているな」

「銅は自前でしょうが…

 鉄は拾った物を熱して一緒に鋳造したんでしょうかね?

 強引に叩いて加工してますな」


副隊長も短剣を眺めると、その感想を述べる。

胴を熱して、それに鉄屑を混ぜている様だった。

それを強引に叩いて、短剣の様な薄い形に加工したのだろう。

錆びた鉄が、胴の塊の中から見えていた。


「鋳造技術自体は拙いな

 しかし鉄や銅の概念は…

 強引な鋳造だが加工しようとしておる」

「果たして鉄を理解しておるのか…」

「丈夫だとは思っているのだろう?

 しかし加工技術は…」

「胴の鋳造までなんでしょう

 ですからこの様な…」

「うむ

 本来であれば、胴や鉄を混ぜる事はあるまい

 ならば混ぜれると思って…」

「その程度の知恵…

 なんでしょうな」


腰布もよく見れば、何かの布か皮をを切り裂いて巻いている様だった。

先の紐状の物は、この様な布から作られたのだろう。

しかし素材自体は、未知の生き物の皮を加工している様子だった。

この様な皮の素材は、熊や狼からも取れなかった。


「ベルトは皮か?

 素材は…何だ?」

「よく分からない動物の皮ですね」

「我々の知らない生物の皮?かな?」

「猪に…

 しかし違いますな」

「猪ではこうはなるまい

 とはいえ鹿でも無いな」

「ううむ…」


一通り検分してから、改めて部隊長達の方を見る。

見れば見るほど、原始的な生活をしている事が見て取れる。

しかしそれにしては、金属を加工して武器を作る術は理解している様子だ。

後は鋳造技術さえ得られれば、金属器を扱えるだろう。


「で、どう思う?」


警備隊長の質問に、少し考えてから部隊長は答える。


「恐らくですが…

 斥候として砦か…集落へ向かっていたのではかと」

「ふむ」

「一番可能性が高いのは、集落の警備が厳しくなったので様子を見ていたのかと」


警備隊長は暫く考えて、部隊長へ指示を出す。


「では、住民の避難が完了したら、夜襲に備えて準備を整えろ」

「はい」


部隊長は速やかに指示に従うべく、執務室を後にする。


「で

 君達はどうする?」


隊長は次に、第1砦の兵士に向き直った。


「はい

 隊長からは、避難が完了次第…

 可能ならこちらの警備の手伝いをするように仰せつかっています」

「そうか」


警備隊長は頷くと、彼等に新たな指示を出す。


「ではすまないが、前門の警備に当たっている兵士と連携して備えてくれ

 最悪今夜にでも、敵は攻めて来るだろう」

「はい」


答えて部屋を出かけてから、一人の兵士が隊長の方へと向き直る。


「あのお…」

「ん?」


「もう一つの集落へ向かった兵士は…

 どうなりました?」

「ああ…」

「あの部隊には同僚が居ました

 無事なんですよね?」


隊長は苦しそうに顔を歪める。

それを見て何かを察したのか、兵士の顔も苦悶にゆがむ。


「まさか…」

「すまない」

「そんな…」


隊長苦し気な言葉に、兵士も声を失う。


「彼らが向かった時には、既に集落は壊滅した後だった」

「くそっ」


「だが、彼らの必死の戦いによって、3名生存出来た」

「3名?

 たったの3名…」

「3名でも生存者が居たのだ

 それで敵の存在が分かり、対処も出来る様になった

 これは立派な功績だ」

「でも!

 でも…

 3名でしょ?」

「ああ」

「あそこには確か、70名ぐらいの住民が…

 それが3名?

 それだけしか助けれなかったなんて…」

「うむ…」


部屋には重苦しい、沈黙が降りていた。

警備隊長はその兵士の肩を、優しく叩いて労う。


「それでもな、彼らは頑張って住民を守ったんだ

 彼らの分も…

 今度は君達が頑張るんだ

 頼むぞ!」

「は、はい!!」


兵士は涙ぐみ、それでもしっかりと返事をすると部屋を出た。

やられた仲間の分も、今度は自分達が奴らを倒すんだ。

そう意気込んで兵士は出て行った。


二人だけになったところで、隊長は重い溜息を吐く。


「ふう…

 辛いな…」

「はい」

「なんで…

 なんで彼らの様な若い者達が、犠牲になるのかな…」

「はい…」


隊長は深く溜息を吐くと、視線を魔物に向ける

何でこんな魔物が、再び現れたのか?

まだそれは分かっていない。

しかし今は、それよりも重要な使命がある。


「希望に満ちたあの若い眼差し

 今度こそ守ってやらねばな」

「はっ」


副隊長は一礼をすると、ゴブリンの死体の処理を指示する為に執務室を後にした。

遂に魔物が現れました。

ファンタジーの定番、ゴブリンです。

森の小鬼。

序盤の雑魚敵になります。

しかし雑魚と言っても、そこは魔物です。

なかなかの強敵になります。


まだまだ続きます。

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