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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第二章 魔物の侵攻
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第052話

女神の使徒は、その去り際に悪質な置き土産を残した

元仲間の兵士を元に造ったアンデッド、ゾンビである

このゾンビは噛み付き行為により、負の魔力を注入する

注入された者は魔力に堪え切れずに死亡し、その身もゾンビと化す

またその内に蓄えた魔力で、周りの死体もゾンビに出来る得る個体もある

そうして生まれた生ける死体の群れが、魔物となって襲い掛かって来た…


目の前で起こった現象に、一同は凍り付いた様に動けなかった

一人の兵士が噛み付き、落馬した兵士まで様子がおかしくなった

しかもその周りにあった、人間や魔物の死体…

死体?


確かに止めは刺していたし、どう見ても即死と思われる外傷がある者までいる

しかしそれが、一緒に並んで歩いて向かって来る

それはあまりに(おぞ)ましい光景だった

これを理解しろと言うのが無理だろう


「いいか!

 すぐにそこを離れろ!

 こっちに引き返せ―!」


将軍が叫ぶ。

その声は戦場に響き渡り、騎兵全体に届いた筈だった。

しかしあまりの衝撃的な出来事に、兵士達の思考は麻痺していた。

そして最初の犠牲者に続いて、新たな犠牲者が生まれる


「ジョン?」

「え?」


不意に誰かが呟く。

それに続いて数名が気付く。


「本当だ、ジョン部隊長だ」

「なんだ、脅かさないでくださいよ」

「ご無事だったんですね

 ぐすん」


ジョンだと聞いて安堵する者、涙ぐむ者まで出て来る。

しかし、再度将軍が叫び、騎兵達は戸惑う。


「お前等!

 戻れと言ったら、戻れ!

 そいつは危険だ」

「え?」

「だってジョンさんですよ?」

「そうですよ

 第2の…

 大隊長もよくご存知の…」


尚もフラフラと前進するジョンと死体達。

間の悪い事に、彼等もジョンの顔を覚えていた。

しかも彼等は、ジョンの失踪の経緯を知らなかった。

将軍が箝口令を敷いたのが、ここで仇となった。


「良いから!

 今すぐに…」

「だって、隊長が帰って来たんですよ?」

「何を言ってるんですか?」


しかし現実逃避を続けても、死体の群れは近付いて来る。

そしてその眼を見ると、それがまともでは無いと否が応でも感じさせた。

兵士達はその姿を、ようやく近付いて見る。

その顔は生気を失い、目は虚ろになって濁っている。

注意深く見れば、それの瞳孔が紅く明滅しているのに気が付いただろう。


「いいから言う事を聞け!

 すぐに離れろ!

 噛まれたら死ぬぞ!」

「へ?」

「し、死ぬ?」

「え?」

「じゃあ…

 あいつも?」

「まさかあ?」


噛まれて落馬した騎兵を見ると、彼も不自然な歩き方をしていた。

噛まれた太腿は肉が削がれ、それでも出血をしていない。

彼等に噛まれたら、自分達もその様な姿に変わり果てるのだ。

ここでようやく我に返った兵士が、大声を上げて腰を抜かす。

一人が叫んだ事で、別の兵士が恐怖で逃げ出した。

それを見て、他の兵士も後退りをする。


「な、なあ…」

「う、嘘だろ?」

「何かの…

 悪い冗談だよな?」

「う、うわあああ!」

「ひい!

 死にたくない!」

「うわあああ」


その中で、一騎だけ残って居た者が居た。

彼は果敢にも、一人で剣を抜き放つ。


「く、くそっ」

「止せ」


仲間が声を掛けるも、その騎兵は前へ飛び出し、一気に駆け抜ける。

そして駆け抜け様に一撃、胸を切り裂いたのだが、死体は何事も無いかの様に再び立ち上がった。

騎馬の勢いもあって、相当な一撃だった。

当然その身体には、深々と斜めに切り傷が入っている。

しかし内臓が零れても、そいつは何事も無く立ち上がっていた。


「な!」

「そんな…」

「くそー!」


兵士は群がる死体を避けながら、再度突撃するとジョンの死体の左腕を切り飛ばした。

それでも死体は起き上がり、ゆっくりと前進を再開する。

騎馬の突撃を受けても、そいつは平気なのだ。

亡者を止めるには、最早切り刻んで燃やすしか無かった。


「くうっ

 何でだ!

 何で倒せない!」

「見ろ!

 相手は死体なんだ

 血も流れていないだろ」


見ると言う通り、死体の切り口からは血は流れていない。

内臓が飛び出し、腕は片腕を失っている。

しかしそれでも、そいつはこちらに向かって来る。

それは恐怖でしか無かった。


「くそっ

 それではジョン隊長は、救えないのか!」

「気持ちは分かるが、今は一旦退こう」


彼は第2部隊の、生き残りの兵士だったのだ。

隊長が亡者になり、未だに魔物として戦わされるのを善しとしなかった。

それで何とか、倒して平安を与えたかったのだ。

しかし剣や鎌で切り裂こうとも、亡者には効かないのだ。

動けなくして、焼き払うしか無かった。


その間にも部隊長達は将軍の元へ赴き、怒りを爆発させていた。

将軍は彼等に、街の中に下がる様に指示していた。

それが彼等には、理解出来なかった。

魔物ならば、切り刻んで倒すしか無いと思っていたのだ。


「どうしてなんです!」

「まあ、落ち着け」


物凄い剣幕で将軍に噛み付くアレンを羽交い絞めにして、ダナンは落ち着かせようと宥める。

アレンにとっては恩師であり、尊敬する部隊長でもあった。

よく、亡きロン部隊長と一緒に、自分の面倒を見てくれた大切な人だ。

それがあんな姿になっている。

彼としては、落ち着いていられなかった。


しかし、将軍は攻め(あぐ)んでいた。

迂闊に突っ込んでは犠牲者が増えるだけだ、ここは慎重に戦術を練らなければならなかった。

何とか動けなくして、焼き払うしか無い。

そうしなければ、亡者の行進は止められ無かった。


「どうする?

 どうすればいい?」


しかし、良案は出ない。

ヘンディー自身は、亡者の話を聞いた事はあった。

しかし戦場で、亡者に対処する方法は教わっていない。

そうこうする間に、死体はゆっくりと迫って来ている。

将軍は部隊長を見回し、部隊長も何か手は無いかと必死に頭を捻る。

そこへエドワード隊長が手を挙げて、みなの視線が集まる。


「一つ、よろしいですか?」

「ああ

 何でも良い

 案があるなら頼む」

「それでは

 これは帝国で死霊が出た時の事ですが…」


隊長は少し迷ったが、決断を下す。


「一度死んだ者は、最早生き返りません

 それは女神様が決めたもうた事です」

「それは分っている」

「しかし、現実に動き回っているではないか」


エリックが忌々しそうに呟く。

隊長はそちらを見て、頷いてから続ける。


「ですので、あれは死体を動かす魔物の仕業です

 ゾンビと言われる生ける死体の魔物です」

「では、部隊長は…

 その魔物になったと?」

「ええ

 恐らく間違いは無かろうかと」


正体が分かっても、厄介な事には変わりが無い。

問題はどう対処するかだ。

それが分からない以上は、あれをどうする事も出来ない。


「それで?

 どうすれば良いんですか?」

「それなんですが

 ゾンビに噛まれると、死んで仲間のゾンビになります」

「ああ

 そうだな」

「実際に見たからな」

「ああはなりたくないな」

「くそっ!

 あんた等は良いけど…」

「落ち着けって」

「ジョンの事はどうにかしたい」

「しかし救えないとなれば…」

「うぐうっ…」


エドワード隊長は躊躇いながら、結論を告げる。

それは残酷ではあるが、一番有効な手段なのだ。

そうでもしなければ、新たな犠牲者が生まれる。

それを押さえる為にも、ここはそうするしか無いのだ。


「ですから死体を動けない様に…

 細切れにするしかありません」

「くそっ

 結局それしか無いのか」

「ええ

 先ずは動きを止めないといけませんので」

「縄とかで縛るのは?」

「どうでしょう?

 それまでに噛み付かれる恐れもありますし、縄が引き千切られるかも知れません」

「そうか

 確かに危険だな」

「しかし、死んでいるとは言え、仲間の死体を…」

「ですが噛まれれば、他の仲間も危険ですよ?

 それでも良いのですか?」

「あんたは!」

「いい加減にしろ!

 エドワードに噛み付いても、ジョンの奴は生き返らない

 後はもう…

 安らかに死なせてやるしか…」

「くそっ

 それしか無いのか?」

「アレン…」


仲間の死体を損壊させるのは、抵抗がある。

しかし、そうも言っていられない状況だった。

こうしている間も、危険が迫っている。

急いで何とかして、あの亡者を止めるしか無かった。


「後は…

 動けなくしてから焼くのが一番と…」

「そんな

 せめてどうにかならないのか?」

「もう…

 手遅れなんだ」

「そうだぞ

 焼いて清めてやる

 それでジョンが、成仏出来るのなら…」

「うぐっ…

 ロンメル隊長

 ジョン隊長

 畜生!

 ちくしょおおお!」


切り刻んだ上に、そのまま焼くしかない。

分かっていたが、それではあまりに酷い。

しかし救いようが無い以上、躊躇って犠牲を増やす訳にもいかない。

将軍は静かに重い決断を下した。

その横で、アレンは大粒の涙を溢して、地面を殴っていた。

ダナンが最初は止めていたが、今は好きにさせていた。

それで気が晴れるのなら、今はそうするしか無かった。


「分かった

 騎兵部隊は直ちに出撃し…

 あの死体の群れを切り刻んで参れ」

「将軍!」

「死体の群れって…」

「最早…

 死体の群れだ

 それとも、亡者と言った方が良いのか?」

「あぐうっ

 ぢぐじょおおお…」


アレンは信じられないと言った様子で、将軍を見る。

しかし将軍は頭を振り、静かに、だが優しく諭した。


「お前の気持ちは分かる

 しかし、この街を守る為なら、この決断を呑むしかない」

「ぐうっ、あぐうう…」


アレンは人目も憚らず、両目から涙を溢す。

その両腕は地面を殴って、傷付いて血塗れだった。

それを優しく、ハウエルがポーションを掛けてやる。

傷口がポーションの魔力で、塞がって行く。

しかしアレンの胸には、未だに傷が深く大きく疼いていた。


「お前があいつの事を思うなら

 せめて、せめて…

 お前の手で引導を渡してやってくれ」

「はい…」


将軍が優しく肩に手をやると、アレンは小さく返事をした。


「よし!

 すぐに掛るぞ」

「はい」


事が決まると、将軍の行動は早かった。


「急げ!

 すぐに出撃して、これ以上魔物を増やすな」

「はい」

「魔物…ね」

「嘗ての友が、今では魔物か」

「言うな

 早く楽にしてやろう?」

「ああ」


再び城門は開き、迫り来る死体の群れに目掛けて騎兵隊達が駆け出す。

彼等はクリサリスの鎌を振り翳し、亡者の群れに向かって行く。

そうして鎌を振りまして、亡者の手足を切り飛ばした。


「全軍、突撃!」

「おおおおおお」

「うおおおお」

「せめて

 せめてオレの手で…

 うわあああああ」


一斉に駆け出し、騎馬の群れは死体を蹴散らす。

しかし死体もすぐに起き上がり、再び歩き始める。

すぐに追撃に移り、死体の腕や脚、頭部の破壊を行ってゆく。

それは残酷な行為であったが、生ける者を守る為には仕方が無い事だった。


「うおおおお」

「怯むな

 楽にしてやれ」

「すまん

 すまん…」

「死ね!

 死ねええええ」

「もう…

 立ち上がらないでくれ」


コボルトやゴブリンの死体が迫り来て、騎兵達が必死になって戦う。

それを見て、歩兵達も志願する。


「将軍

 オレ達も行かせてください」

「せめて周りのゴブリンだけでも…

 あれでは騎兵がもちませんよ」


死体の数は思ったよりも増えていた。

今では魔物の死体も、亡者の仲間入りを果たしていた。

そして数名の騎兵が噛まれ、更に数が増える。


「しかし、お前達が危険に…」

「構いません

 ここで守れなければ、何の為に戦って来たのか…」

「そうですよ」

「行かせてください」

「ヘンディー将軍

 ワタシからもお願いします」

「エドワード…

 分かった

 無理はするなよ」

「はい」


エドワード隊長が率いて、新たに歩兵部隊も向かう。

彼等は魔物の死体を、切り刻む為に向かって行った。

魔物も死体になれば、動作は緩慢(かんまん)になって攻撃し易くなる。

しかし歩兵では、騎兵の様な移動しながらの攻撃が出来ない。

その場で剣を振るって、向かって来る魔物を切り刻んで回った。


「うおおおお」

「うりゃああああ」

「せりゃあああ」


騎兵が死体の群れを押しながら、森の方へ攻め込んでいた。

しかし次に現れた死体が、後方から迫っている。

それを追う様に、歩兵達が後方から奇襲を仕掛けた。

最初は上手く行き、少しずつ数を減らしていった。

しかし徐々に、歩兵も押されて犠牲が出始める。


「マズいな

 やはり歩兵では無理があったか」

「しかし、ここで手を(こまね)いていては、やがて騎兵が潰れていました

 今は少しでも、歩兵が助かる事を祈るしか…」


死体は武器を振るう事は無いので、近付かせなければ何とでもなる。

しかし一度近付かれては、その力は侮れず、騎兵でも押し負けていた。

そして歩兵は騎兵と違って、剣を手にしている。

その事が、死体を近付かせる要因ともなっていた。


将軍は手に汗を握りながら、戦場の様子を見ていた。

将軍の周りには、乱戦に参加しなかった兵士や弓兵が集まり、一緒に戦況を見守る。

その歩兵の中に、一際小柄な兵士が勇猛に突っ込んで行っていた。

小さいながらに素早く立ち回り、死体の手足を素早く切り飛ばしていた。


「ん?

 あんな兵士は居たか?」

「え?」

「随分と小柄ですねえ…」


将軍はその小柄な兵士に、違和感を覚えた。

周りに居た弓兵の一人が、その自慢の目でよく見てみる。


「どれどれ…

 あー…

 あれは坊ちゃんですねえ」

「え?」

「何?」


弓兵の言葉に、少し離れて観戦していた領主も反応する。


「何だと?

 ギルバートじゃと?」

「何で坊ちゃんが?」

「え?

 さっき一緒に出て行きましたよ?」

「あんの馬鹿息子が!」

「領主!

 落ち着いて、落ち着いて!」


飛び出しそうになる領主を羽交い絞めにして、将軍は必死になって止める。

見ればギルバートは、戦場で先頭に立ち、味方の歩兵を守って奮戦していた。

その甲斐あってか、そちらの一角は崩されないでいた。


「領主様

 落ち着いてご覧ください

 坊ちゃんの奮戦で味方の士気も上がり、徐々にですが立ち直ってきてます」


弓兵はそう言っているが、当のアルベルトは生きた心地がしていなかった。

ここで息子に何かあったら、どうするんだと。

彼は汗ばんだ手を、固く握り締めていた。

将軍は領主を抑える役を、兵士達に任せて剣を抜いた。


「分かりました

 ここはオレが救出に向かいましょう

 ですから領主様はここに居てください」

「ちょ!」

「将軍?」

「う…

 分かった

 頼んだぞ」

「あ!」

「ああ…」


ギルバートもギルバートだが、将軍の行動も問題だった。

彼は本来ならば、ここで指揮をする必要があるのだ。

アルベルトは兵士達に抑えられながらも、将軍を縋る様に見詰めた。

将軍は頷き、戦闘の中へと突撃して行った。

彼はこれを口実に、乱戦の中に飛び込んで行った。


「坊ちゃん!」

「将軍?」


ギルバートはスラントの2太刀目で、コボルトの亡者の手足を切り飛ばしていた。

3太刀目で首を刎ねた時、横から将軍が飛び込んで魔物を両断する。

コボルトの死体は上下に別れ、吹っ飛びながら他の死体を押し倒す。

その隙にギルバートの横に入り、将軍は次の魔物の接近に身構える。


「ここは危のうございます

 父上も心配していますぞ」

「とは言ってもね

 ここで守れなければ…

 街も危ない、でしょ?」

「むう…

 それは…」


ギルバートはブレイザーのⅤ字の奇跡で、次の死体の両足を切断すると、そのまま蹴り飛ばした。

それを横目に将軍は再び切り掛かり、1匹の魔物の死体を縦に切り裂く。

切り裂かれた亡者は、そのまま内臓をぶちまけて倒れる。

身体を開きの様に割かれて、その魔物は立ち上がれなかった。


「しかし、危険です

 御下がりください」

「それなら

 あと、少しで抜けられます

 手伝ってください」

「うむむ」

「それに将軍も…

 じっと出来なかったんでしょう?」

「ははは…」


将軍は唸るが、実際にギルバートの奮戦で、魔物の死体の数もかなり減っていた。


いつの間にここまで成長したのか?

これなら部隊長だって、十分に任せられそうだ…


将軍は諦めて、共にここを死守する事にする。

このまま踏ん張れば、何とかなりそうな気がして来ていた。


「分かりました

 それではこのまま一気に…」

「ええ…

 って?」


将軍がそう言い切る前に、周囲に不穏な空気が流れる。

例えるなら、さっきまでの戦闘の熱気が一気に冷え上がった様だ。

それは真冬の極寒の中に裸で飛び出した、そんな急激な寒気に襲われていた。

二人は身震いをしながら、その元凶を探った。


それはどす黒い…

まるでインクを溢した様な黒い染みだった

しかし中空に、それは染みの様に広がる


「な!」

「これは?」


ギルバートは急激な悪寒に襲われ、思わず後ろへ跳び下がる。

触手の様な黒い染みが、不意に伸びて来たのだ。

それは先刻まで、ギルバートの居た場所を掠める。

そうして将軍に向かい、将軍も慌てて下がっていた。


「何だ?

 この黒い物は?」

「分かりません

 しかし気持ちが悪い…」

「ああ

 嫌な感じがしますね…」


不意に辺りが薄暗くなった様な気がして、周りを見回す兵士も居た。

そして雷鳴が轟く様な音がして、1体の死体へ向けて黒い稲光が集まる。

鉄錆の様な濃密な血の臭いに混じり、胃の腑をムカつかせる腐臭が漂う。


バチバチバチ…!

「何だ?」

「どうしたんだ?」


不意に糸が切れた様に、死体が力を失って倒れる。

そして死体から次々と、黒い稲光が飛び出す。

それは1体の死体に、吸い込まれる様に集まって行く。

そうして黒い染みに覆われて、死体は黒い塊になって行く。


「これ…は?」

「な、何が起こった?」


その様子を遠目に見ていたアーネストは、大きな声を上げていた。

彼はこの現象に、ある程度の目星を付けていた。

それは考え得る、一番マズい現象であった。


「しまった!

 奴の狙いはこれだったんだ!」


その声に驚き、領主は振り返っていた。


「どう言う事だ」

「奴の狙いはアンデッドで攻める事じゃなかった

 上位の魔物の召還が狙いだったんだ」

「何?」

「来る

 来るぞ…」

「何が来るんだ」

「分からないです

 だけど強力な魔物が…出て来る」

「くそっ

 運命の糸(フェイト・スピナー)め、これが狙いだったのか

 ギルバートは殺させんぞ!」

「え?」


アルベルトは厳しい表情をして、自らも戦場へ向かおうとする。

そこへ兵士達が立ちはだかる。


「いけません、領主様」

「今、貴方を失う訳にはいきません」

「どけ!」

「どきません」

「ギルバートが死んでからでは…

 遅いんだ!」

「それでもです」

「将軍も居ます

 ここは堪えてください」

「駄目じゃ!

 あれを失う訳には…」

「領主様?」

「一体どうされたんです?」


止めようとする兵士に、領主は剣を構えていた。

兵士を殺してでも、ギルバートの元へ向かう気だ。


だがしかし、何故だ?

明らかに様子がおかしい

ただ息子が可愛いからと言うには変だぞ?

何でそんなに必死なんだ?


アーネストはこっそりと呪文を唱え、領主に向けて魔法を放つ準備をした。

ここで押さえないと、マズい事になると思ったからだ。


そして戦場から少し離れた場所で、もう一人の人物がそれを眺めていた。

彼はその光景を見て、思わず呟く。


「これは!

 マズいな…」


男は呟くと、如何にした物かと悩んでいた。

ここから駆け付けるには、あまりに距離がある。

普通ではもう、駆け付けても間に合わないだろう。


「行くか?

 いや、あの子の事は心配だが…

 ここは見守ろう」


一瞬、懐に手を伸ばしたが、寸でのところで思い留まる。

そして再び彼は、戦場へと目をやる。

普通に考えれば、とてもじゃないが見える距離では無い。

しかし男は、それを気にする風もなく見ていた。


「それに…

 これで真価を見極めるだろう

 頑張りたまえ

 小さな覇王君…」


男は誰にともなく、一人で呟く。

その視線の先にはギルバートが居て、1体の魔物と対峙していた。

黒い稲光は収束し、最期に一際大きな轟音を発して弾ける。


ドーン!


音の後には黒煙が立ち込め、その中から1体の魔物の姿が認められた。

黒い骨で出来上がった、骸骨の剣士。

その両腕には黒光りする長剣が握られ、周囲を睥睨するとギルバートに目を止めた。


グオオオオオオ!


不気味な吠え声を上げ、両の剣を構える。

その吠え声に合わせる様に、生き残っていた?

死体達が立ち上がる。

そちらも血肉を失い、骸骨の剣士に変わっていた。


総勢12体の骸骨剣士が長剣を構える。

そしてガシャガシャと音を立てて、周りの騎兵や兵士に襲い掛かる。

それを合図に黒い骸骨も進み出て、ギルバートに襲い掛かって来た。

ギルバートは将軍と二人で、この危険な魔物に立ち向かう事となった。

まだまだ続きます。

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