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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第二章 魔物の侵攻
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第049話

魔物が侵攻すると宣言された日が、遂に訪れた

ダーナの街は朝から騒がしく、戦の準備が慌ただしく進められる

街はいよいよ迫る、魔物との戦いに浮き足立っていた


約束の日の朝が来た

流石にあれほどの実力者が現れたのだ、嘘は吐かないだろう

ギルバートも父親から、使徒の来訪を知らされた

そして魔物に備えて、今日まで鍛えて来たのだ

街は朝から騒然としていて、各門の前には兵士が集まっていた


「北門には騎兵が1部隊、弓兵と歩兵が20名配置されました」

「南門にも騎兵が1部隊、弓兵と歩兵を20名配置しました」

「東門に残る騎兵2部隊と弓兵80名、歩兵は260名で待機しています」

「いずれの城門にも、魔物に備えて用意出来ました」

「うむ

 ご苦労」


各部署から報告があり、それを聞きながら将軍は満足気に頷いた。

これで出来得る準備は、全て完了していた。

後は東門の前に待機している、魔術師部隊を導入するタイミング次第だ。

敵が攻めた来た門に向けて、彼等が魔法で攻撃するのだ。


「本当に来ますかね?」

「来るだろう」

「しかし何で…」

「人間が悪いだなんて…」

「言うな

 事実諸外国には、未だに奴隷制を行う国もある

 それに我が国にだって…」

「我が国が…

 何です?」

「いや

 今のは聞き流せ」

「はあ?」

「それに領主様の邸宅に現れたぐらいだ

 嘘を吐く意味が無かろうて」

「はあ…」

「領主様の邸宅にねえ…」

「ん?」


「だって、あそこは結界の中だし、防壁もしっかりとしてますよね?

 そんな所へどうやって来たんです?

 門から入って、歩いて入ったんですか?」

「ダナン

 気持ちは分かるが、相手は女神様の使徒だ

 転移の魔法が使えるみたいだぞ」

「転移?

 望んだ場所へ移動するって…

 あの物語に出るヤツですか?」

「ああ

 領主様の前で、忽然と消えたらしいぞ」

「うへえ

 警備兵泣かせな魔法ですね

 それじゃあ侵入し放題だ」


仲間の部隊長が、ダナンに聞いた話をする。

それを聞いたダナンは、呆れて溜息を吐く。

相手が本気で来たら、その魔法で侵入されてやりたい放題だ。

そんな事されたら、自分達の居る意味が無い。

城内にいきなり現れたら、城門を死守する意味も無いだろう。


「そうなると、門の中で守っていても意味が無いのでは?」


もう一人の部隊長、アレンが心配そうに聞いてくる。


「ああ

 そうだな」

「そうだなって…」

「しかし、流石にそんな事はしないだろう」

「何故です?」

「そうですよ

 魔法を使えば、奴等は労せず侵入して…」

「それではわざわざ、魔物を集めて襲撃する意味が無いだろう?

 聞くところによると、相手は余程人間を憎んでいるらしいぞ?

 文字通り、この手で八つ裂きにしたいほどだろう…」

「うへえ…」

「それは勘弁して欲しいですなあ」


将軍の一言に、二人は身震いをする。

そもそもその恨みとやらも、過去の人間の行いが原因らしい。

アルベルトは自身の、行いに関しては隠していた。

それを聞いた領民達は、何で自分達がと嘆いていた。

自分達が行った事では無いのに、それで恨まれては堪った物では無い。


「美女からの求婚なら兎も角、そんな憎悪は御免です」

「オレも魔物に、言い寄られるのは勘弁ですよ」

「はははは

 そうだな」


将軍は笑い、安心する様に言う。


「それだけ言えるのなら

 大丈夫だろう」

「へへ…」

「はははは」

「オレ達はまだ、美女から言い寄られたり、求婚されていないからな

 それならまだまだ、死神には求められていないさ」

「え?」

「それは?」


ヘンディーはニヤリと笑うと、将軍から聞いた言葉を教える。

それは古来から、戦場に伝わる伝承の様な(ことわざ)だった。

彼も若い頃には、それを守って戦っていた。


「古来から言うだろ?

 帰ったら結婚するとか言う奴ほど、死神に狙われ易いって」

「そうなんですか?」

「知らなかった…」

「ああ

 師匠が…

 ガレオン将軍が仰った言葉だ」

「へえ…」

「師匠もこの諺に従って、戦場でその様な話はされなかった

 だからあのお年まで、戦場に立ち続けられたのだ」

「なるほど…」


「だから

 オレ達は大丈夫だ!」

「そうか…

 それでロンは…」

「オレ…

 まだ言って無いから大丈夫だよな?」

「ん?」

「んん?」


アレンがボソリと不吉な事を呟く。

思わず将軍もダナンも振り返るが、引き攣った笑いをするアレンに何も聞けなかった。

下手に聞けば、例のセリフを聞いてしまいそうだった。

しかしながら、この言葉で既に、聞いたも同然なのだが…。


「え?

 いや、何でも無いです

 あはははは…」

「…」

「…」


オレ

聞いちまったが、大丈夫か?


将軍はそう考えて、複雑な表情を浮かべる。

三人がそんなやり取りをしていると、正面に領主が歩いて来た。

そのまま全体の正面、東門の前に立つ。

領主は冷たく済んだ空気を吸って、全体に行き渡る様に大音声で挨拶をする。


「諸君!

 おはよう!」

『おはようございます』


時刻は7時になり、街の中央から時を告げる鐘が鳴り響いた。

鐘の音が鳴り止み、その音が聴こえなくなるのを待って、領主は再び声を上げた。

その声は響き渡り、全ての兵士の耳に届いていた。


「諸君

 今日は集まっていただき、先ずは礼を言う

 ありがとう」


領主は頭を下げる。

貴族である領主が、人前で頭を下げるのは珍しい。

辺りがザワザワと騒然とする。


「静まれ!

 静まれー!」


将軍が声を上げ、再び静寂が広場に広がる。


「既に聞き及んであろうが、魔物がこの街へ侵攻中である

 そして…

 女神様の使徒である運命の糸(フェイト・スピナー)から、宣戦布告もあった」

「え?」

「女神様の?」

「魔物って…

 まさか女神様が?」

「聞いていないぞ」


ひそひそと囁く者が居たが、先ほどよりは抑えられている。


「魔物がどこから来るのか?

 それはまだ、不明ではある

 しかし間違いなく、こちらへ侵攻中であろう」


昨日まで付近を捜索しては、魔物の討伐が行われていた。

しかし、魔物が集中している様子は無かった。

それでは魔物は、どこから攻めて来るのか?

肝心の魔物の群れが、未だに姿を現していない。


「目下、物見からの報告は無いが

 確実にこちらへ向かって来ていると思われる」

「それについては、わたくしが御説明しましょう」

『!』


領主の言葉に続いて、不意に広場へ聞きなれない声が響く。

低い男性の様な声だが、聞き様によっては女性の声にもとれる。

その様な何とも言えない、奇妙な艶のある声だった。

辺りが騒めき、みなが周りを見回し始める。


「静まれ!」


将軍が再び声を上げて、前へ出ようとする。

しかしいつの間に現れたのか、領主の左横へ一人の男が立っていた。

将軍はその異様な光景に、雷に撃たれた様な衝撃を感じる。

確かにさっきまで、領主の周りには誰も居なかった。

しかし警戒していたにも関わらず、知らぬ間にそこまで近寄られたのだ。

それは失態でしか無かった。


「領主さ…」


アルベルトは将軍の視線を追って、自身の隣に視線を移す。

そこにはいつの間にか、男が立っていたのだ。

アルベルトは思わず、声を上げて飛び退いた。

それから腰の剣に手を伸ばして、何とか自制していた。


「う、おお!」

「ああ

 まだ抜かないでくれよ

 勝負はこれからだからね」


男はそう呟くと、大袈裟な身振りで制止を促した。

それは白い不気味な仮面をした、男だか女だか分らない人物だった。

髪は長く伸ばして、金の髪飾りで後ろに短く纏めている。

王国のローブとは異なる、変わった紫のローブを纏い、その人物は優雅に佇んでいる。

その口元には紫の口紅をして、口元は嫣然と微笑んでいる。

兵士の一部の者は、その艶やかな微笑みに心を奪われていた。


「わたくしが話に上がった、運命の糸(フェイト・スピナー)のベヘモットでございます

 みなさん、お見知り置きを」


男は優雅に挨拶をして、腰を折って礼をする。

以後お見知りおきをと言わなかったのは、これで最期だというつもりなのだろう。

彼は優雅に挨拶をして、兵士達の心を奪っていた。

これが敵で無ければ、心酔して従ってしまうだろう。

しかし彼は、魔物を率いる女神の使徒なのだ。


「何しに現れた!」

「何をしにって…

 分かっているでしょう?」


領主は叫び、身構えていた。

将軍も前へ飛び出すと、反対に回って挟む様にして身構える。

しかし先刻まで、その姿に気付かなかったのだ。

それは滑稽な、寸劇にしか見えなかった。


「こいつが使徒ですか?」

「…」


将軍は領主に向かって問いかける。

領主は無言で頷き、男から視線を外すまいと睨み付けている。

しかし男は、そんな事にも構わず、嫣然と微笑む。

そしてヘンディーに振り返ると、不意に強烈な殺気を放った。


「こいつ?

 頭が高いぞ!小童が!」

バシューッ!

「ぐわっ」


男が睨み付けると、強烈な殺気と共に衝撃波が放たれる。

将軍はそれをもろに受けて、大きく後方に吹き飛ぶ。

将軍は身体が痺れて、もんどり打って仰向けに倒れた。

そのまま身体が硬直して、声を上げる事も出来ない。


「ぐ、うう…」

「ヘンディー!」

「ぐ…

 がが…」

「将軍!」

「将軍が…」

「あれが…

 使徒?」


辺りは今起こった出来事の衝撃に、静まり返っていた。

兵士達は身動ぎ一つも出来ずに、その光景に魅入っていた。

部隊長達も殺気に震えて、将軍との間に入れなかった。

それ程までに、この男から放たれる殺気は強烈だった。


「それでは、話を続けますね」


将軍の事はスルーかい!


放置された将軍は痺れて動けず、その場で藻掻いていた。

男は殺気を収めたが、それでも部隊長達は前に出られなかった。

迂闊に動く事も出来ずに、剣に手を当てる事が精一杯だった。

この状況下で飛び出す事が出来る、豪胆な者は居なかった。

そんな中で、ただ一人動ける者が居た。


「貴方が女神様の使徒なんですね」


一人の少年が、兵士達の隙間を搔い潜って前へ出て来る。

少年は使徒のすぐ前へ来て、澄んだ瞳で見詰めた。


「ギルバート!」

「この少年が…例の

 ふうん」


ギルバートは使徒を見詰めた後、優雅に礼をする。


「初めまして

 ダーナ領主アルベルト・ダーナ・クリサリスが嫡男、ギルバート・クリサリスです」

「あら、ご丁寧にどうも」

「ギルバート、こいつの前に出てはならん!」


アルベルトが必死になって叫ぶ。


「あら?

 どうしてかしら?」

「父上?」

「ぬう、ぐぐ…」

「貴方はまだ、この子には話していないんでしょ?」

「そ、それは…」

「父上?」


ギルバートは男の言葉から、父が何かを隠していると知る。

しかしそれが何か、想像が付かなかった。

父は頑固だったが、少年に隠す様な事は何も無かった。

それこそ清廉潔白に見えたからこそ、少年は父親に憧れを抱いていたのだ。


「エルリックに聞いたわよ

 呆れた物よねえ…」

「黙れ!

 黙れー!」


堪らず領主は抜刀し、上段に構えて突っ込む。

しかし結果は将軍と同じ様に、衝撃波によって吹き飛ばされていた。


「学習しないわねえ」

バシューッ

「ぐぬうぬう…

 がはっ」

バタン!

「父上!」


もんどり打って倒れる領主。

それを見て、ギルバートの様子が変わる。


「き、貴様…

 っぐ、うう…」


ギルバートの鳶色の瞳が、怪しく紫色に輝き始める。

それは鼓動の様に、怪しく明滅して輝きを強める。

それを見て、男は妖しく微笑む。

それは嬉しそうに、その輝きを見詰める。


「ほう…

 これは…

 思わぬ収穫です」

「ぐ…ぬぬぬ…」


ギルバートは剣に手を掛け、引き抜く寸前で留まる。

身体が小刻みに震え、必死に抵抗している様だ。

そうで無ければ、そのまま剣を手にして、前に切り込みそうだった。


「良いですよ

 そのまま…」

「止せ…

 ギルバート…」


領主は必死になって声を出し、止めようとする。


「ぐ…ぬ

 ぬう…はあ」


ギルバートは何とか手を放し、その場に膝を着く。


「おやあ?

 堪えてしまいましたか

 そのまま狂乱の衝動に包まれば良かったのに

 そうすれば楽しいわよ?

 ふふふふ」

「くうっ」


ギルバートは衝動に抗い、再び立ち上がった。


「貴方の…

 貴方の目的は、何だ…」

「ああ

 そうでした

 面白い物が見られたので、つい…」


将軍と領主も、ようやく痺れが治まったのかゆっくりと立ち上がる。

しかし衝撃の余韻が残っているのか、未だに足元がふらついていた。


「我が子達の事を話しに参りましたの」

「我が子?」

「そう

 貴方達が魔物と呼ぶ者です」

「な?」

「このまま、貴方達を狂わすのも面白いんですが…

 それでは当初の目的が果たせません」

「目的?」

「そう、も・く・て・き」


男は微笑みながら、目的を強調する。

それは人間を滅ぼす事よりも、狂わせる事よりも重要なのだろう。


「我が子達による、貴方達人間の虐殺です」

「な!」

「ぬう」

「貴様…」


強がって見せるが、男が身構えると、三人共その場で身構えるしか出来なかった。

男から感じる殺気に、身体が硬直して動けなかった。

格の違いを見せ付けられた。


「安心しなさい

 我が子達には、ここの門を…

 この門を目指して来させています

 わたくし達は正々堂々と、正面から挑みますからね」

「な!」

「正面からだと?」

「随分と、自信があるんだな」

「ええ

 それだけの者を揃えています」

「くっ…」


男の宣言に、将軍と領主は肩を震わす。


「舐めやがって」

「その思い上がり、後悔させてやる」

「父上、将軍

 挑発に乗ってはいけません」

「しかし」

「奴らの思い上がりは許せん」

「挑発に乗っては、思う壺です」

「何?」

「どういう事です」

「ほおう…」


ギルバートは、先ほど自分に起こった事を懸念していた。


「魔物を倒すのは重要ですが…

 憎しみや殺そうとする感情に飲まれるのは危険です」

「それは?」

「…」


ギルバートは振り返ると、二人の目を見て訴えかけた。


「ジョンさんがどうなったか、覚えていませんか?」

「え?」

「魔物に強い殺意を持って…

 その後にどうなったのか

 将軍が一番、よく分かっている筈でしょう?」

「そうだな…」

「ヘンディー?」

「バレては仕様が無いわね」


男は悪びれる様子も無く、平然と言い放った。


「でも、大丈夫かしら?

 力を身に付ければ付けるほど、衝動は強くなるわよ

 それを破る方法は在るけど…」

「方法は在るんですね?」

「ダメ

 それは教えれないわ」

「そう…

 ですか…」


男の仕草に三人は苛立ち、再び衝動に駆られそうになる。

それがこの男の狙いである様な気までしてくる。


「それで…

 魔物がここを攻めて来るので…

 合ってますか?」


ギルバートは苛立ちを抑えながら、何とか男に尋ねる。


「あら、つまらないわねえ…

 そうよ、正午頃には着くと思うわよ」

「そう…ですか」


ギルバートは冷静になろうと息を吐いてから、言葉を続ける。


「では、要件は…

 以上ですね」

「そうねえ」

「では…

 お引き取りください!」

「!」


男はキッと、ギルバートを睨む。

ギルバートは仕返しを出来たと、ニンマリと笑顔を浮かべた。


「いいわ

 これでわたくしは下がりますわ

 後は我が子達に委ねます」

「そう願いますよ

 貴方が出て来たら、ボク達では敵いませんもの」

「…」


男はギルバートが乗って来ないのを見て、つまらなそうに肩を竦めた。


「そうねえ

 わたくしは今回は出ませんわ

 そこは安心しなさい」

「それは…

 本当ですね?」

「くどいわね

 女神様にも止められてるのよ

 出たくても出れませんわよ」

「分かりました

 ありがとうございます」

「ふん」


男は不機嫌そうに、そっぽを向いた。

男が出て来ないと聞いて、一同はホッとする。

魔物と戦うのですら、このままでは大変であった。

ギルバートとの問答から、何かが仕組まれているのは確かなのだ。

その上で圧倒的強者である使徒まで出て来ては、彼等には勝ち目は無かった。


「それでは、頑張ってちょうだい

 わたくしは遠くから見ているから」


男はそう言うと、手をヒラヒラさせてから姿を消す。

現れた時と同様に、忽然と消え去ったのだ。


「あ!」

「消えた?」

「一体どこへ?」


男が消えた後には、何も痕跡は残っていなかった。

それこそ始めから、そこには何も無かった様に。


「これが転移魔法…」

「何度見ても、驚かされる」

「…」

「父上

 差し出がましい真似をして、申し訳ございませんでした」


ベヘモットの立ち去った後を調べていた領主に向かって、ギルバートは声を掛けた。


「ギルバート…」


領主はどう言おうかと一瞬躊躇った。


「領主様

 坊ちゃんを責めないであげてください」

「将軍?」

「いや

 うむ…」

「叱るなら、不甲斐ない我々が…

 先に叱られるべきでしょう」

「ううむ…」

「将軍…」

「分かった、これは不問としよう」

「父上」

「領主様」


アルベルトはそう言って、今回の件は不問にする事にした。

そもそもギルバートが居なければ、そのまま殺されていたかも知れなかった。

あの男は、魔物以外にも何か仕組んでいる。

それは恐らく、魔物を憎悪する事に関係しているのだろう。

そして魔物だけでは無く、恐らく人間同士にも向けられる筈だ。

それを防げただけでも、ギルバートの功績は大きかった。


「しかし…

 お前は奴の前へ、出るべきでは無かった

 これで完全に奴らに、お前の存在が見付かってしまった…」

「父上?」

「そう言えば…

 奴は坊ちゃんを知っている様な事を言ってましたね

 何でしょうか?」

「う…」

「父上?

 何かあったんですか?」

「話して無いとか何とか?」

「ううむ…」

「父上?」


領主アルベルトは、一瞬だが何かを言い掛ける。

しかし慌てて首を振ると、押し黙ってしまった。


「この事は…

 言えない」

「父上!」

「領主様!」

「今は…

 まだ言えないのじゃ」

「父上!」

「すまん

 いずれ話す機会を設ける

 それまで我慢してくれ」

「…」

「…」


領主は苦悩の表情を浮かべて、二人に頭を下げた。

それに対しては、二人は黙るしかなかった。


「それより今は、魔物をどうにかしないといけない」

「ああ…そうですね」

「ええ…」

「それと

 奴は妙な事を言っていた

 ギルバート

 何か知っているのか?」

「そう言えば」

「ええ

 魔物と戦っていて気づいたんですが…

 時々、無性に魔物を殺したくなっていました」

「何!」

「殿下?」


これは以前にも、アルベルトは聞いていた。

あの時には一過性のものと、考えていた。

しかしその後も、ギルバートは殺意を感じていた。

それを隠して、何とか抑える方法を模索していたのだ。


「将軍

 以前、ジョン部隊長がおかしくなりましたよね?」

「ワシは聞いておらんが?」

「ええ

 彼は憎しみに駆られて暴れたので、縛って謹慎させていました

 しかし…」

「縄を切って逃走しました

 そのまま行方不明に…

 そうでしたよね?」

「ええ」

「行方不明の部隊長とは、その事か」

「はい」


ギルバートは、自身に起こった事を話した。

彼はその後に、殺意の抑え方も何となく理解していた。


「ボクも…

 同じように激しい憎しみに駆られる事がありました

 何とか抑える事が出来ましたが、彼の話を聞いた後では…

 あれは力を持つほど、なり易いと言う事でしょうか?」

「うむ

 確かにそう言っていたな」

「そうなると…」


将軍は兵士達の方を向く。

兵士達は三人の声が聞こえていたので、思い当たる者は動揺する。

確かに報告では、スキルを所持した者に多く現れている。


「確かに…

 衝動に駆られてか、魔物に突進して命を落とす者が居りました」

「そうか…」

「また、それを悩んで苦しむ者や、退役を希望する者も居ます」

「なるほど…」

「そうなんですね」

「ええ」

「そうなると

 戦闘中にも気を付けなければ、衝動に負ける者が出るかも知れないか」

「はい」

「魔物だけでなく、味方にも危険がありますね」

「正面の敵だけではなく、内なる敵にも備えなければ」

「至急該当する者を集め、戦闘から外してやれ

 その者も苦しんでいるであろう」

「はい」


将軍は該当する者を呼び、戦闘から離れて、補給の仕事を任せる様に伝えた。

魔物は刻一刻と迫っていたが、戦う前から問題が起こっていた。

このままでは、戦う前に負けてしまう事になり兼ねない。

スキル所持者で危険な者は、戦闘から外される事となった。

それで戦う者が少なるとしても、危険な状態になるのは避けたかった。

これがあの使徒が、仕組んでいた事なのだろう。


ギルバートが居なければ、この事は知られる事は無かった。

それだけでも、ギルバートが使徒に会う意味はあったのだ。

まだまだ続きます。

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