第004話
登らない朝日はない
沈まない夕日もない
盛える国があれば
終える国もある
クリサリスは、今まさに危機を迎えていた
集落の襲撃から3日目
この日は早朝から前日を超える曇天となり、やがて小雨が降り始めていた。
しかし小雨の中だが、集落に危険が迫っている事は間違い無い。
危険は承知だが、砦への避難は決行される事となった。
部隊は先ずは、先日の集落より西にある、砦から一番離れた集落から向かう事にした。
もう一つの集落は先の集落とは反対の東側にあり、距離もそんなに離れていなかったからだ。
部隊長は警備隊長に相談して、念の為にもう一つの集落にも伝令を送る。
避難の準備をするように、周知させる為だ。
準備が出来ていれば、それだけ早く避難出来るし、被害を食い止めれるだろう。
今日は護衛が主な任務であるのと、荷物の輸送も考えて馬での出立だ。
前日同様に朝早くから集合した兵士達は、早速点呼を始めていた。
それから人数分の馬も用意すると、部隊長の号令を待っていた。
「すまんな
諸君達には申し訳ないが、休暇も非番も返上だ」
兵士達は、そんな部隊長の言葉に反論した。
「何言ってんですか」
「当然ですよ」
「早く終わらせて住民達を安心させましょう」
そう言って部下達は、やる気を見せていた。
部隊長もそんな部下達の言葉を、頼もしく思って口元を綻ばせる。
「よおし!
それじゃあさっさと済ませて帰投するぞ!」
「はい」
部隊長は気合を入れると、片手を振り上げる。
「行くぞ!
出発!」
「出発!」
手を振り下ろし、出立の掛け声を上げる。
しかしその声は、実は不安を打ち消す為に上げられていた。
このまま、このまま何事も無ければ良いのだが
一応、集落には増員の警備は配置されているが、2人ぐらい増えても無駄ではないか?
特にこれから向かう集落は、砦から離れ過ぎている
無事であれば良いのだが…
部隊長は不安な気持ちに、圧し潰されそうになっていた。
その集落は作られてから、まだ2月しか経ってない。
集落が少し離れている理由は、元々その集落が落ち着いたら第3砦を建設予定であったからだ。
集落の少し先には、建設予定地が更地にされていて、開墾で出た木材が運ばれている。
集落に近づくにつれて、雨脚は弱まり始め、森の入り口に到着する頃には止んでいた。
しかし部隊長の心配は、現実の物となっていた。
そこからは集落は見えないが、集落がある方向には黒い煙が上がっていた。
「部隊長!
あれを!」
「うぬ!
急ぐぞ!」
煙が見えてからの、部隊長の判断は早かった。
それまでの警戒しながらの移動は捨てて、大声で威嚇しながらの速駆けに変えていた。
待ち伏せの危険はあるが、生存者が居るかも知れない以上救出の方が急務である。
「急げ!
急げ!
一人でも多く救出するぞ!」
「急げ!」
「早く!
はやくー!」
「うおおお!」
一団となって駆け抜けると、一気に集落の入り口に突っ込む。
だがしかし、既に辺りは静まり却っていた。
「停まれ!
停まれー!」
集落の中心、井戸の前の広場に出ると、部隊長は部隊を制止した。
不気味な静寂を湛える家々を睥睨し、しかし部隊長は落胆し項を垂れていた。
「遅かった…か」
ドガッ!
彼は落胆すると、鞍を殴り付けていた。
馬は動揺したが、主の様子を心配して後ろに振り向く。
部隊長もすまないと思い、馬の頭を撫でてやる。
そんな様子を気にしながらも、部下達は馬を回して、辺りを警戒しつつ探索へ回った。
集落の半数が焼かれており、建物は倒壊していた。
昨日の襲撃とは打って変わって、火を放って襲い掛かったのだろう。
恐らくは警戒しているのを見て、最初の様な襲撃は無理と判断したのだろう。
火を放つ事によって、混乱に乗じる襲撃に切り替えたのだ。
当然だろう
オレが指揮していても、こうしていた筈だ
しかし、これは仕方が無い事である。
昨晩の内に向かっていたとしても、この襲撃は行われていただろう。
最悪、この救出部隊もやられていたかも知れない。
とはいえ、止むを得ない事とはいえ見捨てたも同然である。
部隊長の胸の内には、苦い物が込み上げていた。
そこへ不意に、明るい声が上がった。
「居たぞ!
生存者だ!」
「こっちだ!」
「急げ!」
「おお…
女神様よ…」
部隊長は女神に感謝し、天を仰ぐ。
すぐさま生存者は、広場へと案内された。
馬を降りた兵士が、子供を一人抱き上げている。
その後ろを女の子と、老婆を一人伴って現れた。
みなの反応は少ない生存者に落胆するが、しかし3人でも生き残れて良かったと涙ぐんでいた。
この場に留まるのは危険なので、簡単な事情を聴く事となる。
老婆が震えながらも、昨晩の襲撃を語った。
それはこういう事だった
先ずは、夕餉を終えた頃から急に森が静かになった
この時期にしては珍しい事だ
夜とは言え、森の中には野鳥や梟も居るのだ
兵士は警戒して、大人は武器になりそうな物を探し求めた
最初老人と子供は、一ヶ所に集められていた
やがて外が騒がしくなり、悲鳴と怒号が次々に上がった
そして老婆達が匿われた建物の、壁や扉も破られて、みなは散り散りに逃げ出した
老婆は何とか兵士に助けられながら、娘の手を引いた
そして幼児を抱きかかえると、壊れた建物の中に隠れる事になった
若い兵士は老婆達を隠しながら、早口で告げる
「いいな!
俺達が引き付けるから奥へ…
物陰に隠れるんだ!」
「ですが、外には何者かが」
「良いから!
助けが来るまで、静かにして外に出て来るな!」
そう言い残すと、彼は魔物の群れに突っ込んで行った
勝てないとは分かっていても、少しでも時間を稼ぐ為だ
その間に老婆達が、安全な場所に隠れる為に…
やがて声は遠くへ移動して、暫くすると聞こえなくなった
その後も暫くは、何者かが周囲を探る音が聞こえた
しかしやがて、その物音も聞こえなくなっていった
彼女達は恐怖と疲れから、いつしか眠っていたそうだ
兵士達は、再び震えて嗚咽を漏らす老婆と娘を慰める。
幼児は3つぐらいだろうか?
まだ事情が分かっていないのか、兵士に抱かれて大人しくしていた。
危険は去ってはいないが、早々に出立した方が良いだろうと判断された。
幸い雨で、集落の火は鎮火していた。
遺体の方はどうやら、また持ち去られていた様だった。
他の建物や残骸も調べたが、生存者はもう居ない様子だった。
彼等は落胆しながらも、再び広場の井戸の前に集まった。
「どうだ?
結界は?」
「ありません」
「やはり持ち去られた後かと」
「ぬう…
そうか…」
恐らく、またあの邪悪な儀式の様なモニュメントがあるのだろう。
しかし今は時間も無いし、小さな子供も居る。
隊長は苦渋の決断を下して、立ち去る事にした。
「止むを得ん、行くぞ」
「しかし、部隊長
またあれが在るかも知れません」
「いや
捜している間も危険だ
生存者を護る事が最優先だ」
「はい」
兵士達も思うところはあったものの、部隊長の指示に従った。
老婆と娘は一人ずつ、兵士の後ろへ乗せられた。
幼児は老婆が抱きかかえる様にして、その膝の上に乗せられる。
その兵士達を護る様に、他の兵士達が周りを固める。
そうして一団となって、彼等は森を抜けて公道へと出た。
公道へ出てからは、少し見通しも良くなるので速度も落とされる。
そのまま昼過ぎには、彼等は無事に砦の入り口へ辿り着く事が出来た。
部隊長は番兵に事情を説明すると、部下達にその場に待機を命じる。
そして警備隊長に、急ぎの面会を取り次いだ。
番兵は直ちに人をやり、面会の手続きと生存者の引き取りを受ける。
砦は俄かに騒がしくなっていた。
夕刻頃に集落の者達を、連れて帰るだろうと思っていたのだ。
しかしまさか、生存者が3名だけだとは思ってもいなかったのだ。
それも生存者の証言で、魔物が現れた事は確実だった。
事情を聴きたがって、他の兵士達も集まって来ていた。
それを見兼ねて副隊長が、叱り付けて彼等を持ち場へと帰した。
その騒ぎは、事情を聴衆している警備隊長の元へも聞こえていた。
溜息を吐きながら、部隊長は報告を続ける。
「以上が襲撃の大まかな経緯です」
「うむ
ご苦労だったな
兵士達には十分に休息を取るように伝えてくれ」
「はい」
「あの…よろしいでしょうか?」
「うん?」
しかし部隊長は、警備隊長の労いの言葉に対して何か言いたそうにしていた。
警備隊長は、部隊長にそれを促す。
「どうしたんだ?」
「よろしければ…
よろしければ早急に…
もう一つの集落にも向かいたいのですが」
「次の襲撃が気になるか?」
「はい」
警備隊長は暫し考えた後、部隊長に告げた。
「実はな
第一砦には既に、応援を要請してある
今、君達を無理して派遣しては、判断を誤る危険もあるだろう
よく休んでから、明日しっかり警護してもらいたい」
「分かり…ました」
「うむ
気持ちは分かる
分かるがな…」
「はい…」
「オレも君達の命を預かっているからね
今はこうするしかないんだ」
「はい…」
部隊長も、自分の部下達の命が大事だ。
それでも…
それでも集落の住民達の身の安全を考えれば、早急に避難をさせたかった。
「それで?
襲撃の犯人は判明したのかね?」
「はっ、それなんですが…
これはまだ仮説なんですが」
部隊長は前置きをして続ける。
「老婆の証言では、あくまでも敵の正体は見えていません」
「そうか…」
「しかし」
「うん?」
部隊長は興奮した様子で続ける。
「暗がりではっきりとは見えてはいなかったそうですが…
あちらこちらで子供ぐらいの小さな人影を見たという証言が…
後はギイギイと不気味な鳴き声もしていたと…」
「ゴブリン…
まさかゴブリンなのか?」
警備隊長は思い当たるのか、迷いながら呟く。
「はい
確証がありませんが、伝承と照らし合わせても恐らくは…」
ゴブリン
現在は目撃証言は上がっていない
帝国台頭以前は、山岳部や森に住み着き、旅人や集落を襲う事もしばしばあったという
繁殖能力が非常に高いのだが、雌のゴブリンの産まれる確率が非常に低い
その為に他の種族の、女性を攫う習性がある
この習性の為に、人里に降りて来ては襲撃を繰り返したらしい
身長は子供ぐらいで小さく、腕力や速さも子供と大差はないという
知性もほとんどが持たず、人語を解す事は出来ない
彼等自身の簡単な言語と、身振り手振りでコミュニケーションを取っていた
そう記録には残されている
「だが
相手がゴブリンでは…腑に落ちないな」
「え?」
「人を攫って行くのが食料なら分かる
しかし怪しげな儀式の様な跡か?
あれもゴブリンがやったのか?
ゴブリンにそこまでの知性があるのか?」
「それは…」
あれがゴブリンの仕業なら、伝承より知性がある事になるだろう
それに…
警備隊長は迷っていた。
「それから、住民の皆殺し
目撃を恐れてなのか?
伝承通りなら若い女性を攫う筈、そうだよな?」
「ええ、確かに」
若い女性を攫うのなら、皆殺しにする必要は無い。
殺してしまっては、それ以上住民が増えないからだ。
それに知性が低いからこそ、目撃者を殺す必要も考えないだろう。
そこまで考えて、殺したとは思えないのだ。
「他にもあるぞ
どうして結界が効かなかったのか?
これも重要だな」
「はい」
それには部隊長も頷いていた。
今回の襲撃でも、封印の結界石が奪われていた。
あれが襲撃の前に奪われていたのか?
あるいは襲撃の途中、それとも襲撃後なのか?
それ次第では、問題は大きく変わってくる。
ゴブリンに結界が効くのか?効かないのか?
効かないのなら、結界の意味も大きく変わってくる。
「まったく、弛んでおるな」
副隊長が戻り、再度報告を行うと、副隊長も集落の避難は明日が良いと告げた。
それから襲撃犯がゴブリンという報告には、副隊長も眉を顰める。
「おかしいですな?」
「お前もそう思うか」
副隊長も伝承の内容から、違和感を感じていた。
謎の儀式に関しては未だ不明なので、今回の襲撃の現場も確認してからとなっていた。
しかし確認するにしても、作業は増援部隊が来てからだ。
ここの兵士を出してしまえば、砦の防備も手薄になってしまう。
そもそも襲撃の規模を考えれば、『この砦でも危険なのでは?』という考えもある。
この砦で防げるというのは、あくまでも結界の効果があるという前提があればこそだ。
「まずい…ですかね?」
「うむ」
「まずい…ですよね」
「そうじゃな」
三人とも渋い顔になる。
無理もない事だろう。
住民の生命を守る為に避難をしているのに、その前提の安全が危惧されているのだから。
このままでは、結界の効果すら怪しい物だった。
「まあ、だからといって避難はさせんとな
少なくともここなら、外壁もあるし兵士も居る
なあに、2、3日ぐらいなら何とかなるだろう
ガハハハッ」
そう言って副隊長は笑ったが、警備隊長も部隊長も黙ったままだった。
このまま議論しても時間の無駄と判断して、警備隊長は部隊長を下がらせた。
「大丈夫…ですよね?」
副隊長は先ほどと打って変わって低いト―ンで呟いていた。
警備隊長は無言で立ち上がると、窓に近づいた。
窓の外の兵舎や正門に集まる兵士、その先に見える森と順番に見やる。
森からの危険は、今では楽観視出来なくなっていた。
預かっている兵士の命は、守らなければならない。
かといって、集落を見捨てて行く訳にもいかないだろう。
集落が襲われている間に、増援が来れば安泰だろうが…。
しかし無辜の住民を犠牲にして、それでどうする?
彼らを守る為にこその、この砦と警備兵なのだ。
「なんとか…
なんとか守らんとな」
「はい」
二人は眼下に見える、私語を交わしている兵士達を見る。
今度は副隊長も、叱りには行かなかった。
彼等兵士達も、不安なのだろう。
ざわざわと兵士達は、落ち着けずに待っていた。
「部隊長、遅いですね」
「ああ、あんな事があった後だ
判断が難しいんだろう」
「あ!
部隊長だ!」
部隊長の姿を見て、他の兵士達も黙って気を付けの姿勢で待つ。
姿が見えた途端にビシッと整列する部下達を見て、部隊長も思わず吹き出す。
「ん!ごほん!」
咳ばらいをしてからニヤリと笑みを浮かべる。
「お前ら、緊張感も解れたようだな」
叱られると思っていたが、大丈夫そうだった。
ホッと胸を撫でおろす、兵士も一部で居た。
「では、しっかりと仕事出来る様に外周を…」
「ええ!」
「そんなあ!」
たちまち悲嘆の声が上がっていた。
「ははは、冗談だ
さすがにあんな事があった後だ、今日はこれで解散だ」
「ほっ…」
「冗談は止めてください」
部隊長は今後の予定を伝えると、明日の仕事に影響が無い様にしっかり休めと解散させた。
兵士達はまだ夕餉には早い事から、先ずは明日の準備へと向かった。
ゆっくりと休む為には、武器の手入れも必要だった。
ただ一人の兵士を残して…。
「部隊長」
「ん?
なんだ?」
アレンはその場に残り、部隊長に不安そうに声を掛ける。
「どうした?
お前も早く休め」
「いえ、あの…
子供やお婆さんは、大丈夫だったでしょうか?」
アレンは救出された、老婆達の身を案じていた。
「ああ
非番の奴らが案内して、今頃は奥の仮宿舎で休んでいるよ」
アレンはそれを聞いて、ホッと安堵の息を漏らす。
周りもよく見ているし、冷静に判断しているな
今度の件が無事に解決したら、新しく配属する部隊長にでも推薦するか?
などと部隊長は考えていた。
「部隊長」
「ん?
まだ何かあるのか?」
兵士は周りをキョロキョロ見回し、他の兵士が居ない事を確認する。
「ここではちょっと
よろしいでしょうか」
そう言って場所を改める事を提案してきた。
そのまま二人は、部隊長の執務室へ移動する。
「で?
話というのは何だ?」
アレンは真剣な面持ちをすると、危惧している事を話し始める。
「今日の襲撃現場ですが…
実はアレがありました」
「な、なんだと!」
「部隊長!
しーっ!
まずいですから」
アレンは慌てて、口の前に指を当て静かにする様に伝える。
部隊長が落ち着いたのを確認すると、彼は続けた。
「状況は同じでした
発見したのは私だけです」
「何故…
何故黙っていた?」
「簡単です
あの場で報告すれば…
特に住民の耳に入ればどうなるか考えたからです」
「むう…」
考えてみれば、それは当然の判断だろう。
彼女達がそれを知れば、自分達の家族かも知れないと見たがっていただろう。
そして老婆が、あの凄惨な現場を見ていたら…。
アレンが想像以上に、冷静に判断していた事を知って安堵する。
「そうだ…な
オレも配慮が足りなかった」
「いえ
部隊長は私達の安全を考えて真剣に悩んでいらっしゃいました
それなら私に出来るのは…
無用な混乱を避ける為に現場を手早く発見し、他の者が近寄らなくさせる事ぐらいですから」
これで今回の現場にも、悍ましいオブジェクトが在った事になる。
「それで
どんな様子だった?
今回も同じ様な物だったのか?」
「はい
同じ様に死体を辱めて、結界石を置いてありました」
アレン先をは続ける。
「これは…
これは私の考えなんですが…」
「うむ」
「あれは矢張り
結界石をダメにする為に行った儀式だと思います」
「ああ
恐らくそうだろうな」
「ええ」
だが、まだ疑問が残っていた。
問題は魔物であるゴブリンに、どうして結界が効かなかったかだ。
「だが、ゴブリンには結界が効かなかったワケだよな?」
「いえ
完全には効かないワケではないかと」
「何故にそう思う?」
「それは…」
「効かないのなら、そのまま…」
「部隊長!
いくらゴブリンが無知でも、あれだけ統制が取れるのなら…
先にここを攻めませんか?」
「んん?」
「そこなんですよ!
私が指揮したとしても…
何をするにも、先に邪魔になりそうな兵士が多いここを奇襲すると思うんです
それから安心してから集落を襲う…かと」
「ううむ
そう言われれば、そうだよな」
「だからこう考えたワケですよ
先に集落を狙う意義です」
「それは…
単に獲物を求めてでは、駄目なのか?」
「んー…
そうですね
確かにそれもあり得そうですが…」
「違うのか?」
「あれだけの人数?
数を集めて、決行するには…
少々おかしくありませんか?」
「確かにな
結界が効かないのがバレるのに、無理して行う理由としては…
弱いか?」
「ええ
ですから、それを行うだけのそれなりの理由が必要だと思うんですよ」
「それがあの儀式か?」
「ええ」
あれだけの規模の襲撃だ、先に砦を奇襲すれば成功した可能性は十分に高かった。
しかし魔物達は、先ずは集落から襲っていた。
事が発覚して、砦が警戒する恐れもあるのにだ。
或いは単純に、そこまで考えていないのかも知れない。
しかしそう考えるのなら、オブジェクトもまた無意味な物に変わってしまう。
「あくまでも
あくまでも私の想像ですが」
「うむ」
「あれは結果の効果を無くすとか…そういう為のモノかと」
「そう…だな…」
ここで部隊長は、再び疑問に思っていた。
彼の話では、結界は効かないのでは無かったか?
「結界が効かないのでは…
アレは必要無いのでは?」
「いえ
結界は効いているんだと思います
でないと、他の集落も同時に襲われていると思います」
「んん?
どういう事だ?」
「おそらく…結界が不完全なのでは?
それで完全にダメにする為に、あの儀式では無いかと…」
「ああ!
それでか!
だからわざわざ襲撃して…」
「ええ
もしかしたら他の…
公道や森の入り口の結界も、同様に穢されているのではと…」
「ぬう…」
部隊長はこの部下の報告に、思わず喜びそうになっていた。
効果が弱まっているのは危険だが、結界が完全に効かないワケではないのだ。
それならばまだ、ここの守りも安全であるだろう。
それだけを聞いても、十分に明るい話題ではあった。
しかし、そこで別の問題も浮き彫りになる。
他の結界が穢されていては、魔物の侵入が容易になるだろう。
それは懸念すべき事であった。
「よく報告してくれた
早速、警備隊長に上申してくる」
「いえ
私も胸の痞えがが取れました」
部隊長が出ようとするのを見て、アレンは再び声を掛ける。
「あ!
部隊長!
これはあくまでも自分の想像ですから
くれぐれも、くれぐれもご自重してください」
「あん?」
「あと、私が報告した事は…
仲間には内緒にしてください」
「うん?」
部隊長は少しの間考えたが、彼等の間にも色々あるんだろうと思った。
「分かった
内密、でな」
そう言って部隊長は、警備隊長の執務室に向かった。
それを見送ってから、アレンも部屋を後にした。
アレンは自分の報告が良かったと思ったのか、ニコリと笑って部屋を後にした。
アレンからすれば、これで住民が安心して、避難してくれると考えたのだ。
その夜は遅くまで、警備隊長の執務室の明かりは消える事はなかった。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。