第032話
回り始めた歯車
それは運命なのか?
それとも作為された必然なのか?
小さな糸が縒り合わさっていく様に…
それはやがて、壮大なタペストリーを描いてゆく
ダーナ領主、アルベルトの邸宅
その邸宅の2階にある、図書室と呼ばれる書庫に座る少年
彼は今日も熱心に、そこにある書物を漁っていた
「ふーむ
この構文が発動媒体として…
それならこれが計算式になるわけだな…」
その書物は魔導書と呼ばれる物で、現在では非常に希少な書物であった。
帝国が生まれた頃に、魔導王国は危険視されていた。
それは魔導王国が、強力な魔術を使用していたからだとされている。
それで帝国は、魔導王国の書物を焼き棄てる事にした。
危険な魔術を、人目に晒さない為だった。
そうして表向きは、魔導王国は架空の存在だとした。
記録を破棄する事で、反乱に魔術を使う事を防ごうとしたのだ。
その魔導王国時代の、末期の魔導書がこの書物である。
これは先々代のダーナ領主が、書庫に隠していた書物であった。
彼は原本を燃やして、写本した物を隠していた。
それで帝国の焚書から、この書物は守られていた。
それをアーネストが、偶然発見したのだ。
魔術で見付からない様に、厳重に隠されていたのだ。
彼は帝国文字で書かれた、難しい魔導書を片手に唸っていた。
一心不乱に羊皮紙に、何かの記号や公式を書き記している。
紙の上に書かれたタイトルは、初級魔術の比較と検証と書かれている。
初級魔術のエネルギーボルトとファイヤーボールの、魔力による効果の推論をまとめていたのだ。
そこに書かれた公式は、魔力による呪文のエネルギーの推定公式である。
魔術師が初級で習う攻撃用魔法の魔術の矢と、上級で習う攻撃魔法の火球の呪文の比較である。
この書物によれば、当時は上級魔法として火球の魔術も使われていたらしい。
しかし今の魔術師は、魔術の矢すら満足に使えない。
魔物と戦うとなれば、これぐらいの魔法は使えるべきである。
だからアーネストは、この魔法の有用性を調べていた。
ギルドにこれを提出して、魔術師に修得させる為にだ。
彼は時々、自身が記した魔導書も開いて比較する。
独自で調べた呪文は、書物の呪文とは異なっている。
これは魔法の威力に、呪文の構文が関与している証明にもなっている。
それが理解出来れば、魔法の効果を高める一助になるだろう。
「うーん
式は理解できたが、問題は構文の秘密か…」
式によって、魔法の威力は推定出来た。
後はギルドマスターの前で、二つの呪文の比較をするだけだ。
その際に魔力の大きさで、効果が違っている事も証明する必要がある。
だからこうして、怪しげな公式まで記録していたのだ。
「しかしギルマスが、これを理解出来るか…
だよな…
ううん」
少年は疲れて飽きてきたのか、背伸びをしてみる。
そこへ書庫の前を歩く、人の気配を感じた。
「おや?」
その気配に覚えがあり、彼は扉を開いて顔を出した。
「ギル
帰ってきたのか?」
「ん?
アーネスト
また書庫に閉じ籠ってるの?」
「ああ
まだ出来上がっていないんだ」
「よく頑張るよな…
ボクにはチンプンカンプンだ」
「はは
ギルマスでも、恐らく理解出来ないぞ」
「え?
それって意味が無いんじゃあ…」
「理解出来る出来ないじゃ無いんだ
こうして見せる必要があるんだ」
「へえ…」
ギルバートが帰って来て、自室に向かっていた。
書庫は丁度2階にある、ギルバートの私室の近くにあった。
ギルバートは、早く部屋に戻って休みたかった。
しかしアーネストが手招きするので、仕方なく付き合う事にする。
「どうやら無事だったようだな」
「ああ
おかげさまで
何事も無く帰ってきたよ」
「そうか、良かった
その様子だと…
忠告通りに、魔物とは戦ってないな」
「ん?」
アーネストはニヤリと笑うと、ギルバートの胸元を指差す。
彼は悪戯が成功した子供の様に、テンションも高く説明を始めた。
「それだよ、それ
親父さんから受け取っただろ?」
「え?
これ?」
「ああ
直前になって、お前も行くって話だろ?
大慌てで作ったんだぜ」
ギルバートは、父親から出発の直前に受け取ったお守りを指差す。
「アーネストが?」
「ああ
ボクが作ったんだ
攻撃されるても、1回だけ守ってくれるマジックシールドが展開するんだ」
「え?」
「と言っても、ボクの技量だからそんな大した物じゃないんだけどね…」
アーネストはそうは言うが、魔法を封じ込めた魔道具を作るには相当な技量が必要である。
ましてや護身用のお守りとなると、市場でもかなりの高額の商品となる。
これはアーネストの父親が、魔道具造りをしていた影響なのだろう。
彼はその潤沢な魔力で、簡単な魔道具を作る事が出来た。
「へー
これってアーネストが作ってくれたのか」
「そうだよ
すごいだろう」
「えっと…」
「へへへ」
アーネストもギルバートが喜んだ事で、得意気になっていた。
「ありがとう」
「いやいや
これで上手く発動する事が確認出来たら、ギルドに登録して商品化出来るからな
こっちにも都合が良かったんだよ」
「ん?」
「え?」
「…ボクの感謝を返せ…」
ギルバートのジト目を、アーネストは口笛を吹いて誤魔化す。
そして次に、彼はギルバートの腕に抱えられた物に目が行く。
話題を変える為に、アーネストはその本を指差す。
「あれ?
何だ?その本?」
「ん?
ああ、そうだ!」
ギルバートは抱えた本を机の上に置き、アーネストに聞いてみる。
「なあ
この本読める?」
「?」
アーネストはその本の、表紙の文字を読もうとする。
「ま…魔?
どう…全…
魔導大全?
魔法書か!」
「すごい!
読めるんだ」
「まあな
ボクぐらいの天才なら…」
アーネストはそう言いながら、胸を張って威張ってみせる。
それから表紙を捲って、数ページに目を通す。
横でギルバートが、ワクワクしながら見守っている。
「すごいや
ボクなんて全然読めなかったよ」
「だろうな
これ…
全部古代王国語で書いてある」
「古代王国語?」
「ああ」
アーネストは、本に目を通しながら説明する。
「帝国よりも前に…
旧時代の魔法王国があったらしい
これはその王国の誰かが書いた、魔法の教科書だ」
「へー
って、教科書?」
「ああ」
アーネストが2ページ目を開き、ギルバートにも見える様に置く。
そして指で示しながら説明する。
「ここだがな
ページと内容が書いてある」
「どうやら…火とか水とか…
残念ながら、ボクでも全部は読めないな」
「え!」
「うん
無理」
「そんな…」
ギルバートは、明らかに落胆していた。
アーネストは、もう1冊の本も開いてみる。
「こっちも…
うん、たぶん教科書だ」
「何の教科書?」
「恐らく、戦術指南と…
ス…き?ル?
スキル…
何かの技術かな?」
それから暫く、アーネストは左右の本を見比べる。
さらに書棚から、一般の魔導書まで引っ張って来て調べる。
こっちは王国語や、共通語として使われる帝国語で書かれている。
似た内容を比較して、何とか読み解こうとしているのだろう。
「駄目だ!
数字と簡単な名詞は読めたけど、他が解らない」
「そうか…
はあ…」
落胆するギルバートを見て、アーネストは何事かを決心する。
「なあ、ギル
これをボクに預けてくれないか?」
「え?」
「必ず読み解いて見せる」
「う、うん
元から君に頼もうと思っていたんだ」
「そうか
ありがとう」
アーネストは書物を持って、立ち上がろうとした。
そこで彼は、これが非常に不自然な事に気が付く。
ギルバートは今まで、魔物の討伐の遠征に出ていた筈だった。
それが何で、こんな希少な本を持っているのだろう?
「ん?
そういえば、どこでこんな本を見つけたんだ?」
「ああ
それは、いつぞやの詩人さんがくれたんだよ」
「何!」
途端にアーネストの顔が引き締まり、書物を警戒する。
「どうしたの?」
それにも答えずに、彼は幾つかの呪文を唱える。
魔法が発動して、周囲に魔力が満ちる。
ほとんどが反応しなかったが、一つの呪文で文字が光ったりした。
アーネストはそれを見て、表情を険しくする。
「ギル
正直に話してくれ
本当に詩人なんだな?」
「ど、どうしたんだよ
旅の吟遊詩人だって
本人もそう言ってたし…
どこからどう見ても、詩人だったよ?」
「うーん…」
「どうしたのさ?」
「あのさ
これってただの教科書じゃないんだ
これ自体が魔道具なんだよ」
「ええ?」
「だから
旅の詩人が持つには、高額過ぎる物なんだよ」
普通に本自体が、高額な代物だった。
不通の羊皮紙の本でも、金貨数枚程度の値段である。
この書庫にある本でも、普通には売られていない物がほとんどだ。
ギルバートはその事に関しては、無頓着だった。
それは彼が、領主の息子であったからだろう。
しかしアーネストは、本を気軽にあげるという事に疑念を感じていた。
それでもどこかの領主にでも、褒美に貰ったとなればありえる。
それなら詩人も、本を持て余していたと考えられる。
だが、それが魔道具でもあるとなれば、話は違って来る。
それは希少な物になり、場合によれば国宝に指定されるかも知れない。
「おい
これはとんでもない物かも知れないぞ?」
「ええ?」
「だから…
詩人ってのが怪しいな」
「でも…
何もされてないし、特に会話も変じゃなかったよ?」
「何を話したか、全部話せ!」
「う、うん…」
アーネストにきつく言われ、ギルバートは前回と今回に話した事を、思い出しながら全て話した。
「確かに…
本当に今の話だけなら、祭りの事や書物の事だけだよな」
「だろ?」
「それに…
本の価値を知らなかった可能性もある」
「うん
きっとそうだよ」
「しかしなあ…」
本に掛けてあった魔法は、盗難防止と燃焼防止の魔法だった。
魔力に文字が反応したのは、魔法が掛かっていたからだ。
これ自体は、古い魔導王国時代の書物ならあり得る。
図書館から紛失しない様に、所定の場所から離れると、騒音がなる様にしてあった。
所定の場所が無くなったのか、今はその魔法の効果は失われている。
燃焼防止の魔法は、書物であるなら当然だろう。
希少な魔法の教科書だから、燃やされない様に掛けてあったのだろう。
これが写本された物ならば、あるいはそれも無かっただろう。
これを書いた人物は、この本を大事にしていたのだ。
アーネストは暫く考えて、結論は先延ばしにしようと思った。
盗聴や場所を示す様な、危険な魔法は掛かっていない。
それならば詩人も、悪用する為に渡した訳では無さそうだ。
それに悪用するつもりなら、最初からアーネストには見せない様にするだろう。
しかし気になる事は、相手が自分の事を知っていた事だ。
詩人はギルバートに、アーネストに読んでもらう様に話している。
それならば詩人は、アーネストが読めると知っていた事になる。
そんな知り合いは、アーネストには居なかった。
だからアーネストは、誰かから自分の事を聞いたと推察する。
領民ならば、あるいは自分の事を知っている可能性があるからだ。
「どうして知ったかが問題だが…
ボクが読めると…
考えた?」
「アーネスト?」
「ううん
いや、何でも無い」
これ以上は、考えてみても分からない。
問題はこの事が、領主の耳に入る事だろう。
領主が聞けば、その詩人を捜索するだろう。
しかし詩人が、見付からない様な気がしていた。
無用な騒ぎを、起こさない方が良いだろう。
「分かった
それじゃあこの本は、ボクが預かる」
「うん、頼むよ」
「それと…
くれぐれも本と詩人に会った事は、領主様には内緒にする事」
「え?」
「当たり前だ!
変に心配掛けたくはないだろう」
「うーん」
「この本の正体も掴めていないからな」
「分かったよ
父上には黙っておくよ」
「ああ
その方が良い」
今話したところで、この書物の謎は解けない。
それに詩人にしても、本当に善意からくれた可能性も無くはない。
書物に怪しい魔法が掛かっていない以上、疑ってもしょうが無い。
今は中身を解読して、有効に使うべきなのだろう。
そうして二人は、書庫の前で分れた。
ギルバートは着替えて休息を取りたいと思いながら、私室へと向かった。
アーネストに書物を渡した事で、すっかり安心したのだろう。
眠気はピークに達していた。
それから数分後…。
「で、この状況は何?」
「う、ううむ…」
「一体何の用件です?」
「あ、いやあ…」
ギルバートは不貞腐れて、ソファーに座っていた。
部屋に帰って着替えていたら、父親からすぐに来いと呼ばれた。
それで部屋に入るなり、座る様に言われる。
見れば父親の膝の上には、すやすやと眠る幼女が居る。
そして父親は、どう説明すべきか悩んでいる様子だ。
何?
これ?
どこの子?
当然、妹のフィオーナでは無い。
ギルバートは、その子供を指差して質問する。
「その子供は?」
「ええっと…
その為に呼んだ」
「フィオーナじゃ…
無いですね
誰です?」
「セリア…
イーセリアと言うらしい」
「らしい?
どこで産んだんですか?」
「うん?」
「母上ではありませんし
どこの子ですか?」
「ちょっと待て?
何をかんがえている?」
ギルバートはジト目でアルベルトを見ている。
母上一筋等と言っておきながら、どこでこさえてきたと無言の圧力だ。
アルベルトは慌てて、しどろもどろに返答する。
「母上にはキチンと謝ったんですか?」
「ち、違う!」
「そうやって言うって聞きましたけど…
まさか父上が…
はあ…」
「おい!
よ、止さぬか」
「母上が可哀想です」
ギルバートは、盛大に溜息を吐く。
それを見て、さすがにアルベルトも怒っていた。
こめかみに青筋を立てて、父親は呟いた。
「ほほおう…
お前がどういう目でワシを見ているのか
ここでよく話し合わんといけんな…」
数分後、頭の瘤を押さえながらギルバートは尋ねる。
「で、結局その子は誰なんですか?」
「お前が話の腰を折ったんだろうが」
「んみゅう…」
「お!
おっと」
「あ…」
「お前が騒ぐから…」
「父上がいけないんですよ
紛らわしい事を…」
「そんな事は…」
「ふみゃあ…」
「あ!
よしよし
怖くないからな」
アルベルトの声に、幼児が目を覚ましそうになる。
泣き出しそうになる幼女を、アルベルトは慌ててあやす。
そうして幼女は、再び寝息を立て始める。
「ようし、よし…
ふう…」
「で?
どうしたんです?」
「この子はな、先の集落の生き残りだ」
「へ?」
「この子ともう一人
お前の一つ下になる女の子が居る」
「孤児…
ですか?」
「ああ」
ここでギルバートは、集落に孤児が居た事を思い出す。
恐い思いをしたからか、子供は心を閉ざしている。
エドワード隊長が、その様な事を話しているのを思い出した。
「どうするんですか?」
「うむ
この子はウチで引き取る」
「うちで?」
「ああ
フィオーナの良い話し相手になってくれるだろう」
「妹の侍女にするんですか?」
「そのつもりだったんだが…
反対されてな」
「そりゃそうでしょう」
「ああ
ジェニファーに叱られた」
「こんな小さな子供を…」
「あのなあ…
お前も十分に、小さな子供だぞ?」
「兎に角
こんな子供を侍女にだなんて…」
「ああ
ジェニファーにもそう叱られた…」
「当たり前でしょう」
「ふみゅう…」
「おう
よしよし…」
「はあ…
誰が世話をするんです?」
「一応、うちの子として育てようと思う」
「うちの子って…
母上に任せるつもりですか?」
幼児が再び眠ったのを見て、アルベルトはそっと膝の上に置く。
それを見て、再びギルバートはジト目になる。
「同情…
ですか?」
「それは、否定できん」
「はあ…
それじゃあ孤児を全員…」
「後は、守れなかった事への…
ケジメかな?」
「なるほど
母上は?
納得されていますか?」
「ジェニファーは喜んでいたよ
逆に、こんな可愛い子を見捨てたら、二度と口を利きませんって言われた」
「うわ…
それならまあ、ボクは構いませんけど…」
「うむ」
母のジェニファーも、この子を育てるのは賛成らしい。
ギルバートとしては、ますます母親に構ってもらえなくなる。
それは寂しかったが、仕方が無い事だろう。
確かにこんな小さな子供を、放りだす事は出来なかった。
「それでな
もう一人の子は教会で預かっている」
「え?」
「ジェニファーとも相談したんだがな、さすがに二人は無理じゃ」
「でしょうね」
「それで教会に住み込みで働かせて、後にうちでメイドとして雇おうと思う
どうだ?」
「うーん
でも、ボクの下ならまだ子供ですよね」
「だから正確には、メイド見習いからかな?
メイド長のアンナに付けようと思う」
「教会の仕事の合間に、メイドの教育ですか?」
「ああ
それならうちで駄目でも、働き口が見付かるだろう?」
「そうですね
それにアンナおばさんなら、大丈夫ですね
面倒見も良いし」
「なら決まりだな」
「要件は、それだけですか?」
「ああ
お前がなかなか帰って来ないから、この子も眠ってしまったよ」
「はあ…」
「ふふふ
フィオーナの小さい頃を思い出すよ」
アルベルトは、幼女を抱っこしながら続ける。
「本当は起きている内に、顔を合わせてやりたかったんだが…
明日時間があったら、この子の面倒を看てやってくれ」
「え!」
「ジェニファーはまだ、フィオーナの面倒を見ないといけない
なんなら二人共看てもらいたいぐらいだ」
「ええー!」
「ふみゅう…」
「おい!
しっ
しーっ
起きてしまう」
「はい」
「大きな声を出すな」
「父上が悪いんですよ」
「ほう?
瘤を増やしたい様だな」
「い、いえ」
「兎に角
明日は頼んだぞ」
「はい…」
本当なら久しぶりに、街に出掛けたかった。
その後に宿舎に寄って、ディーン達と稽古もしたかった。
しかし母親も忙しいなら、仕方が無い。
ギルバートは嫌々ながら、それを引き受けた。
その夜は、新たに出来た妹の事を考えながら眠った。
なんだかんだと、ギルバートも面倒看の良い子供であった。
フィオーナの時も、不貞腐れながらも面倒を見ていた。
絵本を読んであげたり、庭の花壇の世話をしたり。
絵本を読んであげようか?
それとも庭で散歩の方が良いかな?
そんな事を思いながら、ギルバートは眠りに着いた。
翌朝、ギルバートは起床すると、朝食を取りに1階の食堂へ向かった。
既に父親は食事を済ませて、外に出掛けていた。
食堂では母親と、妹が食事を取っていた。
妹はやっと離乳食から、普通の食事に変わったところだ。
柔らかく焼いたパンを、スープに浸して食べていた。
「おはようございます
母上、フィオーナ」
「おはよう、ギルバート」
「あにちゃ、おあよう」
席に着くと、直ぐに食事が運ばれてきた。
パンとスープ、生ハムのサラダに紅茶が用意される。
ギルバートはまだ未成年なので、食用のワインは用意されていなかった。
ギルバートはさっそく、パンをちぎって食べ始める。
「昨夜はよく眠れましたか?」
「はい
遠征の疲れですかね?
すっかり寝坊してしまいました」
「あにちゃ、ねおう?」
フィオーナが意味が分からず、目をくりくりとさせてじっと見てくる。
そんな妹が可愛くて、思わずニコリと笑顔を返す。
それを見て、フィオーナも満面の笑顔になる。
「きゃはは」
「ふふふ」
母親は妹の食事を食べさせ終わると、口元をナプキンで拭いてあげながら話した。
「ギルには悪いけど、私もフィオーナの事があります」
「ええ」
「セリア…でしたね
あの子の面倒をお願いするわね」
「はい」
すっかり食べ終わり、眠ってしまったフィオーナを抱えて、ジェニファーは自分の私室へ向かった。
それを見送り、ギルバートは自分の食事を済ませる。
野菜はあまり好きではないが、鍛える為には野菜もしっかり食べる事と言われていた。
生ハムと一緒に、半ば強引に口へ放り込み、紅茶で流し込む。
「ごちそうさまでした」
背後に控えた執事に告げると、ギルバートは席を立った。
セリアがどこへ居るかは判らないが、恐らくは客間用の部屋に居るだろう。
そう思って、2階の客間の一つに向かった。
この出会いが、必然であったのか分からない。
しかしこの日初めて、二人は出会う事になる。
ギルバートはメイドに確認して、2階の一室に向かった。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。