第025話
集落での戦いも、何とか勝利に終わっていた
大きな被害も受けず、ようやくここまで来た
しかし、いよいよ大きな戦いが迫っていた
魔物に奪われた、第2砦の奪還
そして魔物を率いていた、魔物のボスの討伐
まだそれが、果たされていなかった
遠征軍は公道を急ぎ移動する
彼等は遂に、第2砦から少し離れたこの場所に到着した
ここは公道の脇にある、開けた場所になっていた
将軍は騎士団に周囲を警戒させつつ、この場所に陣を張る事にした
直ちに野営の準備を命じて、薪を集めさせる
大隊長は焚火の準備を見て、不安になっていた。
こんな場所で焚火をすれば、魔物に見付かってしまう。
これから砦に向かうのに、ここで消耗するのは愚策だろう。
しかし将軍は、その事に気が付いていない様だった。
「ここで火を焚けば、魔物に見つかるのでは?」
「ん?」
将軍は野営の準備を見回りながら、何か思案していた。
大隊長は不安になり、将軍に質問する。
しかし将軍は、肩を竦めて返答した。
「なあに
先の集落でやろうが、ここでやろうが、どの道見つかる時は見つかる」
「そりゃあそうでしょうけど…」
「それな、魔物に見つかって襲われても、退治すればいい事じゃろう?
退治した分、砦の魔物も少なくなるじゃろう?」
「ですが…」
「心配し過ぎじゃ」
「ですが!」
「兎に角、今日はここで休んで英気を養う
疲れていては、十分に戦えないじゃろう
場合によっては、明日も休息として交代で休む事にする」
「いいんですか?」
「ああ
先の戦いでも、みな頑張っていて疲れておるからな
お前もしっかり休めよ」
「はあ…」
大隊長は肩を竦めると、部隊長を招集する。
そうして将軍からの指示を部隊長へ伝え、休息の順番を決めてからしっかり休めと伝えた。
しかし部隊長達は、案の定それに反対する。
「将軍の話では、疲れが溜まっている様子だからな
明日も休息に当てるかも知れないと言っていた
まあ休息と言っても、魔物の方から来るかも知れないがな」
「休息ですか?」
「オレはまだまだやれますよ?」
「馬鹿
兵士達の方が問題なんだよ」
大隊長は肩を竦めると、部隊長達の顔を順番に見る。
「それに…
お前達だって、さっき奮戦した後は足元もふらふらだったじゃないか」
「それは…」
「違えねえや
こいつ、ふらふらしてエリックに支えられてたからな」
先の戦いの後では、ジョンもアレンも暫くは自力で立てないぐらい消耗していた。
それで第5部隊の部隊長のエリックが、二人を支えて戻って来た。
特にアレンは軽傷を負っていて、腕や足に包帯を巻いていた。
傷は軽かったが、その包帯姿は痛々しかった。
「アレン
お前は怪我も負っている」
「これはポーションを使ったから、明日には包帯も取れますよ」
「だがな、部下達はどう思う?」
「そうだな
隊長がそれじゃあなあ…」
「違いない」
「くっ…」
アレンは強がっていたが、怪我で血も失っている。
1日は休んで栄養を取らないと、快復は望めないだろう。
他にも四肢の損耗は見られなかったが、深い切り傷や打撲を負った者も数名居る。
重傷でないにしても、怪我を癒す時間が必要だった。
「うーん
やはり明日は休んだ方が良さそうだな」
「元気な者で警備と狩猟に出て、栄養を付けませんとな」
「ああ
ハウエルとダナン」
「はい」
「お前らで何か、獲物を狩って来てくれ」
「はい」
第4部隊、部隊長のハウェルが、狩猟を提案した。
狩に出れば、気晴らしを出来る者も居よう。
それに新鮮な獲物を食すれば、英気も養える。
一緒に負傷していないダナンが、狩りに向かう様に命じられる。
「この辺は野草や、果物が生ってる木もあります
探索しますか?」
「うーん
そうだな
将軍に相談して来る」
大隊長はそう言うと、再び将軍の元へ向かった。
将軍は騎士団に、武器の手入れと備品の点検を指示していた。
腕を組んで渋い顔をして、部下と相談していた。
武器の損耗は少なかったが、薬草の数が思ったよりも少なくなっていた。
「…それでポーションは仕方ないんですが、薬草の補充は必要かと」
「食料も、干し肉の数を考えれば…
ここらで補充を視野に入れた方が宜しいかと」
「近隣には村や集落もありません
昨日の集落も、すっかり魔物に荒らされておりました
作物も根こそぎやられていましたし…」
「ううむ…
思ったよりも補充が必要か」
「はい…」
騎士達も報告する顔は、悲嘆に暮れていた。
本来は遠征と言っても、途中の村や集落で補給が出来る場合が多い。
特に今回は大所帯だ。
このまま補給が滞れば、十分な力を発揮できないどころか、最悪物資の不足が起きてしまう。
そうなれば飢餓や、栄養失調に陥る恐れも出て来るだろう。
勿論、ダーナへ早馬を出して補給の要請も出来る。
しかし、街の住民が増えた事で開拓を始めたのだ。
その開拓民の一部が、今では避難民として帰っている。
その上で今回の遠征にも、糧食を供出しているのだ。
街の住民へ補給を頼むのは、あまり宜しくなさそうだ。
「やはり、ここで現地調達しかないか」
「ええ」
「そうです」
「早めに手を打たないと、数日で不足してしまいますよ」
「ううむ…」
もとより短期決戦を目標にしているので、持ち出した糧食は少なかった。
このまま休息するのなら、食料の調達も必要だった。
「将軍」
「ん?」
「よろしいですか?」
「何じゃ?」
思い切って、大隊長は話に割って入った。
彼等の要望も、物資の補充である。
そうであるならば、先の話をする必要があるだろう。
「先ほどの休息の件
部下達も納得しました」
「うむ」
「その上で部下達から、狩りや採取の案が出ております」
「お前の部下達もか?」
「ええ
幸いこの近くに、果物や野草があるみたいです」
「しかしのう…
兵士も休まさなければ」
「それはそうなんですが…
どうでしょう?
明日は交代で休息に当てて、一部の者で周辺の探索と狩猟をしませんか?」
「ううむ…」
騎士達は最初、大隊長の横槍に少し不満そうな顔をした。
しかし大隊長の出す案には、嬉しそうに頷いていた。
そこで彼等も、追従する様に提案をする。
「そうですよ
兵士達も疲れています」
「ここは我々も休息と補充に…」
「それは…
ライアン
お前が狩に出たいからではないんだな?」
「え?」
ライアンと声を掛けられた騎士が、顔を引き攣らせる。
「や、やだなあ
そんなわけ無いじゃないですか
はははは…」
「じゃあ、ライアンは留守番で
他の者は希望者から絞って狩に出そう」
「そんなあ…」
「お前なあ…」
「くっくっくっ…」
ライアンがしょげて、他の騎士達が下を向いて笑いを堪える。
「うおっほん
そんなわけで、こちらも休息は賛成じゃ」
「はい
では、部下達に伝えてきます」
「うむ
あまりはしゃぎ過ぎない様にな」
「はい」
大隊長は部隊長達の方へ向かい、将軍は再び騎士達と相談を始めた。
「それでは、具体的な必要な物資を調べよう」
「はい」
「薬草や果物は、兵士達の方が詳しかろうて
冒険者や農民上がりの者も多いからな」
「はい」
「こちらは狩りと、警備に回ろうと思う」
「それでは弓の得意な者を、主に選抜して参ります」
「うむ
頼むぞ」
「はい」
騎士達は直ちに、行動に移した。
普段からの訓練の成果もあるが、狩に出れるとあって張り切っていたからだ。
騎士達も狩りは、好きな者が多かった。
しかし彼等は、重要な事を忘れていた。
騎士の中からは、狩に出られる者は少ないという事を…。
それから夕日も沈み、辺りを静寂と暗闇が包み始める。
魔物が住み着いた砦に近いからか?
この辺りでは、野鳥の鳴き声も聴こえなかった。
野営の準備中にも、2度の魔物の襲撃があった。
斥候だろうか、5匹が2組で行動していた。
その行動は今までの魔物とは違い、訓練を受けた様に連携を取って襲い掛かって来た。
先に1組が接近して、3匹が突撃して2匹が回り込む。
もう一組は矢を射掛けて、こちらを牽制して妨害してきた。
敵わないと見ると、後続の魔物も4匹が抜刀して襲い掛かる。
その間に1匹は離脱し、仲間を呼びに逃走した。
「くそっ!」
「ちょこまかと…」
ゲギャハハハ
ギャッギャッ
最初の一組目の戦闘で、2人の兵士が重傷を負ってしまった。
いくら小柄の小鬼とはいえ、一度に複数匹に囲まれては堪らない。
彼は四方から切り掛かられて、肩や脚を深く切られる。
しかし幸いな事に、致命傷は免れていた。
彼は騎士団に支給されているポーションで、傷口を塞いでから安静に休まされた。
事態を重く見た大隊長は、警戒に当たる人数を増やした。
2人一組から、4人一組に見回りの兵士を増やす。
それから巡回頻度を上げようと相談していると、二組目の魔物が襲撃して来た。
今度は人数も多かったので、深手を負う者は居なかった。
多少連携の不慣れはあったものの、兵士は囲まれる事は無かった。
すぐに他の兵士の加勢も間に合って、彼等は無事に討伐する事が出来た。
今回は怪我も無く、兵士達は無事を喜びあっていた。
大隊長はそれを確認してから、怪我した兵士の様子を見に天幕へと向かった。
「傷の様子はどうだ?」
「少し前に眠ったところです」
「武器が鈍らで良かったです」
「ですが錆が多くて…」
「うむ
傷口から膿む可能性もある
包帯はマメに替えてやれ」
「はい」
付き添いの兵士が、眠っている兵の代わりに答える。
彼は同僚の怪我を、心配して世話をしていた。
怪我した兵士は、今は落ち着いて眠っている。
しかし錆びた剣で切られたので、傷口が化膿する恐れがあった。
「傷の痛みは無くなった様です
出血も止まっていますし、さすがは高級ポーションです」
「そうか」
「騎士団はあんな上等なポーションを…」
「言うな
そうそう作れる物じゃあ無いんだ
将軍が分けてくださったから…」
「そうですね
街で支給されるポーションじゃ、ここまでの効果はありませんものね」
「ああ
だが作れる者がな…」
ダーナの街で使われているポーションは、低級な物である。
風邪や食中りには効くが、それ以上の効果は望めない。
そして傷口に関しても、化膿を抑える程度である。
騎士団の使うポーションの様に、小さな切り傷を塞ぐほどの効果は無い。
「しかし
いくら上物のポーションでも、傷を塞いだりは出来ん」
「はい」
「せいぜい今回の様な、小さな切り傷程度だな」
「ええ
傷が塞がるまでは戦闘は無理ですし
動ける様になるのも数日は…」
「ああ
暫くは安静だな」
「ええ」
「切れた腱も治るかは…
せめて中級ポーションでもあれば」
「そうだな
しかし中級ともなれば、騎士団でも滅多に使えない
このポーションでも、やっと最近出回る様になったんだからな」
「そうですね
配合を見極め、簡略化してくれた、小さな魔導士君には感謝してます」
兵士は通常の薄い青色のポーションと、濃い青色のポーションを手に取る。
最近になって、この上物のポーションが作られる様になった。
それまでは薄い青色の、下級ポーションが主流だった。
薬草を煮詰めただけでは、その程度のポーションしか出来なかったのだ。
「これが無ければ…
安定して供給出来る様になってくれれば、多くの者が救われるんですが…」
治療のポーション
薄い青色をした液体で、薬草を主成分としている
傷口に掛けて消毒したり、服用して腹痛や気分が悪いのを和らげたりと多用途で使われる薬
薬草を煮沸して、濾して作られる液体の薬である
近年まで正確な効能や、種類が分かっていなかった
あくまで特定の薬草を煮沸して、濾した液体が使われていた
近年では研究が進み、ようやく簡単な症例のポーションが作られる様になった
それは風邪や下痢、嘔吐等の症状に合わせた薬草が用いられた物だった
傷を治すポーションは、未だに研究が続けられている
これによって、特定の薬草の重要が大きくなってしまった
その為にギルドでは、薬草の採取クエストが難しくなってしまった
(求める薬草を期日内に、必要数集めて来ないと、依頼失敗として報酬は出ない)
そして商人や一部の農家では、栽培をしようと研究する者も増えていた
しかし研究は不完全で、未だにポーションは高価な物であった
最近になって、ある自称魔導士が考案した手法が公開された
これは魔力を使った、1段効果の高いポーションであった
今までも、稀に効果の高いポーションが作られる事があった
それがこの発表によって、魔力が原因であると確認されたのだ
それで上級のポーションが、ダーナにも増え始めていた
余談だが、事象魔導士とはアーネストの事である
彼が街の家に居ないワケは、一人でいると危険だからだ
高級なポーションを、少年が作っている
そんな事が知られれば、彼を狙う者が現れるだろう
それでアーネストは、領主の館の隣に住んでいる
門番も領主から、選ばれた兵士が務めていた
アーネストは、その他にも魔導書の研究もしている
その結果は、魔術師ギルドを通して発表されている
この事もあって、魔術師ギルドはアーネストを隠していた
彼の才能が、悪用される事を恐れていたのだ
高級ポーションは、今やある程度の安定供給が出来る様になっていた。
次第に値段も下がり、ダーナの市場に並び始めていた。
王都にも報告され、魔術師達が制作を行っている。
その為最近では、王都の兵士達にも大怪我をした時に使われている。
ただし現状では、従来のポーションの効果を高めただけだった。
血止めや痛みを和らげる事は出来ても、傷口を完全に塞いだりは出来ない。
小さな切り傷を、塞ぐ事がやっとだった。
大きな傷口を塞ぐぐらいの効果となれば、中級ポーションと呼ばれる物だ。
しかし今のところ、このポーションは安定生産の目途が立っていない。
帝国では、作成方法を秘匿して輸出していた。
それは帝国では、魔導王国時代から作成方法が伝わっていたからだ。
レシピが分からない以上、それはクリサリスでは作られていなかった。
だから使える者も、ごく限られた者だけだった。
噂では、欠損部位まで修復出来る、最上級のポーションなる物もあるらしい。
これは魔導王国時代に、使われていたという程度の噂話だ。
どういった物かは、知る者すら居なかった。
「彼等には、暫く休みを与える」
「はい
それが良いでしょう」
「ああ
傷が治らない以上は…」
「場合によっては、引退もあり得ますね」
「うむ」
ポーションで治るなら、彼等も戦列に復帰出来るだろう。
しかし治らない以上、このまま退役も止む無いだろう。
付き添いの兵士には悪いが、それも仕方が無い事であった。
大隊長は付き添いの兵士にも、交代で休む様に伝える。
彼が天幕を出た後、兵士は悔しそうに泣いていた。
大隊長の話が、聞こえていたのだろう。
付き添いの兵士は、彼を慰めながら、眠る様に促すのであった。
その夜は、魔物の襲撃はそれ以上無かった。
とはいえ、襲撃の警戒は厳重にしなければならない。
ここは敵地の目の前だ。
警備の兵士達は、欠伸を噛み殺しながら見張りを続ける。
そして夜が明け、朝日が再び登り始めた。
森の木々の隙間から朝の陽射しが差し込み始める。
少しずつ気温が上がって、朝の肌寒さも収まってゆく。
夜の闇は消えていき、陽射しに明るさを取り戻していく。
兵士は静けさの中で、安心して深い眠りに落ちていた。
そんな野営地を、不意に強烈な重苦しい空気が包んだ。
それはまるで、先ほどまで取り戻し掛けていた、気温が一気に奪われた様だった。
強烈な殺気が、野営地の兵士達を震え上がらせる。
ゴガアアア!
ビリビリビリ!
不意に大声を上げ、ゆっくりと大柄な影が歩いて来る。
その後方には魔物が付き従い、大柄な隊長格の魔物も数匹従っている。
先頭に立つ大柄な魔物が、再び大声を上げる。
グゴオオオ!
ビリビリビリ!
天幕から駆け出した大隊長が見たのは、あのボス魔物が手下を従えて現れた姿だ。
大柄なボスの魔物は、悠然と野営地に向けて歩いて来る。
まるでこちらが、手出し出来ないと悟っている様に。
くそっ
思ったより、早い決戦になりそうだ
大隊長は、内心焦っていた。
ようやくここまで来たものの、まだ態勢は立て直せていない。
今戦えば、魔物のボスを倒せたとしても、多くの犠牲が出るだろう。
下手したら、魔物のボスにも手が届かず、ここで全滅も在り得る。
部隊長達も、次々と武器を持って駆け寄る。
魔物の吠え声を聞いて、慌てて起きだして来たのだろう。
彼等の顔は、緊張で引き攣っていた。
重苦しい空気が、野営地の中に流れる。
魔物のボスは悠然と、『今ここでやってもいいんだぜ』と言わんばかりに身構える。
「待てっ!」
そこへ低く、重たい言葉が投げ掛けられた。
「双方、待て!」
「師匠!」
「まだじゃ!
まだ構えるでない!」
「しかし…」
将軍が大剣を腰に下げたまま、両者の真ん中に立った。
将軍と魔物のボス、強者が遂に見える。
魔物のボスも、相手側の大将が出て来たと見て、それまで構えていた武器を下ろす。
そしてニヤリと笑って、将軍を見詰めていた。
やっと自分と渡り合える、強敵に出会えたのだ。
それはまるで、長く探していた恋人に出会えた様な、熱い眼差しだった。
「なるほど
聞いた通りの、なかなかの武人の様だな」
将軍もニヤリと笑い、魔物のボスを見詰める。
グホオ、グハッハア
魔物はそう鳴き声を上げると、嬉しそうに踊る。
まるで人間の、嬉しくて小躍りするという様だ。
そして、手に持った武器を地面に突っ立てた。
それを何を思ったか、そのまま引き摺り始めた。
ガリガリ…!
『??』
ゴリゴリ…!
魔物は武器を引き摺って行き、地面に大きな線を引いた。
そして地面の線を指し、地面の片側とそれぞれの陣営を指さす。
「なるほど
こちらは我々のテリトリーだと言いたいのか」
グホッ、グホッ
魔物は頷くと、線をなぞる様に指を動かす。
それから線の向こうを指した後に、首を掻き切る仕種をして見せた。
「そちらへ入れば…
命は無い
そう言いたいんだな」
グホホホホホ
魔物は満足げに鳴くと、踵を返した。
無知蒙昧と思っていたが、何という事だろう。
この魔物は人語を解して、コミュニケーションを取って来たのだ。
最早魔物等と、侮れない存在であった。
彼等は危険な隣人として、彼等の前に立ちはだかったのだ。
「待て」
グホッ?
「今はこちらも時間が欲しい
だから見逃す」
ギャグワアア
将軍の言葉に、1匹の隊長格の魔物が吠え声を上げて身構える。
胸をドンと叩いて、ならば掛かって来いと示す。
それをボス魔物が、吠え声を上げて制する。
グホウ
グギャガア…
グホウ、グギャギャア
ボスの魔物は、そのまま帰る様に指示する。
隊長格の魔物は、不満そうながらもそれに従う。
「だがな
次に会う時は…」
グゲハハ
将軍はボスへ向けて、挑発的に指差した。
「戦場だ!」
グボホホ
そう言って将軍は、親指で自分を指さしてから、大剣を地面に突き刺した。
グホホウ、グハハハハ
魔物達は満足げに、笑いながら去って行った。
「将軍…」
「言うな
今は時間が必要じゃ」
「ですが…
良かったんですか?」
「ああ…」
「将軍?」
「子供らが不安がっておる」
「しかし…」
「それにな
たまにはワシも、活躍せんとな
ガハハハ」
「爺…」
「ん?
何か言ったか?」
「いえ
何も…」
将軍はそう言っていたが、実は危機感を抱いていた。
今やり合えば、確実に多くの死傷者が出ただろう。
勿論その中には、領主の嫡男も含まれる。
彼をしても、あの魔物を倒せるか自信が無かった。
だからここで出来るだけ、回復して体制を立て直したかったのだ。
「さあ
兵達を休ませ…
むっ!」
「将軍?」
「どうされました?」
「こ、これは…」
「まさか敵が引き返して…」
「警戒しろ!」
大隊長が将軍の様子に、異変を感じていた。
彼は真剣な表情で、剣の柄に手を掛けていた。
それで部隊長達も、周囲を警戒して見回す。
ここで油断して、魔物に襲撃されては危険だからだ。
大隊長は不安気に、将軍に歩み寄ろうとする。
「如何され…」
「くそっ!」
「まさか本当に、敵が引き返して…」
「抜けなくなってしもうた
手伝ってくれ」
「な!」
ガクリ!
大隊長はその場で、ズッコケていた。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。




