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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第一章 クリサリス聖教王国
23/190

第021話

大切な仲間を守る為

優しかった部下の仇を取る為

遂にヘンディーは、あの魔物の側近と対峙する

彼は必ず勝ってみせると、決意をしていた


魔物と対峙する、ダーナ守備部隊大隊長ヘンディー

魔物は嘗て、部下を殺した強敵だ

大人の腕ほどある長く大きな腕は、一撃で小鬼の頭を潰していた

まともに受ければ、ヘンディーでも危険だろう

それでも彼は、正面から魔物に向かった

部下の仇を取る為に、正面から立ち向かった


「うおおおおりゃああ」

ギャアア

ガキーン!


大隊長の一撃を軽々と受けると、魔物はそれを弾き返す。


「くっ」

ギャアガア

ブン!


今度は魔物が剣を振り上げ、無造作に叩き付ける。


バキーン!

「ふん!」

ギャヒッ?


大隊長がそれを躱すと、剣は地面に深々と突き刺さる。

剣は錆て朽ちていたのだろう、途中からポッキリと折れてしまった。

魔物は首を傾げると、折れた剣を無造作に放り投げる。

壊れた玩具に興味を失ったかの様に、剣を放り棄てると腰の手斧を引き抜く。

それは手入れがされてはいないが、丈夫な木と分厚い鉄で出来た武骨な斧であった。

なるほどこれなら、手入れなどしなくても壊れ難いだろう。

黒い血の跡が、べったりと着いた斧は不気味であった。

魔物はそれを構えると、醜悪な笑みを浮かべていた。


不味いなあ

先の剣なら壊れた隙を狙えたが、この斧では難しいぞ

それに剣より武骨な斧の方が、あの魔物に合ってそうだ


大隊長は正眼に構えつつ、冷静に魔物を分析していた。

先の攻撃も、熱くなっていたわけではない。

魔物にわざと隙を見せて、カウンターを狙っていたのだ。

しかし、そもそもが剣が折れた時に、踏み込めなかったのが失敗だった。

却って魔物に、有利になってしまった。


グォッホ

グギャア

ブンブン!


魔物が雑に、斧を振り回し始める。

一見すると大振りで、隙だらけに見える。

しかし膂力が高いだけに、返す刃も危険に感じてしまう。

そもそも丈夫だと言っても、大隊長の武器はロングソードだ。

下手に鉄の塊の様な斧を受けたら、欠けてしまうし、最悪折れてしまうだろう。

危険を冒して受けるより、回避してスタミナ切れを狙う方が確実だ。


この魔物の体力が…

見た目通りだとして…だがな


なるべく刃で受けない様にして、大隊長は魔物の振う斧を避ける。

魔物はそれを、不機嫌そうに吠えて睨む。

正面から打ち合えと言っている様だった。

しかしまともに打ち合えば、すぐに剣は壊れてしまう。

このまま隙が出来るまで、攻撃を躱し続けるしか無いのだ。

それに隙があれば切ろうとしても、なかなか隙も無かった。

狙って当たったとしても、皮鎧の表面を切る程度だろう。


ヘンディーは必死に数合を回避し、少し振りが大きくなった隙を見逃さなかった。

上体が開いたタイミングで、大隊長は腰からナイフを引き抜く。

そのまま身体を捻ると、魔物の脇腹目掛けて放った。

それは回避しながら左手で投げたもので、決して鋭くもない。

ナイフは軽く、皮鎧の隙間から脇腹に刺さった程度だった。


「くっ!」

ヒュン!

トスッ!

グガッ


しかしそれは、効果が十分にあった様だ。

ダメージこそ無い様だったが、明らかに魔物は苛立った様子になる。

そのままナイフを引き抜くと、怒りに任せて地面へと叩き付けた。


ギャグワッ

カシーン!


叩き付けられたナイフが、地面で音を立てて跳ねる。

その一瞬の隙を突いて、大隊長は長剣を魔物の左手へ叩き付ける。

魔物の腕は思ったよりも硬く、腕を切り落とす事は出来なかった。

しかし腕の骨が見えるぐらいには、切り裂く事が出来ていた。


ザシャッ!

グギャアア

ボトッ!


魔物が斧を取り落とし、左腕を押さえる。

腕力は強いが怪我には慣れていなかったのだろう、そこが隙へ繋がる。

大隊長は更に踏み込み、追撃を狙った。


「ふううん

 はああ!」

ズシャッ!

グギャアアア


頭への突きを、魔物は何とか躱していた。

しかしそこから、ヘンディーは剣を下へ下げつつ、右へ逆袈裟懸けに跳ね上げる。

狙い通り跳ね上げた刀身が、魔物の右腕を跳ね飛ばした。


「せやあ」

シュザッ!

グギャアア


よろめき、逃げようと背中を晒す魔物。

これまでの強気の様子では無く、魔物はみっともなく逃げ出そうとしていた。

そこへ容赦なく、大隊長の剣が閃く。

魔物の首は切り飛ばされて、宙へと舞った。


ゲギャッ

グギャオオ…

「うおおおお!」

ズドッ!

ガギャッ…


首は声も無く宙を舞い、頭を無くした魔物は数歩歩いてから倒れる。

それを見た周りの魔物は、呆然としていた。

強い魔物が、人間によって倒されたのだ。

その衝撃を受けて、魔物達は呆然としていた。


「ロン…

 仇は取ったぞ…」

「うおおおお!」

「大隊長!」

「やったぞ!

 あいつを討ち取った」


大隊長が強敵の魔物を倒した事で、兵士達が興奮して叫ぶ。

その声に魔物達は、ビクリと反応して周囲を見回す。

これを好機と見て、ヘンディーはすぐに指示を出す。

刃に着いた血を振り払いながら、彼は剣を掲げて大声で指示を出した。


「今だ!

 第5部隊は正門へ取り付け」

「おう!」

「うおおおお!」

「行け!」


魔物の隊長格がやられた為、魔物は浮き足立っていた。

そこへ真ん中から抜けて、第5部隊が正門に陣取った。

次いで他の部隊が、そのまま魔物を左右に押し込んで行く。

魔物が左右に押されて、砦の入り口は開かれた状態になる。

それを見て将軍が、次の指示を出した。


「騎士団、突撃!

 歩兵部隊も続け!」

「おう!」

「行くぞ!」

「突撃!」


騎士団が馬上で鎌を構えて、次々と突撃していく。

砦の中へ入ると、慌てた魔物が手近な物を投げ付ける。

騎士達はそれを盾で防ぐと、仲間の入る為の道を作る。

歩兵部隊はそれに追従する様に入ると、正門の周りの魔物に切り掛かった。

いよいよ魔物を全滅させる為に、本格的な掃討が行われる。


「広がれ!」

「良いか

 歩兵を守るんだ」

「魔物を通すな」


「やれ!」

「殺せ!」

「全て殺すんだ!」

「残らず殺せ!」

「見逃すな!」


歩兵達は、恐怖を狂気に変えて立ち向かう。

魔物を全て駆逐する為に、剣を構えて狂った様に切り付ける。

既に事切れた魔物にも、容赦なく切り付ける。

そうして四肢を切り飛ばし、首も刎ね飛ばす。

中には腹を裂き、臓物を切り裂く者も居た。

こうなってしまえば、最早どちらが魔物か分からない。


しかしこれは、戦場では仕方が無い事なのだろう。

歩兵というものは、危険な戦いを強いられる。

生き残る為には、敵に容赦は出来なかった。

例えそれが、既に動かなくなった死体でもだ。

亡者となって、生き返って襲って来ると思って、恐怖から切り刻んでいたのだ。


その様子を見て、魔物はパニックに陥いる。

投擲も散発的になり、彼等は少しづつ逃げ腰になる。

投擲が減れば、歩兵の方にも余裕が出来る。

数人の兵士が石を手にすると、弓を構えた魔物を狙って投げ付けた。


ここまでくれば、後は総崩れになるだけだ。

逃げ始めた仲間を見て、他の魔物も逃げ出す。

そこにはもう、戦う気力を持った魔物は居なかった。

逃げ惑う魔物を、蹄で、鎌で、剣で…人間は次々と屠って行く。

それは最早、戦争では無く虐殺でしかなかった。


歩兵の中には気分が悪くなる者もいたが、ここで隙を見せたら自分達が殺される。

みなが必死になって、狂気を持って魔物を殺しに向かった。

ある程度収まってくると、生き残りが居ないか死体を刺して回る者もいた。

これは決して残虐な思想からではなく、生き残りに背後からやられない為の重要な行為だ。

しかし戦場に慣れていない、ギルバート達には辛い光景だった。


「こいつら全部…

 殺さないといけないんですか?」

「ああ、そうだ」

「中には命乞いしてるのも居ますよ?」

「それでもだ」

「この死体も…

 全部刺して確認するんですか?」

「ああ、全部だ」

「無理ですよ

 出来ません!」


ディーンが涙目になると、頭を振って抗議する。

戦場に慣れる為に、死体の確認をする様に言われた。

しかしディーンには、それは無理な事だった。

1体目を刺した時の感触で、彼は気分が悪くなっていた。


「ディーンは猪や…

 野犬の討伐は参加した事は無いの?」

「うん

 ボクは商家の三男坊だから、剣は握った事はあるけど…

 刺したり殺した事は…うっ」

「そうか

 ボクは野兎は狩った事はあるけど、なかなか慣れないよね」

「う、うさ…

 うげえっ…」


兎と魔物では、全然違うだろう。

ましては小鬼は、人に近い姿をしている。

それも大人では無く、彼等少年に近い大きさだった。

簡単に慣れろと言う方が、おかしいと感じただろう。

それでも慣れないと、戦場では簡単に命を落とす事になる。

エドワードはそれを優しく諭す様に説明し、魔物の死を確認して回った。


「しっかり確認しなさい

 見逃せば、今度は仲間が殺されるよ」

「は、はい…」

「生きるとは…

 生き残る為の戦いとは、厳しいものだ

 こうしてしっかりと、止めを刺さないと…ね」

ズドシュッ!

アギャッ…


「ここいらの魔物は、全て片付いた様だね」

「はい

 後はあちらの…」


アレックスが残りの一角を振り返ると、死体の中の1匹の魔物と目が合った。

魔物は跳ね上がる様に死体の下から出ると、傍らに落ちていたダガーを投げ付けた。

アレックスは咄嗟に、魔物に背を向けているディーンを引っ張る。


ギャアグアア

ヒュン!

「え?

 何??」

「危ない!

 ぐわっ」

ドスッ!


アレックスがディーンを庇い、右肩を負傷する。

肩には魔物が放った、ダガーが深々と刺さっている。

アレックスは深手を負って、苦悶の表情を浮かべる。

そこへ魔物が、アレックスの首を狙おうと飛び掛かって来た。

そこへ離れた場所から、ギルバートが低い姿勢で突っ込んで行く。


「っえええああ!」

ヒュオン!

シュバッ!

グギャアアア


ギルバートは低い姿勢で突っ込み、腰溜に構えた小剣を、駆け抜け様に振り抜く。

小剣は魔物の身体を、腰から切り裂いていた。

魔物の上半身は、そのまま腰から滑り落ちる。


「お見事」

「はあ、はあ…」

「ギルバート!」

「大丈夫か?」

「あ、ああ…」


ランディが思わず、声を上げていた。

次いでジョナサンが、肩を押さえるアレックスの元へ駆け寄る。

ギルバートは魔物に、頬を小さく引っ掻かれていた。

しかし他には、目立った負傷は無かった。


「アレックス!」

「大丈夫かい?」

「う…」

「肩をやられたか」


リックも側に来て、包帯と薬草で傷の手当てをする。

ギルバートの傍にも、エドワード隊長が駆け付ける。

魔物は既に絶命し、ピクリとも動かなかった

隊長はそれを見て安堵したのか、ホッと一息を着いていた。


「ふう…

 肝が冷えましたよ」

「すいません」

「いえ、あやまるのはこっちです

 本来はワタシが、あの様な危険が無い様にしなければいけないのですから」


隊長はそう言って、すまなそうに首を左右に振る。

それからギルバートの、肩に手を置いて尋ねる。


「ところで

 見事に魔物を倒したあの剣術は?

 お父上に習われたので?」


見た事の無い構えに、隊長は興味を抱いていた。

あれは一朝一夕では、身に付ける事は出来ないだろう。

ギルバートは、自分で訓練してあの剣術を身に付けたのだ。

しかしクリサリスでは、あの様な剣術は見た事が無かった。


「ああ

 あれは旅の詩人に習いました

 まだそんなに上手くは出来ないのですが…」

「いいえ

 とんでもない」

「え?」

「実に見事でしたよ

 よほど鍛錬を積んだのでしょう?」

「いえ…

 そのう…」

「うんうん

 旅の詩人から、どこぞの剣士の技を教わった

 それを独学で身に付けるとは…

 実に見事です」


実はギルバートは、あれを習ってからまだ二月ほどだった。

だから実戦でも、そんなに効果があるとは思っていなかった。

しかしあの時、魔物との距離が開いていた。

だから咄嗟に、踏み込んで切り裂くあの剣術を放ってみたのだ。


しかし結果は、ギルバートが思う以上の効果を発揮していた。

ギルバートは知らずに、足腰が鍛えられていたのだ。

それは訓練で、走り込みをした事もあったのだろう。

しかしそれ以上に、彼は鋭く踏み込んで切り付けていた。

予想していた以上に、技は鋭く放たれていたのだ


ギルバートが隊長と、剣術の話をしている横で、リックがアレックスの傷の手当てを終える。

その側には、泣きながら謝るディーンが居た。

ディーンは自分の不注意で、アレックスが怪我をしてしまった事を悔いていた。

しかしアレックスは、そんなディーンを優しく慰める。


「ごめんよ

 ごめんよ…」

「いいんだって

 ディーンに怪我が無くって良かった」

「だけどボクのせいで…」

「仕方が無いよ

 魔物が賢かったんだ」

「そうだな

 まさか仲間の死体に混じって、死んだふりをするとは…」

「ああ

 オレ達も気付かなかったぜ」


泣きじゃくるディーンをアレックスが優しく宥める。

ジョナサンとランディも、泣きじゃくるディーンに優しく声を掛ける。

傷自体は大きくはないが、刃物が錆ていた事もあり、念の為に解毒のポーションも使われていた。

それからジョナサンとランディは、残りの魔物の死体を確認する。

最早剣で刺しても、動く魔物は居なかった。

どうやら砦には、もう生き残った魔物は居ない様だ。


「こいつは…

 オレ達のダガーとは違うな」

「どう違うんだ?」

「こいつを見ろ

 錆てはいるが、元は護身用のダガーだったのだろう

 それを加工して…」

「魔物がか?」

「ああ

 粗雑だが、鉄に溶かした胴や鉄を加えて加工している」

「ふうん…」

「しかし却って、劣化しているな…」


リックは引き抜いた、魔物のダガーを検分していた。

刃に毒が塗られていないか、確認していたのだ。

それでこのダガーが、魔物によって手を加えられていると気付いた。

恐らく錆て腐食した物を、加工して補強しようとしたのだろう。

溶かした胴や鉄が、表面に叩き込まれていた。

しかしそれが、却って刃の切れ味を悪くしていた。


魔物自体には、恐らくは剣を作る技術は無いのだろう。

それはこのダガーの、加工の仕方からも分かる。

こんな加工をすれば、却って切れ味も落ちるし、強度も低くなるだろう。

それでも魔物は、補強するつもりで加工していたのだ。


砦の外での戦闘も終了し、正門の外から兵士達が入って来る。

彼等は魔物の死体を運んできて、一ヶ所に纏め始めた。

その向こうでは、軽症の兵士が数人、手当てを受けていた。

そして魔物の死体を纏めて焼却する為に、木材や薪も運ばれて来ていた。


「死体は焼くんですか?」

「ああ、そうだよ

 焼かないと他の魔物を招く餌になるし、死体が闇の魔力で動き出すと言う話もある

 疫病の原因にもなるからね、焼いておくのが一番いいんだよ」


隊長はそう言って、亡者の恐ろしさを説明する。

人間よりも、魔物の方が亡者になり易い。

亡者になって暴れられたら、被害が増す事になるだろう。

だからこうして、死体は焼き清めるのだ。


積み重ねた薪の上に、壊れた建物から取って来た木材が載せられる。

その上に魔物死骸が積み重ねられて、次々と燃やされていく。

死骸が多いので、数ヶ所に火が焚かれて燃やされていた。


死骸の中には、子供と思しき小柄の魔物も混ざっていた。

ギルバートは可哀そうに思い、胸に右手を当てて使者を悼む礼をした。


「よせよ!

 相手は魔物だぞ?」

「でも…」


ランディが、不愉快そうに言う。

それでもギルバートは、追悼の祈りを止めなかった。

それを見てランディは、更に何か言おうとした。

しかしジョナサンが、そんな彼を宥めて連れて行く。

代わりに隊長が、ギルバートの隣に立つ。

そしてギルバートに目線を合わせると、何とも言えない優しい目をして尋ねた。


「魔物の事が…

 可哀そうかい?」

「はい…」

「魔物は放っておくと、人間に害を及ぼすんだよ?」

「はい…

 そうですよね

 でも、子供が…」


隊長は優しく、ギルバートの両肩に手を置く。


「その子供の魔物が大きくなったら、また我々に向かって来るだろうね」

「はい

 分かっています

 分かっていますけれど…」

「君は優しいね」

「…」


隊長はしかし、それから首を振って続ける。


「でもね、やらなければ君がやられるかも知れない」

「…」

「それは私かも知れない

 あるいはランディ達か…」


隊長はランディ達の方を見て、それからディーンとアレックスの方を見る。


「彼等かも知れない」

「…はい」


隊長はギルバートの頭を、優しくくしゃくしゃと撫でる。


「その気持ちは大事だが

 間違えてはいけない」

「はい…」

「倒すべき敵は倒す

 守るべき者は守る」

「はい…」

「覚えておきなさい

 その守るべき者の中には、君自身も含まれる」

「はい…」


隊長はもう一度優しく微笑むと、ギルバートの背中を優しく押した。


「さあ、友の元へ行きなさい」

「あ…」


そんな隊長の元から数歩進み、ギルバートはもう一度隊長の方へ振り向く。


「隊長」

「ん?」

「魔物と人間

 仲良く出来ないんでしょうか?」

「ううむ…」


隊長は険しい顔をして、少しの間悩んでいた。


「もし

 もしこういう出会いでなかったら

 仲良く出来たんでしょうか?」

「どうかな…」


隊長は一瞬迷い、何か言いかけたが頭を振った。


「無理だろうな

 それは女神様が、そういう風に創られた存在だからね」

「女神様が…」

「ああ

 その昔に…

 君と同じ疑問を持った者が居たよ」

「え?」

「しかし彼は、その後に魔物に殺された」

「そんな!」

「そして女神様は、魔物に慈悲を掛けない様に仰ったそうだ」

「そう…ですか」


今度はギルバートが、沈んだ表情で悩んだ。

そして悩んだ末に、少年は自分なりの答えを見つけた。


「分かりました

 もう…迷いません」

「うむ」


隊長は真摯に見つめる瞳を見て、優しく頷く。


「魔物は、必ずや討ち滅ぼします!

 友達を、両親を、大好きな人達を守る為に」

「そうだね」

「ですが…」

「ですが?」

「もし変えられる事が出来るのなら

 魔物と話し合う機会を得たいです」

「それは…」

「ええ

 無理なのは承知です

 ですが魔物にも…

 人間と仲良くなりたい奴も…

 居るんじゃないでしょうか?」

「そう…

 かも知れんね」

「はい」


真剣な眼差しで、ギルバートは決意を告げた。

それにもう一度頷き返し、隊長は優しく微笑んだ。

それを見てギルバートは頷き、ディーンとアレックスの元へ走って行った。


「良いんですか?」


ランディはそんな様子を見て、隊長へ尋ねる。


「まだまだ子供なんだ

 これから学ぶでしょう」

「しかし魔物と仲良くなんて…」

「そのうちに思い知るでしょう

 それが不可能だと」

「不可能…」

「ん?」

「いえ

 何でも無いです」


大人達は優しい表情で、子供達を見つめていた。

ただランディだけは、複雑な表情をしていた。

彼もまた、魔物が可哀想だと感じていた。

だからギルバートの言葉に、何かを感じていたのだ。

それが不可能だと、そう思いながら…。

まだまだ続きます。

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