第180話
翌日の朝、ギルバートは王城の脇にある修練場に来ていた
そこには騎士団が集まり、武器の手入れを行っていた
普段から非番の騎士が訓練に来ていたが、今日は王都に残った騎士が集まっていた
王都に帰還した王子の力量を、この模擬試合で見せる為だ
ギルバートも武具に身を包み、準備を完了していた
騎士達の中から、年若い一人が前に出る
先ずは彼が、ギルバートと戦う事になる
両者が中央に来て、互いに武器を構える
騎士は鉄製のフルプレートに身を固め、クリサリスの鎌を構えていた
それに対してギルバートは、ワイルド・ベアの皮鎧とオーガの骨の大剣を構えていた
「あの装備は何じゃ?」
国王の質問に、アーネストが答える。
「ワイルド・ベアと言う魔物の皮と、爪や骨、牙で装甲を固めています
武器はオーガの骨から作られた大剣です」
「ワイルド・ベア
それは強い魔物なのか?」
「ええ
強いですよ」
「そうか…」
国王達は、まだワイルド・ベアを見た事が無かった。
しかし名前からしても、それは危険な魔物だと認識出来る。
なんせ名前に、ベアという熊の名前が付いているのだ。
単純に考えても、熊の魔物だと想像が出来る。
熊の魔物となれば、それだけで強敵だろう。
騎士団の者達でも、熊を討伐するのに苦戦を強いられている。
しかしダーナの兵士達は、その熊すら討伐しているのだ。
その兵士でも足元に及ばない、ギルバートの力量は如何程の物なのだろう?
その力が、今国王の前で見せられようとしていた。
「ギルはその魔物を、一人で倒せる技量を持っています」
「何と!
それは誠か?」
「はい」
「何と…
ベアというからには、熊の魔物なのじゃろう?」
「ええ
その通りです」
「それを倒せると申すか?」
「はい
本当はワイルド・ベアの武器もありますが…
騎士のみなさん相手では…」
アーネストが言い難そうに言って、騎士団に挑発をする。
それを聞いても、大人の騎士達はほとんどが平然とした顔をしていた。
しかし内心は、初めて見る新参者の魔法使いの子供に馬鹿にされた様で怒っていた。
アーネストの実力を知る騎士も、少しだけ苛立っていた。
何せギルバートはまだ、少年にしか見えなかったのだ。
「はははは
まさか私達が、いくら王子とは言え、子供に後れを取ると思いますか?」
「そうですよ」
「負ける筈がございませんよ」
「しかし気になる
熊の魔物ですよ?」
「どうせホラ話だろう?
そんな物が居る筈も無い」
「それなら良いのですが…」
騎士達はそう言って、気にしていないふりをしていた。
いくらギルバートが強いと言っても、まだ子供なのだ。
騎士には敵わないだろうと、余裕を持っていた。
「では、両者見合って
始め!」
「うわああああ」
「負けるな」
「王都の騎士の力を、見せてやれ」
開始の声に合わせて、騎士が前に出る。
「行くぞ
うおおおお」
騎士は鎌を前に構えてから、そのまま突進を仕掛ける。
クリサリスの鎌には、柄の先にも突き刺す為の刃が付いている。
それを素早く繰り出して、ギルバートの胸や脚を狙って来た。
しかしギルバートは、重そうな大剣を持っているにしては軽いステップでそれを躱す。
「甘い」
「くっ」
騎士は鎌を振るって、一旦距離を離した。
しかし今度は、ギルバートが前に出る。
「今度はこっちの番だ」
ブオン!
ガキン!
「ぐわっ」
騎士が咄嗟に鎌で、ギルバートの攻撃を防ごうとする。
それは軽く横薙ぎに振られた様に見えたが、騎士は横っ飛びに吹っ飛んだ。
身体強化を使った強烈な一撃だ。
並みの騎士では、受け切れる様な一撃では無かった。
「あれ?」
「え?」
「何だ?」
重いフルプレートを着こんだ騎士が、軽々と吹っ飛んだのだ。
周りに居た騎士達は、驚いて声も出なかった。
そして振るったギルバートも、思わぬ結果に驚いていた。
もう少し粘られると、身体強化を使ったのだ。
しかし騎士では、その一撃を防ぎ切れなかった。
「今のはオークでも出来ますよ?」
「オーク…」
「オークって豚頭の?」
「そんな危険な魔物なのか?」
その言葉に、騎士達は戦慄していた。
オークはコボルトより強いが、そこまで強い魔物とは聞いていなかった。
それでも騎士を吹っ飛ばせると言うのだ。
その様な魔物が、ダーナには多く現れていると言うのだ。
「どうです?
少しは本気になりましたか?」
「くっ」
「おい
それよりも…」
「ああ
あの様な子供が…」
「騎士を軽々と?」
「な、なあに
本気じゃ無かったんだろう?」
「それにしては…」
「ああ
吹っ飛ばされていたぞ」
ギルバートは軽々と大剣を振ると、再び中央に進み出た。
その様子を見て、騎士達の様子も変わっていた。
軽く倒せると思っていた相手が、実はとんでもなく強かったのだ。
このままでは、彼等の沽券に関わって来るだろう。
「よし
それならば私が出よう」
「隊長?」
「そんな、ベルン隊長が出るほどでは無いですよ」
しかし隊長は頭を振り、部下達の言葉を否定した。
これ程の実力を見せたのだ。
このままでは勝てないと感じていた。
それならば自分が出て、実力を見極める必要があった。
「いや
今のお前達では、数人で囲んでも押さえられないだろう」
「そんな!」
「私達で十分ですよ」
「そうですよ
そもそも相手は子供で…」
しかし部下達は、必死になって勝てると主張した。
そんな部下を見ながら、隊長は悲しそうな顔をして一喝した。
「お前らの眼は節穴か!」
「ひっ」
「殿下は確かに若い
しかし技量や膂力に関しては、既にお前らの遥か上を行っている
黙ってそこで見ていろ!」
「は、はい」
「久しぶりの強敵だ…
楽しませてもらうぞ」
隊長はそう言うと、ニヤリと笑って中央へ進み出た。
「部下がすみませんでした」
「いえ
確かに私は若いので」
「ふむ…」
ギルバートもニヤリと笑い、挑発的な笑みを浮かべる。
その様子を見て、隊長は改めて相手の力量を知る。
余裕があるという事は、それだけ実力が上回っているという事だ。
その余裕が自分に対しても、持てるのか楽しみになっていた。
「その年にしてその胆力
部下にも見習わせたいですな」
「そんな事よりも
私に負けたら、隊長の立場が無いのでは?」
「ふむ
それは困りますね
是非とも勝たなくては」
「ですね
行きますよ」
「ええ」
二人は先ずは舌戦を展開して、互いに相手の隙を窺っていた。
開始の合図を待たずして、互いに構えて隙を窺う。
「それでは両者、見合って
始め!」
「はああああ」
掛け声が上がると、先ずは隊長が前へ出る。
しかし鎌は構えているが、まだ攻撃には出ない。
そのまま間合いを詰めて、ギルバートの目の前に迫った。
しかしギルバートも下手に攻撃に出ないで、剣を正面に構えて腰を落とした。
隊長が何を狙っているのか分からないので、簡単に足元を掬われない様にする為だ。
「なるほど
良い判断だ
しかし、これはどうかな?」
「むっ?」
隊長は鎌を振り被ると、素早く袈裟懸けに振り下ろす。
それに反応して、ギルバートは大剣を横向きにする。
その剣の腹で、盾の様に防ぐつもりなのだ。
「だが甘い」
隊長はそう叫ぶと、鎌を途中で止めてそこから手首で切り返した。
切り返された鎌の柄が、死角の下側から迫る。
しかしギルバートも、その動作に気付いて剣を下げる。
「遅い…」
ガキン!
「何!」
重い大剣を構えていたのだ、素早い柄の動きに追い付く筈が無い。
誰もがそう思っていたので、これは入ったと思われた。
しかしギルバートは、片手で大剣を動かしていた。
片手で動かす分、隙は小さくなる。
しかしあれだけの大きさの剣だ。
とても片手では動かせるとは思えなかった。
それなのにギルバートは、軽々と動かせて見せた。
それと同時に、しっかりと鎌の穂先に叩き付ける。
結果として隊長の鎌は弾かれて、そのまま腕が痺れて鎌は落とされた。
「ぐぬう…
これは…」
「勝負あり」
審判はそう告げたが、正直自信が無かった。
試合に集中していたが、鎌が落とされたのも眼で追えていなかったのだ。
繰り出された鎌が、ギルバートの死角から手を傷付ける。
それで大剣を取り落として、勝負は決まると思っていたのだ。
「隊長まで…」
「そんな…」
「おい
どういう事なんだ?」
「王都の騎士が、子供に負けるなんて…」
騎士達は言葉に詰まり、修練場は静まり返っていた。
それはあまりに予想外で、驚くべき結果だった。
そしてその結果に、アーネストは気分を良くしていた。
それで思わず、口を滑らせてしまった。
「これで分ったでしょう?
ギルの実力なら、騎士団が一斉に掛かっても負ける事はありません」
「それはちと…」
「言い過ぎではありませんか?」
国王と宰相も、アーネストの言葉に苦笑いを浮かべた。
しかしギルバートは、その言葉を証明しようとしていた。
ここでそのぐらいの実力を、見せる必要があった。
そうで無ければ、魔物の討伐には向かえないだろう。
「私なら構いませんが?」
「な…」
「ふざけるな!」
「オレ達を一人で?」
「さすがに看過出来んぞ」
さすがにこの言葉には、騎士団も怒りを隠せなかった。
いくら強いと言っても、相手はまだ子供なのだ。
さすがに騎士が総掛かりでは、敵う筈も無かった。
しかしギルバートは、さらに相手を追い込んでしまう。
「怪我をさせては申し訳ない
私は素手で相手しましょう」
「な!」
「素手だと?」
ギルバートはそう言うと、軽々と大剣を放った。
剣は自重で地面に突き刺さり、そのまま動かなかった。
その事からも大剣が、相応の重さを持っている事は明白だった。
それを含めて、ギルバートの膂力の大きさを示している。
「くそっ」
「舐めやがって」
「如何な大剣を振り回せたとしても…」
「我々相手に適うと思ってか?」
「ふざけるな」
騎士団が本気になって怒り、手に手に鎌を持って向かう。
彼等は一団となって、修練場に雪崩れ込んだ。
「こら!
止さないか!」
審判役の騎士が、止めようと声を掛ける。
しかし殺気立った騎士達は、聞く耳を持たなかった。
審判は身の危険を感じて、慌ててその場を退避する。
「くっ
どうなっても知らないぞ」
「うおおおお」
「なめるなあああ」
「うらあああ」
騎士達が向かって行くが、ギルバートは中央で待ち構える。
さすがに危ないと判断して、国王が止める為に声を上げようとした。
しかしアーネストが前に出て、心配ないと告げた。
「すぐに止め…」
「大丈夫です
騎士の力量はオークレベルです
ギルには敵いません」
「しかし人数が多過ぎる」
「大丈夫ですよ
ほら」
騎士達が鎌を振るうが、ギルバートはそれを躱したり、途中で柄を押さえたりして止める。
それからカウンター気味に殴ったり、足払いや投げで応戦した。
どうやらダーナでの、騎士達との訓練が生きていた。
新たに身体強化を使いこなす為に、ギルバートは素手で騎士達と戦う訓練も行っていた。
それで騎士達を相手に、大立ち回りを行っていた。
「ぐわっ」
「んむぎゅ」
「ぐえ…」
20名以上の騎士が一斉に向かったが、あっという間に叩き伏せられた。
それを見て、後続の騎士達は怯んでいた。
まさか一度にそれだけの人数を、一人で倒すとは思っていなかった。
この様にはさすがに、国王も驚きを隠せなかった。
「どうやら勝負あった様ですね」
「そうじゃな…」
「しかしあそこまでやるとは…」
「馬鹿を申すな
後半はお前も煽っておったじゃろう」
「あ…
あれは失敗でした
オレも調子に乗ってしまって…」
「お陰で騎士団の、面目丸潰れじゃ」
「すいません」
「まあ、仕方が無いかのう
なんせワシの血を引いておる」
「国王様も?」
「10人ぐらいなら…な」
「陛下
確かに昔はそうでしょうが、今は…」
「ん、おほん
そうじゃな
昔ならば…な」
国王は安心したのか、ホッと溜息を吐いた。
昔の国王は、アルベルトと並んで戦場で活躍をしていた。
しかし今の国王は、長く戦場を離れていた。
今の国王の力量では、数名の騎士でも苦戦するだろう。
「しかし魔物なら、こんな物では済まされませんよ」
「そうなのか?」
「ええ
相手が魔物なら、死ぬまで向かって来てたでしょう」
「ぬう…」
アーネストに改めて聞かされて、国王は魔物の恐ろしさを思い知った。
相手が人間であるなら、戦意を挫くだけで十分だろう。
しかし魔物は、人間と意思疎通が出来ない。
正確には出来る魔物も居るが、ほとんどがそうで無いのだ。
だから一度魔物が向かって来れば、殺し切るまで際限なく向かって来る。
そしてこちらが降伏しても、魔物は容赦なく殺すだろう。
だから魔物と対峙すれば、殺してしまうしか無いのだ。
「それならば、今向かって来ている魔物も…」
「ええ
放って置けば、周辺の町や村が被害を受けます
将軍で何とかなれば良いのですが…」
「そうか…」
ギルバートが向かう事は、アーネストも反対だった。
しかし魔物が強力であったなら、このままでは王都まで攻め込まれる。
それまでに、どうにか対策を練らないといけないのだ。
「サルザート様
この町の魔術師ギルドはどこにありますか?」
「それならば、城下町の商業区にあるが?」
「そうですか」
アーネストはそう言うと、懐から1冊の本を取り出した。
「それは?」
「ダーナの兵士達が強くなった、秘密が記されています」
「本当か?」
「何でそんな物を?」
「運命の糸にもらいました」
「エルリックか…」
「ええ」
アーネストの言葉に、宰相も国王も驚いていた。
半信半疑であったが、手渡された本を開いて見る。
そこにはスキルに関してと、魔法も幾つか記されていた。
「私はギルドへ向かいます」
「あ、お待ちください」
宰相はすぐさま護衛を呼び、ギルドへ同行する様に指示した。
「そんな大袈裟な」
「いえ
あなたも貴族になったんです
護衛が付くのは当然と思ってください」
「はあ…」
宰相にそう言われて、アーネストは溜息を吐いた。
「ギルドに何をしに行くつもりか知りませんが、気を付けてください」
「え?」
「ここはダーナではありません
危険な人物が沢山潜んで居ます」
「分かりました
肝に銘じておきます」
アーネストはそう言うと、護衛に案内されて出て行った。
残された宰相は、再び本を開いていた。
そこにはスキルとジョブについて、初歩的な事が記されている。
魔物と直接戦わなくても、スキルを訓練しながら実戦経験を積めば、戦士のジョブまでは得られる。
戦士のジョブが得られたら、基礎的なスキルも使える様になる。
それと身体強化が合わされば、オークに苦戦する事も無いだろう。
そこまでの情報が、その本には記されていた。
「これは凄い…」
「そんなに凄いのか?」
「ええ
これが本当なら、殿下がお強いのも納得です」
「そうか…」
宰相は早速、文官を手配した。
早急にこの本の写本を行い、騎士団や警備兵達に学ばせる為だ。
「これがあれば、我が国の戦力は大きく上がります」
「しかし、それは危険では無いのか?」
「と、申されますと?」
「真っ当な騎士や兵士が強くなるのは良い
しかし道を誤る者がその力を手にしたら…」
「それはそうでしょうが、今は一刻を争う時です
それに対する対策は、後程に考えましょう」
「ううむ…」
国王はあまり乗り気では無かったが、宰相の手配で本は写本される事となった。
これがどういった結果を生むのか、まだ誰も分かっていなかったからだ。
確かに貴族が読めば、大きな力を得てしまう。
それで道を踏み誤る、貴族が現れる事になるだろう。
しかし力を身に着けなければ、魔物に蹂躙されてしまう。
今はそこまで、危機的な状況なのだ。
打ちのめされた騎士達の真ん中で、ギルバートは腕組みして立っていた。
騎士達の技量が、想像以上に低かったからだ。
将軍が主力を率いていたとはいえ、これでは王都の守りも心配だ。
如何にして騎士達を鍛えるのか?
ギルバートはそれを思案して、考え込んでいた。
その後方では、騎士達が大剣を抜こうと躍起になっていた。
ギルバートが軽々と振り回していたが、それが予想以上に重たいと気付いたからだ。
騎士一人の力では、大剣はビクともしなかった。
数人掛かりで、やっと引き抜く事が出来るだろう。
「ふうううぬうう」
「おい
次はオレが抜いてやる」
力自慢の騎士が、交代で抜こうと踏ん張っていた。
しかし剣は重たくて、やっと少し持ち上がるぐらいだった。
「何なんだ、この剣は?」
「恐ろしく重たいぞ」
「こいつを…
軽々と?」
騎士達は改めて、ギルバートの力を思い知らされていた。
「ふうううぬうう…あ…」
「どうした?」
「何かが出そうになった」
「汚えな…」
フラフラになるまで引っ張っても、持ち上げるのがやっとだ。
それを振り回せる者は、騎士団にはまだ居なかった。
「これを振るうには、みなさんはまだまだ力が足りません」
「そうは仰いますが、我々はこれでもこの国の騎士ですよ」
「そうなんですが…」
ギルバートも返答には困っていた。
実際に身体強化が使える様になれば、先の騎士でも振るえる様になるだろう。
しかしその事を、軽々しく教えて良い物なのか?
意見を聞きたくて周囲を見回すも、既にアーネストの姿は無くなっていた。
ギルバートが思案していると、サルザートが近付いて来た。
「殿下
相談したい事がございます」
ギルバートは内心、前線に出る話が決まったと思っていた。
来た!
やっと向かえるぞ
そう思って、内心の喜びを隠しながら鷹揚に頷いた。
「分かりました」
宰相に促されて、王城の会議室へと案内された。
そこには文官が集まっていて、難しい顔をしていた。
「どうぞお掛けください」
「はい」
ギルバートが腰を掛けたところで、宰相は話始める。
「先ずは騎士団との試合、見事でございました」
そう言って一呼吸置いて、宰相は問いかけた。
「正直に仰ってください
我が国の騎士団は強いですか?」
「え?」
「そのう…
魔物と戦えるかという事です」
ギルバートは迷ったが、正直な感想を述べた。
「コボルトまでなら…
しかしそれ以上の魔物を相手にするには…」
「やはり」
「うむ
アーネストの申した通りだな」
「え?」
宰相は文官に合図を送る。
「暫しお待ちください」
文官がそう答えて、少し待つ事となった。
数分も経たない内に、慌ただしい足音がして、文官の一人が入って来た。
「出来ました
これで増刷も出来ます」
「では、引き続き頼む」
「はい」
「増刷?」
文官は1冊の本を手渡すと、慌てて部屋を出て行った。
「それは?」
「アーネストが我が国の為に、スキルやジョブを解説してくれました
これはその為の本です」
「ああ
あの書物か…」
「殿下もご存知で?」
「ああ
見た事はある」
「そうですか…」
宰相はそう言うと、本をギルバートの前に置いた。
そこに書かれている内容であれば、騎士達を鍛えれるだろう。
オーガは難しいが、オークやワイルド・ボアまでなら何とか戦えそうであった。
アーネストが渡したと知って、ギルバートは安心していた。
「今は文官達が、大急ぎで書き写しております」
「そうですか」
アーネストがこれを手渡したのなら、ここまでは公開しても大丈夫だと判断したからだろう
それならば、自分のする事は簡単だ
ギルバートは宰相を見て、改めて答えを返した。
「確かにこの本の通り、スキルやジョブがあればオークぐらいなら倒せます」
「おお」
「それならば…」
「ただし、オークぐらいです」
「と言いますと?」
「それ以上の魔物に勝つには、厳しいです」
「そう…ですか」
ギルバートの言葉に、宰相は気落ちしていた。
「しかし、勝てないワケではありません
オークに勝てる様になれば、そこで訓練すればさらに強くなれます」
「本当ですか?」
「ええ
私も最初は、オークにも手こずりました
それでも戦い続けて、今はワイルド・ベアを倒せています」
「そうなのか?」
「参考までに聞きますが、その魔物は…」
「そうですね
コボルトが子供なら、オークは大人
オーガは巨人ですから…比較は難しいかと」
「巨人か…」
「ええ
体長2mぐらいの大きさの巨人です
ワイルド・ベアはそれと同等の熊の魔物です」
「熊?」
「それではその魔物を…」
「はい
私一人で討伐しております」
見ればギルバートの鎧も、その熊の素材で出来ている。
胸当てや肩当の大きさを考えれば、その爪も相当大きな物と見える。
それを一人で倒したと言うのなら、ギルバートの腕は相当な物と考えられる。
国王と宰相は、改めてギルバートの腕前に驚きを隠せなかった。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。




