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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第178話

ギルバートとアーネストは、国王の執務室に呼ばれていた

ここで当時の者が集まり、何が起こったのか話していたのだ

ギルバートに全てを、話すと言う約束であった

だから国王は、この場に集めて話し始めていた


そこにはヘイゼルも居て、国王の話しの補足をしていた

アルフリートに施した魔法は、ヘイゼル達が行った魔法なのだ

だから彼が居なければ、詳しい事が説明出来なかった

ヘイゼルは苦い顔をしながら、封印の魔法の説明を始めた


「先ずは封印についてなんじゃが…」

「ええ

 魔物の封印みたいな物ですか?」

「違うのう

 封印と言っても、魔物を寄せ付けなくする女神様の封印とはまた違う物じゃ」

「え?」

「さっき話しただろう?」

「ああ

 あの魔法の事か」

「話したのか?」

「ええ

 簡単な説明ですが」

「うむ

 封印する事によって、その対象が生きているのか分からなくする事が出来る魔法…

 ワシ等はそうやって、女神の目を誤魔化す事にしたのじゃ」

「生きている痕跡が無ければ…

 如何な女神といえ、お前が存命と判断出来ないからな」

「女神から隠す為に?」

「そうじゃ

 死んでいると誤魔化せるからな」

「その様な魔法が…

 存在するのですか?」

「うむ

 魔導王国時代の魔法じゃ」

「記録が残っていて良かったです

 そうで無ければ、ギルはそのまま…」

「うむ

 死んでしまっておったじゃろうな」

「なるほど…」


魔法の事は詳しく無いので、思わずサルザードが質問する。

しかしアーネストも知っていたので、二人でその補足をする。

それは魔導王国時代の魔法で、一般には抹消されている魔法だ。

運良く王国の書庫に、その魔法の記録が残されていたのだ。

それで無ければ、アルフリートは生き永らえなかっただろう。


「しかし封印なのでな、死んだも同然の状態になるのじゃ

 ワシ等はそうやって、取り敢えずは王子は死んだ事にしたのじゃ」

「それで亡くなったという報告を…」

「うむ」

「確か…

 時間を止める様な?」

「ああ

 正確には、時間の流れを阻害する…

 そういう魔法じゃ」

「魔導王国の魔法には、幾つかの時間を操作する魔法があったらしいんだ」

「しかし完全に止める魔法は…」

「あれは危険ですからね」

「うむ

 この魔法は氷漬けにするのと同じで、息をする事も成長する事も無い

 ただ生きているだけで、死んでいるのと変わらない状態じゃった

 それでも何とか生かしておける」

「そうして時間稼ぎをしたんだ」

「うむ

 その間に何とかして、呪いを打ち破る方法を探す

 ワシ等はそう思い、この魔法を施した」


二人が行った封印が、何とかアルフリートの命を繋いでいた。

しかし完全に時間を止める魔法では無いので、少しずつだが確実に呪いは進行していた。

アルフリートは成長する事も出来ずに、少しずつ弱って行く。

そうして対抗策も見出せないまま、時間だけが過ぎて行った。


「お二人で魔法を?」

「うむ

 この魔法ですら、不完全なものじゃった」

「それを維持させるだけでも、お二人でやっとだったんだ」

「それで呪いの進行は…」

「遅く出来たが、しかし確実に…」

「だから師匠達は、お前の様子を見に何度も通われてな」

「何とか命を繋いでおったが…

 確実に衰弱されておってな

 日に日に死に近づいておった」

「…」


ヘイゼルは溜息を吐くと、カップの茶を飲み干した。

それから重苦しい雰囲気で、その話の続きを始めた。


「そもそもが封印とは、生きた者をそのままの状態にして、時間の経過を遅らせる魔法なのじゃ

 そなたはそのままの状態で、赤子のまま育たないでいた

 それでも徐々に、死に近付いておる

 陛下は3年経っても目途が立たないのなら、諦めるつもりでおられた…」

「諦めるって…」

「そう

 アルフリートの命を絶ち、ワシ自らも王位を退こうと考えておった」

「国王様…

 あなたはそれほどまでに?」

「うむ

 お前はな、ワシの全てであった

 そんなお前を救えない、そんな国王なんぞ…」

「これ

 ハルバート」

「陛下

 それでもあなたは、この国の国王なんですよ」

「それはそうじゃがな

 息子一人救えんで、何が国王じゃ」

「それはそうじゃがな…

 相手は女神では…な」


ヘイゼルの言葉を聞き、ギルバートは胸が張り裂けそうであった。

国王は自分を本当に愛してくれていて、自身の進退も賭けていたのだ。

そんな国王を見ると、国王は哀しそうにギルバートを見詰めていた。

彼からすれば、愛する息子を救いたい一心だったのだ。

他の全てを賭けてでも、救いたいと願っていたのだ。


「そんな折に、アルベルトからジェニファーが息子を産んだと報せが届いた

 アルベルトは自分だけが幸せになるのはと、苦しみながら報告しに来た」

「父上が?」

「ち…

 そうじゃったな

 今もお前には…」

「あ…

 すいません」

「構わん

 アルベルトは幸せ者じゃな」


アルベルトは、王太子が封印されている事は知っていた。

しかしジェニファーが出産した事は、国王に知らせるべき事柄でもある。

その事で親友が、苦しむ事も十分に理解していた。

それでアルベルトも、報告すべきか悩んでいたのだ。


「そこでフェイト・スピナーの登場じゃ」

「え?」

「アルベルトが登城して来た時にな

 怪しい男が城に現れたのじゃ」

「あの男は不意に、ワシとアルベルトの目の前に現れおった」

「ワシも魔力を感じてな

 慌てて王宮に出向いたのじゃが…」

「エルリック…」

「うむ」


フェイト・スピナーという予想外の名が出たが、ヘイゼルは話を続ける。


「エルリックはアルベルトに、自分の息子を犠牲にする覚悟はあるかと聞いて来た

 それを聞いたアルベルトは、一も二も無く飛び付いた

 それほどワシ等は追い詰められていたのじゃ」

「しかし、だからと言って、赤ん坊を犠牲にだなんて…」

「それはそうなんじゃが…」

「アルベルトもまさか、赤子の命を犠牲にするとは思っておらなんだ

 ワシもそれを聞いた時には…」

「勿論それだけでは無いぞ

 エルリックは何でアルフリートが殺されるべきだと言われたか、それも説明してくれた

 じゃから信用したんじゃ

 それは帝国の血筋に関わる問題じゃった」

「血筋…

 それは一体、何なんでしょうか?」

「それはな

 ハルバート様とエカテリーナ様は、共に帝国の初代皇帝の血筋に当たったのじゃ」

「え?」

「つまりな、初代皇帝の血に…

 いや、古代王国の末裔に秘密があったのじゃ

 それが原因でな、お前は危険な存在と認識されていたのじゃ」

「危険な存在って…」

「『覇王の卵』

 この言葉はお前も聞き及んでおろう?」

「覇王の卵!

 アーネスト!」

「ああ

 エルリックも言っていただろう?」


ギルバートはアーネストの方を見る。

アーネストが頷くのを見て、既に話している事を確認した。


「ヘイゼル様は、覇王の卵の事をご存知なのでしょうか」


しかしヘイゼルは、静かに首を振った。


「ワシ等が知っておったのは、皇帝の血が強力な事だけじゃ

 古代の英雄の血筋が、何代も掛けて受け継がれたのが皇帝であった

 だからそなたの身体にも、その血が流れていると聞けば…

 それは納得が行く事ではあった」

「英雄の血…」

「そう

 英雄の血じゃ」

「しかし英雄の血は、時には狂気の化け物も生み出しておった

 過去には破滅の王と呼ばれる男も居て、一つの国を一夜にして滅ぼしたと伝えられておる

 それを思えば、女神様の神託も納得がいく物じゃった」

「古代王国の物語に、幾つか該当する物が見られる

 それが覇王なんだって…」


国王の言葉は、重みがあった。

それは物語の話だが、実際にあったのではと学者が研究している物語でもある。

物語が真実であるなら、その血は多くの危険を孕んでいる事になる。

ギルバートは改めて、自分がアモンに向かって行った時の事を思い出していた。


「私がアモンに挑んだ時、私は私では無くなっていた

 あれが狂気の化け物と言うのなら…」

「それは違うぞ」

「え?」

「あれは封印が生み出した想定外の産物じゃ

 フェイト・スピナーですらも、それは予見出来ていなかったのじゃろう」

「オレもそう思う

 あれはお前の…

 アルフリートの中に居る、ギルバートの狂気だ」

「どういう事ですか?」


ギルバートの問いかけに、ヘイゼルは黙って腕を組んでいた。

代わりに国王が口を開き、苦しそうに呟いた。


「これから話す事は、お前には辛い事になるだろう

 恐らくワシだけではなく、アルベルトも憎む様になるかも知れない

 それでも…

 聞くか?」


国王の言葉に、ギルバートは唾を飲みながら頷いた。

ここまで聞いたのなら、最後まで聞く必要があった。

例えそれが、どんなに残酷な内容であっても、真実を聞く必要があるのだ。

そこに自分が狂暴になる、原因が隠されているからだ。


「はい

 お願いします」

「そうか…

 ヘイゼル」

「はあ…」


国王は頷いて、ヘイゼルの方を見た、

ヘイゼルも片目を空けて頷くと、溜息を吐きながら話し始めた。


「フェイト・スピナーがもたらした情報とは、封印の解除では無かった

 封印をしたまま、生きて過ごせる方法じゃった」

「それは…」

「封印を肩代わりする者が居れば良いのじゃ」

「肩代わり?

 それじゃあ赤子を殺さなくても…」

「いや

 そうでは無かった」

「では…

 やはり犠牲にせねば?」

「うむ」

「っく!」


それを聞いたギルバートは、思わず息を吐いた。

それはこの方法が、やはり赤子を犠牲にする方法だったからだ。

赤子をアルフリートの代わりに見立てて、呪いを代わりに受ける。

しかしその方法は、あまりに残酷な方法だった。


「それは赤子に呪いを?」

「ワシ等も最初、そうだと思っていた」

「え?」

「赤子が封印を代わりに受けると聞いて、そのまま封印を移すと思っていた

 じゃが…」

「違っておった」


ヘイゼルは辛そうに目を閉じて、あの日を思い出しながら続けた。

ヘイゼル自身は、アルベルト同様にその方法に飛び付いた。

しかしガストンは、その方法を聞いて反対した。

赤子を犠牲にしてまで、王太子を生かすのは間違っている。

そうガストンは説いて、その禁術を反対していた。


「封印をしたまま生かすには…

 直に封印するのではなく、身代わりをその者の周辺に置き続ける

 つまり…」

「つまり?」

「赤子を殺して、その血と魂をアルフリートに捧げるのじゃ」

「な!」

「その捧げられた血が封印の代わりを果たし、魂が封印された者の身代わりとなる

 それでアルフリートは生き返り、悪しき血の封印は果たされる」

「ヘイゼル

 しかしそれでは…」

「うむ

 サルザードの思っている通りじゃ

 赤子の心臓を抉り出し、それを核に魔法が行われる」

「そ、そんな非道な行為…」

「当然、許される事では無い

 ガストンは諦めて、それは止めようと言った」

「当然じゃろう

 老師は?

 ヘイゼル老師はどうされて?」

「ワシは悩んだが…

 賛成する方向じゃった

 しかし依り代になる様な赤子が…」

「当時は居らなんだ

 アルベルトの息子以外にな」

「そしてアルベルトは…

 それを行ったんじゃ

 生まれたばかりの息子を連れ出して…」

「な!

 アルベルトの罪とは…

 実の息子を手に掛けたと?」

「ああ」

「そういう事じゃ」


国王は溜息を吐きながら、悲しそうに呟いた。

アルベルトは2年間、友である国王が苦しむ姿を見続けていた。

またアルフリートが、帝国の英雄の力を受け継いでいるとも聞いた。

それでこの呪いが、ただ事では無いと感じていた。


ただ力があるだけならば、何も殺す必要は無いのだろう。

運命の糸(フェイト・スピナー)の言う事が本当ならば、アルフリートには何か大きな力が有るのだ。

それを危険視したからこそ、女神は殺そうとしている。

それならば、何としてでも王太子は生かすべきなのだ。

アルベルトはそう感じたからこそ、自身の息子を捧げる決心をした。

己の息子を差し出してでも、その可能性を守るべきだと思ったのだ。


「アルベルトはな、アルフリート

 お前に何かを感じておった

 それで全てを賭けてでも、お前を守るべきじゃと…」

「ガストンは反対しておったがな」

「無論ワシもな

 親友の息子を殺して、お前が助かってもな…

 喜べるものか」

「しかし実際には…」

「ああ

 アルベルトは結構したのじゃ

 それもワシが居らん間にな」

「国王様が?」

「うむ」


何が起こったのか分からないが、その時に国王は不在であった。

話を聞いたアルベルトは、暫く悩み続けていた。

しかし国王が居ない今こそ、それを果たす好機と捉えた。

それで単身王宮の奥に入り、封印を実行したのだ。


「アレはずっと苦しんでおった

 ワシとエカテリーナの姿を見て、どうにかしなければと思ったのじゃろうな

 今思えば、あの時ワシが王城を離れていなければ…」

「陛下

 それはしかたありません

 帝国が復興を果たそうと集結していました

 陛下が動いていなければ、この国は滅んでいたかも知れません」

「そうなのじゃが…」

「ふん

 むしろそれも、女神が絡んでおったのじゃろう

 でないと説明が着かんわ」

「ヘイゼル」

「私もそう思いますね」

「帝国が何を?」

「国境付近に兵を集めておったのじゃ」

「それでハルバートも兵を集めてな

 国境で睨み合っておったのじゃ」

「帝国が…」

「うむ」

「その様な記録はございませんが?」

「当然じゃ

 情報は誤報であると確認された」

「後で分かった事じゃがな

 帝国で内乱が起こっておった

 兵が集まっていたのも、帝都に攻め込もうとしておったのじゃ」

「何でそんな事を?」

「こちらの凶作の影響じゃろう?」

「我が国に起こった異変が、帝国にも影響したと?」

「うむ

 帝国の国境に面した地域でな

 不作が長く続いておった

 それが我が国の異変に関わりがあるのかは…」

「ありそうじゃがな

 強力な呪いじゃったのじゃ」

「うむ…」


当時のクリサリス聖教王国では、凶作や流行り病が流行していた。

それは女神の掛けた、アルフリートへの呪いの影響であるとされている。

アルフリートを殺さなければ、その異変は続くと言うのだ。

それも運命の糸(フェイト・スピナー)が、国王に報せていた。


それが帝国の、国境に面した地域にも影響を及ぼしていた。

不作や病の流行で、国境付近の地域は荒れていた。

実際にはその地域は、以前から土地が呪われていると言われていた。

それでもその数年は、被害が増大していたのだ。


それで国境付近の貴族が、帝都への進行を決意した。

帝都に攻め込んで、土地や食料を奪おうと考えたらしい。

その兵の終結を見て、国境から報せが届いたのだ。

国王は国内に攻め込まれない様に、国境で見張る必要があった。

それで王都から、国王は離れなければならなかった。


「あの時に…

 アルベルトも連れて行っておれば…」

「それは過ぎた事じゃ

 今さらどうこう言うても…」

「しかしのう…」

「アルベルトは騎士団長じゃったのじゃ

 王都を守る仕事があったのじゃ

 連れて行かないのが正解じゃったのだ」

「そうじゃが…

 あれを残したせいで、あれに決断を促した様なものじゃ

 ワシの判断の甘さが…」

「陛下

 今さら仰ってもですよ

 今は前を向きましょう?」

「そうじゃな

 過去は過去なんじゃ

 今はこの子に…」

「うむ…」


アルベルトは当時、騎士団長であった。

それで王都を守る為に、王都に残る必要があったのだ。

しかし国王が不在で、アルベルトが王都に残ってしまった。

その事がアルベルトに、決断を後押しする事になった。


「ワシが戻った時には、事は終わった後であった

 じゃから詳細は、ヘイゼルとガストン

 それからアルベルトしか知らない」

「うむ

 ハルバートは居らなんだからのう」


ヘイゼルが頷いて、ギルバートを正面から見詰める。


「聞くお覚悟は…」

「はい」

「うむ

 致し方無いかのう…」


ギルバートが頷き、ヘイゼルはあの日の出来事を話し始めた。

それはヘイゼルにとっても、後悔の念しか抱けない出来事であった。


あと少し早ければ…

もっと早く気付ければ…

あの惨事を防げたかも知れない


しかし同時に、それで良かったと思う自分も居る。

もし本当にアルフリートに、何かの力が有るのならば…。

女神に対する、大きな牽制(アドバンテージ)になるだろう。

そう考えるからこそ、ヘイゼルはそれで良かったと思おうとしていた。

まだまだ続きます。

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