表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第七章 王都での生活
186/190

第177話

国王と少し話してから、ギルバートは貴族との歓談を楽しんでいた

それは王都での暮らし方と、ダーナでの魔物との戦いの話であった

特に年若い貴族にとっては、ギルバートは憧れの存在であった

憧れであるアルベルトの息子として育てられ、若き王太子でもある

それだけでも、若い貴族達にとっては尊敬の的であった


彼等はギルバートから、遠い異郷のダーナの話を聞く

強力な魔物の話も魅力的であったが、それよりも魔物との戦いの話に彼等は興奮していた

その代わりにギルバートは、王都での生活で気を付けるべき事を教わっていた

そうして暫く歓談を楽しみ、時刻はそろそろ夕刻になろうとしていた


昼に始まったパーティーも、夕刻でお開きとなる。

貴族達は各々の部屋に戻って、部下達から報告を受ける予定である。

登城しているとはいえ、彼等にもそれぞれの仕事がある。

部下達に任せていた、仕事の報告を聞く必要があるのだ。


ギルバートも部屋に戻ると、アーネストと話し合いをしていた。

謁見は終わったが、まだ報告する事が残っているからだ。

特にダーナの内戦と、ダモンの行動は問題である。

ガモンは処罰されたが、彼は未だに砦に残っているのだ。


「難しいな」

「ああ

 国王様は、既に軍を動かされたのだろう?」

「そうなんだがな…

 山脈を越えるのに、どうしても時間が掛かる」

「それまでにどれほどの被害が出るか…」

「まあ、問題の多い町だったからな

 良いんじゃないのか?」

「おい!

 アーネスト」


アーネストとしては、町がどうなろうと正直構わなかった。

問題を起こしている、ダモンが処罰されるならそれで良いと思っていた。

しかしギルバートは、何の関係も無い領民に被害が出ないかと心配していた。

砦に攻め込むという事は、その周りにある町にも被害が出るのだ。


「大丈夫だろう?

 いくらフランドール殿でも…」

「領民は襲わないのか?」

「ああ

 そんな馬鹿な真似を、あのフランドール殿がすると思うか?」

「それもそうか…」

「まあ、多少は馬鹿な領民を…」

「アーネスト!」

「はいはい

 失言でした」


ノルドの町の領民の中には、問題の多い者達も少なく無い。

ダモンの選民思想に影響されて、好き勝手している者も居るのだ。

アーネストはそうした者達は、殺されて当然だと考えていた。

だがギルバートは、そうした者達も殺されないで欲しいと思っていた。


「確かに問題のある者も…

 だがなあ」

「それでも死んで欲しく無いのか?」

「ああ」

「甘いな」

「何?」

「それではいずれ、足元を掬われるぞ」

「足元を…

 そうなのだろうか?」

「まあ、そこがお前の良いところでもあるんだがな」

「…」


アーネストの言う事も、尤もなのだろう。

しかしギルバートは、甘いと言われても見捨てたくは無かった。

それで足元を掬われるのなら、それはギルバート自身の問題なのだろう。

そう考えていたところで、アーネストは話題を変える事にした。


「ところで…

 本当に良かったのか?」

「ん?」

「国王様に…

 お前の本当の父親に会えたんだぞ?」

「ああ」


アーネストの問いかけに、ギルバートは寂し気な顔をして答えた。

確かに本当の父や母に会えたのだ、嬉しくない筈が無いのだ。

しかし心の中のどこかで、まだアルベルトを父と認識している自分が居る。

こんな気持ちのままでは、彼を父と呼ぶ事は出来なかった。


「今のままでは…」

「そうか…」

「すまない」

「オレに謝るなよ

 それに…」

「ああ

 まだ父上の事が…」

「そう…だな

 まだそんなに経っていないもんな」

「ああ

 忘れるなんて…」

「無理か?」

「ああ…」

「だよな」


アーネストはそう答えると、顔を逸らしながら呟く。


「でも、気持ちの整理が付いたら…

 その時は言ってあげてくれ」

「え?」

「言える内に言えない事は…

 きっと後悔するから」

「アーネスト?」


アーネストはそう呟くと、顔を暫く逸らしていた。

それは泣き出しそうな顔をしているのを、親友に見られたくなかったからだ。

アーネストとしては、実の父親に会えるのが羨ましいのだ。

例えどんな事情があろうとも、生きて彼等に会えるのだ。

それが彼にとっては、堪らなく羨ましいのだ。


「実の父が生きていたんだぞ?

 それだけでも十分だろう?

 オレはもう…」

「アーネスト…」


アーネストは幼少の頃に、病で両親を失っていた。

だからアーネストは、ギルバートの境遇が羨ましかった。

確かに尊敬する父である、アルベルトは喪われている。

しかし生きて再び、父と呼べる人が現れたのだ。

それだけでも、十分に贅沢に感じられる。


しかし一方で、ギルバートの思いは違っていた。

アルベルトがいつも傍に居たので、それが当たり前に感じられていた。

喪った今になって、その大きさを感じていた。

だから実の父親と言われても、国王に対して何も感じられないのだ。

アルベルトの存在が大き過ぎて、国王に父の姿を見出せないでいた。



「でも、私には…

 オレには父上が父だったんだ」

「それはそうだが…

 失ってからでは、もう呼べないんだぞ」

「そうだが…」

「はあ…

 まあ、しょうがないか」


アーネストの言いたい事は理解出来たが、それでも納得出来なかった。

いつかは本当に、この気持ちも整理が出来るのだろうか?

あの人を父と、呼ぶ事が出来るのだろうか?

ギルバートはそう思いながらも、もやもやした気持ちになっていた。


「それはそうと…」


ギルバートまで沈んでいたので、アーネストは慌てて話題を変える事にした。


「国王様は、生贄の件は隠す事にした様だな」

「ん?

 ああ…

 そうだな」


先の謁見の間で話した時も、あくまでギルバートが亡くなった為に、代わりに死んだ事にしていた。

それでギルバートの代わりに、アルフリートをギルバートとして育てさせた事になっていた。

これは公式の指令書にも、その様に書かれていたので問題は無い。

問題は無いのだが、その真相は隠されたままなのだ。


「国王様の心中を考えれば…

 本当は正直に話した方が、気が楽なのだろうな」

「そうなのか?」

「ああ」


アーネストも秘密を抱えていたので、国王の心中は何となく理解出来る。

人は秘密を抱えると、誰かに話したくなるものなのだ。

誰かに話し掛ける事で、少しでも気持ちを楽にしたくなる。

それが判るからこそ、アーネストは国王の気持ちを察していた。


「国王様は、今でもあの日の事を思い出すそうだ

 きっとお辛いだろうに…」

「そうか…」

「ヘイゼル老師ぐらいしか、当時の事を知る者は居ない

 だから苦しんでいるそうだ」

「え?

 王妃様は?」

「馬鹿

 話せると思うか?

 息子が危険で、友人の息子を生贄にするなんて…

 そんな事は話せないだろう」

「あ…」


国王は後悔の念に駆られて、今でも苦しんでいた。

そして真相を知る者は、ヘイゼルしか居なかった。

今は宰相である、サルザードにも全てを話している。

しかしそれまでは、独りで秘密を抱えていたのだ。


いっそ全てを告白して、王位を譲る事が出来ればどれだけ気が楽だろうか。

そう考えるだけで、国王の心労も慮る事が出来るだろう。

それでも国王は、ギルバートの無事を信じて待ち続けていた。

親友が全てを賭けて、守ってくれた息子の命だ。

親友の言葉を信じて、彼はこの時をずっと待ち続けていたのだ。


「罪を認めて告白出来れば…

 或いは王位を譲って下がれれば

 いつもそう思っていたそうだ」

「そうか」

「それでもアルベルト様が…

 いつかお前を連れて王宮に戻って来る

 そう信じて待ち続けていたそうだ」

「国王様…」


ギルバートはそう答えてから、ふと疑問に思った。


「そう思っているそうだって、誰から聞いたんだ?」

「ああ

 ヘイゼル様だよ

 実は今朝ね、少しお話ししたんだ」

「ヘイゼル様?

 宮廷魔術師の?」

「ああ」

「いつの間に…」

「お前より早起きしてたのさ」

「あ…」


アーネストは今朝の、ヘイゼルとの会話を語った。

それは魔術師同士の、再会を祝した話では無かった。

彼もまた、秘密を抱えて苦しんでいたのだ。

だからギルバート達が、どこまで知っているのか確認したかったのだ。


「ヘイゼル様も、あの件の当事者だ

 ガストン老師とヘイゼル様が、君を殺させない様に封印していたんだ」

「老師と宮廷魔術師様が…」

「ああ

 女神の作られた呪いだ

 お二人でも、効果を弱める程度しか出来なかったそうだ」

「そうか…」


最初に女神の呪いを、二人掛かりで押さえ込もうとした。

しかし呪いの効力が強過ぎて、とても封じられるものでは無かった。

そこで二人は、時間の流れを封じる魔法を掛ける事にした。

それは理論では、可能だとされていた。

しかし当時の魔導王国でも、不可能とされていた魔法だ。


「本来ならな

 時間を止める魔法が考案されたそうだ」

「時間を止める?」

「ああ

 魔導王国でな、そういう魔法が考案されていたんだ」

「それを使ったのか?」

「いや…」

「ん?」

「使えなかったんだ

 危険過ぎてな」

「危険?」

「ああ」


時間を止める魔法は、文字通り時間を止めてしまう魔法だ。

一度掛ければ、それを破る方法が思い付かなかった。

そうなってしまえば、その物の時間は完全に停止出来る…筈だ。

しかし元に戻せなければ、それは死んだも同然だった。

だから魔導王国も、その魔法は理論だけで実践はされなかった。

実験するにしても、あまりにも危険だったのだ。


「時間を止めるのは良いのだが…

 元に戻す方法が思い付かなかった」

「それって…」

「鮮度を保つには、便利そうなんだがな

 時間が止まるという事は、切ったりする事も出来ない

 その物が止まったままになるからな」

「え?」

「だから危険なんんだ」

「それじゃあ…」

「代わりに違う魔法が使われた

 それは時間停止の魔法の、失敗作の魔法だ」

「それがオレに?」

「ああ

 結果として、時間の流れは遅くなる事に成功した」

「遅く…」

「それで影響が少しでも、少なくなるからな

 呪いの進行も遅くなる」

「なるほど…」


代わりに使われた魔法は、不完全な時間停止の魔法だった。

それは時間の流れを、非常にゆっくりにしてしまう魔法だった。

魔法は成功して、アルフリートの時間の流れは遅くなった。

弊害は残したままになったが、魔法は成功したのだ。


「それでお二人は…」

「オレが師匠の姿を見た時に、血だらけだったって話しただろう?」

「ああ」

「あれはお前の身体から、血が流れ出ていたからだ

 呪いの進行は遅くなったが、完全には封じられなかった

 だから少しずつだが、呪いはお前の身体を蝕んでいた」

「え?

 それじゃあオレは…」

「よく生きていられたもんだよ

 アルベルト様がギルバート…

 ご子息のギルバートの身体を使って、呪いを完全に封殺したんだ

 それが無ければ…」

「え?

 それって…」

「エルリックが言っていただろう?

 禁術なんだよ」

「あ…」

「成功する可能性も低く、ましてやエルリックが教えなければ知らなかったんだ

 本当は彼に、感謝すべきなんだろうな…」

「そうだな」


エルリックが禁術を教えなければ、アルフリートはそのまま亡くなっていただろう。

結果として、ギルバートはその命を捧げられる事となる。

禁術の発動には、幼い赤子の心臓が必要だったのだ。

そうまでして、アルベルトはアルフリートを救ったのだ。

それは単に、親友の息子だっただけでは無かった。

しかしこの事は、未だにアーネストは秘密にしていた。


「アルベルト様も…

 賭けだったんだと思う」

「父上が?」

「禁術の詳細は不完全で、材料と呪文しか残されていなかった

 しかし肝心のお前の…

 アルフリート殿下のお身体は死に瀕していたんだ」

「死に瀕して?

 だってさっき、魔法で封じてって…」

「ちゃんと話を聞いていたのか?

 不完全な魔法なんだって

 あくまでも進行を遅らせただけなんだ」

「あ…

 それじゃあ…」

「そうだ

 当時は流行り病や凶作も起こっていた

 それも女神の呪いの影響なんだ」

「え?

 流行り病や凶作?」

「ああ

 それほど強力な呪いなんだ

 進行を遅らせても、それだけ影響があったんだ」

「…」


女神の呪いは、対象者だけに影響がある呪いでは無かった。

その者が生き続ける限り、周りにも少なからぬ影響を与える。

それが凶作や、流行り病として王都に影響を及ぼしていた。

進行が遅らされていたので、その程度で済んでいたのだ。

完全な呪いが発動していれば、より多くの者が亡くなっていただろう。


「それほどの呪いを…

 対象者の死を偽装して回避させたんだ」

「偽装…」

「アルフリート

 お前が死んだ様に、ギルバートの死を演出させて見せたんだ

 その結果が…」

「もういい!

 分かったよ…」

「良いから聞け!

 その結果として、ギルバートは赤子のまま殺される事になる

 心臓を抉り出され、その血をもってお前の存在を隠す

 そこまでしなければ、お前を守れなかったんだ」

「いいって言っているだろう!」

「聞け!

 アルフリート

 お前はそうまでして、生かされたんだ」

「くっ…

 だから…

 どうしろと?

 オレに何が出来ると言うんだ?」

「別に」

「へ?」


アーネストの説明を聞いて、ギルバートは気分が悪くなっていた。

いくら過去の話しと言っても、自分の為に赤子の命が奪われたのだ。

それも自分の信じていた、父親がそれを行っていた。

それは当事者である、ギルバートにとっては気分の良い話では無かった。


内心はギルバートは、何でそんな事までしたんだと感じていた。

そうまでして生かされても、嬉しいとは思えなかった。

しかしアーネストは、予想外の答えを返して寄越した。


「何を言っているんだ?」

「だって…

 何でそうまでして…」

「それはお前が、まだ赤子だったからだろう?」

「いや、だからってもう一人の赤子が…」

「ああ

 それはアルベルト様の罪だな」

「父上の?」

「そうだな

 他に方法があったかも…

 知れないな」

「父が勝手にやったと?」

「そうじゃあ無い

 そうじゃあ無いが…

 時間が無かったのは確かだな

 大分呪いは進行していたみたいだし」

「それで赤子を?

 自分の子供を殺したと?」

「ん?」

「だってそうだろ?

 自分の子供を殺してまで…

 そうまでして生かされても…」

「ああ

 そう感じたのか」


これはアーネストの、説明の仕方にも問題があった。


「アルベルト様も、何も好き好んで自分の子供を殺したんじゃ無い」

「だからって…」

「あのなあ…

 それなら他の国民の赤子なら…

 良かったのか?」

「え?

 いや、そういうつもりじゃあ…」

「アルベルト様はな、他の者の赤子を犠牲には出来ないと思ったんだ」

「それで?

 自分の子供なら良いと?」

「まあ、時間が無かったって事もあるがな

 あの時に、どのぐらいの時間が残されているのか…

 誰も分からなかったからな」

「それじゃあ、時間が残されていなかったからなのか?

 だからって赤子を殺す理由には…」

「呪文の触媒には、新鮮な同年代の者…

 それも血の近しい者の心臓や生き血が必要だったんだ

 仕方が無いだろう?」

「しかし、そうまでして…」

「それしか思い付かなかったんだよ

 それもエルリックが禁術の本を持って来たからこそだぞ?

 それが無ければ、お前は…」

「だからと言って、他の者の命を奪うなんて…」

「ああもう!

 だからお前は甘いんだよ!

 そもそも生きるって事は…」

「何が甘いんだよ!」


ギルバートの一番不満に感じている事は、自身のせいで赤子の命が奪われた事だ。

しかしアーネストからすれば、それは当然の事であった。

他の誰かの命に比べると、ギルバートの命の方が大切だった。

その思いのすれ違いが、二人の口論の元になる。


「オレ達が生きているって事は、日々何者かの命を奪っているんだ」

「そんな屁理屈…」

「お前の方こそ屁理屈だぞ?

 何だ?

 赤子を殺したのが悪い?」

「ああ!」

「じゃあ、お前が死んだ方が良かったのか?」

「そうだ!」

「それで王太子を失い、国王様が悲嘆に暮れてもか?」

「え?」

「そうなれば多くの国民が悲しみ、国王様に同情されただろうな

 しかしその他で、影響はあっただろうよ?

 例えば跡継ぎが生まれないと、国王様が政治に興味を失うとか…」

「おい!

 ちょっと待て」

「アルベルト様も、王太子を失った事に責任を感じるだろうな

 それにダーナにも移住しなかっただろうし…」

「何を言って…」

「そして何よりも!

 オレはお前に出会えていなかった

 なんせお前が、この世にもう居ないんだからな」

「あ…」

「当然そうなるだろう?」

「それは…

 そうなんだが…」

「お前は馬鹿か?

 みんながお前の事を大事に思って…

 全てを賭けてでも守ろうとしたんだ」

「だからって、何も子供を…」

「それは結果としてだろう?

 それしか方法が思い浮かばなかったからだ」

「だけど…」

「ああ!

 もう、うじうじと!

 もう良いだろう?

 結果はどうであれ、もう過去の話だ」

「そうなんだが…」

「もうこの話は終わりだ

 これ以上話しても、過去の事なんだ

 今さら変えられないだろう?」

「むう…」


アーネストはそう言って、この話を打ち切る事にする。

これ以上話しても、ギルバートの納得する答えは得られないだろう。

それに過去に起こった事なので、今さら何を言っても変わらない。

過去に行われた事なので、今さらどうこう言っても変わらないのだ。


「この後…

 国王様からお話があるかと思う

 その時に、あまり思い詰めないでくれよ」

「どういう意味だ?」

「今の話しの流れでも、お前は不満なんだろう?」

「それは…」

「だからだよ」

「だって…」

「はあ…

 こう言っても納得出来ないだろうがな

 お前が守られた意味を知って、これ以上に苦しまないで欲しいって事だ」

「守られた…意味?」

「ああ

 詳しくは国王様から聞いてくれ」

「待て

 お前も知っているんだろう?」

「ああ、知っている」

「なら!」

「知っているが、ボクの口からは話せない」

「どうして?」

「ここじゃあ話せないし

 何よりも問題の多い話だ

 国王様から聞いてくれ」

「何だよ?

 それは…」


アーネストは答えを知りながら、それが話せないと言った。

それは国王に対する遠慮もあったが、何よりも当事者が事実を伝えるべきだからだ。

本人でなくては伝えられない思いもあるからだ。

アーネストが知っているのは、あくまでもヘイゼルから聞いた話だ。

詳細を話すべきは、ギルバートの父親である国王であるべきだろう。


二人が話していると、部屋のドアがノックされた。

先程までは、二人の議論が白熱していた。

それで遠慮して、静かになるのを待っていたのだろう。

しかし静かになったので、部屋の来訪者もノックをしたのだ。


コンコン!

「はい」

「失礼いたします」


ギルバートが答えたのを確認して、ドアが開かれた。

そこには執事のドニスが立っていて、丁寧に礼をしてきた。


「ギルバート様

 アーネスト様

 国王様がお呼びです」

「分かりました」

「本当はギルだけが行くべきだが…」

「アーネスト?」

「どうぞ

 アーネスト様も」

「そういうわけにも行かないか」

「ええ

 国王様は、お二人をお呼びです」

「当然だ

 君にも来て欲しい」

「仕方が無い

 ボクも報告すべき事があるからな」


アーネストが頷き、二人でドニスの後を着いて行く。

そこは謁見の間ではなく、執務室の様な場所であった。

内密な話しである為に、この場所に呼び出したのだろう。


「よく来てくれた」

「お二人共、先ずはそこへお掛けください」


そこには国王だけではなく、宰相と一人の老人が同席していた。


「えっと…」

「彼はヘイゼルと言って、この国の宮廷魔術師である」

「ヘイゼルじゃ

 よく来なすったのう」

「あなたが…」


ヘイゼルが礼をして、一同が席に着いた。

それで準備が整ったのか、国王が話し始めた。


「さて

 集まっていただいたのは他でもない

 実は話したい事があってな」


前置きをしてから、国王は話し始めた。


「先に話した事ではあるが、ギルバートの…

 いや、ややこしいな」


少し考えた後で、国王は言い直した。


「アルフリートが亡くなった経緯について話そうと思う」

「はい」


これは国王が、事前にギルバートに言っていた事でもある。

そして同時に、宰相やヘイゼルからも話す様に言われていた。

このまま事情を伏せていては、アルフリートに勘違いをされてしまう。

そう考えて、全てを語っておくべきだと勧められたのだ。


「先ずは…

 そうじゃな

 どうしてお前が…

 アルフリートが死ななければならなかったのか…」

「そうじゃな

 その理由も説明すべきじゃ」

「うむ

 そこから話しておくべきかのう」


国王はそう言うと、宰相から1枚の書類を受け取った。

それは古い羊皮紙で、教会の紋章が表に描かれている。

それを机の上に置いてから、国王は話を続けた。


「お前が産まれた日は…

 あの日は、国中が喜びに包まれていた」

「そうじゃな」

「私もそう伺っております」


国王はその日を思い出して、懐かしむ様に目を細めていた。

待望の王太子が生まれて、国中が喜びに沸いていた。

そして国王も、まさに幸せの絶頂にあった。


「お前が産まれる前は、エカテリーナはそれはそれは痛がってな

 ワシはハラハラしながら待っておった」

「これ

 ハルバート」

「陛下

 そこは説明はしなくとも…」

「ん?

 そうか?」


国王の心情の説明に、ヘイゼルは顔を顰めて突っ込んだ。

今の話しに、そこはさして重要では無かった。


「それで、お前が産まれてすぐにな

 この書状が届いたのじゃ

 出所は女神聖教の、王都の教会からじゃった」

「王都は当時は、長い戦争の後でした」

「それで傷痕も未だ深くてな

 それでも国民が一丸となって、復興に手を尽くしておった

 そこに王太子の誕生の報じゃ

 ワシ等もその書状には、教会からの祝いの言葉が書かれておると思っておったわ」

「うむ

 ワシもそう考えておった

 じゃから喜びながら書状を開いたのじゃ」


国王は当時を思い出しながら、その時の感情を口にする。

みながアルフリートの誕生を祝い、祝福を送っていた。

だから教会からも、祝福の言葉が書かれていると思っていたのだ。

しかし実際には、その様な言葉は一句も書かれていなかった。


国王は当時を思い出しながら、その羊皮紙をギルバートに差し出す。

ギルバートはそれを受け取ると、書面に目を通した。

そこには女神様からの神託が降り、重要な報せがあったと記されていた。

内容を要約すると、産まれた王太子が呪われた子供で、このまま育てば国が亡びる原因になる。

その為にすぐにでも、生贄として殺す様に告げられたと記されていた。

その下に当時の司祭からの、国王への嘆願の言葉が記されている。


『こんな目出度い日に、報せる内容では無いのですが…

 女神様からの神託でしたので無視出来ませんでした

 私は従いたくないのですが、如何したらよろしいでしょうか?

 出来れば国王様にも、この警告を無視して頂きたいです

 ですが…

 女神様からの神託です

 どうすればよろしいのでしょうか?』


そういった文が記されていて、司祭も苦悩していた事が窺えた。


「これは…」

「当時の教会の司祭より、急ぎの報せとして届いた」


その内容を要約すれば、災いの元である王太子を殺せというものだった。

それも女神からの、教会への神託である。

その信憑性は、非常に高い内容になる。


「ワシは苦悩した

 何せやっと産まれたお前を、すぐに殺せと言われたのだ

 到底従える内容では無かった」

「国王様…」


国王は当時を思い出し、拳を握り締めた。

ようやく待望の、後継ぎが生まれた。

その直後に、神からのお告げで殺せと言われたのだ。

それは到底、受け入れない事である。


「当時の宰相はサルザートでは無くてな

 その宰相と相談して、ヘイゼルとガストンに相談したんじゃ」

「そう…ですか」


ギルバートは呆然として、書類を見詰めていた。

自分が産まれた日に、殺せという神託が降されたのだ。

理解しろと言うのは無理だろう。


「ヘイゼルとガストンからの返答は、取り敢えずは封印をしようという話であった」

「そこはワシが説明しよう」


ここでヘイゼルが、封印について話し始めた。

封印とはいえ、魔物を封じる物とは別の物になる。

それは先程、アーネストから説明された魔法の事だった。

ヘイゼルは苦い顔をしながら、二人で行った魔法の説明を始めた。

それ程にこの魔法が、難しい魔法だったという事でもあった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ