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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第七章 王都での生活
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第176話

ギルバートは謁見を終えて、大きなホールに案内された

そこには既に宴席が用意されており、国王が主催の歓待のパーティーが用意されていた

貴族も集まって、新たに王都に住む事になるギルバートを歓迎する為のパーティーが開かれる

そこに集まるのは王都に住む貴族だけで、問題の有りそうな貴族は先程の逮捕劇で居なくなっていた

その為に集まった貴族達は、ギルバートとアーネストを快く迎えてくれていた


国王の主催という事で、最初の挨拶は国王が行う事になる

壇上に上がった国王がグラスを持ち、開催の音頭を取ろうとする

それは同時に、重大な発表が行われる場でもあった

彼はここで、ギルバートの素性を明かそうと考えていた


「それでは

 新たに貴族の列に入る者を紹介しようと思う」


国王はそう言うと、先ずはアーネストの方を見る。

ギルバートの事を、早く紹介したくはあった。

しかし今回の件では、アーネストが大いに活躍していた。

それでアーネストに、褒賞を与えたいと考えていたのだ。


「今回の件でも、大いに活躍してくれた

 若き宮廷魔導士候補である、アーネストである」

「ご紹介に預かりました、アーネストと申します

 どうぞよろしくお願い致します」


アーネストは紹介をされて、国王の御前で跪いた。

彼の活躍を称えて、貴族達は拍手で迎える。

彼が居なければ、ガモンの逮捕も無かったかも知れない。

それで多くの貴族が、彼を歓待していた。


「既に叙爵の話は出ておったが、今回の件で決まりとなった

 本日をもって貴殿の名は、アーネスト・オストブルクと名乗る様に」

「オストブルク…」

「オストブルク卿…」

「彼には男爵の地位と、オストブルク卿としていずれは宮廷に入ってもらおうと思う」

「おお」

「それは素晴らしい」

「新たなる宮廷魔導士が生まれるか…」

「ヘイゼル老師でも宮廷魔術師だったんだ

 魔導士となれば…」

「ああ

 大いに期待されるな」


貴族からも賛同の声が上がり、アーネストは深々と頭を下げた。

それから、次はギルバートの事だとみなの視線が集まる。

既に謁見の間でも話に上がっていたので、廃嫡の話は周知である。

しかし王都に呼んだのであれば、それなりの理由が有る筈だ。

それが何なのか、みなが興味津々で見ていた。


「こちらのギルバートであるが

 既にアルベルトが息子という事は聞き及んでいると思う」


貴族達も黙って、国王が告げる言葉を待っていた。


「既に聞き及んでいると思うが、アルベルトより廃嫡の申し出があった」


ここで国王は言葉を切り、少し躊躇ってから続けた。

これから話される事は、国王にとっても辛い話になる。

それでも国王は、意を決して話し始める。


「ワシは貴殿らに…

 いや、クリサリス国民全てに懺悔せねばならない」

「え?」

「国王様?」

「懺悔とは?」

「一体何の話ですか?」


貴族達は、国王が漏らした言葉に理解が追い着かなかった。

懺悔と言うからには、何か罪を犯したのだろう。

しかしその事と、ギルバートに何の繋がりがあるのか?

誰もそれが予想出来なかった。


「ワシはみなを…

 騙していた」

「…」


会場が静まり返り、国王の言葉の真意を待っていた。

騙していたと言われても、何を騙していたのかが分からない。

それで貴族達は、国王の言葉を待っていた。


「実は…

 11年前に、ワシは我が息子アルフリートは死んだと発表していた」

「え?」

「どういう事だ?」

「アルフリート殿下は病死では?」

「当時の王城に勤めていた者は…

 知っていると思うが、アルフリートは不吉な子として女神様より神託が下っていた

 その子を殺すか、王国が滅びるかと…」

「まさか…」

「そんな話があったのか?」

「ああ

 確かにそんな神託があったな」

「そんな…」

「まさかその様な話があったとは」

「しかし、それとギルバート殿に何の関係が?」


数人の貴族が、小声で呟いた。

当時の神託の件は、知っている貴族も少なく無い。

それで王都に、流行り病が広まっていた事も知っている。

しかし知らない者からすれば、それは驚くべき話であった。

王太子が原因で、王都の治安が乱れていた事になるのだ。


国王は頷き、顔を顰めながら続けた。


「女神の信託はこうであった

 すぐにその子供を殺さなければ、王国に災いが降りかかるだろう」

「それで…」

「ああ

 アルフリート様は、病死として殺されたと…」

「そうなのか?」

「ああ

 アルベルト様が…」

「アルフリート殿下を殺された

 そう伝え聞かされている」

「何だって?」

「それじゃあアルベルト様の辺境への移転は…」

「ああ

 それが原因って話だ」

「知らなかった…」


当時はそれが原因で、反国王派が勢力を拡大してしまった。

王子が殺されたかも知れないという噂は、国民からの信頼も大きく落としてしまった。

それに乗じて問題のある貴族が勢力を伸ばし、ガモンと結託する事となってしまった。

今回の事が無ければ、ガモンはもっと力を付けたかも知れなかった。


「当時の噂は、本当だったのですか?」

「アルベルト様が王太子を殺されたとか…」

「それで移封されたとか…」


貴族の問いかけに、国王は首を振った。

それを見て、多くの貴族が胸を撫で下ろした。

あくまでも、噂は噂でしか無かった。

アルベルトが罪を犯したのでは無い。


真実はアルベルトが、王太子の代わりに我が子を殺していた。

しかし国王は、その件は触れなかった。

亡くなった友の名誉の為に、話を少しだけ脚色する事にしたのだ。


「しかし問題は、その事では無い」

「と、言いますと?」

「亡くなったのはアルベルトの息子で、アルフリートでは無かったのだ」

「え?」

「亡くなったギルバートを身代わりにして、ワシの息子をアルベルトに預けていたのじゃ」

「ええ!」

「まさか?

 そんな…」

「と言うと…

 この方が?」

「そう

 我が息子、アルフリートじゃ」

「ええ!」

「王太子殿下…」

「失礼致しました」


貴族達はみな驚いていた。

死んだ事になっていた王子が生きていて、今こうして王城に帰って来たのだ。

驚くなという事の方が無理だろう。

貴族達一同は、慌ててギルバートに向けて跪いた。


「では…」

「王太子様が帰還されたという事ですか?」

「うむ」

「おお!」

「それはめでたい」

「おめでとうございます」


貴族達は喜び、感動して涙ぐむ者も居た。

国王に息子が生まれなかったので、後継ぎを心配していたのだ。

てっきり廃嫡になったのも、姫と婚姻して後継ぎにするからだと思っていたのだ。

それが実は、アルベルトに預けられていたと言うのだ。

王太子の帰還を、貴族達は喜んでいた。


「なんてめでたい事だ」

「おお

 女神様に祝福していただこう」

「お前達…」


国王は、喜ぶ貴族達を見て困惑していた。

てっきり非難されるものと思っていたのに、みなが喜んでくれたのだ。

それは国王が、それだけ貴族に認められていたという事だった。

一部の不届き者は居たが、ほとんどの貴族は国王を認めていた。

そして賢王として、彼を崇め親しんでいたのだ。


「ワシはアルベルトの息子を、ワシの息子の死として偽装したのだぞ

 非難しないのか?」

「それは無いでしょう」

「だって、アルフリート様は殺されかけていたんですよ

 それが生きていただなんて、喜ばしい事でしょう」

「むしろその様な事までされて、王太子殿下を守られたのです

 アルベルト殿は素晴らしい方ですな」

「しかし、ワシは女神様の命に背いた

 この国の行く末に、影を落とす事になるのだぞ?」

「そうはさせませんよ」

「そうです

 例え女神様の神託とはいえ、王子を殺していたらそれこそ国が滅んでいたと思っています」

「我々は神託については、反対でしたから

 むしろ今まで王子が生きていらした事で、神託が外れたんだと思っています」

「そうですぞ

 王太子殿下、万歳」

「ギルバート殿下、万歳」


貴族達はそう述べて、王太子殿下万歳と騒ぎ始めた。

国王は困った顔をして、宰相の方を向いた。


「ギルバート殿をアルフリート様として、王太子に推したいと思います

 反対の者は居ますか?」


宰相の言葉に、貴族達は口々に賛成と声を上げた。


「王太子様が生きていらしたんだ、当然賛成だろう」

「そうだそうだ」

「これでこの国も安泰だ」

「ああ

 誰も反対しないさ」

「それよりも国王様

 早くこの慶事を国民に報せましょう」

「そうですぞ

 何とめでたい事か」


みなが一頻り喜んだところで、ギルバートは静かに国王の御前に進んだ。

国王から宣言がされて、晴れて王太子として承認される。

この晴れやかな舞台に立てた事を、多くの貴族達が喜んでいた。


「うむ

 ギルバートよ

 いや、アルフリートよ」

「はい」

「其方をこの国の、王太子として迎える」

「はい」

「良いかな?」

「ありがたき幸せ」

「うむ」

「おお…」

「これでこの国も…」


しかしみながそう思い、喜びに沸いていた時に、不意にギルバートが発言した。


「国王様

 お願いがございます」

「ん?」

「よろしいでしょうか?」

「うむ

 何じゃ?」

「私は、今までアルベルトの息子、ギルバートとして生きてきました

 そして今でも、アルベルトを父と思っています」

「それは…」


国王は言葉に詰まり、貴族達もどうすれば良いのか迷っていた。


「確かにそうだろうが…」

「アルベルト様は幸せ者だな…」

「王太子として立てと仰いますなら、喜んで引き受けましょう

 ただ、この名だけは、そのまま継がせてください」

「名を?」

「はい

 今後もアルフリートでは無く

 出来ればギルバートと名乗らせてください」

「う、うむう…」

「あ…」

「それは…」


ギルバートの要求は簡単だった。

アルフリートではなく、ギルバートとして生きたい。

それだけの事であった。


思えばまだ秘密にしていたが、ギルバートを生贄にしているのだ。

それを知っていたのなら、その名を継ぎたいという気持ちは理解出来ただろう。

ハルバートは一瞬、生贄の事まで話したいと思った。

ここで全てを打ち明けて、楽になりたいとまで思った。

しかしそうすれば、国は大きな混乱を抱えるだろう。


「どうしても…

 その名を継ぎたいのか?」

「はい」

「そう…か…」

「私はやはり、アルベルトの息子ギルバートなんです

 国王様の事を、父上と呼ぶのは…」

「そうか」


ハルバートは哀しそうな顔をして、辛い決断をした。


「それならば、そなたの名はギルバートのままでよい」

「はい」

「それから…

 いや」


国王は迷いを振り切り、決断した。

出来ればいつの日にか、父と呼んで欲しい。

そう思ってはいたが、それは口には出来なかった。

如何な理由があろうとも、一度は手放した我が子なのだ。

父と呼ばれない事も、致し方が無い事なのだろう。


「国民にはアルベルトの息子、ギルバートを養子として迎えた事にする

 その上で、いずれ王太子になる為の教育を受けさせる

 それで…よいかな?」

「はい

 申し訳ございません」


ギルバートは本当に、すまないと思って頭を下げた。

しかし国王はそれを止めて、頭を上げる様に言った。


「ワシの方こそすまなかった

 考えてみればお前はこの11年、アルベルトの息子だったのじゃ

 それを簡単に忘れろとは、ワシの我儘でしか無いからのう」

「いえ…」

「じゃが

 いつか…

 いつか気持ちが変わった時には、ワシの事も父と呼んでくれんかのう?」

「はい」


二人の遣り取りに、周りに居た貴族達は涙ぐんでいた。

本当はギルバートに、国王を父と認めてあげろと言いたかった。

しかしそれまでの事を考えると、とても簡単には口出し出来ないと思われた。

ギルバートの中には、未だにアルベルトの姿が残っているのだ。

それを忘れろと言うのは、あまりな事なのだろう。


「湿っぽい話はこれまでじゃ」

「はい」

「今日は新たな男爵の叙爵と、王太子の任命を祝して

 大いに楽しんでくれ」

「おお!」

「乾杯」

「乾杯!」


みなが手に手にカップを持って、打ち鳴らして祝福した。

それを合図に、使用人達がテーブルに料理を運ぶ。


前菜は王都近郊で採れた野菜に、干し肉と香辛料を掛けたサラダが出た。

続いて焼き立てのパンと、肉汁の滴るステーキが運ばれる。

肉はアーマード・ボアの肉を厚く切り分けて、たっぷりの香草と香辛料で焼かれていた。

また野菜のスープにもアーマード・ボアの肉が使われて、深い味わいが出ていた。

他にもミートパイや焼き菓子も用意されており、みながその旨みに舌鼓を打っていた。


「これは美味い」

「何の肉でしょうか?」

「私がダーナで仕留めた、アーマード・ボアという魔物の肉です」

「魔物の?」

「食べても大丈夫なんですか?」

「ええ

 問題ありませんよ」

「へえ…

 魔物の肉ねえ…」

「ダーナでは狩られた魔物の肉を、食用に扱っています」

「食用ねえ…」

「あ

 あくまでも猪や熊の魔物ですよ

 人型のは…」

「ははは

 ですよね」

「ええ

 さすがに食べませんよ」


ギルバートが貴族の質問に答えたが、貴族は魔物と聞いて驚いていた。


「昔…

 帝国が出来た頃には、魔物はたくさん居たそうです

 そしてその肉も、普通に狩って食べていたそうですよ」

「帝国の…」

「そうなんですね」


貴族達は驚き、再び肉を齧ってみる。

上質な肉は香辛料の辛みに引き立てられて、甘く柔らかな旨味を口中に広がらせた。

その味わいを楽しみつつ、スープやパンを頬張っていた。

中には肉汁をパンに浸して、頬張る者も居た。


「魔物がこんなに旨いなんて」

「そうだな

 うちの領地にも出るらしいから、今度狩にでてみるか」


そんな話をしている者も居たが、ギルバートは敢えて黙っていた。

ここでゴブリンやコボルトと、アーマード・ボアの違いを話しても分からないだろう。

それにワイルド・ボアやアーマード・ボアは、今のところダーナ周辺にしか出ていない。

下手にその事を言えば、色々問題になりそうだと思ったのだ。


ギルバートはステーキを切りながら、上品に頬張らずに食べていた。

言葉遣いはまだまだ問題があったが、テーブルマナーはしっかりと躾けられていた。

その為にむしろ周りの貴族達の方が、行儀が悪く見えていた。

それほど魔物の肉が、彼等にとっては絶品だったのだ。


「ふむ

 アルベルトはしっかり教育していた様だな」

「国王様」


ハルバートはギルバートの席の前に来て、ニコリと笑っていた。


「あれはなかなかマナーが覚えられんでな

 ワシがよく練習に付き合っておった」

「そうなんですか?」

「うむ

 すぐに手掴みで肉を頬張ってな」

「へえ…」

「それとスープを音を立てずに掬うのもな」

「あ…

 あれは難しいですね」

「うむ

 ワシも苦心したが、アルベルトの方が苦手でな

 すぐに皿を手掴みにしおってな」

「そうなんですか?」

「ああ

 それでよく叱ったものじゃ」

「へえ…」


ギルバートが知る限りでは、アルベルトのマナーは完璧だと思っていた。

しかし国王の話を聞く限りでは、昔はそうでも無かった様だ。

貴族として生活を続ける内に、徐々に直して行ったのだろう。

だからハルバートの思い出の中では、アルベルトは未だに腕白な青年のままなのだ。


「ワシとアルベルトは田舎の貴族でな

 学校にも碌に通っていなかった」

「え?

 バルトフェルド様の話では、一緒の学校に通っていたと聞きましたが?」

「それは成人した後の話じゃ」

「成人してからですか?」

「うむ

 田舎の貴族では、成人までは親元で教育を受けてな…

 成人してから大きな街に出る

 そうして街で仕官しながら、学校に通う者も多かったのじゃ」

「そうなんですね」

「ああ」


ハルバートは、懐かしそうに目を細める。

その瞼の奥には、懐かしい友の姿が映っているのだろう。

彼等はこの街に来て、貴族の学校に通っていたのだ。

そこで父や母、そしてバルトフェルドが出会ったのだろう。


「今はここも大きくなった

 貴族だけでなく、商人や職人の学校も出来ておる

 しかし当時は帝国が終わろうとしていた時でな、学校に行ける者は限られておった」

「そうした中で、父上や国王様は通ってらっしゃったんですね」

「うむ」


国王は懐かしそうに、思い出しながら語った。


「バルトフェルドは剣の腕が立ってな

 それで貴族が後見人になって学校に来ておった」

「なるほど」

「それで一人の女性に惚れてな

 なんとそれがワシ等の幼馴染じゃった」

「へえ」

「バルトフェルドとアルベルトは、事ある毎に喧嘩してな

 共に一人の女性を巡って競っておった

 それがアルベルトの妻、ジェニファーじゃ」

「え?」

「ジェニファーはあれで若い頃はモテてな

 色んな男達から声を掛けられておった

 二人が幼馴染でなければ、違った結末だったかも知れんな」


国王がしみじみと呟き、それを聞いたギルバートは思った。

アーネストとフィオーナも、幼馴染と呼べるだろう。

それならば、アーネストにもチャンスはまだありそうだ。

この会話が聞こえているのかと、アーネストの方を振り返って見る。

すると聞こえて無い振りをしていたが、視線がチラリとこちらを見ていた。


ギルバートは後で揶揄ってやろうと思い、内心笑いを隠しながら国王の方を見た。


「父上と母上の事を教えていただき、ありがとうございます」

「なあに

 お前を見ていると、アルベルトの事を思い出すのでな」


国王はそう言うと、懐かしさを思い出す様に目を細めた。


「やはり夫婦になる者は、幼馴染や身近な者が良いんですかね」

「ん?

 身近に誰か、思う者が居るのか?」

「いえ

 私では無く、友人の事です」


そう言って、ギルバートはアーネストの方をチラリと見た。


「ああ、なるほど…」

「どうでしょうか?」

「ううむ…

 しかし思い合う者が、必ずしも結ばれるとは限らんぞ」

「え?

 そうなんですか?」

「ああ

 特にワシ等王族や貴族は、好き嫌いだけでは結婚できんからな」

「あ…」

「政略結婚

 非難する者も居るだろうが、王族や貴族では必要な事だ」


国王の言う事も、尤もである。

実際にフィオーナは、フランドールとの婚約の話が上がっていた。

それが諸事情で反故になったが、普通はそれが当たり前なのだ。

血の濃さで仲を保つ為に、政略結婚は重要なのだ。


「まあ、どうしてもとなれば、我が国は一夫多妻も認めておる

 正妻が無理でも、側室や妾という手もあるからな」

「側室や妾…」

「ああ

 ワシも側室は娶っておる

 お前もいずれ、そう言った話が来るだろうな」

「はあ…」


それを聞いて、ギルバートは嫌そうな顔をした。

いずれはギルバートも、そういった話が来るのだろう。

しかし今は、まだそんな事は考えたくは無かった。

女性の事を意識する様な事が、ギルバートはまだ無かったのだ。


「何だ?

 嫌そうな顔をして」

「私はまだ、そういった事には興味が持てなくて…」

「はははは

 そういうところはアルベルトに似ているな」

「え?」

「あいつもお前ぐらいの頃には、ジェニファーには見向きもしないで訓練ばかりしていてな

 よく愚痴を聞かされたよ」

「母上が?」

「ああ

 ジェニファーも貴族だからな、婚約話も多数来ていた

 だからアルベルトが見向きしてくれないと、よく愚痴っていたよ」


それはギルバートにとっては、予想外の事であった。

二人はとても仲が良く、ずっとそうなのだと思っていた。

しかし実際は、母の方が父の事を好きだったと言うのだ。


「私も…

 いずれは結婚しなければならないのでしょうか」

「そうだな

 それも王族の義務

 避けて通る事は出来んだろう」

「そう…ですか…」


ギルバートは返事はしたが、納得は出来なかった。

好きでも無い相手と、我慢しながら結婚なんて出来るのだろうか?

父と母の姿を見て来たので、とても想像が出来なかった。

しかし王族になった以上、いずれはそういった話が来るだろう。


その時に、自分は納得できるのか?

誰か分からない相手を、自分は好きになれるのか?


そう考えた時に、ギルバートはふと誰かの顔がチラついた気がした。

そして同時に、何か胸が締め付けられる様な不思議な感覚を味わっていた。

その誰かは、窓辺で佇んでいた気がする。

しかし何故か、その顔が思い出せない。


誰…だ?

フィオーナ?

いや、セリアか?

そうじゃない…


その感覚が何か、ギルバートはまだ分かっていなかった。

そしてその面影の相手も、未だに思い出せないでいた。

しかしギルバートは、確かにその誰かに会っていた。

それが思い出せない事に、ギルバートは苛立ちを感じるのであった。

まだまだ続きます。

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