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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
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第174話

ギルバートは謁見の間で、昨日の拉致事件の顛末を話す

それは事前に執事と相談して、どの様な事を話すかは決めてあった

それに伴って、犯人である貴族やガモンも捕らえられていた

そうした下準備をして、一芝居まで打ってこうした場で話す事になっていた

それはガモンを糾弾する為でもあり、同時に問題のある貴族を捕らえる為でもあった


ギルバートが話を始めると、数人の貴族は顔色を変えていた

それはガモンが関わっている事もあり、自分達も巻き込まれる可能性があるからだ

自身の保身の為に、貴族達は真剣に話を聞いていた

それは迂闊な事を言って、巻き込まれたくなかったからだ


貴族の視線を一身に受けながら、ギルバートは語った。


「先ずは…

 私達が王都に向かう時の話からになります」

「昨晩の件は?」

「それも話しますが、先ずはこちらが先になります」

「うむ

 先ずは聞こうか」


国王の言葉に頷き、ギルバートは話し始めた。


「私達がダーナを発つに当たり、フランドール殿が領主代行に入りました

 これは国王様もご存知かと思います」

「ああ

 報告は受けておる」


「私の出立に当たり、代行にはなりましたが…

 こう申してはなんですが、フランドール殿は大き過ぎる野心を抱えているご様子です」

「と、申すと?」

「はい

 先ずは私の命を狙っていた様な動きが見られています」

「それは…

 本当か?」


ここは予定されていた筋書きと違うので、国王は本気で狼狽えていた。

それはそうだろう。

領主代行は頼んだが、その人物が先代の領主の子息の命を狙うとは想定していなかったのだ。

そしてその報告も、使い魔諸共握り潰されていたのだ。

だから国王は、この件をまだ知らなかった。


その知らなかった事で、演技では無く本気で国王は驚いていた。

その驚き様を見て、貴族達はこれが演技では無いと感じていた。

本気で大きな事件が、この国で起こっていると確信する。

そしてその事件に、自分達がどう関わるべきか真剣に考えていた。


「まだ確証は得ていませんが、フランドール殿は私を疎んでいました

 そして…

 王都へ向けての伝令も阻止されて、使い魔も処分されている様子です」

「ううむ…」


確かに使い魔が届いていないし、伝令も届いていなかった。

ギルバートが王都に向かうのなら、後に残ったフランドールが伝令を出さないのはおかしい。

それが当の本人が到着した今も、連絡の一つも届いていない。

それは非常にマズい事である。

ギルバートが出立したのに、到着出来ないと予想していた事になるのだ。


「確かにおかしな話ではあるが…

 向こうは向こうで、今は大変な時ではないのか?」

「はい

 ダモンが反乱を企てていた事、私からも使い魔を飛ばしておりました

 それも届いていなかった事は、些か残念でありましたが…」

「何じゃと?」


ギルバートの言葉に、国王は驚いていた。

国王側では、ギルバート達の同行は判っていない。

それでもおおよその出立日時から、まだ内戦の詳細は知らないと思っていた。

しかしギルバートは、ダモンの反乱の報も知っていたと言うのだ。

一体どうやって、それを知ったのかが不思議であった。


「そなたも知っておったのか?

 しかしどうやって?」

「はい

 砦に入った際に、ダモンが自慢気に話しておりました

 ダーナはワシの物になるべきだと…」

「ううむ」

「国王様

 やはりダモンが仕掛けたと見た方が…」

「しかしダーナの情勢も怪しいな

 元領主の子息が、王都に向かった事を隠しておった

 それにどの様な意味があるのか…」

「それは…」

「いずれにせよ、使い魔を処分した不届き者が居るな」

「はい

 さようで…」

「むう…」


国王は低く唸ると、城壁の警備を調べる様に伝えた。

使い魔が届いていたのに、それを無断に処分した者が居るのだ。

それは国王に対する、明確な叛意でもある。

重要な機密を奪い去り、国王に報告をしなかったのだ。

これは言い訳も出来ない事である。


「すぐに手配をして、城壁の警備に当たる者の素性を調べよ」

「はい」

「その様な不届き者

 即刻処罰せねばならん」

「はい…」

「それから

 その者に関わる者、全てを調べ上げろ

 もし裏に貴族や文官が居るのなら…」

「その者も取り調べます」

「うむ

 任せるぞ」

「はい

 至急取り調べを行え!

 調査には騎士団も含まれる」

「え?

 騎士団もですか?」

「ああ

 騎士の中には、貴族と連なる者も居る

 そういった者達も、容赦なく取り調べろ」

「は、はい」


宰相が頷き、文官の一人が慌ててその場から立ち去った。

これで使い魔を処分した者が、早晩にも判明するだろう。

恐らく裏には、反国王派や選民思想者が絡んでいるのだろう。

そういった者達を燻り出す為にも、騎士も含めた綿密な調査が必要だろう。


それからギルバートは、さらに話を続ける。

それはダモンが、ギルバートを捕らえた時の話だった。

彼はギルバートが、廃嫡になった事も知っていた。

それはダーナと、王都にしか伝わっていない筈の情報だった。


「ダモンはまた、こうも申しておりました

 私が廃嫡になった事と、フランドール殿が領主代行になった事です」

「うん?」

「私が廃嫡になった事は、王都ではまだ話していませんよね?」

「ああ」

「ダモンがそれを知っていたとなると、王都から情報を得た事になりますよね?」

「そうなるな」

「王都で公表されていないとなれば、王城から情報が洩れていた事になります」

「ううむ…」


国王は渋い顔をして、唸っていた。

それはこの王宮に、情報を盗み聞きする者が居た事になる。

国王が機密にしていた事柄も、外部に漏れていた事になるのだ。

それは非常にマズい事になる。

だから国王は、苦い顔をしていたのだ。


「この話をお伝えした上で、昨日の話になります」

「うむ」


ここでギルバートは、ようやく昨晩の話を始めた。


「私が王都に向かっている話は、使い魔が届いていない以上…

 この王都で知る者は居ませんでした

 そうですね?」

「うむ

 そうだな」

「知っているとなれば…

 その者が使い魔を処分した者か…

 あるいはその関係者だと」

「むう?

 そうなるのか?」

「はい」

「ううむ…」


これは国王も、ギルバートの到着を知らなかった確認である。

この時点で到着を知っている者は、使い魔を処分した者達だけなのだ。


「その上で

 私はバルトフェルド様の元にお伺いして、王都に向けて早馬を出していただきました

 その返信として、王城からの迎えの兵士が来ました」

「それなんだがな

 ワシはその話を聞いておらん」

「そうです

 私も手配はしておりません」


国王と宰相が知らないと言い、ギルバートも頷いていた。


「はい

 兵士は確かに宰相様からの指示と言っておりましたが、直接の指示ではありません

 どこから指示が出ていたのか、それは調べなければなりませんね」

「うむ」

「私の名を騙った者が居ます

 それも問題ですな」

「ええ」


ギルバートの言葉に、文官がメモを取る。

今回の件の問題点は、王宮内にも内通者が多く居るという事だ。

使い魔の件もそうだが、早馬の伝令も阻止されていたのだ。

それを踏まえて、詳しく調べる必要があった。


「私がリュバンニに到着した事

 そして王都に迎えを手配した事

 それを揉み消した者が居ます」

「ううむ

 それも問題じゃな」

「しかし…

 迎え自体は来たと?」

「はい

 それで王都には入れたのですが、そこで問題が起きました」

「うむ

 それが重要じゃ」

「何が起こりましたのですか?」


ここでアーネストが頷き、話を引き継ぐ。


「ここからは私が話させていただきます」

「うむ

 頼むぞ」

「ギルバートが王都に着いた時、王城から宰相様に命じられたと言う兵士が来ました

 彼等はエストブルク卿の兵士だと名乗り、貴族の命だと言ってギルバートを連れ去りました」

「それは本当か?」

「はい

 私もそう聞きました」

「そうですね

 私はその時、馬車の積み荷の確認をしておりました

 それでギルバートの傍を離れていまして…」

「その間に連れ去られたと?」

「はい」

「それで間違いありません」

「そんな!

 私は聞いておりませんぞ」


国王が貴族の方を向くと、一人の気の弱そうな男が慌てて首を振った。

彼がどうやら、問題のエストブルク卿らしい。

彼の周りには兵士は居ないし、王都にもその様な兵士は連れていない。

それは昨晩の内に、王宮内でも確認されていた。


「そんな話は聞いておりません

 私は昨日も登城していましたが、兵士は連れていませんでした

 それにもし連れていたとしても、いかな宰相の命とは言え兵士を使いに出すなど…」

「そうじゃな

 普通はあり得ん事じゃ」

「ええ

 私も命じておりません」


国王は今度はアーネストの方を向いて、静かに尋ねる。


「だそうだが?」

「はい

 私もエストブルク卿の兵士が今回の件に、関わっているとは思っていません」

「そうなるか

 しかしそうなると、賊は貴族の名を騙った事になるが?」

「ええ

 そうなりますね」

「ううむ

 それも問題じゃな」


国王の言葉に、アーネストは頷く。


「昨夕登城の方はお知りだと思いますが、私達はすぐに兵士達を追いました

 しかし見付ける事が出来ずに、王城へ向かいました」

「うむ」

「そこで宰相様にお力を借りて、騎士を動かしていただきました」

「そこからは昨日の、登城していた者も知らない話になるな」

「はい」


ここで国王は言葉を切り、改めて貴族達の様子を見てみる。

案の定、ほとんどの貴族は話の続きを期待して見ていたが、数人の貴族は不満そうにしていた。

その貴族達こそ、ガモン商会に繋がりがある貴族達であった。

彼等は何かを知っていると見えて、そわそわと落ち着きが無かった。


「私は策を用いて、今回の拉致に関わった兵士達を誘き寄せる事に成功しました」

「うむ」

「その兵士達は、ベルモンド卿の兵士だと名乗っていました」

「な!」

「ふざけるな!

 ベルモント卿だと?」

「卿がその様な事を、する訳が無かろう」

「いい加減な事を申すな」


アーネストがそう伝えたところ、数人の貴族が声を上げた。

しかし他の貴族は、全く知らなかったという態度であった。

ただ一人の貴族は、全く違う態度を示していた。

彼は怒りで顔を赤くして、真っ向から否定しようとしていた。


「そんな話は出鱈目だ!

 どうせその小僧が、ベルモンド卿を貶めようと画策したんだろう」

「アルザス卿

 止しなさい」

「陛下の御前ですよ」


先の貴族の件もあって、周りの貴族が止めようと窘める。

しかしアルザス卿は、それでも止めなかった。


「うるさい!

 何が拉致だ

 そんな証拠が何処にある?」

「ベルモンド卿の邸宅で、証拠は差し押さえました」

「はあ?」


アーネストの答えに、アルザス卿は間の抜けた顔で驚いていた。

彼はどうやら、今回の顛末を知らなかったのだろう。

ベルモント卿を擁護しようとして、思わず口を滑らせたのだろう。

しかし今の態度が、彼とベルモント卿の関係を如実に示していた。


「騎士の協力を得て、私はベルモンド卿の屋敷に捜索に入りました」

「何の権限が有って…」

「国王様の命です」

「な…」


国王からの命と聞いて、さすがにアルザス卿も文句は言えなかった。

悔しそうに唇を噛むが、それ以上の文句は言えなかった。


「それでは続けますね」

「うむ」

「ベルモンド卿をの屋敷に入った私は、数々の証拠を押さえました

 それはギルバートの拉致もですが、貴族の子息の誘拐の件でもありました」

「何だと!」


これにはさすがに、アルザス卿も驚いていた。

彼はまさか、ベルモント卿がその様な事をしているとは知らなかった。

同じガモン商会に繋がる仲間であったが、彼は今回の誘拐に関しては関係無かった。

そして周りの貴族も驚き、数人の貴族は顔を青くしていた。

どうやらその貴族達は、ベルモント卿の誘拐に関係している様子であった。


「そこにはガモン商会からの書類もあり、誘拐した貴族の子息を…

 その…

 奴隷として授与すると…」

「そんな馬鹿な!」

「おい!

 静かにせんか」

「何を慌てておる」


一人の貴族が取り乱して、周りの貴族が押さえる。


「ワシの、ワシの息子が…

 奴隷にだと?」

「あ…」

「そうか

 貴殿の息子が…」

「そういえば、ネフタリス家の子息も…」

「くうっ…」


どうやら子息が攫われた貴族の様で、数人の兵士に連れられて退出する。

彼は顔面を蒼白にして、項垂れて連れて行かれた。

息子が戻っていないとなれば、彼は犠牲になった子息の親なのだろう。


「度々すまないな」

「いえ

 これは陛下の落ち度では無く、知らぬとは言え私の配慮が足りませんでした」

「いや…

 ううむ…」

「申し訳ございませんでした

 この中にも、親族や関係者が犠牲になっている可能性があるのですね

 配慮が足りませんでした」


アーネストが頭を下げて、謁見の間に居る全ての者に謝罪の言葉を述べた。

それを受けて、数名の貴族は頭を下げていた。

彼等はどうやら、救出された子息の親族なのだろう。

こうして一段落着き、再び話が続けられる。


「続けてくれ」

「はい

 ベルモンド卿でございますが、以前から貴族の子息の誘拐に加担していた模様です

 その件については、証拠は騎士に預けました」

「はい

 確かに受け取っています」


宰相が答えて、証拠を受け取った事を示す。

これでガモン商会と、ベルモンド卿が誘拐を起こしていた事が暴かれた。

証拠が宰相に渡った以上、最早言い逃れも出来まい。

彼は早晩にも裁かれて、その罪を贖う事になるだろう。


「ワシも話のあらましは聞いておるが、由々しき事態であるな」

「ええ…」


国王はそう言って、先ほどのアルザス卿をもう一度見た。

アルザス卿は顔を青くしており、彼がガモン商会と関りがある事が目に見えて分かった。

ガモン商会に手が入れば、彼の悪事も明るみになるだろう。

アルザス卿は、ガクリと膝を着いて項垂れていた。


「ガモン商会にも兵は回しておる

 今日の謁見は、その事も関係がある」

「え?

 ガモン商会に?」

「それでは既に…」

「遂にガモンめにも、裁きが下るのか…」

「ざまあみやがれ」


国王のその言葉に、数人の貴族が顔色を変えた。

先ほどからギルバートやアーネストに対して、反発する様な発言をしていた貴族達だ。

しかし同時に、それを喜ぶ貴族も少なく無かった。

彼等は逆に、ガモンの行いに腹を立てていた者達だった。

ガモンが失脚する事を、喜んでいた。


「私からの話は、以上になります」

「うむ」


国王は頷き、再びギルバートの方を見た。


「他に報告はあるか?」

「はい」


再びギルバートに視線が集まり、今度はどんな話が出るのか興味津々であった。


「その拉致についてですが…

 そこで聞いた情報と、そのう…」

「何だ?」

「ご家族の方には残念なんですが…」

「そうか…」

「あ…

 そんな…」

「くそっ!

 ファミルの奴に、何と言えば…」


国王は察して、深い悲しみを顔に浮かべた。

それはその者達が、犠牲になったという事だ。

数名の貴族や文官が、悲嘆に暮れた声を上げる。

その者達の家族に、どの様な報告をすべきなのだろうか。

彼等は落胆して、その言葉を聞いていた。


「その事は別に報告してくれ

 今は情報の方が重要であろう」

「はい」

「それで?

 情報というのは?」

「私が捕まっていた牢では、私を殺す様に指示が出ていた様です」

「それは?」

「どうやら私を殺して、ダモンがダーナを攻め取る

 そして彼が、新たな領主になるという筋書きだったみたいです」

「はあ…

 そんな事が、出来る訳が無かろうに…」

「ええ

 何を思って、その様な考えに至るのか…」

「選民思想じゃな」

「ですか?」

「うむ

 あ奴も選民思想に毒されておる

 それでその様な、浅はかな夢を…」


ギルバートの報告を聞いて、国王は溜息を吐いていた。

もしそれが上手く行ったとしても、ダモンがダーナの領主になる事はあり得ない。

それどころかダーナを攻める意思を見せた時点で、彼は反逆者となるのだ。

王国軍が攻めて来る事はあっても、領主に認める事などあり得ないのだ。

その有り得ない事を、出来ると思って事を起こしていたのだ。

国王がため息を吐きたくなるのも分かるだろう。


「ええ

 ですが、その浅はかな考えを、本気で実行していたんです」

「そうじゃな」

「彼には相応の報いを…」

「うむ

 既に国軍は手配しておる

 後はダーナと挟撃して…」

「そのダーナも…」

「うむ

 どうすべきか…

 今後の課題じゃな」


既にノルドの砦には、国軍が向かう手筈になっている。

ギルバートと入れ違いで、軍は竜の背骨山脈に向かっている。

何も問題が無ければ、ダーナ軍と挟撃して砦を攻め落とすだろう。

その際に町の住民に、どれほどの被害が出るのか分からない。

しかし叛意を抱いた領主を、そのまま放置する事は出来ない。


その後に国軍は、ダーナに入る予定になっている。

その際にフランドールの、領主としての適性が試される事になる。

彼の態度次第では、即刻領主の除名処分もあり得る。

その件も踏まえて、国王は今後の課題と言っていた。


「それで…

 どうなさいますか?」

「うむ

 先ずはガモンからじゃな」


国王はギルバートの問いに、宰相の方を向いた。

宰相は頷き、文官の一人に合図を送った。

文官が小走りに入り口に向かい、騎士が扉を開ける。

そこには派手な服を着た、小柄な老人が縛られて連れて来られていた。


「放せ!」

「ガモンを連れて参りました」

「ワシを誰じゃと思っておる」

「罪人ガモン

 陛下の御前じゃ」

「静粛にせい」

「何じゃと?

 ワシが罪人じゃと?

 ふざけるな!」


宰相の言葉に、国王は頷く。

しかしガモンは、縄に縛られていてもふてぶてしかった。

彼は罪人という言葉に、首を捻って否定する。

あくまでも彼は、自分は悪く無いと思っているのだ。


「国王

 これは何の冗談じゃ?」

「な!」

「ガモンめ…」

「何という態度じゃ

 陛下の御前で…」

「黙れ!

 三下共が!」


ガモンは一介の商人とは思えぬ、堂々とした態度をしていた。

国王を前にしても跪く事もせず、罪人として縛られている事を非難していた。

それは本当に、自分が悪く無いと思っているのだろう。

ギルバートは本当に、この男が罪人なのか分らなくなっていた。


「ワシにこんな事をして

 いくら国王と言えども、許されん事じゃぞ」

「はあ…」

「さっさと縄を解け!

 そうすれば今までの非を、特別に許してやるぞ」

「何て態度だ」

「国王様に対して、何と無礼な」

「よい

 こ奴はこの様な男じゃ」


ガモンは苛立ちながら、強気な発言をしていた。

その様子から、もしかして彼は無関係では?と思う貴族も居た。

しかし国王は、静かに告げた。


「ガモンよ

 今日は罪人として召喚した

 ワシの決定に不服かな?」

「不服も何も、何でワシが犯罪者などと…」

「ベルモンドが白状したぞ」

「はあ?」


一瞬、国王の放った言葉に、ガモンは詰まった。

しかしガモンは、尚も関係無い振りをした。


「それとワシが、何の関係があると?」

「はあ…

 関係があるから召し捕らえたのじゃ」

「何じゃと!」


国王は溜息を吐くと、静かに告げた。


「既に貴様の屋敷は調べて、証拠は押さえておる

 貴族の子女を誘拐しては、他の貴族に奴隷として与えておったな?」

「な!」

「貴様が色町で遊んでいる間に、騎士達が調べに入っておる」

「あり得ん!

 証拠など無い」

「何で言い切れる?」

「ぐっ…」

「自分の書類には、細工をしておったからか?」

「それは…」


ガモンは答えに窮した。

彼は自身の書類には、バレない様に細工をしていた。

しかし対になる書類を、貴族達に渡している。

それを見られれば、言い逃れは出来ないのだ。

それを見て、国王は更に畳みかける。


「既にアルザスやダルベルトの屋敷にも、捜査の手は入っておる」

「国王!」

「そんな!」


数人の貴族達が顔色を変えて、国王の方を向いた。

彼等も誘拐に加担していて、それで奴隷を得ていたのだ。

捜査の手が自分達にも向けられていると知り、絶望的な顔をしていた。

そしてその書類を見れば、ガモンが関わっている事は明白である。


「捏造だ!

 そんな証拠など、幾らでもでっち上げれるだろう」

「ギルバートも無事に、こちらに来ておる」


国王がそう言って、ギルバートの方を見た。

それでガモンは気が付き、ギルバートを鋭く睨み付けた。

ギルバートの誘拐に関しては、急な出来事だったので書類に細工はしていない。

それにギルバートを捕らえた場所も、野盗の手配もガモンが指示している。

それが捕まったとなれば、最早言い逃れは出来ないだろう。


「この小僧が…」


ギルバートもガモンの方を見たが、興味が無いのですぐに視線を戻した。

しかしガモンは、尚も執拗にギルバートを睨んでいた。

彼の何が気に食わないのか、彼は異様な執着を見せる。


「国王よ

 こんな小僧の為に、ワシを切るつもりか」

「元より、貴様のしていた事には気が付いていた

 それが今回の事で、逮捕が早まっただけの事」

「この小僧のせいで…」

「ギルバートのせいで、何が起こるのかな?」

「そ、それは…」

「ダモンの件か?

 それとも、他にも何かあるのか?」

「くっ…」


国王にはまだ、ダブラスの件は報告されていない。

バルトフェルドの伝令が、国王に届いていないのだ。

だからダブラスの件は、まだ明るみに出ていない。

しかしガモンは、ダブラスがギルバートに殺されたと推察していた。

それで執拗に、ギルバートの処分を焦っていたのだ。


ダブラスが殺されたとなれば、彼のしていた事もバレた事になる。

だからガモンは、その証拠を何としても消したかった。

しかしギルバートは、こうして無事に王宮に入っている。

そうなれば、ダブラスがしていた事もバレた事になる。


「最早言い逃れは出来んぞ」

「くそっ!

 この形だけの国王が!」

「形だけでは無いぞ?

 国民が納得して、ワシに従っておる

 少なくとも、貴様の様な汚い商人にでは無い」


国王は冷たく言い放ち、ガモンを汚い物を見る様に見た。

それはガモンが、今までに多くの犯罪に加担していたと見抜いていたからだ。

今までは証拠が集められず、手を拱いていた。

しかし証拠が上がった以上は、今回は処分は免れない。

これで悪徳商人である、ガモンの失脚は決定したのだ。


「おのれ…

 ワシが居らんと、王都の財政は破綻するぞ」

「貴様の様な罪人に支えられる様な、脆弱な財政では無いわ」


国王は一喝すると、貴族とガモンを見ながら指示を出した。


「こ奴等を縛り上げて、連行しろ!

 念入りに調べて、行方不明の者の所在を吐かせるんだ」

「はい」

「くそっ!

 後悔するぞ!」

「何でワシ等まで」

「国王様!

 お慈悲を…」

「ええい!

 静粛にせんか」

「こ奴等を引っ立てるぞ

 来い!」

「さあ

 観念するんだな」


騎士と兵士が出て来て、貴族とガモンを連れて行った。

貴族もガモンも、連れて行かれるまで口汚く罵っていた。

しかし謁見の間のドアが閉まると、その騒音も聞こえなくなる。

それらの騒ぎが収まってから、国王は再びギルバートの方を向いた。


「せっかくの再会であったのに、つまらぬ事に巻き込んですまなかった」

「いえ

 私も当事者でしたので、陛下の差配で助かりました」

「うむ

 無事で…

 本当に良かった…」

「陛下…」


ギルバートの言葉に、国王は満足そうに頷いた。


「それでは、改めて謁見に入ろう」

「はい」

「ようこそ

 アルベルトが息子、ギルバートよ」


国王の言葉に、ギルバートは丁寧なお辞儀をしてから応える。


「アルベルトが息子、ギルバート・クリサリス

 只今参りました」


貴族達が拍手をして、歓迎の挨拶が交わされた。


「ようこそ、クリサリスへ」

「よくぞ参られた」

「我々は貴殿を、歓迎致しますぞ」


こうして報告も無事に済まされて、謁見は無事に終了した。

まだまだ続きます。

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