表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
181/190

第173話

開かれた扉を潜り、謁見の間に入る

そこには貴族と文官が並んでおり、片側に20名ずつ立っていた

貴族は華美な衣装に身を包み、文官は地味なローブを着ていた

文官も貴族も全員が並んでいるわけでは無く、王都に在住している者が登城していた


ギルバートは謁見の間に入ると、先ずは跪いて頭を下げる

そのまま声が掛けられるのを待って、その場に待機する

貴族達に囲まれて、視線が集中するのが感じられる

その場で国王の言葉が掛かるまで、黙って視線に堪えなければならないのだ


「次の者

 先ずは名を名乗れ」


国王の声が掛かり、ギルバートがそれに答える。


「はい

 ギルバート・クリサリス

 登城致しました」

「うむ

 よくぞ参った」

「な!」

「クリサリスじゃと?」

「国王様と同じ?」

「ならばアルベルト様の?」

「王都にアルベルト殿が?」


ギルバートの答えに、周囲の貴族達が騒めく。

どうやらギルバートの登城を知らない者も居て、驚いている様子だった。

貴族の中には、アルベルトの死を知らない者も居たのだろう。

アルベルトが王都に、来ていると勘違いする者もいた。


「先ずは近くへ寄るが良い」

「はい」


ギルバートは返事をして、立ち上がってから謁見の間の中央まで進む。

そこで一旦跪くと、再び頭を下げた。


「良い

 ワシとアルベルトの仲じゃ

 そなたも可愛い甥に当たる

 もう少し前に来るが良い」

「はい」

「な!」

「国王様?」


国王に促されて、さらに少し前へ進む。

玉座の前の階段の下まで進んで、そこで再び跪く。


「うむ

 先ずはよくぞ参ったと申しておこう」

「はい」


頭を下げたままで、国王の言葉に応える。


「アルベルトの事は、残念であった」

「はい」

「何だと?」

「アルベルト様が?

 亡くなられたのか?」

「どうやらその様だな…」

「して

 今回はどういった用向きで参った?」

「はい

 先ずは父上の死のご報告と、その原因となった魔物の侵攻についててございます」

「魔物だと?」

「あのアルベルト様が?」

「魔物に殺されたと申すのか?」

「静粛に!」


再び貴族達が騒がしくなるが、国王は片手を挙げてそれを制した。


「一同静粛に

 さあ、報告を頼む」

「はい」


国王の言葉に応えて、ギルバートは報告を始める。


「先ずは父上の死ですが

 魔物の襲撃で重傷を負い、その傷が元で亡くなりました

 魔物の侵攻は、その前後で起こっております」

「うむ

 それは報告を受けておる

 それで間違いなさそうだな」

「何と…」

「あのアルベルト様が…」

「魔物に負けるとは…」


国王が横を向き、そこに控える宰相が頷く。

数人の貴族が、アルベルトの訃報を聞いて改めて悔しそうに呟く。

声ははっきりとは聞こえなかったが、その様子からも、父を慕う者も居たのだと感じられた。

それだけでも、ギルバートは救われた気がした。


王都の有力貴族には疎まれていたが、慕ってくれる者も居たのだ。

それがギルバートには嬉しかった。


「それで

 魔物の侵攻とは?」

「はい」

「詳しく報告してくれ」

「王都近郊でも、ゴブリンやコボルトが出たと聞きました

 しかしダーナでは、それ以上の魔物が多数確認されています」

「何と!」

「それは大変だ」

「それ以上の魔物じゃと?」

「そんな馬鹿な事があるか」

「あり得ん」

「噓を吐いているのでは?」

「まさか?

 あのアルベルト様のご子息だぞ」

「じゃからこそ

 あのアルベルトの息子じゃからな」

「な、なに!」

「くっ

 アルベルト様を愚弄するな」


今度は数人の貴族が反応して、思わずといった感じで声を上げていた。

貴族の中には、アルベルトを尊敬する者も少なく無い。

しかし同時に、アルベルトを邪魔に思う者も居るのだ。

そういった者達は、ここぞとばかりにアルベルトを馬鹿にした発言をしていた。


「静粛に!」


再び国王に制止されて、貴族達が静かになるまでギルバートも待っていた。


「続けてくれ」

「はい

 ダーナでは、オークという豚の頭をした人間の様な魔物や、大型の魔物も現れております」

「何だと?」

「豚の頭をした魔物だと?」

「そんな者が居るのか」

「どうせホラ話じゃ

 騙されるものか」

「おい!」

「静粛に!」


再び静かになるのを待ってから、ギルバートは話を続ける。


「その中のオーガという、大きな鬼の魔物が襲撃して来た際に…

 ダーナの城壁が破壊されました」

「なんと…

 あの城壁が壊されたのか?」

「はい

 オーガは3m前後の大きさです

 ダーナの城壁でも十分ではありませんでした」

「そうか…

 それほどの物が…」

「そんな馬鹿な話しがあるか」

「どうせホラ話じゃろうが」

「静粛にせんか!

 ううむ…」


国王もこれには、思わず唸って考え込んでいた。

それほどの大きさならば、王都の城壁でも安全では無い。

まだ王都近郊には、その様な大型の魔物は現れていない。

しかしギルバートの話しからも、いつ現れても不思議では無いだろう。


「僭越ながら…

 この王都の城壁でも、長期間の籠城はお勧め出来ません

 大型の魔物に関しては、オーガ以外にも居ますので」

「そうだな

 ワシが聞いた限りでも、トロルやワイルド・ベアといった魔物も確認されておる

 城壁の強化は今後の課題であろう」


ここでギルバートは、王都の城壁の脆弱性を説いた。

普通の人間が相手ならば、そこまで警戒する程では無かった。

しかし大型の魔物が相手では、この王都の城壁では不十分である。

強度もだが、乗り越えられる可能性もあるのだ。


国王は課題があると言いながら、宰相の方を見た。

宰相も頷き、対策を検討すると答える。

しかし具体的な案は、未だに見出されていなかった。

それに関しては、当の魔物と戦っているダーナの方が詳しかった。

後程詳細は、アーネストも交えて相談する事になるだろう。


「それにつきましては、既に対策を練っているところです

 問題は周辺の町に対しても、何らかの対策を講じる必要があるかと」

「そうだな

 王都も重要だが、その他の町も対策をしなければな

 それに対しては、近日中に対策を練る様に伝えておいてくれ」

「はい」


宰相が頷き、文官がそれを書類に書き留める。

それを確認した後に、国王は再びギルバートの方を向いた。


「それで

 魔物の事については、後ほど詳しく聞くとして…

 その他にも報告する事はあるか?」

「はい

 先ずは私の親友にして、従者として来ているアーネストを紹介させてください」

「うむ

 許可をする」

「アーネストをここへ」


宰相の声を聞き、騎士が再び扉の前へ移動する。

そうして扉が開かれると、アーネストが中に入って来た。


「アーネスト

 召喚されて参りました」

「うむ

 特別にギルバートの傍まで進む事を許可する」

「国王様!」

「何もそんな平民の小僧を…」

「静粛に!

 ワシが許可をしておる

 何か問題があるか?」

「それは…

 しかし!」

「そうですぞ

 平民の小僧なんぞ…」


貴族達は騒めくが、構わず国王はアーネストが進み出るのを待っていた。

それでアーネストも根負けして、返事をして進み出た。

こうした謁見に於いては、従者といえどもそこまで前には出させない。

それは国王に害意があったら困るからだ。


「陛下…」

「よい

 構わぬから前に出よ」

「は、はい」


ましては相手は、魔術師らしいローブを着ていた。

魔法であれば、剣の様な近接武器より危険だ。

下手をすれば、謁見の間の中央からでも国王に危害を加えられるだろう。

それでも国王は、アーネストに前に出る様に告げる。


「では、失礼させていただきます」

「うむ」


アーネストが前に来た事で、ギルバートも話がしやすくなった。


「先ずは今回の登城に当たり、国王様に献上品がございます」

「ほう

 それは何だ?」

「アーネスト」

「ああ」

「サルザート様

 例の物を…」

「うむ」


ギルバートは顔を上げて、宰相を見る。

宰相は頷き、手を叩いて合図を送った。

そこで扉が開かれて、大きな布を被った物が運ばれて来た。

それはゆっくりと運ばれて、ギルバートと国王の間に置かれた。


「こちらでございますが、私が仕留めた魔物になります」

「ほう

 そなたが仕留めたのか」

「はい」

「何だと?」

「あんな小僧がか?」

「ふん

 どうせ大した魔物では無いのじゃろう」

「どうぞ

 これはなかなか見られない魔物ですが、その肉は非常に美味でして…

 こうして運んで参りました」


布が下ろされて、魔物が姿を現す。

アーマード・ボアはまだ、一部が凍っていた。

それでも全身がそのままなので、謁見の間に居た者には十分な衝撃を与えていた。


「おお!」

「こ、これは…」

「これが…

 魔物?」

「こんな大きな物が…」

「馬鹿な

 子供が倒せる様な物では無いぞ?」

「静粛に

 静かにしなされ」

「う、うむう…」


先ずはその大きさで、貴族達は騒然としていた。

騎士が一人出て、その魔物の腕に軽く切り掛かる。

これは事前に話していた事で、魔物がどれだけ危険か示す為のデモンストレーションだった。

騎士は大きく振り被ると、思い切り魔物に切り掛かる。


「せやあああ」

キン!


軽い金属音がして、騎士の全力の一撃が弾かれる。

そして鉄製の剣の、一部が欠けてしまっていた。

その魔物を覆っている鱗が、相当固い物だと示された。


「な…んだと?」

「あれは鉄製の剣だろう?

 それを弾くのか?」


魔物は既に死んでいる。

それは見ている者にもすぐに分かった。

しかし問題は、それでも鉄製の武器を弾くのだ。

これが生きていて暴れていたら、丈夫な武器でも簡単に壊されただろう。


「この魔物の名は、アーマード・ボアと言います

 見ての通り、頑丈な鱗が特徴です

 これは魔鋼を用いた武器でも、そう簡単には切り裂けませんでした。

「何だと」

「魔鋼と言ったら、最上級の鉱石ではないか

 それを弾くと言うのか?」

「魔鋼って何だ?」

「どうやら魔物を加工した鉱石らしい」

「固いのか?」

「現存する鉱石では、一番固いらしいぞ」

「そうなのか?

 そんな固い物でも…」

「ああ

 そんな生き物が居るんだ…」


多くの貴族は、純粋にその頑丈さに驚いていた。

しかし一人の貴族が、そんなギルバートに質問をしてきた。

どうやら彼は、ギルバートの事を信用していないのだろう。

明らか様に疑って、彼は高圧的な質問をして来る。


「ならば聞こう

 そこな貴様は、どうやってこれを倒した」


貴族はギルバートを子供と見て、見縊っていたのだ。

挑発的な態度を取り、馬鹿にした様に鼻を鳴らした。


「そうですね

 普通に戦っては、この魔物の鱗に弾かれるでしょう」


ギルバートはそう言うと、騎士の一人に近付いた。

これは打ち合わせに無かった事で、騎士も狼狽えていた。


「すいません

 少しの間、剣を貸していただけませんか?」

「え…」


騎士は狼狽えながら、国王の方を向いた。

国王は頷き、剣を貸す様に促した。


「しかし…」

「良い

 いざとなれば、そなた達がおるであろう」


それは正論であったが、無茶な言葉でもあった。

騎士でも切れなかった物を切ろうとするのだ。

それが出来るのなら、ギルバートは十分な脅威となり得る。

しかし国王に促されているので、騎士も逆らう事は出来なかった。


「っ…」

「すぐにお返しします」

「分かった」


騎士は剣を引き抜くと、柄を差し出してギルバートに渡した。

ギルバートはそれを受け取ると、ゆっくりと魔物の死体に近付いた。


「何をする気だ?」

「騎士でも弾かれたのだぞ?」

「ふん

 どうせ何も出来ないさ」

「ふっ」

ザシュ!


見た目はあまり力を入れている様には見えなかったが、魔物の腕が切り落とされた。

騎士が弾かれた後に、その様を見せれば当然驚かれるだろう。

しかしギルバートは、当然の事の様に澄ましていた。

彼は剣を持ち直すと、柄を騎士に向けて返した。


「はい

 ありがとうございました」

「あ、ああ…」

「おお!」

「あんな簡単そうに」

「そんな馬鹿な!」


貴族達が驚いていた。

先ほど騒いでいた貴族も、驚いて引き攣った顔をしていた。

しかしそこで引き下がっていては、沽券に関わると思ったのだろう。

彼は勝手に前に出ると、近場の騎士の腰から強引に剣を奪った。


「こんな小僧が出来るんだ

 私にだって…

 貸せ!」

「う、うわっ

 おい!」

「なにをする気だ!」

「勝手な事をするな」

「うるさい!」


貴族は前に進み出て、ギルバートを押し退ける。

考えてみれば国王の御前でこんな行為をすれば、不敬罪に問われても仕方が無い。

しかし貴族はそんな事も判断出来ないのか、そのまま切り掛かった。

だが魔物の鱗は、貴族の剣を簡単に弾く。

そのまま貴族は、勢い余って尻餅を吐いた。


ガキン!

「ぐわっ」


貴族は思いっきり切り掛かったが、全く傷付いていなかった。

腕が痺れたのか、彼は苦しそうな顔をする。

それを見て、数人の貴族が声を殺して笑う。

その様子に、貴族は顔を赤くして腹を立てていた。


「くそっ

 ふざけるな

 何か仕掛けがあるんだろう」


腹を立てた貴族は、何を思ったのかギルバートに切り掛かった。


「おっと」

「な!」


しかしギルバートは、貴族が振るった剣を軽々と受け止める。

それも刃先を素手で受け止めて、怪我をする事無く止めていた。

そうして貴族が力を込めても、そのまま剣を掴んでいた。

普通ならば、そんな事をすれば腕を切られるだろう。

しかしギルバートは、平然と剣先を掴んでいた。


「何で?

 そんな!」

「衛兵!」

「はい」

「貴様!」

「国王様の御前で」


宰相の指示があり、騎士と衛兵が貴族を囲んだ。

しかし貴族は、怯む事無く騎士達を押し退けようとする。


「ふざけるな

 私を誰だと思っているんだ」

「それはお前もだろうが」

「陛下の御前で、そんな不敬な振る舞いをして…

 許されるとお思っているのか?」

「それなら、こいつは?

 この小僧はどうなんだ?」

「ギルバート殿はアルベルト様の子息ですぞ

 国王様の甥ですよ」

「私の方が上だろう

 私は選ばれた人間だ

 こんなどこの田舎とも分からない、子倅よりも優秀な…」

「黙れ!

 いい加減にしろ!」


遂に国王が怒って、怒鳴り声を上げた。

それに驚いて、貴族は顔が青くなってしまう。

さすがに今の発言は、彼の様な貴族でも重罪に当たる発言であった。

それに気が付いて、彼は慌てて謝罪しようとする。


「へ、陛下

 私は…」

「この国に、選ばれた人間等と言う考えは要らん

 そんな考えを持つ者は、捕らえて厳重に見張る必要があるからな…」

「そ、そんな

 ワシは選ばれた…」

「衛兵

 そ奴を縛って、独房にでも入れておけ!」

「は、はい」


国王の恫喝を受けて、兵士も貴族も震え上がっていた。

普段のハルバートならば、ここまで声を荒らげる事は無い。

それだけ国王が、今の行為に腹を立てている証拠である。

彼は怒りも露わに、その貴族を睨み付ける。


「あわわわわ…」

「ひっ捕らえて拘束せよ!」

「はい」


国王の号令に、兵士達が縄を用意する。

それを見て、貴族はガクリと項垂れた。

その様子を見て騎士は剣を取り返し、貴族を縛り上げる。

衛兵に引き立てられて、貴族は項垂れながら退出した。


「すまなかったな」


国王はその様子を見て、ギルバートに謝罪の言葉を掛けた。


「いえ

 とんでもございません」


ギルバートは慌てて首を振る。

国王が頭を下げるなど、本来はあってはならない事なのだ。

それも下に当たる貴族に対して等、本来はしてはならない。

しかし事が事なので、誰もその事は責めなかった。


「それで

 今のはどうやったのじゃ?」

「はい」


国王が話題を変えたので、ギルバートは助かったと思った。

そこでスキルの話をして、安心させようと思った。


「これはまだまだ調べている途中なのですが、スキルという技術がございます」

「うむ

 報告は受けておる」

「はい

 そのスキルの中に、自身の力を高める物もございます」

「なるほど

 それを使ってみたのか」

「はい

 これを身に着ければ、みなさんも魔物との戦闘が楽になります」


ギルバートの言葉に、貴族達の顔色が明るくなる。

騎士が歯が立たなかった事で、魔物に対してどうしようかと思っていたのだ。

しかしギルバートの話が本当ならば、彼等でも魔物を何とか出来そうだった。


「ふむ

 それについては、後ほど色々と報告してもらおう」

「はい

 詳細は後程

 こちらのアーネストが詳しいので」

「うむ

 宰相に報告してくれ」

「はい」

「後でワシの所に来てくれ」

「そうさせていただきます」

「しかし…」


国王は顎髭を撫でながら、少し考えていた。

献上品だけでも、十分な成果である。

それに加えて、アーネストからスキル等の報告もある。

それを考えても、今回の事は十分な褒賞を与えられる成果である。


「それにしても…

 頑丈な鱗

 それに美味である肉

 献上品としては十分であるな」

「はい

 魔物の素材を加工すれば、丈夫な武器や鎧も作れます

 私のこの服も、魔物を加工して作りました」

「なるほど

 見た事も無い素材だと思っていたが、それも魔物の素材か」

「はい」


国王は宰相の方を向くと、すぐに素材の加工と食肉の手配を命じた。


「サルザード」

「はい」

「皮も丈夫だし、鱗を使えば鎧を仕立てれるだろう

 それから肉だが、鮮度はどうだ」

「はい

 アーネスト殿が凍らせていたので、十分な鮮度が保たれています」

「うむ」

「え?」

「あの少年が?」

「あの魔物を凍らせていただって?」

「氷の魔法など、そんな簡単な魔法じゃ無いだろう

 それを少年が?」

「そういえば、アーネストの件がまだであったな」

「あ、はい」


ここで再び、貴族達の視線はアーネストに向かった。

そもそも何で魔術師の彼が呼ばれたのかが、まだ説明されていなかったのだ。

いくら同行者といえ、そんなに優秀な魔術師と思われていなかった。

しかし国王の言葉から、彼の才能の片鱗が伺える。


「今回の旅に於いて、彼の協力が是非にも必要でしたので」

「うむ」

「魔物を凍らせて、ここまで運べれたのは、アーネストが魔法で凍らせてくれたからです」

「そんな…」

「やはりあの少年が?」

「しかし魔物を凍らせたとなれば…」

「ヘイゼル老師と同等の魔術師なのか?」


ここで貴族だけでなく、文官まで騒めき始めた。

確かに魔物は凍っていたが、それがアーネストの仕業と言うのだ。

それは宮廷魔術師である、ヘイゼル老師でも容易では無い事だった。

それをこの少年が、ここまでやってのけたと言うのだ。

それだけでも、十分に驚くべき事だった。


「ふむ

 このアーネストが、魔物を凍らせていたと言うのじゃな?」

「はい」

「しかしダーナからここまで、一月近く掛かるであろう

 その間、ずっと凍らせていたのか?」

「はい

 後程詳しく報告しますが…

 アーネストの魔力ならば、一度の魔法で1日は凍らせれます

 それで氷が溶けない様に、時々掛け直してもらっていました」

「なるほど

 仔細は分かったが…

 そうなると、アーネストが優秀な魔術師という事になるな」

「はい

 彼は高名な、ガストン老師に師事していました」

「何と

 あのガストンにか」

「はい」

「何と!」

「あのガストン老師に?」

「それならばヘイゼル老師と並ぶ実力があっても、不思議では無いな」

「宮廷魔術師と同等とは…」

「これからが楽しみですな」


この辺は事前に打ち合わせをしていたので、国王の驚きはわざとらしかった。

それでもこの驚きで、居並ぶ貴族達の目も変わっていた。

それほどの魔術師ならば、これからの王都で活躍するだろう。

場合によっては、自身の部下として欲する貴族も居るだろう。

それも考えに含めて、国王は宰相に話を振る。


「それならば、さぞ優秀であろう」

「はい」

「ならば欲しがる貴族も…」

「ええ

 ですが実は…」

「むう?

 どうした?」


隣の宰相も頷いていた。

しかしサルザードは、そこで国王に報告をする。

これは昨晩の出来事であり、国王もその場に居合わせていた。

しかしサルザードは、国王が知らない前提で報告をする。


「実はギルバート殿が登城されていたのは、昨日の夕刻になります」

「そうなのか?」

「はい

 そこで問題が起きまして…」

「何だと!」

「申し訳ございません」

「して、一体何が起こったのじゃ?」

「それが…」


宰相はわざとらしく、周囲を見回してみせる。

そうして居並ぶ貴族達に、昨晩の事を思い出させる。

この辺りの顛末は、昨日の登城していた貴族も知っている筈だった。

しかし全員が知らないので、国王達はわざとらしく大袈裟にしていた。


「それを解決してくれたのも、実はこのアーネスト殿です」

「そうなのか?」

「はい

 彼が居なければ、私もどうなっていたか…」

「そうなのか?」

「はい

 大変な事件でして…」

「そうか

 詳しく聞かせてもらえぬか?」

「はい

 ですが…」

「むう?

 何か問題でも?」

「ええ

 幾人かの貴族の方が関わっておりまして…」

「それは問題じゃな」

「はい」

「良い

 話が終わるまでは、誰にも手出しはさせぬ」

「お願いします」


ギルバートも頷き、アーネストの活躍を認めた。

国王は頷くと、打ち合わせ通りに質問をする。

そして予定通りに、ギルバートはその話をする。

その話をするに当たって、予め妨害が出来ない様にも話しておく。


「して、その問題とは何が起こったのだ?」

「はい

 少し長くなりますが、よろしいでしょうか?」

「うむ

 許そう」

「ありがとうございます」


国王が頷き、ギルバートがその事件を語る事となる。

昨日起こった拉致事件の顛末と、それに関わる貴族の犯罪についてであった。

まだまだ続きます。

ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。

また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ