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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
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第169話

賊を捕らえに向かった騎士は、血相を変えて戻って来た

彼は宰相の前に来ると、慌てて伝えられた事を話す

アーネストの話しでは、ギルバートが暴れる方が危険だと言うのだ

それを聞いた宰相も、事の確認が取れずに困っていた


いくら相手が疑わしいとはいえ、相手は大物の貴族である

しかも彼は、有力な反国王派の貴族の一人だったからだ

迂闊な行動も取れないと、宰相は判断に窮していた

しかし国王は即断して、直ちに兵を差し向ける様に命じた

騎士団を召集して、ベルモンドの屋敷に向かう様に指示を出したのだ


アーネストが謁見の間に戻る頃には、騎士団の精鋭が集められて準備がされていた。

ベルモンド伯爵は壮年だが、力のある大物の貴族だ。

抱えている私兵も多く、貴族街の屋敷とはいえ、そこにどれだけの兵を集めているか分からなかった。

総勢24名の騎士と、捕縛の為の兵士が36名も集められていた。

これだけの人数で行けば、いかに私兵を抱えた貴族でも捕縛は可能だろう。


「いつの間に…」

「ふははは

 驚いたか」

「城門での一件で、我々も捜索の兵を集めておきました

 彼等なら、貴族の息が掛かっておりません

 安心して同行させてください」

「助かります」


王都の城門の衛兵達も、この件には責任を感じていた。

彼等の目の前で、貴族の子息が誘拐されたのだ。

しかもその子息とは、嘗て王国でも有数の騎士と呼ばれたアルベルトの子息なのだ。

それで彼等は、貴族の息の掛かっていない者達を集めたのだ。

この件の裏に、貴族が関わっていると判断したのだ。


それで捕縛の為に、30名を超える兵士が集まっていた。

彼等はギルバートが攫われた事に、激しい憤りを感じていた。

それは彼等の目の前で、ギルバートが攫われた事もある。

しかし何よりも、再び貴族の子息が攫われた事が許せなかった。

今度こそ犯人を、捕まえるのだと意気込んでいた。


騎士達もまた、今回の件では憤っていた。

彼等もまた、騎士団の隊長だったアルベルトを尊敬していた。

そのアルベルトの子息を、王都の城門で堂々と攫われたのだ。

それも他の貴族の名を騙り、彼等は衛兵達の目の前で攫って行った。

それだけでも、許されない事だった。


「我々の目の前で攫うなど…

 馬鹿にしておる」

「それも子供を連れ去るなど…

 許せん」

「そうだ」

「我等騎士団の力、存分に振るおうぞ」

「おう!」


騎士達は正義感が強く、こうした事件は許せなかった。

それもここ最近で、誘拐事件が立て続けに起こっていた。

それで騎士団達も、かなり憤っていたのだ。

だから国王の呼び掛けに、彼等は喜んで捕縛に向かった。


「それにしても…

 よくあんな策を思い付きましたね」

「え?

 ああ…」


騎士達はベルモンドの屋敷に着き、周囲を兵士達に囲ませた。

賊が逃げ出せなくさせる為だ。

そうした準備を整えながら、騎士の一人がアーネストに質問していた。

その策というのは、先ほどの捕り物の事である。


アーネストは不審な兵士を見抜いて、それとなく目配せをして合図をしていた。

宰相は理由が分からなかったが、アーネストの合図に気が付きその兵士に応援を呼ばせた。

それで来たのが、ベルモンドの私兵が化けた兵士達だった。

騎士達はそれが分からず、アーネストの指示通りに後を着けていたのだ。


「本当ですよ」

「よく分かりましたよね」

「あの兵士が出て行った後の、アーネスト殿の言葉には驚きましたよ」

「ははは…」


アーネストは宰相に、あの兵士が恐らく黒幕の手配した密偵だと告げた。

それを聞いた時に、兵士のほとんどが驚いていた。

彼等はてっきり、その兵士も最初から謁見の間に居たと思っていた。

しかしその兵士は、いつの間にか潜んで居て、他の兵士と区別が付かなかったのだ。


謁見の間には、限られた兵士だけが見張りに立っている。

それをバレない様に、その兵士は堂々と立っていたのだ。

恐らくは密偵にとって必要な、気配を消したりする術を身に着けているのだろう。

それで謁見の間に侵入して、他の兵士に紛れていたのだ。

もしかしたら、そういったスキルが存在するのかも知れない。


兎も角その兵士が怪しいという事で、アーネストは後を着ける様にお願いをしたのだ。

騎士達は半信半疑だったが、宰相も頷くので指示に従った。

その結果が、先の捕り物になったのだ。

まさか向かった先で、その兵士がアーネストを殺そうとするとは思ってもいなかったのだ。


「どうして見破ったのかもですが…

 兵士が増えていたのも気付きませんでしたよ」

「そうだよな…」

「まさかあんな堂々と、他の兵士に紛れているとは…」


騎士達は気付かなかったが、アーネストは最初から不審に思っていた。

それで周囲を観察してみれば、その兵士だけ配置が不自然だったのだ。

恐らく今までも、そうやって謁見の間に忍び込んでいたのだろう。

そうして情報を聞き出して、主に報告していたのだ。


「あの男だけ、行動が不自然でしたからね

 外から来た私だから、逆に気が付いたのかも知れません」


アーネストはそう言って謙遜していたが、注意深く観察していたからだ。

それだからこそ気が付いたし、逆に罠に嵌めれたのだ。

勿論、自分が魔術師と知らせて、油断させる事も忘れていなかった。

魔術師と聞けば、普通は肉弾戦は不得意だと考える。

それで敵の兵士達に、剣での攻撃を誘ったのだ。


アーネストは事前に、防御の呪文を唱えておいた。

そうする事で、敵の剣の攻撃を防ぐ事が出来る。

それで油断した相手から、まんまと情報も収集していた。

そこまで考えて、アーネストは魔術師として弱いふりをしていたのだ。


「あの手の奴等は、油断したら口が軽いのでね

 上手く行って良かったです」


そう言いながら、アーネストは突撃の合図を待っていた。

もうすぐ配置が完了して、騎士と共に館に突入する。

そうすれば、ギルバートの行方が分かる筈だ。

もしかしたら、彼はここに捕らえられているかも知れない。


「騎士殿

 配置が完了しました」

「ありがとう

 それでは…」

「しかし、馬車が見付かりません」

「何?」

「辺りを見回したのですが…」

「この周辺にはございません」

「ぬう…」


兵士達は屋敷の周りを固めたが、その際に馬車が留めてある厩舎も確認していた。

しかしそこには、ギルバートを乗せていた馬車は留められていなかった。

王家の紋章が着いているので、一目でそれと分かる筈だ。

それなのに厩舎にも、屋敷の周りにもそれらしき馬車は停められていなかった。


「本当にここで合っているんでしょうか?」

「そうだなあ…

 しかし確実に、ベルモンド卿は関わっている

 賊は嬉しそうに語っていたからな」

「そうですか…」

「それならば馬車は何処に?」

「ううむ…

 ここでは無いのかも知れん」


どうやら馬車は無く、ギルバートがここに居る可能性は低くなっていた。

可能性としては、他の場所に捕らえられている可能性があった。

そもそもバレる様な場所に、攫った人間を連れて来る事は無いだろう。

彼等は恐らく、他の場所にギルバートを連れて行ったのだろう。


「直接ここに向かったのでは無く、他の場所に捕らわれているのか?」

「しかしそうなると、ここで確実に伯爵を捕らえないと」

「ああ

 ギルバート殿が危ないだろうな」

「ならば我々は…」

「ああ

 与えられた役目を果たすのみだ」

「おう!」


そうは言っても、この騎士は捕り物の現場に居合わせていた。

だからギルバートが、今のところは無事だろうと判断していた。

寧ろ賊が手荒い真似をしたら、返り討ちに遭っているかも知れない。

その様にアーネストが言っていたのを、彼も聞いていた。


「どうしますか?」

「突入するしかないでしょうな

 少なくとも、何某かの情報は握っている筈です」

「分かりました

 それでは行きますよ」

「はい

 お願いします」


アーネストの言葉に、騎士達も頷いた。

それで突入が決まり、兵士も配置に戻った。


合図を送ってから、騎士が4名だけ進み出て正面から屋敷に向かって歩いて行く。

それを見て、当然屋敷の警備兵も警戒する。

騎士が貴族街に来るのも不自然だが、そもそもこのタイミングで来訪者が来るのが怪しかった。

だから入り口の門番も、剣に手を掛けて誰何する。


「何者だ!」

「私達は国王様の命で、この屋敷を調べに来た」

「ここがベルモンド伯爵様の屋敷と、知っての事か」

「ああ

 だから調べに来たと、そう言っているだろう」

「な、何い」

「ふ、ふざけおって」

「たかだか騎士風情が…

 我等ベルモント様の兵士に、喧嘩を売る気か?」

「喧嘩だと?

 貴様等程度がか?」

「ぐぬう…」

「おい!」


警備兵は互いに目配せして、槍を構える。


「どういう理由かは知らんが、こんな夜分に通すわけにはいかん

 死にたくないなら、とっとと帰りやがれ」」

「邪魔をするつもりか?」

「ああ

 どうあっても通さん」

「そうだ

 と、通さんぞ」


警備兵が槍を構えたまま、入り口を守る様に身構える。

しかし口では強気になれても、その腕は震えている。

彼等は私兵であって、王国の騎士に適う程の腕は無いのだ。

騎士は溜息を吐くと、腰から長剣を引き抜いた。


「はあ…

 やれやれ」

「くっ

 通さんぞ」

「こ、殺してやる」

「構わん

 押し通るぞ!」

「はい!」

「させるか!」

「はあああ」

「ふん」

ガキン!

ドガッ!


警備兵が槍を突き出すが、騎士はそれを軽々と弾き上げた。

そのまま槍を跳ね上げると、彼は剣の柄で兵士の腹を殴り付けた。

警備兵の男は、そのまま呻きながら蹲る。

それを見て、もう一人の兵士は声を上げて応援を呼ぼうとする。


「ぐうっ」

「くそっ!

 賊が来たぞ

 みんな出て来…ぐふっ」

ドガッ!


その隙を見逃さず、騎士は素早く兵士の後ろに回り込む。

素早く手刀が振り下ろされ、警備兵は気を失って倒れた。

それを兵士達が出て来て、素早く縄で縛りあげる。

そうしている間に、騎士達は玄関に向かって行った。


悪趣味なごてごてした扉を前に、騎士の一人がノッカーを掴んだ。

ゴツゴツと音を立てて、ノッカーが鳴らされる。

その音を聞いて、ドアが中から開けられた。

中に居た兵士は、まさか訪問者が来るとは思っていなかったのだろう。

その呼気は酒の匂いが混じり、眠そうな顔をしていた。


「何だ?

 こんな時間に訪問など、聞いて…」

「国王様の命で、こちらを調べさせてもらう」


騎士が剣を突き付けて、ドアの見張りを外へ引き摺り出す。

外の騒ぎには、まだ気が付いていないのだろう。

そもそもがこれだけ飲んでいれば、眠っていてもおかしくない。

それだけベルモント卿の兵士は、職務に怠慢であった。


「国王がなんだって言う…」

「うるさい

 黙って指示に従え」

「な!

 は、放せ」


男は兵士達に囲まれて、素早く縄で縛られた。

酒が入っているので、動きも覚束ない。

あっという間に縛られて、兵士の足元に転がされる。


「こんな事をして、許されると…」

「貴様らこそ、子供を攫って許されると思っているのか?」

「ど、どこでそれを?」


男は酔って判断力が低下しているのか、騎士の言葉にそのまま反応した。

それで騎士は、ベルモント卿が加担していると確信した。


「こいつ等は誘拐に加担しているぞ」

「探せ!

 どこかに証拠となる物がある筈だ」

「おう」


騎士達が続々と出て来て、次々と屋敷に雪崩れ込む。

その行く先には剣を構えた荒くれ者も居たが、素早く打ち倒して取り押さえる。

捕まった者達は、後から入った兵士達によって縛られて行く。

そうして数十分も経たない内に、屋敷のほとんどが制圧された。


中にはまだ抵抗する者もいたが、騎士に囲まれて倒されていく。

そうして打ち倒されては、兵士達に縛り上げられる。


「この!

 オレはベルモント様の…」

「うるさい!

 この人攫い共め」

「こうしてやる」

「ぐぼはっ」

ズガッ!

ドガッ!


残すは2階の伯爵の部屋だけとなり、そこには屈強な戦士が2人身構えていた。

彼等は大きな剣を手にして、誰も通さないぞと身構える。


「こ、ここは通さないぞ」

「こいつは手強そうだな」


騎士は一目見て、こんなところに居るのは勿体ないと思う様な戦士だと見抜いていた。

しかし戦士は伯爵の部屋のドアを護る為に、捨て身になって戦おうとしていた。

この貴族は、そこまでして守る様な人物では無い。

子供を攫う様な、不届き者の貴族なのだ。

それなのに戦士達は、必死になって部屋の入口を守ろうとしていた。


「う、うるせえ」

「オレ達はここを守っているんだ」

「むう…」

「こんな貴族に仕えるとは…」

「勿体無いな…」

「ここは私の出番ですね

 下がってください」

「アーネスト殿?」

「く、来るな!

 こっちに近付くな」

「出て行けー!」


戦士達の必死の形相を見て、アーネストが前に出る。

騎士達は危ないと、アーネストを止めようとする。


「何に怯えている?

 弱みでも握られたか?」

「うるさい!」

「ここを通すわけにはいかないんだ」

「アーネスト殿

 危ないですよ」

「ここは我々に任せて…」

「いいえ

 オレに任せてください」


アーネストはそう言うと、小声で呪文を唱えた。


「スリープ・クラウド」


既に呪文は唱えていたのか、結句を唱えた瞬間に白い煙が二人の男を包んだ。

その途端に必死の形相が崩れて、男達はその場に崩れ落ちた。

彼等は戦士ではあるが、魔法に対する耐性は低かったのだろう。

簡単に魔法に掛かって、その場に崩れ落ちる。


「おお…」

「眠りの魔法ですか?」

「哀れな

 仕える者を誤ったばかりに…」


アーネストは小声で、同情する様に呟く。


「こんな魔法を使えるなんて…」

「まるでヘイゼル老師の様ですな」

「それ程でもありませんよ

 眠らせただけです

 縛っておいてください」

「あ、ああ」


騎士達が男を抱えて、後方の兵士達に引き渡す。

騎士達も複雑な顔をしていた。

真っ当に生きていれば、一端の剣士になれたかも知れない。

自分達も一歩間違えれば、ああなっていたかも知れないのだ。

そう思えば、彼等に同情は禁じ得なかった。


「それでは」

「ああ」


騎士がドアを開け、伯爵の部屋に踏み込む。

そこは寝室にもなっていて、伯爵と二人の子供がベッドに入って居た。

どうやら彼は、そこで子供達とお楽しみの途中の様子だった。

伯爵はお楽しみを途中で邪魔されて、顔を真っ赤に染めて怒鳴った。


「な!

 貴様ら何者だ!」

「きゃあ」

「う、うわああん」

「私達は国王様の命で、この屋敷を調べに参りました」

「その場で動くな!」

「国王のだと?

 あの唐変木が、何の権限で!」

「な!」

「構うな

 取り押さえろ」

「そこの子供…

 どうやら…」

「ええ

 行方不明の貴族の子息です」

「ええい

 貴様らでは話にならん

 ワシの屋敷に無断で入って、生きて帰れると思うなよ」

チリンチリンチリン!


伯爵はベッドの脇の机から、呼び鈴を取って鳴らした。

しかしいくら鳴らしても、誰も来なかった。

それはそうであろう。

中に居た兵士達は、悉く捕らえられていたのだ。


「ええい、どうなっておる

 ワシの命令が聞けんのか!」

「無駄だ」

「誰も来やしないさ」

「はあ…

 やれやれ」


アーネストも騎士も、呆れて溜息を吐く。


「伯爵

 私達が入ってきているんですよ」

「それがどういう意味か、まだ分かりませんか」

「みな捕らえましたぞ」


アーネストと騎士に言われて、伯爵もようやっと事態が飲み込めてきたのだろう。

真っ赤な顔が、今度は青ざめた顔に変わった。

そうして慌てると、彼は素っ裸のまま寝台から転げ落ちる。

そのまま醜い肥満した身体で、這って逃げようとする。


「な?

 ばかな

 ワシの兵士達は?」

「みんな捕らえましたよ」

「部屋の護衛は」

「当然」

「馬鹿な

 あいつ等は腕利きの剣士だぞ

 女房や娘を人質に、何でも言う事を聞いて…」

「そうやってあの二人を、無理矢理従わせていたのか」

「貴様…」

「ひ、ひいいい…」

「この!

 精霊よ

 火の精霊よ…」

「アーネスト殿!」


アーネストが低く唸る様な声で呟くと、素早く呪文を唱え始めた。


「アーネスト殿

 お止めください」

「放せ

 このクズを、文字通り消し屑にしてやる」

「止めてください

 そんな事をしても、誰も喜びませんよ」

「それでもだ

 せめてあの二人は、救われるだろう」

「駄目ですって」

「うわああん」

「ひぐっ」


騎士が取り押さえて、アーネストを引き摺って行った。

それでどうにか、騎士は伯爵を尋問出来る様になった。

伯爵もどうやら、魔法で殺される脅威が去ったと思って胸を撫で下ろしていた。

そして捕らえられていた子供達も、兵士に毛布を掛けられる。


「それで…」


騎士は蔑んだ目で、伯爵を見下ろしていた。

その横には、鎖で繋がれた子供達が居た。

二人共未成年で、まだ年の頃は10歳に満たないぐらいだろう。

そんな男の子供が二人、大人の女性でも恥ずかしがりそうな際どい下着を着せられている。

彼等は伯爵の寝所に、鎖で繋がれていたのだ。

そこで何をさせられていたのか、言わずとも想像は出来ただろう。


「まったく、良い趣味ですな」

「…」


騎士は嫌味で言ったのだが、伯爵は顔を赤らめて俯いていた。


「その為に、貴族の子息を拉致していたのですか」

「全く

 王国の恥だな」


騎士は溜息を吐きながら、首を振った。


「ち、違うぞ

 この子達は献上されたんだ」

「献上?」

「ああ

 ガモンの奴がな、新しい領地を手に入れるという話で

 それに協力してくれるのならと…」


伯爵は観念したのか、べらべらと言い訳を始めた。

しかしその言い訳に腹に据えかねたのか、騎士の顔がみるみる怒りの形相に変わった。

そもそもここには、攫われたギルバートを探しに来ていたのだ。

しかし来てみれば、そこには裸の貴族の子息が鎖に繋がれている。

そしてどうやら、慰み者にされていたのだ。


伯爵の良い訳には、噂のガモンの名が挙がっている。

しかも伯爵の言い様には、彼は新しい領地を手に入れようとしていると言うのだ。

それが何処なのか、アーネストならすぐに推察出来ただろう。

しかし事情を知らない騎士達は、その場所も確認する事にした。


「ガモンとは、ガモン商会のガモンか?」

「あ、ああ

 奴はワシにも利益を分けると言ってな

 ワシの様に選ばれた人間なら、当然その様な資格がある」

「選ばれただと?」

「新しい土地とは?」

「さあ?

 詳しくは知らんが…

 ダーナの子供を捕まえろと言って来たから、恐らくはダーナじゃないか」


騎士は歯軋りをしながら、必死に怒りを堪える。

どうやらこの件には、ガモンも関わっているらしい。

そしてギルバートを攫ったのは、恐らくダーナを狙っての事らしい。

そんな勝手な事が、許される訳が無かった。


「その子供というのは、何処に連れて行った」

「さあ?

 ワシは言われた場所に連れて行かせただけだ

 なあ、ワシは罪にはならんだろう?」

「はあ?」

「罪にはならないとは?」

「ワシはガモンに従っただけだ

 悪いのはそう、ガモンの奴だ

 大体あいつは、商人のくせに選ばれたワシを…」

「歯食いしばれー!」

「あ!

 おい!」

ゴガン!


鈍い音がして、伯爵はベッドに叩き付けられた。

衝撃でベッドの縁が砕け散り、伯爵の左頬が腫れ上がっていた。

二人の男の子は、その光景を見て震え上がっていた。

片方の子は気を失ってしまい、もう一人も泣き出していた。


「あ…

 すまない

 君達が悪いんじゃあ…」

「ああ…

 折角ボクが悪者になったのに」

「すまない…」


アーネストが怯えさせて、騎士が詰問する。

流れとしては上手く行ったのだが、騎士が堪えられる物では無かった。

伯爵のあまりの言動に、彼の我慢の限界が来てしまう。

それで殴っただけで済んだのは、彼が騎士だったからだろう。

兵士であれば、その場で切り殺していたかも知れないだろう。


二人の男の子は、他の騎士が鎖を外して速やかに外へ連れ出した。

その際に替えの衣服も、伯爵のクローゼットから探し出される。

女の子の様な服しか無かったが、それは仕方が無いだろう。

彼等は失禁していたので、衣服を変えてあげる必要があった。


「失敗したな

 先に子供を解放してやれば良かった」

「すまない…」

「やってしまった事は仕方が無いでしょ

 それより、地下室が無いか探してください

 他にも貴族の子供が、行方不明になっているんですよね」

「ああ、そうだな

 すぐに探そう」

「早く救出してあげよう」


騎士達は手分けして、屋敷の中を捜索をした。

伯爵の部屋からは、貴族の子供を奴隷にする契約書等が見付かる。

それはガモンの名前ではなく、他の名前で作られていた。

もし踏み込まれても、見付かっても証拠として残さない為だ。


「なかなか頭が切れるらしいな」

「そうだな

 自分の名前で残していない」

「くそっ

 変に頭が回るんだな」


他にも違法な取引や、犯罪者を匿って雇う指示などが書かれた書類も見付かった。


「この犯罪者って」

「ああ

 あの二人もそうなんだろう」

「犯罪者…か」


指示書をよく見ると、犯罪の内容まで書いてあった。

それはおよそ、犯罪とは呼べない内容である。

上手く罠に嵌めて、犯罪者に仕立て上げる。

そうして家族を人質にして、命令に従わせるのだ。

彼等が必死だったのは、この為なのだろう。


「これは?」

「そもそも、犯罪じゃないのかも知れないな」

「犯罪者に仕立て上げて…

 そうして雇わせていたのか」

「何て卑怯な…」

「他にもありそうだな」

「ええ

 他の犯罪の証拠も…

 これもですね」

「残さず回収するぞ」

「サルザード様に見ていただこう」


調べれば調べるほど、キナ臭い書類が出て来る。

それらを兵士に持たせて、早急に宰相の元へ届ける様に指示を出す。

しかしそうした中にも、ギルバートの行方を掴める様な物は無かった。

後はガモンを締め上げて、吐かせるしか無い様だった。


アーネストが悔しさで歯噛みしていると、階下から地下室が見付かったという報せが届いた。

騎士達と共に、その地下室の入り口へと向かった。

そこは伯爵の執務室から繋がる、薄暗い地下への階段だった。


地下は暗くて、そこからは黴臭い匂いと何かが腐った様な匂いがしていた。

嫌な予感を胸に、アーネストはその階段を下り始めた。

まだまだ続きます。

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