第168話
クリサリスの王城は、国の中心となるだけあって大きかった
数百mにもなる広大な敷地に、700mほどの大きさの城と隣接する建物が建っている
どれも石造りで、堅牢な城塞と兵舎が建ち並んでいる
いざとなったら住民が逃げ込める様に、備蓄や予備の部屋も備えられている
これだけ大きな城なので、当然見回りの兵士も多数配置されている
そうした兵士に見詰められながら、アーネストは城の奥へと案内される
兵士達が詰める、王宮内の警備所を抜けて奥へと向かう
その奥には、200mほどの広さの謁見の間があった
謁見の間に通されると、既に準備がされていて多くの貴族と文官が並んでいた。
その奥に玉座があり、国王であるハルバートが鎮座していた。
ハルバートの隣には王妃であるエカテリーナが座り、両脇には小さな席が設けられていた。
恐らくはそこへ、姫君が座られるのだろう。
今は夕刻なので、こちらには同席していなかった。
本来ならば、この時間の謁見は行われない。
しかし緊急事態という事で、急遽居残っていた文官と貴族が召集された。
そうして略式であるが、急遽謁見が行われる事になる。
しかしこの場には、肝心のギルバートは同席していなかった。
「アーネストよ
こちらへ」
「はい」
「国王様の御前である
静粛にな」
「はい
畏まりました」
「うむ
入られよ」
アーネストは謁見の間に入ると、先ずは深々と礼をしてその場に跪く。
「ダーナ
ガストン老師が弟子である、アーネスト」
「はい
王都民であり、ダーナに移住しておりましたアーネスト
国王様に謁見させていただく為に登城致しました」
「よい
アーネストよ
もう少し前へ」
「はい」
それから国王に促されて、少し前の階段まで進み出た。
そこで再び跪くが、国王はそれを制止させる。
国王はアーネストを、覚えていたのだ。
懐かしそうに、ハルバートはアーネストを手招きする。
「そんなに畏まらなくとも良い」
「陛下!」
宰相が小声で注意するが、ハルバートは構わなかった。
首を左右に振って、彼は再度アーネストを手招きする。
それは並みの貴族にも、許されない行為である。
しかし国王に呼ばれた手前、アーネストも逆らう事は出来なかった。
「良い
ワシとこの子の仲じゃ
そんなに目くじらを立てるな」
「しかし…
他の者に示しが」
「ワシは、良いと言ったが?」
「はあ…」
ハルバートの言葉に、宰相も黙ってしまった。
しかし周りの貴族達は、忌々しそうにアーネストを見ていた。
それは国王が、この少年を特別視する事にあった。
それでアーネストは、マズいと思って辞退をする。
「陛下
申し訳ありませんが、ここは公式の場です
ここは皆様の顔を立ててください」
「うむ?
そうか?」
「はい
今の私は、一介の魔術師でしかありません」
「ふむ
そうじゃのう」
「いずれ力を示すにしても…
ここは皆様の顔を立ててください」
「あい分かった
それでは…
そこで報告を頼む」
「はい」
アーネストがそう言うと、ハルバートは驚いた顔をした。
ほんの少し前までは、駄々をこねる子供だったのにいつの間に成長したのか。
そう思いながらハルバートは、優しい顔をしてニッコリと微笑んだ。
久しぶりに会った、親しき者への優しい笑みであった。
その笑顔に、数人の貴族は苦虫を噛み殺した様な顔をする。
しかし大多数の貴族は、アーネストが他の貴族を立てる様に言った言葉に感心して見ていた。
貴族の者の中にも、そこまで礼儀を通せる者は少ない。
そこを見ても、この少年は侮れないと見ていた。
「先ずは遠いところからの報告を、お許しください」
「うむ
それではそこで良い
顔を上げてくれんか?
しばらくぶりじゃからな」
「はい」
アーネストが顔を上げると、ハルバートはうんうんと頷く。
まだまだ子供だが、強い意思を持った顔になっていた。
それに満足したのか、周囲を見回す。
「そういえば、ギルバートが居らぬが?
てっきりワシは…
ア…あの子と来たと思っていたが?」
「その事なんですが…
御人払いを、よろしいですか?」
「むう?」
「何だと!」
「何と失礼な」
「そうだぞ!
ここで話せない事なのか!」
アーネストの言葉に、周りの貴族達が騒めく。
中にはけしからんとか呟いていたが、国王の手前大きな声では言えなかった。
しかしそれだけ、アーネストの発言は問題があった。
しかし人払いは、実際に必要であった。
「どういう事じゃ?」
「はい
少々面倒な事になりまして」
「それと人払いとは…
関係があるのか?」
「はい
誰が関係しているのか分かりませんので」
「うーむ…」
「小僧!
貴様、我等を愚弄する気か!」
「そうだそうだ!」
「我等が関係するだと?」
「静かに!」
堪らず数人の貴族が、声を出して文句を言い始めた。
それを見たハルバートは、片手を挙げてそれを制した。
「これ
静粛にせんか」
「しかし…」
「あまりに無礼ですぞ」
「申し訳ございません
皆様を疑うわけではございませんが…
名を挙げられませんが、既にお家の名を騙られた方もいらっしゃいます」
「な!」
「何だと?」
「それは何処の誰だ!」
「何者が名を騙っただと?」
アーネストのこの言葉に、先ほど文句を言ってた貴族も驚いた。
貴族の名を騙った者が居るのでは、その関係者が居てはマズい。
しかし迂闊に名前も出せないので、この場は全員が出るしかないのだ。
誰がその貴族の名を、騙っているのか判断が付かないからだ。
「事情が分かっていただいた様ですので、申し訳ございませんが…」
「貴様が語る事が、真実だと言うのか!」
「これ、アルザス卿」
アルザス卿と呼ばれた男は、年の頃は20代半ばほどで、いかにも貴族らしい面構えであった。
アーネストを睨みつけて、帯剣していたならば即切り掛からんという剣幕であった。
周りの貴族達が押さえなければ、国王の前でも掴み掛かっていただろう。
アーネストはその名前を、念の為に覚えておく事にした。
「真実かどうかは、今後の調べで分かるかと思いますが」
「こんな小僧の戯言を、信じる者が居るか
即刻叩き切ってしまえ」
アルザス卿はさらに喚いたが、数人の貴族に取り押さえられて一番に退場させられた。
彼が何を思って、その様な行動を取ったかは分からない。
しかし国王の御前で、その様な軽挙妄動は貴族としては問題があるだろう。
それを見て、他の貴族もしぶしぶと退出を始める。
「仕方が無い」
「しかし我等の名を騙るなど…」
「愚かしい事ですが、一体何者が…」
「しかしここは…」
「うむ
控えの間にて待機しておきましょう」
貴族達はそう言いながら、謁見の間から出て行く。
そうして謁見の間の前にある、貴族の控えの間に向かった。
そこで国王に再び呼ばれるまで、待機しておく必要があった。
貴族である以上は、それも仕事の内になるのだ。
「あ、兵士のみなさんと護衛の方は大丈夫です
ただ、文官の方は…」
「そうだな
宰相のサルザート以外は退出させよう」
「へ?」
「我々もですか?」
「ええ
念の為に、申し訳ございませんが…」
「はあ…」
「致し方ありませんね」
「すまぬがそちらも…」
「はい
控えの間に向かいます」
国王も事態を理解して、文官を退出させた。
彼等も文官用の、専用の控えの間に向かった。
これで残ったのは、国王と護衛の騎士、それと数名の兵士だけとなった。
「それではアーネスト
話してくれるな」
「はい
その前に…」
「むう?」
「呪文を使わせてください
精霊よ
大気の精霊よ
汝が力を持って、この地に沈黙を齎せ給え
静寂の帳」
アーネストは短く呪文を唱える。
「これは…」
「外に会話が聞こえなくさせる魔法です
これなら外で盗み聞きされません」
「なるほど
それは便利だな」
「ふむ
便利ですな」
「後で教えてもらえんかのう?
会談で使えそうじゃ」
「はい
文官の方に伝えておきます」
ハルバートは後で教えてくれと言ってから、改めて話を聞く事にした。
この呪文の有用性は、ハルバートにとっても重要だった。
誰か使える者が居れば、会談の機密性が保たれる。
だからアーネストに、それを教えて欲しいと願ったのだ。
「それでは
先ずは…」
アーネストは事の顛末を語る。
リュバンニに逗留して、バルトフェルドから王都へ報せが届けられた事。
王都から迎えが来て、それに乗って王都まで来た事。
王都の城門で交代に来たと言う兵士が待ち構えて居て、その者達にギルバートが連れ去られた事。
その馬車が行方不明で、王城の門番に事情を話した事まで伝える。
「うーむ
その様な事が…」
「ハルバート様」
宰相が小声で呟き、衛兵からの報告を告げる。
先に伝えられていたが、報告が済むまで待っていたのだ。
それは伝えられた報告に、整合性があるか確認する為だ。
それが確認出来なければ、アーネストの発言の信憑性が無くなるからだ。
「その者達はどうやら、私の名前も使っており
私からの指示という事で、ギルバート殿を迎えに行っていた様です」
「そうか…」
そこでアーネストは首を傾げて、ハルバートに確認をする。
「陛下はそのう…
私達の到着は?」
「聞いておらんな」
「はい
私も伺っておりません」
「となると、伝言の使い魔も…」
「そんな物まで使っておったのか?」
「はい」
「そうですな
魔物の侵攻が終わった後も、何度か来ておりました
しかしここ数日は…」
「でしたら
何者かが使い魔を捕らえて、こちらへの報告を途絶えさせていた…」
「恐らくは」
「ぬう
一体何者が…」
ハルバートは唸りながら拳を握り締める。
ギルバートを拉致された事もだが、それ以前にダーナと王都での情報を遮断されていたのだ。
これは由々しき問題であった。
国王の信頼も裏切る行為である。
それを行った者は、重罪として処罰すべきであった。
「それでは、手掛かりは無いのか?」
「それなんですが
兵士達の報告では、エストブルク卿の兵士と名乗っていたと」
「エストブルク卿の?
しかし彼は、王都に兵士は持っていないだろう」
「はい
屋敷はございますが、常駐ではございません
ですから兵士は…」
「それではその兵士と言うのは、一体何者の私兵なのじゃ?」
エストブルク卿は小さな町の領主であり、王都に邸宅を持つほどの身分では無かった。
男爵にはなれたが一代限りだし、そこまでの財力も無いのだ。
それで貴族街に小さな屋敷を持つが、兵士を常駐させる程では無かった。
だから彼の兵士というのも、間違い無く嘘であるだろう。
「恐らくは、名前を騙られたのかと…
しかし彼が犯人では無い事は、確かでしょう」
「そうだな…」
「ええ
何処の者なのか…」
ここまでの事をするのだ、それなりの力を持った貴族であるのは間違いがない。
王都に私兵を連れて来るのは、それなりの権限がある者に限られる。
勝手に私兵を連れて来れば、叛意があると取られても仕方が無い。
だから私兵を抱えている貴族しか、その様な事は出来ないだろう。
問題はそれは誰かという事と、何の目的があってかという事であった。
相手はギルバートの名を知っている。
そして理由までは知らないが、登城する事も知っていたのだろう。
しかし攫った目的が何なのか、それが分からなかった。
「誰が、何の為に…」
「あの話が漏れたとは考えられません」
「ええ
私も使い魔には、その事は記しませんでした」
アーネストも念の為に、王都に向かう事しか記さなかった。
だからギルバートが王都に向かった事は知られても、その理由までは知られていない筈だ。
恐らくはギルバートが、廃嫡した事までしか知られていない筈だ。
少なくとも、彼の本当の素性までは知られていないだろう。
「その使い魔は、どうやってこちらに?」
「普通の鳩と同じ様に、こちらのヘイゼル様に宛てて飛ばしました」
「ヘイゼルか
なら、届けば報告は上がる筈だな」
「ええ
そうなる筈です」
「使い魔もそれなりの力を持たせています
空を飛んでいるので、魔物にもやられたとは考えられません」
「そうなると、王城に着いてからになるか」
「そうですね」
そうなると、城の警備の者の中にも犯人の仲間が居る事になる。
そうで無ければ、王城に着いた使い魔を捕まえる事は出来ない。
そう考えれば、王宮の警備の問題にもなる。
その様な者達の仲間が、この王宮の警備に就いている事になるのだ。
「これは弱ったな」
「はい
思ったよりも根が深いですな」
「ギルバートは王城には入っていません
そうなると、途中の貴族街に捕らわれている可能性が高いです」
「そうだな」
「そうなると、貴族街に屋敷を持つ貴族が怪しい事になる
それで人払いですな」
「はい
それと指示を出した者を考えると、文官にも繋がりがあるかと」
「うぬう
そうなるのか」
「くっ
これは由々しき事態ですな」
「ううむ…」
アーネストの答えに、宰相も唸るしか無かった。
こうなると捜索の指示も攪乱されたり、虚偽の報告が上がる可能性が有るからだ。
しかし、捜索の指示は出さなくてはならない。
ギルバートを無事に、見付けなくてはならないのだ。
「そうだな
そうなると…」
「いよいよ手詰まりですな…」
「そうでも無いですよ」
「え?」
「うん?」
アーネストは苦笑いを浮かべながら、策があると告げた。
それは予想外な物であった。
「奴等が王家の紋章を付けた馬車を奪ったのは確実です
それなら、奴等が隠してある場所を見付ければ良いんです」
「しかしそうは言っても、貴族街は広いぞ」
「そうですよ
どうやって探す気なんです?」
「それは魔法を使えば
何せ私は、魔導士ですから」
アーネストはニヤリと笑い、すぐに貴族街に捜索に出ると告げた。
馬車を見付ける様な、便利な魔法など存在しない。
しかし魔法を上手く使えば、ギルバートの居場所も探せるかも知れない。
問題はそれには、アーネストの同行が必要だという事だ。
「時間がありません
こうしている間にも、ギルの…
ギルバートの命が危険かも知れないんです
何せギルは、武器を全て馬車に置いて行ってるんです」
「そうだな
いかに腕が立つと言っても、まだ子供だ」
「それに武器が無くては、抵抗も出来ないでしょう」
「それでは、陛下にはお願いがございます」
「うむ
何だ?」
「兵をお貸し頂きたいのです
私では、兵士に囲まれては敵いませんですから」
「うむ
分かった」
ハルバートは宰相を見て、宰相もそれに頷く。
宰相は直ちに、兵士に向かって指示を出す。
「直ちに準備を整えて、彼と一緒に貴族街に向かうのだ」
「はい」
兵士は返事をすると、慌てて謁見の間を出て行った。
その姿を見送ってから、アーネストは具体的な話をし始めた。
それはこの話を、兵士にも聞かせたく無かったからだ。
彼は疑いたくは無かったが、この兵士の中にも仲間が居る事を懸念していた。
数十分後、兵士は8名の部下を引き連れて謁見の間に到着した。
この様な捜索では、大人数では警戒されてしまう。
それで少数精鋭で、少ない兵士を集める事となった。
「用意が完了しました」
「うむ
頼んだぞ」
「はい」
兵士は敬礼して、アーネストの前に来た。
ここからはアーネストが、指示を出して捜索する事となる。
彼等の隊長も、それを考えてアーネストに指示を伺う。
「それではご案内いたします」
「ええ
頼みます
何せ私は、ここは分からないので」
アーネストは兵士に先導されながら、謁見室を出た。
アーネストは兵士達に、この王都の事は詳しく無いと告げる。
そのまま長い回廊を進み、やがて違う建物に進む。
それは入って来た方向とは、違う建物の中だった。
「おや?
ここは来た場所とは違うね?」
「そりゃあそうさ
ここは人気が無い場所だからな」
「そうそう
ここは避難民を収容する建物だ
お前を殺すには、お誂え向きな場所だ」
「ふふふ
覚悟するんだな」
そう言いながら、兵士達は剣を引き抜く。
「おいおい
これはどういう事だ?」
「はははは
こいつは馬鹿なガキだ
何で自分が死ぬかも知らない様だ」
「貴様はベルモンド様に逆らったんだ
楽に死ねると思うなよ」
「ベルモント?」
男達は、下品な顔を歪ませて笑っていた。
兵士だと思っていたが、どうやら違う様だ。
彼等は捜索に向かう兵士に扮して、まんまとアーネストを連れ出した。
そしてこの場で、アーネストを始末しようとしているのだ。
「おかしいな?
陛下から捜索に駆り出された兵士だと思ったが?」
「そりゃあ無理さ」
「何せ見付けられちゃあ困るからな」
「なるほど
そのベルモンドとやらが、今回の黒幕か」
「そういう事だ」
「おい、喋りすぎだぞ」
「なあに、こいつは魔術師だ
呪文さえ唱えられなければ何も出来ない
おっと、動くなよ」
男はそう言いながら、剣を構えてアーネストの前へ出て来る。
呪文を唱える前に、手足でも切り落とそうという考えなのだろう。
傷付けられて悲鳴を上げれば、呪文を唱える暇など無いだろう。
彼等はそう考えて、剣を構えてアーネストを囲む。
「やれやれ、参ったな」
「ぎゃははは
呪文を唱えれなければ、お前は何も出来ないだろう」
「なあ」
「ああん?」
「教えてくれよ
何でギルを狙ったんだ?」
「あの小僧か?」
「ああ
せめて死ぬ前に、理由ぐらいは知りたいだろう?」
「ふはははは
そうだな」
「せめて冥途の土産に教えてやるか」
アーネストは後生だと、兵士に狙いを聞く事にする。
このまま何も知らないで、死ぬのは嫌だと思ったのだろう。
それで兵士達は、上機嫌でその答えを告げる。
「あいつはダーナの領主の息子だそうだな
そいつを殺せば、後はフランドールとか言う奴だけだ
そうなれば…」
「おい」
「おっと
そうだな
これ以上のお喋りは…」
男が剣を振りかぶる。
「先ずは腕からが良いかな?
それから運び出して、後は切り刻んで…」
「聖なる防護」
ガキン!
「ああん?」
しかし男の剣は、アーネストの目の前で阻まれた。
薄水色の光が、アーネストの周りを包んでいた。
「何だ?
これは?」
「プロテクション・フィールド
ボクだけしか守れないが、貴様の剣ぐらいならこれでも十分だ」
「な!」
ガン!
ガキン!
男達は慌てて、一斉に剣で切り掛かる。
しかし謎の発光する球体が、アーネストの周りを囲んでいる。
そしてその光球が、兵士達の剣を阻んでいた。
彼等は焦るが、その剣は悉く阻まれていた。
「くそっ
くそお!」
「何故だ!
なんなんだ!」
「こんな筈じゃあ…」
ガギン!
ギャキン!
男はさらに切り掛かるが、剣は光の壁に遮られて打ち込めなかった。
周りの男達も打ち掛かるが、その度に光の壁に遮られて剣は届かなかった。
それで男達は、諦めて逃げ出そうとする。
「くっ
ずらかるぞ」
「くそっ
失敗だ」
「話と違うぞ
簡単な仕事じゃ無かったのか?」
「そうは行かない
そろそろ出て来て下さい」
「はい」
建物の入り口から声がして、騎士達がなだれ込む。
12名の騎士が、鎌を構えて賊の周囲を取り囲んでいた。
彼等は事前の打ち合わせ通り、陰に隠れて待機していた。
そうしてアーネストの、合図を待っていたのだ。
「な、何だ!」
「お前が密偵だとはすぐに分かった
何せあの場所で、ニヤニヤしてたのはお前だけだったからな」
「な!」
アーネストは敵の手の者が居ると気付いて、一芝居打ったのだ。
そのお陰で、こうして賊を罠に掛ける事が出来た。
そして彼等から、ある程度の情報を引き出せた。
その為にアーネストは、敢えて賊の罠に嵌ったふりをしたのだ。
それも危険が無い様に、事前に呪文を唱えておいたのだ。
それで結句を唱えれば、いつでも防壁が出せる様にしておいた。
彼等が普通の剣しか、帯剣していない事を確認していたのだ。
だから防御できると、アーネストは確信していた。
「くそっ
何でバレたんだ」
「お前…
察しも悪いが、頭も悪いんだな」
「何だと!」
「自分で気が付いていなかったみたいだが…
あの場でニヤニヤしてたら、そりゃあ誰でも疑うだろ」
「な…」
男は狼狽えて、周囲に逃げ場が無いか見回す。
しかし騎士の方が人数も多いし、逃げ場も見当たらなかった。
さすがに騎士が相手では、彼等も勝ち目は無かった。
「誰か急いで、ベルモンドとやらの屋敷を捜索させてください」
「はい
しかし相手が貴族ですので、すぐには…」
「でしたら、先ずは国王様にお伝えください」
「はい」
騎士の一人が、急いできた道を引き返して行く。
その間に賊は取り押さえられて、騎士達によって捕縛されていった。
「くそお
オレ達はベルモンド様の兵だぞ」
「そうだ
オレ達に手を出す事が、どういう事か分かっているのか」
「黙れ!
貴様らこそ陛下の命に逆らい、こんな事を仕出かしたんだ
どうなるか…
分かっているだろうな」
「ぐ…」
騎士に凄まれて、賊の男達は黙った。
彼等の腕では、騎士には敵わないだろう。
「アーネスト殿
ありがとうございました」
「これで手掛かりがえられました」
「いえ
早くギルを見つけ出してやらなければ…」
「そうですね
いくら魔物と戦ったとはいえ、まだ子供ですからね」
「ええ
暴れて貴族を殺してなければ良いんですが…」
「え?」
アーネストの言葉に、騎士達は固まってしまった。
「えーっと…
ギルバート殿はそのう…
武器は持っていないんですよね?」
「え?
ああ
武器が無くても、腕力はかなりありますから…
下手に武器を持って対峙すれば、逆に奪われて反撃されますよ」
「へ?」
「何だと?」
「そんな馬鹿な事が…」
それを聞いて、騎士だけでなく賊の男達も驚いていた。
「子供…
なんですよね?」
「ええ
私と同じぐらいの
でも、魔物を倒せるんですよ」
「魔物…」
「魔物って、あの魔物?」
「ああ
その魔物を倒しているんだ
それもオーガやワイルド・ベアといった、大型の魔物をな」
「大型の…」
「魔物?」
アーネストの言葉に、騎士達は改めて驚き、唾を飲み込んでいた。
子供だというのに、そんなに腕が立つのかと。
それでは彼を捕らえた者達は、無事では済まないだろう。
それは確かに、早く見付けなければならなかった。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。




