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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
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第165話

ギルバートはバルトフェルドに、竜の背骨山脈であった出来事を語った

隊商に出会い、いきなり攻撃されそうになった事

その隊商の主であるダブラス共々、ならず者と化した兵士達を殺した事

その死体や荷物を焼いて、その場に埋めて証拠を隠した事を話す


そして他の隊商に出会って、行方不明になった隊商がいる事を知った事も話す

それによって、ダブラスが隊商の人間を奴隷にしていた事も判明した

そういった事を報告して、国王にも同様の報告をして相談すると伝えた

バルトフェルドは頷くと、そうした方が良いと賛成する


バルトフェルドは全てを聞いた上で、国王から話があるまでは黙っていると約束する。

彼がそれを迂闊に話せば、ガモン商会も警戒を強めるだろう。

そうならない為にも、国王が何か対策を取るまでは黙っていた方が良いだろう。

国王が本気で動けば、他の貴族も従うしかない。

彼はそれ程に、王都では力を着けているのだ。


また同様な野盗行為をしている者が居ると判断して、その辺も調べてみると約束してくれた。

バルトフェルドほどの貴族が調べれば、ガモン商会の裏の顔も調べられるだろう。

その上で国王に状況を報告して、処罰を検討していただく。

それを聞いてギルバートも安心して、バルトフェルドに任せる事にした。

残る問題はその原因になっているであろうガモンと、その後ろ盾になっているであろう貴族だ。


「もう一つ問題があります」

「もう一つ?

 砦の内乱の事か?」

「はい」


これは既に報告が上がっており、兵士も知っていた。

しかし問題になるのは、その両方がバルトフェルドの知っている貴族なのだ。

片方はガモンの息子のダモンと、もう一方はフランドールである。

特にフランドールは、バルトフェルドの義理の息子になる。

だからこの問題は、彼にとっても重要な問題であった。


「砦の指揮者であるダモンですが…」

「ああ

 そういえば、奴はガモンの息子の一人だったな」

「ええ

 その様ですね」

「それで権力を笠に着て…」

「うむ

 困ったものだ」


バルトフェルドは、苦虫を嚙み潰した様な顔をする。

先の話にもあった様に、ガモンの一族は善くない噂ばかり聞く。

ギルバート達が話をするという事は、きっと善くない話だろう。

これもきっとそうだろうと予測して、バルトフェルドは溜息を吐いた。


「砦に町が出来た経緯は、ご存知でしょうか?」

「ああ

 君も聞いたのかね?」

「はい

 父上は仰りませんでしたが、アーネストが知っていましたので」

「そうか…」


そもそもが砦が出来た経緯も、多少強引な取引があった。

バルトフェルドもその件に関しては、巻き込まれているので知っている。

フランドールの親権を認める代わりに、砦の建設を認めさせられたのだ。

バルトフェルド自身は、砦の必要性は感じていなかった。

しかし貴族の半数近くが、交易の為に必要だと主張していた。


「なら話は早い

 そもそもが砦を建てる事自体が、必要性が無くて…」

「そうですよね

 何でまた…」

「元々が奴が、貴族になりたいと言い出したのが始まりでな…

 はあ…」

「貴族にですか?」

「うむ

 何を考えていたのやら…」

「それは当然、貴族の利権が欲しくてでしょう?」

「だろうな」

「利権?

 そんなに欲しいものなのか?」

「ギルバート殿?」

「はあ…

 ギル、お前なあ…」

「ん?」


貴族の利権とは、収入以外にも様々な特権がある。

それを勘違いして、欲しがる一般人は割と多いのだ。

貴族が好き勝手しても、何とかなると勘違いしているのだ。

そんな事は無いのだが、勘違いして貴族になりたがる者も少なくは無い。


「貴族は好き勝手出来る

 そんな勘違いをする者は多い…」

「そうかなあ?

 大変だと思うのだが…」

「そりゃあ貴族だからな

 その辺を知っているだろう

 しかし領民からすれば…」

「そんな事は知らんだろうな」

「へえ…

 そうなのか?」

「ああ

 だから貴族は、楽して暮らしていると勘違いするんだ」

「そうじゃな

 領民を守ったり、暮らしを良くしようと色々と考えねばならぬ

 それを知らずに、貴族になりたいと申す者は多い」

「はあ?

 そうなんですか?」

「ああ

 ダモンの奴も、そうなんだろうな」

「うむ

 それで貴族の姓と、土地を求めたのじゃ

 それが砦を利用した、町の勝手な建造…」

「まあ、普通はそんな事は出来ないな」

「そうなのか?」

「そうなのかって…

 普通は金も掛かるし、土地だって簡単に手に入らない」

「奴は勝手に町を作り、そこを自治領として治めると言い出した

 勿論、国王様はお怒りになり、反対する貴族も多数居た

 しかし…」

「有力貴族達が賛成した

 それがバルトフェルド様という訳だ」

「そうだ

 業腹だったがな、フランドールの親権もあったからな」


フランドールを引き取るに当たり、ガモンは注文をして来た。

それがダモンの叙爵を、後ろ押しする事だった。

バルトフェルドは不満があったが、頼まれたのは叙爵の申し出だけであった。

だからこそ、バルトフェルドはそれを了承した。

それが後程、どの様な問題を掲げるかは知らなかったのだ。


「ワシは叙爵の手伝いだけであった

 しかしなあ…」

「他にも巻き込まれた貴族が?」

「そうじゃなあ

 巻き込まれたというか、加わったというか…」

「利権を餌にですか?」

「ああ

 ガモンの息子が砦を造る

 それもダーナと王都を結ぶ、竜の背骨山脈を守る為の砦じゃ」

「砦の建造が完成すれば、税の収入も見込める」

「税?

 まさかそれが欲しくて…」

「ああ

 その様じゃな

 そんな甘い話は無いのじゃが…」

「その貴族達が、ガモン商会の後ろ盾でしょうか?」

「そうだ

 奴等が着いているから、国王様も困っている」


バルトフェルドは苛立った様子を見せ、拳を握り締める。

確かに税が貰えるのなら、それは貴族にとっても美味い話だ。

しかし実際の税収は、ほとんどがダモンの懐に入る。

それで弱小貴族は、約束を反故にされたと怒っていた。

しかし騒いだところで、ガモンの息子には他にも大物の貴族が着いている。

結局は利用されるだけ利用されて、使い棄てられた貴族も多かった。


「ワシも貴族の一人ではあるが、奴らの様な誇りも無い様な事は許せん

 奴等は金品を受け取り、ガモンに媚を売っている

 中には既に、ガモンによって領地を売っているいる者まで居る」

「所領を売る?

 そんな事が許されるのですか?」

「ああ

 実際に売るわけでは無い

 ただガモンの息の掛った連中に、好き勝手させているだけだ

 それでも、住んでいる住民には良い迷惑だがな」

「そんな事が許されるのですか?」

「許されない事だが…

 証拠が無いとな」

「証拠を示そうにも、領主が握り潰すからな

 その為に借金や弱みを握られているんだ」


バルトフェルドは実際に、ガモンの息子が治める領地を示す。

そこが現在、どうなっているかも説明をしてくれた。

ガモンの息子達の全てが、貴族になる事は難しい。

だからそういった息子達が、その領地に住み着いて好き勝手しているのだ。


「王都の東にあるムーロだが、ここは男爵が治めていた

 しかし今では、ガモンの息子のラモンが治めていると言って良い」

「ラモンですか…」

「また似た様な名前だな」


また似た様な名前が出て来て、ギルバートは混乱しそうになる。

考えてみれば、ダブラスも似た様な名前だ。

もしかしたら親族かも知れない。


「そこではガモン商会が牛耳っていて、他の商人は苦しい生活をしている」

「そうなんですか」

「また、逆らう者は不当な逮捕をされて、碌に調べずに裁かれているそうだ」

「そんな

 そんな勝手な事が、許されるのでしょうか?」

「ああ

 普通は許されないだろう

 しかしあそこでは、それがまかり通っていると聞く」

「領主が逆らえないからな

 それで好き勝手にしているんだろう」

「他の貴族の方は、何も仰らないんでしょうか?

 それに国王様も…」

「そうだな

 再三注意や警告は出されているが、今のところ改善はされていない」

「何故です?」

「さっきも言ったが、そこの領主がガモンの手下になっているんだ」

「他にも借金を背負わされたり、弱みを握られた者も居る

 そういった者達は、ガモンには逆らえない」

「そんな…」

「あとな、他の貴族だが…

 弱小貴族は有力貴族に睨まれては、自領の存続にも関わってくる

 迂闊な事は言えないんだ」

「黙って指を咥えていろ

 そういう事ですか?」

「いや

 既に調べてはいるんだ

 しかし証拠が上がらなければ、勝手な事は出来ないだろう

 それは国王様でも同じだ」


要は証拠が上がれば良いのだ。

そうすれば堂々と、表立ってラモンを処罰出来る。

だが問題は、その証拠集めが難航している事だった。

被害に遭った貴族も、中々に証言をしたがらない。

ガモンに睨まれては困るので、証言を拒否しているのだ。


「証拠ですか」

「ああ

 だが、中々に手強い

 ウチの連中も密偵に入っているが、思ったような証拠が見付からない」

「でしょうね

 なんせガモンは商人ですからね

 睨まれては色々と困るでしょう」


商人としての力もあるので、力の無い貴族では逆らえない。

下手に逆らえば、自領に商人が来なくなってしまう。

それで被害を受けた者達も、ガモンには逆らい難かった。

バルトフェルドは渋面を作って、事が進まない事を悔しがる。


「なら、ノルドの砦の事を話しても…」

「それは違うぞ」

「そうだな

 あれは状況が違うからな」


ギルバートはノルドの町の事も、有耶無耶にされると思っていた。

これまでの事が誤魔化されるなら、ノルドの砦の件も誤魔化されそうだ。

しかしバルトフェルドは、そうならないと断言した。


「確かに、今までは無理だったさ

 町は表向き、上手く統治されていたからな」

「だったら何故?」

「領地の主である、ダーナに反旗を翻したからさ」

「それが?」

「それが重要なんだ

 これまでは逆らっても、アルベルトは我慢していた

 しかしフランドールは…」

「内戦を始めましたからね」

「それがどう違うと言うんです?」


これまではなんだかんだと言っても、ダモンはダーナの指示に従って来た。

しかし今回は、公然とダーナに侵攻すると言ったのだ。

こうなれば、ダーナも黙ってはいない。

それが真実であれ虚偽であれ、内戦が始まっているのだ。

それは国王が、王国の軍を動かす口実にもなる。


「ガモンは何とか、自分の息子だけでも助けようとするだろうな…」

「でしょうね」

「しかし、今回は無理だろう

 何せダモンが先に軍を起こしたのだ、言い訳は出来まい」

「ええ

 国軍も動くでしょう」

「そうなれば、如何なダモンでも…」


バルトフェルドの言葉に、ギルバートは納得して頷いた。

先に仕掛けたのはフランドールであったが、実際に軍を動かしたのはダモンであった。

それを逆手に取って、フランドールは内戦を鎮める為にと軍を動かした。

このままフランドールが勝てば、内戦は無事に鎮まるだろう。

しかしアーネストは、何かを考え込んでいた。


「そうなれば、フランドール殿が軍を出していますから

 このまま制圧でしょうね」

「ああ

 あいつなら、そこいらの軍にも引けを取らない」

「そうでしょうか?」


そこでアーネストが発言して、バルトフェルドが顔を赤くした。

アーネストの発言を聞いて、フランドールの力量を疑われたと思ったのだ。

しかしアーネストは、そんな事を考えていなかった。

むしろフランドールが、誘われて軍を動かしたと感じていた。


「フランドールでは駄目と申すか」

「いえ

 そのダモンがどれほどの物か知りませんが、事が簡単過ぎます」

「ん?」

「ダモンとやらの力量は知りませんが、簡単に軍を挙げるのでしょうか?」

「そうか?」

「ダモンは父上に反発していたんだろ?

 それなら後に着いた、フランドール殿にも何か思うところが…」

「それだけかい?」


アーネストの言葉に、二人は首を傾げる。

いくらダモンが反抗的でも、あまりに簡単に軍を起こしている。

それは裏返せば、勝てる見込みがあると踏んでいる。

アーネストはそう考えているのだ。


「今まで従順なふりをしていたのは、ダーナに勝てないと思っていたからじゃないのか?」

「そりゃあそうだろう

 森の小さな町と、辺境とはいえ領主を持った街だ

 敵いっこ無いだろう」

「だからだろう

 なんでダモンは、このタイミングで挙兵したんだ?」

「そういえば…」

「勝てる自信があると?

 そういう事なのか?」

「確証はありませんが…

 その可能性はあるでしょう」


アーネストの問いに、二人は即答出来なかった。

散々悩んで、ギルバートは一つの言葉を思い出した。


「そう言えば、奴はこう言っていたな

 フランドール殿が町を寄越せと言っていたとか」

「それだな」

「どういう意味だ?」


アーネストはそう言うと、ガモンの思惑を想定してみた。


「フランドール殿に町を寄越せと脅されて、止む無く挙兵した

 こう話せば、同情を得られると踏んでいるんだろう

 あわよくば、ダーナもせしめると」

「え?

 そんな理由で」

「そうだぞ

 あいつは一警備隊長で、本来は自治領の権限も無い

 それが領主に逆らって、赦されると思うのか?」

「思いませんが、奴等は思っているんでしょう」

「という事は…

 国軍が味方に着くと?

 そう思っているのか?」

「ええ」


アーネストの言葉に、改めてギルバートは呆れていた。

その統治理由や行動もそうだが、考えがあまりにも自分勝手過ぎる。

そんな理屈が通ると、本当に思っているのだろうか?

国王の軍が、本気で自分に味方するとそう考えているのだろうか?


「それに…」


アーネストは一旦言葉を濁し、ギルバートの方を見た。

それから意を決して、言葉を続ける。


「バルトフェルド様には申し訳ありませんが

 今のフランドール殿は、些か領主には向かないかと思います」

「アーネスト!」

「フランドールが?

 何故そう思うのだ?」


バルトフェルドは険しい表情をするが、何とか堪えて言葉を待った。

それを確認してから、アーネストは言い難い事を告げた。


「フランドール殿ですが、どうやら…

 ギルに嫉妬しています」

「嫉妬?」

「ええ

 それも執着するほどに」

「がはははは

 まさか、そんな…」


バルトフェルドは笑っていたが、アーネストはの眼は笑っていなかった。


「本当…なのか?」

「ええ

 もしかしたら、殺そうとまで思っているかも…」

「アーネスト!

 もう止せ!」

「良い

 話してくれ」


ギルバートは止めようとするが、バルトフェルドはそれを制して話を促す。


「先ず

 フランドール殿と魔物との戦いの事になります」

「うむ」

「アーネスト

 マズく無いのか?」

「良いから」


ギルバートは、はらはらしながら二人が話すのを見ている。

それを意識しながらも、アーネストはバルトフェルドに全てを話そうとしていた。


「フランドール殿ですが、魔物に対してはそこまでは戦えませんでした」

「当然であろう

 あ奴は騎士ではあるが、魔物との戦闘はそこまで経験が無かった」

「ええ

 実際に戦ってみて、彼もそれを感じていたでしょう」

「しかしダーナには強力な魔物が多く居たと聞いておる

 そこで修練を積めば…」

「ええ

 確かに強くはなっています

 強くは…」

「何だ?

 その歯に衣着せる様な発言は」


アーネストの言葉に、バルトフェルドも何かを感じる。

確かに強くなってはいるが、問題がある。

そう言葉の裏には隠されている。

バルトフェルドはそれを感じて、アーネストの言葉の続きを待つ。


「ギルは…

 ギルバートはまだ11歳です」

「うむ」

「フランドール殿は23歳でしたよね?」

「ああ」

「その半分にも満たない年齢の子供が、自分が敵わない魔物を狩るんです

 バルトフェルド様ならどうしますか?」

「うん?

 どういう事だ?」

「プライドが…傷付きませんか?」

「…」


そこまで言われて、バルトフェルドも考え込んだ。

確かにそう言われれば、その状況では腹も立つだろう。

しかしだからと言って、それが何だというのだろう。


「アルベルト様や国王様の様に、同期の仲間ではありません

 自分が全盛期の頃に、その半分にも満たない年齢の子供が…

 魔物を狩っているんですよ?

 悔しくありませんか?」

「それは…」


ここでアーネストは一旦言葉を切り、バルトフェルドに考える時間を与える。

バルトフェルドは暫く黙考してから、頷いて言葉を促す。


「それは分かった

 だが、それだけで殺そうとするのか?」

「はい

 確かにそれだけでは、殺意は沸かないでしょう」

「そうだろう」

「しかし今のフランドール殿は、選民思想に毒されています」

「何!

 フランドールがか?」

「はい」


これには確証は無かったが、確かに言動に変化があった。

それが選民思想の影響というならば、それには筋が通っていた。

彼はギルバートに対して、自分が選ばれた者では無いという劣等感を抱いていた。

それでギルバートを始末出来れば、自身の方が選ばれた者だと考えていた。

その考え方が、彼の言動の端々に見られていた。


「ダーナの領主に選ばれた自分ではなく、住民はギルに信頼を寄せています

 そして魔物に対しても、自分が敵わなかった魔物をギルが倒してしまいました」

「それは…」

「そういった事が重なり、徐々に嫉妬は憎しみに膨らみ…

 やがてそれは殺意に育って行きました」

「うーむ…」

「だからこそギルを倒せれば…

 今度こそ自分が、選ばれた者だと証明出来ると…」

「そんな簡単なものなのだろうか?」

「いいえ

 違うでしょう

 ですが彼は…」

「そう考えていると?

 あのフランドールがか?」

「ええ」

「ううむ…」


バルトフェルドはそれを聞き、黙って唸っていた。

ギルバートはそれを心配して、フランドールをフォローしようとした。

ギルバートとしては、まだフランドールを嫌いになれなかった。

しかしバルトフェルドは、その言葉に何かを感じていた。


「あのう

 私はフランドール殿の事を嫌ってはいません

 寧ろ兄が出来た様に感じて…」

「そうか

 それは嬉しい事だが…」

「事だが?」

「その性格…

 それなんだろうな」

「え?」


バルトフェルドはそれを途中で制して、予想外の言葉を告げた。


「確かにな

 これならフランドールも、敵わないと嫉妬するだろうな」

「ええ」

「へ?」


二人は妙に納得したが、ギルバートは分からなかった。

困惑しながら二人を交互に見ていた。

それはギルバートが、あまりに素直だったからだ。

彼がもう少し、人の醜いところを知っていれば…。

あるいは違う感想を抱いていただろう。


「それでは…

 フランドールは上手くやれていないのか?」

「はい

 住民からも不満が上がっていました

 それなら恐らく、ガモンの主張も通り易くなるでしょう」

「そうだな

 それは確かに、マズいかも知れん」


住民の掌握も出来ない内に、所領の中で反乱が起きている。

そこを突付かれれば、今回の内乱の原因もフランドールの原因にされかねない。

ダモンもそう考えたからこそ、挙兵してダーナに戦を仕掛けたのだ。

仕方なく挙兵して、町を守ろうとした。

その様な筋書きを用意していたのだろう。


「知らせてくれてありがとう

 直ちにフランドールには伝えて、対策を取らせよう」

「そう簡単に行くでしょうか?」

「うむ

 事は思ったよりも、マズい状況かも知れないな

 しかし、黙って見ているワケにもいかんだろう?」

「ですが…

 素直に聞くと思いますか?」

「うぬう…

 確かにな」

「平時なら兎も角…

 今は内戦をしている途中ですよ?」

「ワシの言う事でも…」

「聞かないでしょうね」

「そう…か

 やるだけやってみる

 それで駄目ならば…」


バルトフェルドはそう言って、ベルを鳴らして兵士を呼ぶ。

すぐに羊皮紙にメモを取り、それを渡して届ける様に手配する。

ここから伝書鳩を飛ばせば、3日ぐらいでダーナには届くだろう。

それが無事に、フランドールの元へ届けば良いのだが。


「色々報せてくれて、助かったよ」

「いえ

 こちらも思惑が無い訳ではありませんから」

「ふむ

 それもそうだな」

「彼が言う事を聞かなければ…」

「うむ

 国王様にも話すさ」

「その時はお願いします」

「はあ…

 仕方が無いな」


二人はニヤリと笑って、不気味な笑いをする。

本来ならば、ここでフランドールを助ける為に奔走するところだろう。

しかしバルトフェルドは、思ったよりも貴族であり領主である。

領民の事を一番に考えて、彼は策略を巡らせる。


「ふふふふ

 お主も色々考えている様だな」

「いえいえ

 バルトフェルド様ほどでは

 ふふふふ」

「何か…

 二人共怖いんですが」

「ん?」

「ああ

 ギルにはこういうのは、無理だからな」


アーネストもギルバートを一番として、色々と画策していた。

バルトフェルドもそれを理解して、ニヤリと笑っていた。

二人の思惑は、微妙に違っている。

しかし内戦を早期に終結させるという点では、意見は一致していた。

だからこそ今は、協力しようと考えている。


「ガモン商会とダモンの件は報告しますが、フランドール殿の事はお任せします」

「ああ

 こちらで何とかしよう」

「その代わりに、国王様にはよしなにお話します」

「ああ

 ワシは代わりに、ガモンの内情を調べておく」

「ええ

 お願いします」


それで話は済んだので、後は最近の王都の話などを肴に、宴席の料理を楽しむ事になった。

最初に干し肉と新鮮な野菜のサラダや、豚のステーキが出ていた。

野菜と鶏肉のスープが出たところで、フランツと奥方は下がってしまった。

なので今は、残りの料理が運ばれて来る。


その後に出て来たのは、香辛料で下味を付けた燻製肉と、去年取れた葡萄で造った葡萄酒であった。

それが出た後に、地元で採れた木の実や干した果物が出た。

ギルバートは酒が苦手だったので、木の実や干した果物を喜んで食べていた。

それを横目に、アーネストは子供だなと首を振る。


「アーネスト殿は酒も強いのだな」

「ええ

 アルベルト様に付き合わされていましたから」

「なるほど

 あれも強かったからな」

「え?」


ギルバートがそれを聞いて、驚いた顔をする。

アーネストがそんなに、父親と飲んでいたとは知らなかった。

少なくとも、夜にそんなに来訪しているとは知らなかったのだ。


「ああ、そうか

 ギルはボクの、裏の顔を知らないからな」

「それはどういう…」

「よく呼び出されては、領地経営の話を聞かされていたんだ

 その席で、葡萄酒は必然だからな」

「そうだな

 難しい話をするには、酒でも飲まんとな」

「ええ

 難しい話ですからね

 ふふふふ」

「そうじゃな

 はははは」


二人は高笑いをしながら、楽しそうに酒を飲む。

それを見ながら、ギルバートは不満そうに呟く。


「こんな苦い物を飲んで、何が楽しいんだか」

「それはまだ、ギルが子供だからさ」

「そうだな

 苦さも楽しめる様にならんと、大人にはなれんだろう」

「いや、アーネストの方が子供だろう」


ギルバートはポツリと呟くが、それを聞いて二人は再び大きな声で笑った。

それからも宴席が暫く続いたが、ギルバートは途中で抜ける事にした。

酒が苦手な事もあったが、それ以上に眠くなったのだ。

それは思った以上に、まだまだギルバートが子供である証拠であった。


翌日、9時を回った頃に食堂に集まる。

兵士達も浮かれて飲んでいたのか、朝が遅くなっていた。

既に領主であるバルトフェルド達は食事を済ませて、各々の仕事に着いていた。

食堂には兵士とギルバート、それと青い顔をしたアーネストが座っていた。


「う…」

「またか?」

「うるさいなあ…」

「はあ…

 大丈夫か?」


久しぶりに飲んだので、アーネストはすっかり二日酔いになっていた。

青い顔で頷き、頭が痛いだけだと告げる。

それを見ながら、やはり酒は嫌だとギルバートは思っていた。


そこへ、食堂へ向けて走る足音が近づいて来た。

兵士達は足音の主に気付き、慌てて押さえようと走り出す。

兵士達は食堂のドアを、閉めようとしていた。

しかし間に合わず、その者は大声で食堂に乱入して来た。


「ここに居たか!

 正々堂々と勝負しろ!!」

「フランツ様、いけません」

「お父上に叱られますよ」

「うう…

 頭が痛い…」


アーネストは二重の意味で頭が痛いと、ポツリと呟いていた。

まだまだ続きます。

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