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聖王伝(修正中原稿)  作者: 竜人
第六章 王都への旅立ち
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第163話

城の大きさは、大体200mぐらいだろうか?

敷地も含めて1㎞ぐらいの大きさの砦の中に、300mほどの大きさの訓練場が2つと宿舎が建っている

規模から考えれば町中に建つには不自然で、よく見れば町は砦の周りに造られていた

小高い山に造られた砦の周りに、城壁を建てて町にした様な感じであった


それは町の出来た理由を考えれば、それは当然の事である

先ずは砦が作られて、それから通過する隊商の泊まれる宿屋町が作られたのだ

交易の為に渡る隊商が、安心出来る大きな砦の前で休息を取る

それを商機と見て、宿屋や商店が作られていく

やがてそれは集落になり、徐々に大きくなって町となる


町の規模になれば、治めるべく領主が派遣される事になる。

そうなれば町も発展して、領地として大きくなってゆく。

こうして砦の領主を兼任する、ザウツブルク卿が治める事となったのだ。


「ここから見える景色も、美しいですね」

「ええ

 この町の自慢の一つです」

「美しいでしょう?」

「ええ

 城も城壁も輝いて見えますね」

「ええ

 大理石を使っていますからね

 日の光を反射するんです」

「へえ…」


ギルバートは城の入り口で振り返り、その光景に目を奪われた。

砦が建つ山は高台になっているので、町だけではなく周囲の公道も見張れる。

それで町の灯りもよく見えるし、公道の先に沈む夕日も見えた。

その夕日を受けて、町を囲む城壁も輝いて見える。

城壁にも大理石が使われているので、日の光を反射するのだ。


「景色が見えるだけではありませんよ

 何かあれば、ここからすぐに確認出来ますからね」

「そうですね

 ここからなら良く見えますね」

「元が砦の守りの為に作られた城壁だからな

 当然上からは良く見える様になっているさ」

「そうだな

 これだけ見えれば…」

「帝国が攻めて来ても大丈夫な様に、こうして高台に作ったんです

 ですが使う機会がありませんでして…」

「まあ、魔物には必要無いのか」

「ええ

 今のところは小鬼か犬人間だけですから…」


景色もよく見えたが、敵の軍勢が攻めて来てもよく見えただろう。

その他にも災害が起こった際にも、町を見渡せるので手早く対策が取れるだろう。


それだけでは無い。

周囲の公道に建てられた詰所も、ザウツブルク卿が発案して建てられた物だった。

ザウツブルク卿は貴族には向いていないが、民衆思いの良い領主であったのだ。

公道を利用する領民の為に、兵士が詰める詰め所を作らせたのだ。

その為信頼も厚く、民衆や商人に慕われていた。


「領主様は、民衆が安心して暮らせる町を目指しています

 その為には、この砦は理想的でした」

「そうですね

 ここは利便性も高いですね」

「わざわざ城壁も低くしてあるからな

 町中がよく見えそうだ」


元々は高かった砦の城壁も、町が見渡せ易い様に高さを低くしてあった。

そうする事で民衆も安心出来るし、領主も民衆の顔を見る事が出来た。

バルトフェルドは領民との距離を縮める事で、信頼を勝ち得ていた。


「しかし…

 何でバルトフェルド様はそんなに熱心なんですか?

 失礼ですが、普通の貴族はそこまでは…」

「ああ

 それは領主様も元は平民だからですよ

 武勲で侯爵の地位まで上がられましたから」

「なるほど」


平民の出であるから、民を思う領主になれる。

それならば、生粋の貴族に意味はあるのだろうか?

ギルバートがそう考えていると、アーネストが小声で囁いた。


「ギル

 それは口には出すなよ」

「え?」

「フランドール殿も平民だったが…

 貴族や王族にも意味があるんだ」

「それは…」

「またの機会にな」

「あ、ああ…」


アーネストだからこそ、ギルバートの疑問が理解出来たのだろう。

その疑問がどれだけ危険か知っているので、アーネストは敢えて注意を促す。

貴族が貴族の在り様を疑う事は、国の基盤を揺るがし兼ねないからだ。

貴族には貴族の、王族には王族の役目があるのだ。

だからこそ世襲制を行ってまで、その血を残そうとする。

そこを否定してしまっては、ギルバートの立場も危うくなるのだ。


アーネストに睨まれて、ギルバートは何か言い掛けたが諦める。

その鋭い視線から、それが余程マズい事だと判断したからだ。

その様子を見て、リュバンニの警備隊長は思わず口籠った。


「え…と

 よろしいですか?」


アーネストが不意に何か囁き、主であるギルバートを睨んでいたのだ。

案内をしていた隊長も、居た堪れなくなって言葉を探してしまった。


「あ、すみません

 ご案内をお願いします」


アーネストは気を取り直す様に、明るい声を出して警備隊長に促した。

それで隊長もホッと溜息を吐きながら、再び案内を再開する。


砦の入り口には大きな城門があるが、普段は開きっぱなしになっている様だ。

有事の際に、避難民を入れて閉めるのだろう。


そして砦の中は華美にならない様に、地味な飾りつけをした広間が広がっている。

普通は貴族は、権威を示す為に広間は飾り付けている。

しかしバルトフェルドは、そんな金があるなら軍備を整えるタイプだ。

華美な飾りつけを嫌って、最低限の飾りだけをしていた。


「これは…」

「地味でしょう?

 よく挨拶に来られた客人が、口を揃えておっしゃります」

「そ、そう…っう

 そうですか」


思わずそうですねと言いそうになり、アーネストに足を踏まれる。

慌てて言い繕うが、兵士はニッコリ微笑みながら答えた。


「そう思われて当然です

 貴族は飾り付けて力を示すもの

 これでも本当は、領主様は嫌がっているんですよ」


バルトフェルドは嫌がるが、それでも領民が飾り付ける様に主張しする。

せめて貴族なのだから、これぐらいは飾って欲しいと持って来るのだそうだ。

それでバルトフェルドも、渋い顔をしながらも飾るのを許可していた。


「本当は、住民の気持ちは嬉しいんですよ

 でも喜んだらさらに飾りが増えて、いざという時に邪魔にならないか心配してらっしゃって」

「あ…

 確か…痛いって」

「余計な事は言うなよ」

「分かっているって」

「はははは

 構いませんよ」

「貴族の方なら、大抵の方はその様な感想を述べられます」

「領主様の方が変わっていますからね」


兵士の言葉に、ギルバートは納得して頷いた。

そう言われてみれば、父であるアルベルトも飾りは少なくしていた。

あまりゴチャゴチャ飾ると、邪魔になると思っていたからだ。


「父上も…

 あまり飾りは無い方が良いと言っていました」

「アルベルト様もですか」

「なるほど…

 アルベルト様も領主様と似てらっしゃるんですね」

「ええ

 華美な飾りは嫌っていましたね」


ギルバートの言葉に、兵士は嬉しそうにしていた。

自分の主だけと思っていたが、他にも理解を示す貴族が居たのが嬉しかったのだ。


アルベルトも確かに、華美な飾りを嫌っていた。

地味な広間を抜けて、飾りの少ない回廊を進んで行く。

飾り気は無いが暖かい色の絨毯が敷かれて、所々に暖房用の暖炉も整備されていた。

大理石で造られているので、夏場は涼しいが冬場には寒くなるのだろう。


元々クリサリス聖教王国は、冬場は雪が降る場所が多い。

王都も例に漏れず雪が降るので、その近くのリュバンニもよく冷えるのだ。

それで冬場になると、朝晩の気温は氷点下にまで下がる。

砦の中も、当然暖房が必要になるのだ。


途中の要所要所に部屋はあるが、兵士が立って閉じられていた。

貴族の邸宅というよりは、本当に城塞となっている様であった。

兵士が見張りに立っている以上は、あまりジロジロと見れない。

ギルバートがあまりキョロキョロ見るので、兵士は苦笑しながら呟く。


「やはり、貴族の方からすると珍しいでしょうか?」

「え?」

「お前がじろじろ見過ぎるからだ」

「痛っ」


アーネストがこっそりと、ギルバートの脇腹を小突く。

ギルバートもキョロキョロしていたのを、自分で気付いていなかったのだ。


「すいません」

「いえ

 確かにみなさん、貴族が住むにはと仰りますから」


兵士の苦笑いに、ギルバートは申し訳なさそうに頭を下げる。


「すいません

 邸宅と言うよりは砦に…

 痛いって」


遠慮なく言うギルバートの脇腹を、再びアーネストが小突いた。

それを見て兵士は苦笑いをしたまま、気にしないでくださいと答えて再び案内を再開した。


大広間の奥に、兵士達が待機する部屋と食堂がある。

その奥を進むと、領主の住む居城となっていた。

先ほどの広間より小さいが、少し飾りつけのされた広間がもう一つあった。

そこから階段を登ると、2階に客間が並んでいる。


「どうぞ、こちらで寛いでください」


そこは貴族用の客間と、その従者達の控室になっていた。

兵士達はそこへ入ると、さっそく武装を解き始めた。

領主の邸宅に招かれているのに、武装していてはマナーが悪いからだ。

その間にギルバートも、旅の装備から貴族らしい服へと変える。

これから領主に会うのだから、服装にもこだわらないとならないのだ。


「準備は良いか?」

「ああ」


アーネストの方を振り返ると、既に小綺麗なローブに着替えていた。

すっかり準備が整った頃に、タイミング良くドアがノックされた。

さすがに王都に近い町の領主である。

小姓の教育も行き届いているのだ。


コンコン!

「準備はよろしいでしょうか?」

「ええ」


小姓は部屋には入らず、ドア越しに確認の声を掛ける。

勝手に入るのはマナーが悪いし、着替えている途中の可能性もある。

この辺の教育も、しっかりされている様子だった。


「用意は出来ています」

「では、領主様の元へご案内致します

 お連れの方はこちらで、お待ちください」


小姓は連れの兵士達は、この先には来なくて良いと伝えた。

このまま兵士達は、暫く客間で寛ぐ事になる。

その為にも、小姓は来なくて良いと告げたのだ。

しかしアーネストは、そんな兵士に頭を下げて答える。


「申し訳ございませんが、私は同行します」

「え?」

「アーネストは領主様に面識がありますので

 よろしいでしょうか?」

「そういう事でしたら…

 そうですね

 どうぞ」


小姓は少し考えたが、問題無いだろうと判断したのか頷く。

小姓を先頭にして、ギルバートとアーネストが続く。

何かあってはいけないので、周囲には兵士が立って見張っている。

それはギルバート達を見張るのではなくて、あくまでも安全の為だった。

ここに着いてから武装を解除しているので、その為の安全確認なのだ。


「では、こちらへ」

「はい」


そう促されて、ギルバート達は再び階下の広間に戻る。

そこから奥の部屋に向かい、執務室らしいしっかりとした頑丈そうな大きな扉の前に案内された。

扉は分厚い様で、握りがノッカーになっている。

小姓はそれをしっかりと叩き、室内に入って良いか確認を取った。


ゴンゴン!

「バルトフェルド様

 お客人をご案内しました

 入室してもよろしいですか?」

「うむ

 入れ!」


分厚い扉越しに、低く力強い声が聞こえた。

その声の主が、恐らくバルトフェルド卿なのであろう。

壮年だと聞いていたが、とてもその様な声には聞こえなかった。

もっと大きく力強い、若そうな声が返って来た。


「失礼致します」

ギギギ…!


小姓が扉を開けると、ギルバートに中に入る様に目配せをした。

ギルバートはそれに頷くと、黙って中へと入る。

そうして室内に入ると、すぐさま跪いて頭を下げる。

相手の領内に招かれたのだ、こちらから頭を下げるのがマナーである。

だからギルバートは、入るなりすぐさまに頭を下げた。


それを倣う様に、続けてアーネストも部屋に入る。

アーネストもギルバートの隣に跪いて、頭を恭しく下げる。

しかしこちらは、あくまでも貴族であるギルバートに従っているだけの平民である。

だから貴族で無いアーネストは、より深々と頭を下げていた。


「ダーナ前領主

 アルベルト様が御子息、ギルバート様と

 そのお連れであるアーネストです」


兵士がそう告げると、奥から大きな声が応える。

やはりその声は、思ったより力強い声であった。


「よくぞ参った

 さあ、顔を上げてくれ」

「はい」


言われてギルバートは、顔を上げながら答える。


「アルベルトが息子、ギルバートです」

「おお!

 確かに…

 ガキの頃のアルベルトによく似ている」


部屋の中には大きな執務机が設えてあり、大量の書類が山を幾つも作っている。

そこに大柄な男と、痩せ細った男が座っていた。

どうやら声の主は、その大柄な男が発している様子だ。

しかしその男は、壮年という割にはまだ若かった。

まだまだ中年と言われても、納得出来そうな感じである。


壮年にしてはがっしりとした身体をしていて、まだまだ現役で戦場に立てそうな感じであった。

金髪は色が抜けて銀になり、堀の深い顔に皺が幾つも刻まれていた。

左目の下には大きな傷が入って、歴戦の戦士と言った顔をしている。

しかしそれでも、声も身体も若々しく活力に溢れていた。

男は立ち上がると、両手を広げながら喜びを身体全体で表現する。


隣に腰掛けて居る男は、書類を整理している手伝いの小姓の様だった。

彼は興味無さそうに一瞥すると、再び書類の山と格闘を始めた。

しかしバルトフェルドは、その男に容赦なく話し掛ける。

そして遠慮なく、バシバシと背中を叩く。


「見てみろよ、本当にそっくりだぜ

 マーリンもアルベルトには会った事があるだろう?」

「そうですね」

「なあ

 本当にそっくりだ」

バンバン!

「痛いので止めてもらえませんか?」

「う、うむ…」


男は背中を叩かれた割には、素っ気なく答える。

顔は書類を見詰めたままで、あまり興味は無いという感じだった。

しかしそれを見ても、いつもの事だとバルトフェルドは両手を挙げて首を振る。

それはこのマーリンという男が、仕事に集中していたからだ。


男は一瞬だけギルバートとアーネストを見ると、怪訝そうに首を捻った。

どうやら彼は、少し目が悪い様子だった。

それでどちらがギルバートか、すぐには分からなかったのだ。


「どちらがギルバート様です?」

「どっちってそりゃあ…

 左に決まっているだろう?」

「アルベルト様?

 むしろ陛下に似ていますが?」

「ああ…

 そりゃそうだな」


その言葉に、ギルバートとアーネストはギクリとした。

どうやらバルトフェルドも、ギルバートの出生を知っているのかも知れない。

そう思っていたら、予想外の答えが返って来た。

彼は国王とも面識があるので、二人が従弟だと知っていたのだ。


「何せ陛下とアルベルトは従弟だ

 あいつ等が似ていても、何の不思議も無いさ」

「ああ

 そう言えばそうでしたな」

「うむ

 昔はよく似ていたんだがな…

 ハルの奴は髭を伸ばしたからな」

「バルトフェルド様

 国王様をその様に…」

「ははは

 ここは王都じゃあ無い

 それにワシとハルの仲じゃ

 問題は無い」

「そうは申しましても…」


どうやら知られていない様子で、二人は胸を撫で下ろす。

どうやらバルトフェルドは、昔から二人をよく知っている様子だった。

それで国王も、バルトフェルドを重鎮として厚遇している。


「しかしバルトフェルド様

 ここではよろしいですが、外ではあいつ呼ばわりはしない様に

 仮にも陛下なんですから」

「分かった分かった

 まったく…」


バルトフェルドは苦笑いをしながら、頭の固い男の事を見ていた。

その様子を見て、ギルバートは顔を上げて質問をする。

まさかここまで、バルトフェルドが父の事を知っているとは思わなかった。

それでバルトフェルド達の事を、興味深く見ていた。


「あのお

 お二人も父上と面識が有るんですか?」

「ん?

 ああ、こいつとワシは同じ学校の出で、そこで二人にも出会ったんだ」

「正確には、ジェニファー様とエカテリーナ様もです」


男が横から言葉を加える。

どうやら書類整理は一旦中断して、話しに加わる事にした様だ。

彼は伸びをしながら、改めてギルバートを注意深く見詰める。


「当時は貴族学校など珍しい物で、私達も帝国の貴族として通っていました」

「こいつはそこで、主席の成績だったんだ

 魔術の腕も確かだぜ」

「止めてください

 私は諦めたんです」

「諦めた?」

「ええ…

 まあ、素質が無かったというか…」


マーリンはそう答えると、憮然とした表情でアーネストを見る。

アーネストが着ていたのは、外行きの魔術師のローブである。

そのローブの色から、魔術師の見習いだと判断したのだろう。

しかしマーリンは、魔力を推し量れるぐらいの才能は持っていた。

それでローブの色の割りに、アーネストが魔力を多く持っている事に首を捻る。


「その少年も魔術師志望ですか?

 しかし強い魔力を感じますね」


アーネストは魔力もあるが、今着ているのは見習いの茶色のローブを纏っていた。

それに加えて年少なので、マーリンは魔術師志望と見たのだろう。


「私は魔力が少なくて、その道を諦めました

 君は挫折などしないでくださいね」

「え?

 はあ…」

「やれやれ

 気にしないでやってくれ」

「え?」

「こいつは魔力が少なくてな

 素質はあったんじゃが…」

「少なくては無理なんですよ

 碌に魔法が使えませんからね」

「という訳なんじゃ」


そう言ってマーリンは、羨むような、それでいて心配する様な複雑な表情をした。

自信が挫折した様に、アーネストに挫折して欲しくない。

そう思って、心配しているのだろう。


「は、はい」


アーネストは返事をすると、神妙な顔で先輩の顔を見た。

彼は魔力があれば、大成していたかも知れない。

そういう意味では、大先輩に当たる人物でもあるのだ。

それに気付いたマーリンは、照れたのかそっぽを向いた。


「がははは

 マーリンは魔力が少ないのを苦にしてな…

 他の成績は良かったんだが、魔術の実践だけはどうにもならなかった

 そこでワシが無理矢理引っ張って来て、ここの経営を任せておる」

「バルトフェルドでは心配ですからね

 住民が安心して暮らせる様に、私が支えています」

「そうだな

 花屋の娘も心配だからな」

「そ、それは!

 よ、余計な事は言わないでください」

「がはははは」


マーリンは花屋の娘が気になっているのか、顔を真っ赤にして怒っていた。

その花屋の娘というのは気になったが、今は他に話す事があった。


「お二人は仲が良いんですね」

「ん?

 そうだなあ

 こいつとはもう、20年以上の付き合いだからな」

「あなたが無理矢理付き合わせているんでしょうが」

「がははは」


バルトフェルドが豪快に笑って誤魔化し、マーリンは横で溜息を吐く。

二人はこうやって、20年以上も仲良くやって来たのだろう。

ここに父や母も加わり、貴族の学校に通っていたのだ。

ギルバートはそれを想像して、もっと話を聞きたいと思った。

しかしマーリンが、それに待ったを掛ける。


「あのう…

 お二人は父上を…」

「積もる話もありましょうが、今は急ぎ処理すべき書類があります」


マーリンが数枚の羊皮紙を掴んで、バルトフェルドの前に突き出す。

それを見て、バルトフェルドは顔を顰める。

どうやら急ぎの書類まで、彼に押し付けようとしていたのだろう。

それを見咎めて、マーリンはバルトフェルドに突き返した。


「魔物の動向と砦の内乱

 それに伴った公道の通航制限

 まだまだありますよ」

「う…

 分かった分かった」

「誤魔化してワシに回さんでください

 これじゃあ切りが無い」

「ううむ…」

「ご自分の書類は、ご自分で処理してください」


バルトフェルドは書類を受け取り、それに目を通し始める。

そうしながらもチラリとギルバートの方を向いて、申し訳なさそうに呟く。


「すまない

 そう言ったわけで、話はまた後でな

 夕食の時にでもしよう」

「はい」

「お忙しいところ、申し訳ありませんでした」

「いやいや

 良いんじゃ

 ワシも久しぶりに懐かしい顔を見れて、とても嬉しいんじゃ」


バルトフェルドはそう言って、机の上の呼び鈴を鳴らす。

小姓がドアを開けて、中に入って来た。

そうして頷くと、ギルバートを客室へ案内する事を伝えた。


「彼等を客室へ案内してくれ

 それと夕食の席を設けるので、その様に手配してくれ」

「はい」

「すまないね

 本当は私の仕事なんだが…」


マーリンがすまなそうに、小姓に向かって頭を下げた。

それに対して小姓は、黙って頭を振った。


「いえ

 マーリン殿はそちらで頑張ってください

 執事の仕事は私が代わりをしますから」


小姓がそう答えると、マーリンはもう一度すまないと頭を下げた。

どうやらマーリンは、本来は執事の職らしい。

そこのところは、アルベルトとハリスの関係に似ていた。

思わずギルバートは、通路を歩きながら小声で呟いた。


「ここも執事が、執政の様な仕事なんだな」

「馬鹿

 それはこことダーナぐらいだ」

「そうなのか?」

「本当はよく無いんだ

 しかし仕方が無いんだ

 出来る者が少ないからな

 それでこういう事も起こり得るんだ」

「ふうん…」

「だから当たり前だと思うなよ」

「あ、ああ…」


アーネストは小声で答えて、呆れた様な顔をする。

これが当たり前と思ったら、後々大変な事になりそうだ。


後でしっかりと話しておく必要があるな

ギルまでアルベルト様みたいになりそうだ

それじゃあマズいからな


アーネストはそう思いながら、ギルバートの世間知らずを呪った。

アルベルトが後で、しっかりと教育するからと甘やかしたのがマズかったのだ。

それでギルバートは、勉強をそっちのけで剣術の訓練に逃げ出していた。

もう少し早く、しっかりと勉強をさせていればと反省もしていた。

しかし今では、それも手遅れな気もする。

王都に入ったら、しっかりと勉強をする必要があるだろう。


どうしてアルベルト様は、ギルに常識を教えなかったんだ

もう少し教えていれば…

と言っても、ギルが逃げていたからな…


それは後程、王都の貴族学校で学べると思っていたのもあるのだろう。

アルベルトはどうやら、早くから王都に送り出すつもりだったみたいだし。

それとも魔物の対策に忙しくて、そこまで頭が回らなかったのかも知れない。

いずれにせよギルバートが、思った以上に世情に疎いので、アーネストは頭を抱えていた。

そして王都に入ったら、その辺もしっかりと勉強させようと考えていた。

まだまだ続きます。

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