第162話
リュバンニの町は、夕暮れを前に明かりを点し始めている
それはダーナとは違って、街灯の明かりもあって美しかった
ダーナは辺境に在るので、街灯の整備まではされていなかったからだ
町の中の大通りに沿って、等間隔に篝火の台座が置かれていて、そこに火が灯されている
その炎の明かりは、町の外からも見えるほど明るかった
城門の門番は、夕刻と言う事もあってか8名と多かった
もうすぐ城門も閉まるので、忙しく検閲が行われていた
それはトスノと同じで、内戦を警戒してか厳しい物であった
町に入る理由と旅の目的などが質問されて、簡単な荷物の検査も行われている
ギルバート達の順番が回って来て、門番の兵士が確認に来る
「ほう
ダーナから来たのか」
「ええ
領主様のご子息が、領主様が亡くなられた事を報告する為に、王都へ向かっているところです」
「なるほど
その話は聞き及んでいる
大変だったな」
「アルベルト様か…
惜しい方を亡くしたな…」
「ええ」
「バルトフェルド様とも知古の方だったな」
「良いライバルだと聞いていた」
「あんな方でも…
魔物には勝てないのか…」
門番の兵士はそうしみじみと呟くと、同情的な眼差しで馬車を見る。
ここではその後の魔物の侵攻も把握しており、彼等も兵士達には同情的だった。
なにせ領主が亡くなったという大変な時に、魔物の大群に攻め込まれたのだ。
それが容易な事ではないと、彼等も理解していた。
「ここいらでは小鬼や犬人間しか見ていないが…
そっちには大型の魔物も出るそうだな」
「あ…」
兵士はチラリと馬車を見て、アーネストが顔を出すのを見た。
アーネストは馬車から降りると、門番の兵士に話し掛ける。
魔物の話しに関しては、アーネストの方が詳しかった。
それにどこまで話して良いのか、兵士達では判断出来なかったのだ。
「お勤めご苦労様です」
「うん?
君がその…
アルベルト様のご子息様なのかね?」
門番は気を遣って、一応丁寧な言葉を使おうとする。
それに対して、アーネストは首を振って否定する。
「いえ
ボクは同行者の魔術師です」
「そ、そうか」
「魔術師が同行しているのかい?」
「それにしては若いな…」
「しっ
魔術師は年齢では測れないだろ?
なんせオレ達では、魔法は理解出来ないんだ」
「そ、それもそうか…」
門番はアーネストの丁寧な応対に、さすがは貴族が同行させるだけはあると思っていた。
それだけ腕が立ち、信頼出来る魔術師だろうと判断したのだ。
ただあまりに幼い事には驚き、こんな未成年が魔術師と名乗る事には正直びっくりしていた。
「こちらには、国王様に献上する為の魔物が乗っています
見ますか?」
「え?」
「ま、魔物だと!」
「大丈夫です
ちゃんと討伐して、私が凍らせていますから」
「そ、そうか…」
「よ、良かった
てっきり生きているのかと…」
「馬鹿
生きていたら、今頃大騒ぎだろう」
「それもそうだな」
魔物と聞いて、門番は一瞬だが焦る。
彼等としては、コボルトでも手強い敵なのだ。
それを生きて連れているとなれば、どう対処すべきかと考えたのだ。
しかしアーネストが倒して、凍らせていると聞いて安心した。
倒されているのなら、どんな魔物でも怖くは無かったのだ。
「そうだな
どの道荷物は検査させてもらうからな」
「ではどうぞ…」
「すまない
それでは見せてもらうよ」
「これも仕事なんでね」
門番はそう言って、馬車に近付いた。
中を覗くと、そこにはまさしく大きな魔物が氷漬けにされていた。
大きな猪の様な姿を見て、門番は内心怖じ気付いていた。
それで馬車の中に乗っている、ギルバートに気付くのが遅れる。
「ご苦労さまです」
「え?」
ギルバートは丁寧に礼をして、兵士に労いの言葉を掛けた。
しかし兵士は動揺していて、思わず声にならない返事をする。
「こんな時間まで、大変ですね」
「え?
あ、ああ…」
しかし門番は氷漬けの魔物に意識が行っていて、ギルバートと交互に見てしまう。
魔物の姿は兵士が予想していた物とは違って、大きな猪の様な姿をしていた。
兵士はその姿に驚き、ギルバートの言葉に反応が遅れてしまう。
「ああ
こちらでは珍しいんですね
こいつはアーマード・ボアという魔物です」
「アーマード・ボア…
っと!
き、君が、ご子息と言う方ですかね?」
門番はここで、ようやくギルバートの方に意識が向いた。
それで慌てて、ギルバートに質問をする。
しかし慌てているので、言葉が変になってしまっていた。
ギルバートもそれに気が付いたので、丁寧に答えた。
「はい
ギルバート・クリサリスと申します」
「そ、そうですか」
門番はそう言うと、改めてギルバートをよく見た。
門番をしているだけあって、人を見る目はしっかりしている様だ。
相手が貴族の子息であっても、不審な者でないか確認しているのだ。
「そのう…
領主様の事は聞き及んでいます
ご愁傷様です」
「いえ
父は領民を守る為に亡くなりました
その心は晴れ晴れとしていたと思います」
「そ、そうですか…」
「お気になさらず
お仕事を続けてください」
「は…
ええ…」
ギルバートは気になさらずにと告げて、仕事を続ける様に促した。
しかし兵士は、それでもギルバートの方を見ていた。
それは領主の子息も、思ったよりも若かったからだ。
こんな成人したばかりの青年が、若い魔術師と山脈を越えて王都に向かっている。
その事に驚いていたのだ。
「どうぞ、お気になさらず
仕事を続けてください」
「は、はあ…」
見た目はまだ少年なのに、こちらもしっかりとしていた。
門番はその様子に気圧されて、言葉に詰まってしまう。
「そ、それで…
今回は王都へ向かわれている…
それでよろしいですか?」
「はい
父の最期を伝えて、国王様に今後の事を考えていただく所存です」
「そ、そうですか…」
ギルバートのしっかりした返答に、門番は思わず唾を飲み込む。
彼は完全に、ギルバートに気圧されていた。
「それで、荷物の検査は?
と言っても、ここには食料と献上品のこの魔物しか乗っていませんが…」
「そ、そのようですね」
門番はそう答えながらも、必死に混乱した頭を正そうとする。
「そのう
領主様には?」
「え?
ああ、伝えていただけますか?
ただ、あまりゆっくりと逗留は出来ないと伝えてください
国王様を待たせるわけにはいきませんから」
「そ、そうですよね…」
門番は慌てて馬車から離れると、近くの詰所に向かった。
そこから何事か大声が響くが、詳細は聞こえなかった。
暫く話し合いがされた様で、一人の兵士が慌てて町の中に走って行った。
恐らくは、領主の元へ報告へ向かうのだろう。
先ほどの兵士が上司と思われる兵士を連れて、再び馬車に近付いて来た。
それを見てアーネストは、馬車の中のギルバート目配せをした。
ギルバートは頷くと、兵士と話す為に馬車から降りる事にする。
こちらは貴族であるが、兵士達を気遣っての行動だった。
「申し訳ありません
全ては私の監督が行き届いていませんでした」
上司の兵士が、声を大きくして頭を下げる。
それをアーネストが、慌てて制止させる。
「まあまあ
坊っちゃんは気にしておりません
みなさんは職務に忠実だっただけです」
「しかし、貴族のご子息様に不敬な…
それも不躾な質問ばかり…」
「いえ
そちらの兵士の方は、何も失礼な応対はしていませんよ
気にしないでください」
「そ、そうですか?」
「ええ
気にしないでください」
アーネストはそう言って、兵士のフォローをした。
実際は変な言動もあったが、あんな物を見て動揺するなと言うのが酷だろう。
ギルバートも頷き、失礼では無かったと取りなす。
それで上司の兵士も、安心したのか溜息を吐いていた。
「大丈夫ですよ
何も問題はありませんから」
「そ、そうですか?」
「ええ」
「そ、それで…
私達はどうすればよろしいですか?」
「そうですね…」
ギルバートの言葉に、兵士は改まって頭を下げる。
「領主様には報告しましたが…」
「それで問題無いでしょう」
「ですが…」
「そうですよ
馬車から降ろす様な真似をしてしまい、申し訳ございません」
「あー…
それはもう良いから」
ギルバートは思わず、苦笑いを浮かべる。
それを見ながら、上司は言葉を続ける。
「只今、領主様に確認を取っておりますので…
よろしかったら、そのまま暫くお待ちいただけますか?」
「そうですか」
「それで良いんじゃないか?」
「ああ
待たせてもらうか」
ギルバートはそう答えてから、アーネストに目配せをする。
アーネストも頷くが、一つだけ確認をしておく。
確かに領主に挨拶は必要だが、兵士達には関係無い。
それでこの待ち時間に、宿の手配等を行ってもらおうというのだ。
「兵士達は入って良いかな?
彼等が宿泊する、宿の手配が必要だから」
「それには及びません
兵士のみなさんも、恐らく領主様の方で手配があると思いますから」
「良いのですか?」
「ええ
領主様も恐らく、その様にお考えでしょうから」
「それなら…」
「ああ」
上司のその言葉に、アーネストはギルバートの方を見る。
ギルバートは仕方が無いと手を挙げるジェスチャーをして、兵士もそれに頷いた。
それでアーネストが、兵士に待たせてもらうと答える。
「分かりました
それでは、ここで待機させますね」
「ええ
申し訳ございません」
「いえいえ
そちらにも迷惑をお掛けしましたね」
「と、とんでもございません」
「それでは待機するから
君達は馬から降りて、休んでいてくれ」
「はい」
兵士達は馬から降り、武器を仕舞って馬に括り付ける。
こうする事で、自分達には害意は無いという意思を示すのだ。
ギルバートも剣帯を外して、馬車に乗り込んだ。
そのまま外で待っていては、兵士達が気を遣うからだ。
一応待っている間に、他の者の通行の邪魔にならない様に馬車は詰所の前に移動した。
しかしその事で、商人達からは余計に目立ってしまった様だ。
商人達は貴族の紋章を掲げた馬車が、詰所の前に拘留されているのを横目に見る。
そしてひそひそと、何事か話し込み始めた。
「しまったなあ
悪目立ちしているぞ」
「しょうがないだろう?
事前の相談も無く立ち寄ったんだ」
「それはそうだが…
目だっても良かったのか?」
「良くは無いが…
ここは大丈夫だろう
バルトフェルド様はしっかりとした方だ
何も問題は起こらないだろう」
「それなら良いのだが…」
本当は事前に連絡したかったのだが、王都との連絡も途絶えていた。
そのせいで事前の通達も出来ずに、こうして直接立ち寄る事になってしまった。
バルトフェルド自体は、問題の無い善き領主だと思われる。
だからこそ突然の来訪で、心象が悪くなっていないかが心配だった。
「使い魔が届いているなら
ここいらで迎えの兵士が来ている筈なんだよな
それが居ないとなれば…」
「使い魔はやはり…」
「国王様に届く前に、処分されているだろうな」
「それも問題だな」
「ああ
時間があれば、バルトフェルド様に相談してみようか」
「そうだな
その方が良いだろう」
その事が、二人にとっても不穏さをひしひしと感じさせていた。
国王に何かがあるとは思わないが、その周りでキナ臭い何かが起きている。
それが使い魔の失踪に、関わっているとしか思えないのだ。
それがこの旅に、影響をしなければ良いのだが。
「内戦、ガモン商会、奴隷商人…
そしてダーナからの使い魔の消息」
「どれも大きな問題ばかりだ」
「ああ
だからこそ…
相談しておきたいな」
「それならば、会っておくのは正解だな」
「そう…
だよな」
「ああ」
二人は溜息を吐きながら、美しいリュバンニの街灯の明かりを見る。
その灯りを見ながら、アーネストはポツリと呟く。
「なあ」
「ん?」
「ここの領主に…
どこまで相談すれば良いかな?」
「そうだなあ…」
「アーネスト?」
「難しいな
やはり報告だけにしておこうか」
ギルバートの言葉に、しかしアーネストは首を捻る。
「ん?
難しいのか?」
「いや
話すのは良い事だと思う
多分、親身になって聞いてくれるとは思う」
「じゃあ…」
「だが、バルトフェルド様がなあ…」
「え?」
「言っただろ
あの人は武人だと
およそ頭の方は…」
「ちょ!
それは失礼では…」
そう、武人であるが故に、およそ頭を使う事には向いていないのだ。
これが軍略や戦略であるのなら、もう少し頭も使えるであろう。
しかしバルトフェルドという男は、どちらかと言うと脳筋タイプであった。
難しい作戦より自身が先頭に立って、勢いと力任せで突破するのだ。
そういう意味では、どちらかと言えば将軍に近いタイプの人間だった。
「下手に話したら…」
「そうか」
「それにフランドール殿の事もある」
「あ…
そういえば、そんな事を言っていたな」
「ああ
義理とはいえ、一応息子だからな
内戦の事は…」
「確かに難しいか…」
「ああ
だから相談するにしても、オレが話してみるよ」
「そうか?
話したく無ければ…」
「ギルが話す事の方が不安だ」
「な!
こいつ」
「はははは」
何を伝えるべきかは、アーネストが判断する事となった。
ギルバートが話せば、正直に全てを話しそうなのだ。
それでは余計な事まで言って、却って拗らせてしまう可能性もある。
だからアーネストが、問題無さそうな事だけ話す事となった。
「こういうのは、ギルも向いていないからな」
「悪かったな」
ギルバートも、どちらかと言えば脳筋の仲間なのだ。
頭を使う事は、アーネストの分野であった。
だから今回の領主との相談も、アーネストが話した方がマシだろう。
「交渉については任せておけ
オレが上手く話しを付けるよ」
「そうか?
それなら任せるぞ」
「ああ
任せておけ」
貴族には、貴族なりの流儀と主義がある。
それに乗っ取って、上手に交渉しないと後々拗れる。
それを知っているので、交渉はアーネストが受け持つのだ。
「ただし、先にバルトフェルド様と直接話すのはギルだ
オレの相談はその後になるだろう
だから下手な事は言わない様に、それだけ注意してくれ」
「分かった分かった
気を付けるよ」
話しが弾んで、ついうっかりという事もある。
アーネストはそれを懸念しているのだ。
特にギルバートは、アルベルトに似てうっかり失敗する事がある。
だからアーネストは、ギルバートに念を押していた。
ギルバート達が相談していると、数名の兵士達が馬車に向かって来た。
彼等は周りを不安にさせない様に、馬も使わずにゆっくり歩いて来た。
その為に、こちらに来るのが遅くなったのだろう。
「遅くなって申し訳ないです」
「良いですよ
こちらも事前に伝えていませんでしたから」
ギルバートはそう言ったが、兵士は眉を顰める。
「事前に…
王都へは連絡は?」
「その事なんですが…」
「詳しくはバルトフェルド様にお会いしてから話します
ただ、王都とは連絡が取れていません」
「連絡が?」
「それは伝令が間に合わないという事ですか?」
「いえ
彼が魔術師でして…」
「使い魔を送ったのですが…
返礼が戻ってませんで…」
「魔術師?」
「使い魔ですか?
それでは凄腕の魔術師という事ですか?
し、失礼しました」
「いやいや
そこまででも…」
「調子に乗るな」
使い魔を送ったと聞いて、兵士の隊長は姿勢を正した。
使い魔を呼べるとなれば、相応の腕前の魔術師という事になる。
それで失礼にならない様に、慌てて姿勢を正したのだ。
「では、その使い魔が…」
「ええ
王都に向けて送りましたので、本来ならばすぐに返答がある筈なのです
しかし送って数日経ちますが、未だに返答がありません」
「うーむ
ここ数日の事といい
王都で何が起きているのやら」
「ここ数日?」
「あ、いえ
何でもありません
失礼しました」
ポツリと呟いたが、こちらでも何か起こっているらしい。
隊長は気を取り直す様に、改めて案内を買って出た。
「何かあったのですか?」
「そ、それは…」
「申し訳ございません
何分我が領にも関わりのある事でして…」
「後程領主様より、お話があるかと思います」
「そ、そうですか…」
「そ、それではご案内を…」
「そうですね」
「すいません
すぐにご案内いたします」
「ええ
頼みます」
兵士達に先導されて、馬車はリュバンニの町に入って行く。
兵士達も馬から降りたままで、手綱を引いて着いて来る。
先ほどまで居た商人達は先に入った様で、いつの間にか居なくなっていた。
代わりに町中で目立ってしまい、道行く住民達が好奇の視線で見ていた。
「珍しいのか?」
「そうだな
普通はこちらの領地の馬車が迎えに来る
自分の馬車で入るのは、どちらかと言うとマナー違反だろう」
「そうなのか?」
アーネストは、そもそもが事前に連絡をしていないのがマナー違反であると言う。
突然の来訪は、親しい貴族であってもあまり歓迎されないのだとも説明する。
それは相手が格上でも同じで、例え国王でも事前に通達無く来るのは心象が良く無いのだ。
しかし今回は、王都すら連絡が取れなかったという事情がある。
それがなければ、最初からこの町に立ち寄る事も無かったのだ。
何せ王都までは、ここから後半日ほどの距離なのだ。
到着を伝えておけば、ここまで王都から迎えが来ている筈なのだ。
「マズかったかな?」
「そうだな
しかし事情が事情だからな」
それはそうなのだが、それを知らない住民からすればかなり珍しい物に見えただろう。
いや、もしかしたら捕らえられた犯罪者に、見えているかも知れなかった。
「何か…
住民の視線が冷たいが、大丈夫かな?」
「大丈夫だろ?
ここに住むわけじゃあ無いし」
ギルバートは気にしていたが、アーネストは平気な顔をしていた。
例え今は不審に見えても、領主様と面会すれば変わるだろう。
何せ相手は、貴族であるが武人でもあるバルトフェルドだ。
変な噂が出ても、すぐに否定してくれるだろう。
一行は町を抜けて、領主が住まう砦の城門の前に到着する。
それは大理石で造られた、大きな城門であった。
その大きな城門の先に、さらに大きな砦の姿が見える。
それはまるで、大きな城の様に見えた。
「凄い…」
「綺麗だ…」
城が輝いて見えていたのは、切り出した大理石を積み重ねていたからだ。
それが夕日や町の明かりを受けて、輝いて見えるのだ。
その城だけを見ても、この街の規模が大きい事は納得出来た。
「どうだ?
美しいだろう?」
「ええ
とても美しいです」
「この辺りには大理石が採れる採石場がある
そこから切り出した大理石を、数年掛けて積み上げたそうだ」
「へえ…」
「数年ですか?」
「ああ
人足が集まって、時間を掛けて造ったそうだ」
簡単そうに話しているが、これだけの規模の城を造ったのだ。
相当な時間と労力を費やしただろう。
それも石を組み上げるのに、恐らく人力で持ち上げた筈だ。
その様な事を、魔法で出来るとは思えないからだ。
「これを人力で?」
「そう聞いているな
なんせここはクリサリスだ
帝国の様な魔導士は居なかっただろうからな」
「それは…
まあ、そうなんですが…」
帝国の魔導士は、強力な魔力で城まで築いたと言われている。
現に今は城塞跡になっているが、嘗ては大きな城が幾つも建てられていたという。
それはとても、人力で築かれた物では無かった。
そう考えると、この城も人力では無いのではとも思えた。
「本当に、人の手で造られたのでしょうか?
とてもそうには思えない」
「それだけ当時は、帝国を恐れる者が多かったという事です
帝国の進軍を恐れて、先代のクリサリス公爵様が造らせたそうです」
「クリサリス公爵様というと…」
「国王様のお父上ですな」
当時は辺境のクリサリス公爵領の、砦の一つでしか無かった。
それを帝国から独立する為に、大きな砦に改修したのだ。
その甲斐あって、ここには帝国は攻め込まなかった。
大きな砦を落とすより、他のルートを通った方が楽だったからだ。
帝国は東から進軍して、北周りに竜の背骨山脈から侵入して来た。
それはリュバンニや、ダーナを攻め落とすのが難しいと判断したからだ。
それで山脈を北から登って、ギルバート達が通った道から下ったのだ。
それでも帝国は、クリサリス公爵の軍を打ち破れなかった。
それは当時のクリサリス公爵であるハルバートと、アルベルトが果敢に戦ったからだ。
一行は広い庭と訓練場を抜けて、大理石の砦に入って行く。
その美しい光景に圧倒されながら、ギルバート達は砦の中に入って行った。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
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