第161話
翌日は朝早くから、宿屋の主人が起こしに来た
早く出立するのならしっかりと食べないと駄目だと、朝からたっぷりの食事が用意されていた
これだけの料理を用意するなら、主人も相当早い時間に起きた筈だ
しかしそんな素振りは微塵も見せずに、主人は昼食も包んで準備をしていた
それを渡すと、主人は笑顔で見送ってくれた
頑張れよと温かい声を掛けてくれながら、彼は見送ってくれる
その姿を見て、ギルバートは無事に王都に着こうと思っていた
そして同時に、あの主人の為に何か出来ないかとも思っていた
町の城門は、昨日とは違う向きの門から出る事になる。
昨日は薄暗くてよく見えなかったが、改めて見ると城門も大きかった。
高さ2m50㎝ぐらいだろうか?
高い城壁が囲んでいて、ここからは見えないが北や西も同じ様子なのだろう。
城門も立派で、凝った意匠が彫られた頑丈な門であった。
「立派な門だな」
「ああ
しかし防備に関しては…」
「そこまでも無いか」
「ああ」
見た目は確かに立派だが、石を切り出して組んだ城壁だけである。
それも城壁の高さ自体は、そこまで高くは無かった。
城門と同じぐらいの高さなので、確かに人間では越えられ無いだろう。
しかしダーナに比べると厚みも無く、上から狙撃する事も出来ない。
大型の魔物が向かって来れば、恐らく一溜りも無いだろう。
「実に貴族の領地らしい城門だな」
「そうか?」
「ああ
如何にも貴族らしい…な」
「それはどういう意味なんだ?」
「そのまんまだ」
それは誉め言葉に見えたが、実は嫌味であった。
見た目は大した物だが、中身は大した物では無い。
貴族を揶揄する時に、平民がよく使う言葉だ。
それを象徴する様に、城門の扉は意匠だけはしっかりとしていた。
城門は町の向こう側にも続いていて、外周は1㎞はありそうであった。
中は小さな建物が多く、城門の近くには宿屋と商店が集まっている。
広場には露店が幾つか出ていたが、通りの大きさの割にはあまり並んでいない。
露店を横目に見ながら、人の列はずらりと数百mも並んでいた。
「町の規模は大きいが、ダーナとはまた違うな」
「ああ
商業が盛んな町だから、人の出入りが多いんだ
だから検閲も形式的な物で、そんなに時間は掛からない筈だ
問題は…」
目の前にはずらりと並ぶ人の列。
7時前には宿を出たのに、順番は既に真ん中辺りになっていた。
これだけ並んでいるのは、何も商人の出入りが多いだけではない様だった。
城門の警備兵が言っていたのは、この事だったのだ。
「どうやら内戦の噂を聞いて、商人が王都に避難している様だな」
「避難?」
「ああ
巻き込まれない様に、避難しているんだろう」
ここから竜の背骨山脈までは、結構な距離がある。
それに内戦が起きそうなのは、山脈の西側にある砦の街である。
それなのにこの町でも、商人達が避難しているのだ。
「ここは内戦に関係無いだろう?」
「そうだが…」
「内戦に乗じて、他国が介入するのを恐れているんですよ」
兵士がアーネストの代わりに答える。
こうした内戦が起きた時、他国が協力と称して国境を越えて侵攻して来る事が多々ある。
国教を越えてしまえば、後は口実を設けて攻め入ろうと機会を窺がっているのだ。
今は入って来れないのは、魔物が他国にも現れているからだろう。
「他国が介入して来るのか?
しかし内戦は、まだ起きたばっかりなんだろう?」
「それでも時間の問題でしょう
いつ侵入して来るのか…
それなら王都の方が安心だと考えているんですよ」
「民衆としては、地方の町より王都の方が安心なんでしょうな」
納得は出来ないが、彼等の考えは彼等の自由だ。
逃げ出したいと思う商人達を、引き留めておく理由が無いのだ。
彼等としては、安全な王都に引き上げたいのだろう。
そこでなら、また商売が出来るという判断なのだ。
「しかし商人の町と言うなら、商人が居なくなってはやっていられないだろう」
「そうなんですが…」
「他の商人が入って来ますからね」
「他の商人?」
「ええ」
「危険を冒してまで、この様な場所に向かう商人もいます」
火事場泥棒ではないが、戦場に近い町では武器や食料が売れる。
それに目を付けた商人は、高値で売る為にわざわざ来るのだ。
それで内戦に巻き込まれれば、自身の身も危険になる。
それでも稼げると判断して、わざわざ向かって来る商人もいるのだろう。
「そうすると…
中身が入れ替わるだけか?」
「そうですねえ…」
「ええっと…
こうした時に来るのは、些か良くない商人達で…」
「質が悪いのが来るので、治安は悪化するでしょうな」
「要は儲けれれば良いんです
ですから持って来る品も…」
悪意を持って、荒稼ぎしようと思って来るのだ。
およそ人柄の良い商人では無いだろう。
質の悪い商品を、高値で吹っ掛けて売り捌く。
そんな商人が、戦場に近い場所に集まるのだ。
「それを恐れて、真っ当な商人は逃げているんですよ」
「他国の侵攻も怖いんですが、一番怖いのは悪意ある隣人です」
「内戦を理由に、危険からは遠ざかりたいんでしょうな」
「それはまた…」
「ですから質が悪いんですよ
粗悪品を高値で売ったり…」
「中には盗んだ物を売り捌く者もいますからね」
理由は分かった。
しかし人の数が多過ぎる。
このままでは、出立の時間も遅くなるだろう。
ギルバートはうんざりしながら、長い人の列を眺める。
「こんなに出て行って、町は大丈夫なのか?」
「ああ
それは問題無いだろう」
「そうなのか?」
「ええ
結局人は集まりますから…」
「ほら
あそこにも向かって来る隊商が見えるぞ」
アーネストはそう言って、何組かの商人の馬車を指差す。
「あそこを見てみろ
ほとんどがああした隊商の者達なんだ
ここで仮の店を構えているが、基本は外から入った商人達だ」
「なるほど…」
つまりは元々の町の者では無く、外から入っている者なのだ。
町の住民自体は、そこまで流出していない。
流れの隊商達が、入れ替わるだけなのだ。
「つまりは町の者では無いので、出て行くのはそんなに苦でも無いのさ」
「そうなのか?
しかし、それにしては…」
「そこがまあ…
町の面白いところでもあるな」
「面白いって…
どういう仕組みなんだ?
一体何処に、これだけの人間が…」
これだけの人数がどこに居たのか?
ギルバートは首を捻っていた。
「あのなあ
昨日は何で泊まれなかったんだ?」
「え?」
「逃げてる途中の商人達が居たから、部屋が無かったんだろう?」
「あ!」
簡単な事だった。
何軒もあった宿がほとんど埋まっていたのは、その商人達が入っていたからだ。
だからこそ昨晩は、彼等はなかなか宿を取れなかった。
「なるほど…」
その商人達は、よく見ると他国の隊商も混じっている様子だった。
他国から商売の為に来て、この騒動で逃げ出しているのだろう。
荷物が多いのは、ここで買い求めた物か?
それとも他国から運んで来た品物なのか?
「商人が多いのは分かったが、それにしても多いな」
「仕方が無いさ
ゆっくり待つしかない」
既に1時間は待ったと思うのだが、まだ前には3組が検閲をしていた。
その後ろには、さらに数十組の列が出来ている。
このままでは、門を出る頃には9時になりそうであった。
「長いな…」
「そうだな」
「変ですね
普通はそこまで調べないんですが…」
「いやに念入りだな」
兵士も不審に思って、首を捻っていた。
それはその後に、20分ぐらい待ってから分かった。
彼等は使命を持って、この人波を調べていたのだ。
「こちらは…
貴族の方ですか?」
「はい」
「本日はどういった要件で訪れて?
何故こんな早朝から発たれるんですか?」
門番の兵士の質問に、兵士が代わりに答える。
質問は予め予想していたのか、アーネストが事前に回答を伝えてあった。
それなので、兵士は詰まる事も無く淡々と答えていった。
「こちらの方は、ダーナ領主アルベルト様のご子息様です」
「ダーナの?
ならば今回の…」
「内戦の噂は聞いておりますが、我々はその前に出ております
そもそもここに来る期間を考えれば、分かりますでしょう?」
「そ、それは…」
「我々も内戦の噂を聞いて、案じていたところです」
「ですから一刻も早く、王都に報告に向かう必要があります」
「ううむ…」
「確かにそうだな」
ダーナと聞いて門番の兵士は身構えたが、ギルバート側の兵士がすかさず関係無いと答えた。
それが筋が通っているので、門番も言葉に詰まる。
それに王都に急ぐ理由も、内戦の報を受けたのなら納得が行くだろう。
「それでは、どういったご用向きで?」
「アルベルト様が亡くなられたのは…
こちらでも聞いていますよね」
「ええ」
「それで、事の経緯を国王様に報告に向かっているのです
それも早急に」
「なるほど…」
「確かに重要ですな」
「ですが…」
それを聞いて、門番は眉を顰めていた。
ダーナから来たと言うので、まだ疑っているのだ。
話しは筋が通っているのだが、時期が悪かった。
あまりにも内戦のタイミングが、良過ぎるのだ。
関係無いと言っても、出て来た直後に内戦が起こっている。
関係無いと言われても、なかなか納得出来ないのだろう。
「御領主が亡くなられて、些か時間が経っていますが?」
「それは魔物の侵攻があったからです
それも聞き及んでいますよね?」
「う…」
「そういえば…」
今度は兵士の方が不信感を露わにして、門番の兵士を睨む。
領主が亡くなった事も、魔物の侵攻も話が届いている筈だ。
それなのにこうして、明から様に疑いを持って検閲をするのはおかしいだろう。
そう言われてしまえば、彼等も返答に窮してしまう。
「国王様には、急ぎご報告に伺わないといけません
これ以上の引き延ばしは、無礼に当たりませんか?」
「そ、それは…」
「それとも何か、引き止めれらる様な理由でも?」
「何か我々に関係する事でもありましたか?」
「それならば納得出来ますが…」
「それは…」
「すいません
そういった事情ではありませんので」
兵士の言葉に、門番は明らかに狼狽えていた。
確かにアルベルトは良心的な貴族で、不当な差別や選民思想者では無い。
しかし貴族の子息に対して、不当な嫌疑を掛けて拘留していたとなると問題になる。
それに対して何も申し開きが無いのなら、彼等がどんな処罰を受けるか分からない。
最悪な場合には、無礼な行為とみなされて断罪され兼ねないのだ。
「失礼いたしました」
「何も問題はございません」
門番の兵士はピシッと姿勢を正すと、必死になって頭を下げた。
これ以上の不当な詰問は、立場上問題になる。
だからこそ姿勢を正して、自分達の非を認めるしか無かった。
「いや、良いんだ
あんたも自分の職務でしているんだろう」
「は、はい」
「一体どうしたっていうんだ?」
「それが…」
「そのう…」
「良かったら聞かせてくれないか?」
「はい」
「実は王都からの隊商が、何組か行方不明になっておりまして…」
「それで何か知らないかと…」
兵士はそれぐらいなら問題無いだろうと思い、頷きながら答える。
既に宿の客からも、その様な話は聞いていた。
「そういう話があるとは聞いている」
「ええ
それでですね…」
「ここだけの話しなんですが…」
門番は声を潜めて、小声で呟く。
「ガモン商会の隊商も行方不明になってまして
領主様に探せと、王都から連絡が…」
「はあ?」
兵士は思わず、声が裏返ってしまう。
それには思い当たる事はあるが、知られてはマズい事だ。
しかし門番は、勘違いをして話を続ける。
どうやら彼等は、その事に驚いていると勘違いしてくれていた。
「皆様には関係ない事ですが、ガモンは貴族にも力があります
子爵様を脅して、ダーナから来ているであろう犯人を捜せと」
「犯人…ねえ…」
「そ、そんな事件が起こっていたのか」
「はい」
兵士は困惑しながら、辛うじて誤魔化す様に呟く。
「ガモンは…
ガモン商会はダーナから、王都に攻め込もうとしている勢力があると
そう申して騒いでいるんですよ」
「ダーナから攻め込む?」
「はい」
要はその部隊が、ガモン商会や他の隊商を殺して王都に向かっているのだと言うのだ。
それは荒唐無稽な考えだと思われた。
そもそもが砦の街で、内戦が起こり始めたところなのだ。
それが砦を抜けて、こちらに向かうなど不可能だろう。
門番もそう思っているので、立場上はこうして城門で検閲しているのだ。
「これは…」
「どうしてそういう考えになるのかね?」
「そもそも内戦が起こっているんだぞ?
どうやって抜ける事が出来るんだ?」
「だよな
あそこを抜けられる部隊など、居なかっただろう」
ギルバートとアーネストも、馬車の中で呆れて溜息を吐く。
確かに下手人は、王都に向かって進んでいる。
それは自分達の事だから、よく分かっていた。
しかしそれが、王都に攻め入る為の部隊だとは話が大き過ぎるだろう。
「そんな部隊など、見た事も無いが?」
「そうでしょうね
ダーナが王都を攻めるだなんて、考えられません」
国王とアルベルトは従弟に当たり、関係も良好であった。
そんなアルベルトが治めていた、ダーナが王都に攻め込むなどと考えられない事であった。
しかしガモンは、何とかダーナを犯人にしたかったのだ。
それは犯人を、確実に捕まえたかったのだろう。
「話にならんな
そのガモン商会という奴も」
「しーっ
聞こえたらマズいんですよ
商人達も、ガモン商会に目を付けられたらと恐れています
それに…」
子爵でも逆らえないのだ。
ガモン商会は、よほど大きな後ろ盾が居るのだろう。
それにガモンとしては、ダーナを犯人にしたかったのだ。
それはダブラスを殺された事もあるが、ダモンに歯向かっているのも許せなかったのだ。
フランドールの事を、軽く見てはいるのだろう。
しかしそれでも、ダモンに逆らった事は許せなかった。
だから国軍を立てて、ダーナに向かわせようとしていた。
その理由の一つとして、ダブラスの行方不明も問題にしているのだろう。
なんせダブラスは、奴隷を集める仕事もしていたのだ。
彼がどうなったのかは、ガモンでも不安になっているのだ。
ただ死んだだけならば、問題は無い。
しかし奴隷を集めていた事が知られれば、彼にも影響があるからだ。
「話は分かった」
「ええ」
「それで…
我々は行って良いのかな?」
「は、はい
それはもう」
門番は再び姿勢を正すと、頭を下げて行ってくださいと呟く。
それにご苦労と声を掛けてから、一行は城門を潜った。
暫く進んでから、辺りに人気が無いのを確認して兵士が馬車に近付く。
「どう思いますか」
馬車に声を掛けながら、兵士は困惑した顔をしていた。
「どうも何も
やったのはボク等だしなあ」
「そうだよな」
「ですよね…
良かったんでしょうか?」
危険な人物とはいえ、安易に殺したのはマズかったかと兵士は思っていた。
しかしアーネストは、兵士達を安心させる様に言った。
彼等を殺した事は、正当な裁きであった。
それに放っておけば、他に被害が出ていただろう。
彼等は隊商を襲って、既に何人か奴隷にしていた。
そしてさらに、彼等はギルバートも狙っていたのだ。
ギルバートを奴隷にして、夜伽をさせようとも言っていた。
それはアーネストにとっては、許せない事であった。
「奴らを殺した事は、仕方が無い事だ
あのまま見過ごしていたら、さらに不幸な人が増えていただろう」
「それはそうでしょうが…」
「しかし
その為に関係無い者が疑われて…」
兵士が思わず呟くが、アーネストはそれを否定する。
「それは無いだろう?
捕まるとしたら、それは後ろ暗い奴等だけだ
寧ろ捕まえてくれた方が、今後の為にもなる」
「ですかね?」
「それなら良いのですが…」
門番も間抜けでは無いだろうから、怪しい者しか捕らえないだろうと言うのだ。
確かに今の時期ならば、怪しい商人も集まっているだろう。
彼等が代わりに捕まってくれれば、こちらとしても一安心なのだ。
「捕まる奴は、それだけ怪しいという事だ
デブだすの様な奴が、他にも居なければ良いんだが…」
「ちょ!」
「その名前を出すのはマズいでしょう」
それは楽観的だが、悪い隊商が捕まるのなら治安は良くなるだろう。
これから内戦が本格化するのなら、この地に向けて商人も集まって来る。
そうした者の中には、碌でも無い野盗崩れの様な商人も混じっているだろう。
そういった物たちが、代わりに怪しまれて捕まれば良い。
アーネストはそう考えているのだ。
「良いのか?」
「良いも悪いも、オレ達が関わる事では無いからね」
「だがそれで、関係無い者達が…」
「悪い奴等が捕まるだけだ
そうだろう?」
「しかし…」
「彼等が職務に忠実であるのなら、そういった者達を捕まえるさ」
「そうか?
だが実際はオレ達が…」
「しっ
これ以上はその話はしない方が良い
疑われるのもマズいからな」
「そうなのか?」
「ああ」
アーネストはそう言って、これ以上はこの話はしない方が良いと言った。
「ここからは逃げ出した商人達とすれ違うだろう
どこに耳があるか分からない
会話には気を付ける様に」
「そ、そうか」
「ああ
気を付けてくれ」
「分かりました
隊列に戻ります」
そう兵士に注意をして、再びアーネストは馬車の中に引っ込んだ。
兵士達は何か言いたそうだったが、隊商に追い付いたので黙っている。
追い抜く際に軽く挨拶をすると、馬車は再び速度を上げて行く。
隊商の馬車の御者は、その様子を見ながら首を傾げていた。
自分達も急いでいたが、それにしても速度が速いからだ。
「このままのペースで行けば、夕刻前にはリュバンニに到着出来るだろう」
「リュバンニか…
どんな町なんだ?」
トスノもリュバンニも、町と言うからにはダーナよりも小さいのだろう。
トスノは実際の面積はダーナに近かったが、中の建物は少なかった。
規模としては街と言うほどでは無いのだろう。
「リュバンニも商人の町だが、トスノより人口は少ないな」
「そうなのか?」
「大きさは大きいが、半分は王都への防衛の守備隊が占めている
どっちかと言うと、ノルドの砦の町に近いかな」
「へえ…」
城門の近くは商店や宿で賑わっているが、中心部は砦の様な城塞が建って守備兵が多く詰めている。
そこから王都は近いので、王都までの最期の防壁となっているのだ。
だからこそ領主は、国王の信頼が厚い者が任される。
バルトフェルド侯爵は、国王の右腕とも言える様な存在であった。
「あそこは侯爵領だから、出来れば挨拶はしておきたいんだが…」
「時間が惜しいかな?」
「そうなんだよな」
下手に挨拶に伺うと、滞在を迫られてしまう。
しかし侯爵が相手となれば、黙って素通りもマズいのだ。
「侯爵か
どんな方なんだろう?」
「ん?
意外に良い人だぞ
話し易いし」
アーネストは会った事があるのか、侯爵の話を始めた。
話しに聞く侯爵の人柄は、何も問題は無さそうだった。
「バルトフェルド・サー・ザウツブルク卿
建国戦争の立役者の一人だ」
「一人という事は…」
「ああ
後はガストン老師やヘイゼル老師
それとお前の父親でもある、アルベルト様だ」
「へえ…」
「見た目は優しそうな方なんだがな…」
「厳しいのか?」
「そうだな
アルベルト様よりは厳しいかも?
真面目を通り越したぐらいの真面目な方だからな」
「へえ…
会ってみたいな」
「止めた方が良いぞ」
「え?」
ギルバートは話しを聞いて、会ってみたいと思った。
しかしアーネストは、それは止めた方が良いと言う。
それには理由があった。
彼は今問題になっている、フランドールの義理の父親なのだ。
「バルトフェルド様はな、フランドール殿の義理の父上になる
今彼に会うのは…」
「義理の?」
「ああ
平民の者が叙爵する際に、後ろ盾になる貴族が居た方が良いからね
フランドール殿は、ザウツブルク卿の養子になっているんだ」
「へえ」
「ザウツブルク卿は王都に近い事もあって、王城では発言権は強いからね
それもあって領主代行に選ばれたんだ」
「なるほど…」
他にも理由があったが、そこは今は問題では無い。
問題はバルトフェルドが、どういった人物かという事だ。
「貴族と言うよりは、生粋の武人でね
アルベルト様とは別の戦場で活躍されていたんだ
それと昔は、良きライバルだったって聞いたな」
「なるほど」
アーネストは思い出す様にそう言って、バルトフェルドに会った日の事を思い出す。
彼はその時は、まだ幼い子供だった。
疫病で多くの者が亡くなり、アーネストの両親も亡くなっていた。
バルトフェルドはその時、亡くなった領民の遺体を回収していたのだ。
「ボクは直接は話していないんだけど…
アルベルト様とは仲が良かったと思う」
「そうか
それならば…」
「会ってみたいか?」
「そうだな
時間が有れば…だが」
ギルバートは父と仲が良かったという、武人肌の貴族に会いたいと思っていた。
会って父と、どんな話をしていたか聞いてみたいと思ったのだ。
武人なら、自分でも話し易そうだとも思っていた。
しかし問題は、彼もフランドールの事で忙しいだろうという事だ。
道中は魔物の襲撃も無く、日が傾く頃には街の城門が見えて来た。
それは小さな山に建つ城を囲んでいて、遠目にも立派な城が見えて来た。
横には湖もあり、そこに流れる川が城壁を囲んでいる。
それが夕陽を反射して、赤く輝いて見える。
「これはまた…」
「どうだ
攻め難そうだろう」
川が天然の防壁となり、その上で大きな城壁が守りを固めている。
町に入る為には、正面の城門から入るしかない。
その城門も、遠くから見ても大きくて頑丈そうであった。
そこを何とかして、開城するしか無いだろう。
外周は1㎞以上はありそうだが、山に立っているので実際の面積は少ないだろう。
それでも大きな町なので、城門の周りには多くの人が集まっていた。
そこを目指して、一行は馬車を進めた。
まだまだ続きます。
ご意見ご感想がございましたら、お聞かせください。
また、誤字・脱字、表現がおかしい点がございましたら、ご報告をお願いします。